雑談掲示板

添へて、【小説練習】
日時: 2018/12/03 20:42
名前: 浅葱 游◆jRIrZoOLik (ID: bC2quZIk)

*
 
 執筆前に必ず目を通してください:>>126

*

 ■添へて、
平成31年  月 日~平成31年 月日まで




 □ようこそ、こちら小説練習スレと銘打っています。


 □主旨
 ・親記事にて提示された『■』の下にある、小説の始まりの「一文」から小説を書いていただきます。
 ・内容、ジャンルに関して指定はありません。
 ・練習、ですので、普段書かないジャンルに気軽に手を出して頂けると嬉しいです。
 ・投稿するだけ有り、雑談(可能なら作品や、小説の話)も可です。
 ・講評メインではありません、想像力や書き方の練習等、参加者各位の技術を盗み合ってもらいたいです。


 □注意
 ・始まりの一文は、改変・自己解釈等による文の差し替えを行わないでください。
 ・他者を貶める発言や荒らしに関してはスルーお願いします。対応はスレ主が行います。
 ・不定期にお題となる一文が変わります。
 ・一作品あたり500文字以上の執筆はお願いします。上限は3レスまでです。
 ・開始時と終了時には「必ず」告知致します。19時から20時を目安にお待ちください。
 ・当スレッドのお題を他所スレッドで用いる際には、必ずご一報ください。


 □お暇な時に、SSのような形でご参加いただければと思います。


 ■目次
 ▶︎第1回 氷菓子を添へて、:今日、全てのテレビ番組がある話題について報道していた。
 >>040 第1回参加者まとめ

 ▷第2回 邂逅を添へて、:彼女はいつもと変わらない、甘い匂いをまとっていた。
 >>072 第2回参加者まとめ

 ▶︎第3回 賞賛を添へて、:「問おう、君の勇気を」
 >>119 第3回参加者まとめ

 ▷第4回目 袖時雨を添へて、:手紙は何日も前から書き始めていた。
 >>158 第4回参加者まとめ

 ▶︎第5回 絢爛を添へて、:「フビライハンとエビフライの違いを教えてくれ」
 >>184 第5回参加者まとめ

 ▷第6回 せせらぎに添へて、:名前も知らないのに、
 >>227 第6回参加者まとめ

 ▶︎第7回 硝子玉を添へて、:笹の葉から垂れ下がる細長い紙面を見て、私は思う。
 >>259 第7回参加者まとめ

 ▷第8回 一匙の冀望を添へて、:平成最後の夏、僕こと矢野碧(やの あおい)は、親友の中山水樹(なかやま みずき)を殺した。
 >>276 第8回参加者まとめ

 ▶︎第9回 喝采に添へて、:一番大切な臓器って何だと思う、と君が言うものだから
 >>285 第9回参加者まとめ

 ▷第10回 鎌鼬に添へて、:もしも、私に明日が来ないとしたら
 >>306 第10回参加者まとめ


 ▼第n回目:そこにナマコが置いてあった。
 (エイプリルフール企画/投稿期間:平成30年4月1日のみ)
 >>156 悪意のナマコ星さん
 >>157 東谷新翠さん
 >>240 霧滝味噌ぎんさん


 □何かありましたらご連絡ください。
 →Twitter:@soete_kkkinfo
 

 □(敬称略)
 企画原案:ヨモツカミ、なつぞら
 運営管理:浅葱、ヨモツカミ(ねぎツカミ)

*

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Re: 第10回 鎌鼬に添へて、【小説練習】 ( No.300 )
日時: 2018/11/23 22:31
名前: 月 灯り (ID: KK90tQ1U)

もしも、私に明日が来ないとすればーー

突然放たれた言葉。あの日の彼女が言った言葉。

彼女は振り返って言った。高い位置で結んだ髪がふわり、と揺れる。
「え、何急に」
俺は驚いて聞き返す。
「……」
それなのに彼女は先を続けようとしない。
「……」
俺には急かすつもりも追及するつもりもないから、妙な沈黙が続く。
「部屋、片付けといてよ」
「……は?」
「聞こえなかったの? 部屋、」
「待って、聞こえたけど、どうした?」
わけのわからないことを言われて動揺する俺とは裏腹に、彼女は涼しげな顔で空を見上げている。
快晴。ほとんど雲がない、青い空が彼女の瞳にはたぶん映っている。
「そうだなぁ……、なんとなく、かな」
「なんなんだよ……」
ますます意味がわからない。俺は時々こうして彼女の気まぐれに付き合わされる。
「それっ!」
突然水が降ってくる。彼女がホースの口をこちらに向けていた。そこからは勢いよく水が噴き出している。
「谷川!」
「あはは!」
俺たちは春休みの水やり当番という、謎の係を押し付けられ、学校が休みにもかかわらずこうして花に水をあげているのだった。
「暑いでしょ?」
「そんなわけあるか! 三月の最終日!! 春!!」
たとえいくら暑くても、水をかぶるほどではない。
「見て見てー! 虹ー!!」
あはっ、と楽しそうに笑う谷川を見てると、こちらの口もとも思わずゆるむ。水をかけられたのは不本意ではあるが。
いつもと変わらない、日常。
「ねぇ、田中ー」
「何?」
「海行こうよー、海」
「海?」
谷川は、のんびりした調子でおかしなことを言う。こんな春先に海だなんて。
「寒いと思うけど」
「いいの、いいの! 最後に田中と行きたいじゃん」
「最後って、まださっきの冗談続けるつもり?」
「砂浜で寝転ぶだけでいいから!」
「人の話聞けよー」
俺はわざとらしく片手を額に当てて言う。
「ははは、ごめんね。冗談じゃないよ」
「冗談じゃないって……まさか、早まるなよ!?」
「別に死んだりしないから、安心して」
「本当に?」
こういうことを言う時の谷川は信用できない。安心も、もちろんできない。できないけど……。
「もー、心配性だなぁ。今日一日見張っとく?」
「いや、それはちょっと……」
「でしょ? じゃあ、今日の夜11時、そこの砂浜に集合」
彼女は数十メートル先を指差す。そこには果てのない青い海が広がっていた。
「夜? 今昼前だけど?」
「いいでしょ、たまには私のわがままにも付き合いなさい」
「いやいや、いつも振り回されてますけど」
「じゃあ習慣ってことでいいじゃん。規則正しい! 最高!」
「……」
はぁ。俺はため息をつく。彼女とのこんな日常はいつまでも続きそうだ。


「やあ。よく来たね」
砂浜に着くと、先にいた谷川が右手を少しあげるだけの挨拶をした。
「よく言うよ。谷川が来いって言ったくせに」
「そうだったね」
そう言って彼女は海の遠くを見た。地平線を眺めているらしかった。
「……で? こんな夜に呼び出してどうしたの? 親御さんは心配しない?」
「親は大丈夫。だから言ってるでしょ、田中と海来たかっただけだよ」
谷川は俺の目を見ない。嘘をつくときはいつもそうだ。たぶん何か隠してる。
「こんな夜じゃなくてもよくない? 寒いよ」
「田中は寒がりだもんね。男のくせに」
「るせっ」
「あー、田中が寒すぎて震えてて私がマフラー貸したことあったなぁ」
「……忘れてくれ……」
思いだしたくない恥を掘り返される。やめてくれ……。
思い出話をするうちに、いつのまにか俺たちは砂浜に寝そべって空を見上げていた。うっすらと雲が浮かぶ空に、星がぽつぽつと見える。
「田中ー、私、一人暮らしなんだ」
「え? 初耳!?」
突然の告白に驚く。隠していたことはこれか? いや、たぶん違う。たぶん。
「だって言ったことないもーん。あのさ、鍵、預けとくから"部屋、片付けといて"」
彼女はあの時の言葉を強調して言う。
「……ねぇ、谷川。何か隠してない?」
俺は鍵を受け取って、ゆっくりと彼女の目を見て言った。
「…………やっぱ、わかっちゃうかー。田中には」
彼女は少しだけ考えて、こう言った。
「記念写真撮ってよ」
「は? 写真?」
「うん、写真。それでさ、私のこと忘れないでいてよ」
「……どういうこと?」
「お願い。12時になるまでに」
俺は、谷川の切実なお願いをさすがに無下にすることは出来ず、しぶしぶ写真を一枚撮る。時計の針は12時1分前だった。
「田中笑ってない! もう一枚! 早く!!」
言われるがままに急いでもう一枚撮る。撮れた写真を確認すると、笑えと言った張本人は泣いていた。
「谷川、なんで泣いーー」

ばいばい、田中。

そう、隣で彼女がつぶやいた。

「え……?」

隣に、彼女の姿はもう、なかったんだ。



俺は走っていた。鍵を握りしめて。砂に足を取られてうまく走れない。俺はたぶん泣いていた。あんまり覚えてないんだ。

谷川の家は片付いていた。むしろ、片付けるものなどほとんど存在しない。俺はおもむろに学習机に近づいて、椅子に座った。
「谷川……」
どこいったんだ。
俺は、ふと気づいた。この部屋に、何か手がかりがあるのかもしれない。俺は早速、片っ端から引き出しを開ける。そこには何も入ってなかった。たった一つを除いて。

20◯◯年 高校2年生(3回目)

それは、こんなタイトルの日記だった。
俺はノートの表紙をめくる。

友人Tに贈る。

4月10日
今年は女の子の友達を作ることは諦めた。2回やって気づいたけど、私には向いていないようだ。そこで、今年は前の席のTというやつに話しかけてみた。結構おもしろいやつ。仲良くなれそう。

これ、俺のことじゃん。Tって……。さらに何枚かページをめくる。日記は毎日書いていたようだ。

7月23日
友人Tがばかすぎて補習にかかった。一緒に遊べる日数が減るじゃんか。え? 私? さすがに高2を3回やれば学年トップだよね〜。

3月31日
今日は友人Tともお別れだ。今までで一番楽しかった。寂しいけど、どうしようもないから。私は、永遠に17歳から抜け出せない。だから、次も君と友達になろう。

今まで一年間、本当に、本当に、ありがとう。



涙で滲んで乾いたインクが、再び、ゆがんだ。

Re: 第10回 鎌鼬に添へて、【小説練習】 ( No.301 )
日時: 2018/11/28 22:36
名前: 脳内クレイジーガール◆0RbUzIT0To (ID: DwUC3j0g)

 もしも、私に明日が来ないとすれば、君は私の最期の日を一緒に過ごしてくれる? ひなたがそう言って笑った後、少しだけ長い溜息をついて、こちらをちらっと見て、そして軽く顔を伏せた。俺に求めた答えを、俺自身はしっかりわかっていて、だからあえて「わかんない」と曖昧な返事をした。ひなたの望む答えをわざと言わなかったのは、彼女に傷ついてほしくなかったからだ。

「ひなたは死なないから、そんな質問は不必要だよ」

 俺が煙草の煙を吐きながら、ベンチに腰掛けたひなたに声をかける。彼女はまた軽く笑って「そうだね」と相槌を打った。

「突然変な質問してくんなよ、白けるじゃん」
「そうだね。ほんと、ごめんね」

 六月の雨はうざったるくて嫌いだと思った。屋根に当たった雨粒が痛々しい音を響かせて、雫は水たまりの一部に変化する。ベンチも雨に直には触れてなかろうと湿気で少しだけ色が濃くなっていて、ちょっと寒いねとひなたがぼそっと呟いた。そうだな、と俺は煙草の火を消して灰皿に捨てた後にネクタイを外してカバンの中に突っ込んだ。

「礼服なんてお前ちゃんと持ってたんだな。意外だった」
「失礼だなあ。そういうのはちゃんと揃えてたほうがいいって、舞ちゃんが一緒に買うの付き合ってくれて」
「へえ」
「一番にこの服着るのは舞ちゃんの結婚式の時かもねって、そう言ってたのに、」

 初めてひなたが礼服を着たのは、舞の葬式の日だった。


 笑いながらもひなたの表情は固まっていて、声も少しだけ震えていた。
 舞のことが好きだと俺に突っかかってきた学生時代を思い出して、俺たちの婚約を悔しがりながらも喜んでくれた先週のことを思い出して、葬式中に号泣したひなたの姿を思い出す。
 雨音はどんどんと喧しくなっていって、それがまるで悲鳴のように聞こえ始めた。

「好きだったの、初恋だったの。どうしても離れたくなかった」
「うん」
「友達でもいいと思った。それ以上になりたいって、そんなの我儘だと思った」
「うん」
「君はどうして、そんな、どう、して、悲しくないの?」

 悲しいよ、と俺はひなたに応える。だって、五年も付き合った、もうすぐ結婚するはずの人だったんだから。きっと、悲しいはずだ。俺は、舞の死をきっと悲しんでいるはずだ。
 思い込もうとしている時点で自分がとても無慈悲な男だと気づいてしまう。だって、俺は舞のことが「好き」だったわけじゃないんだから。

 好きなんだ、と舞に告白された日のこと、舞は笑って言った。ひなたはあたしのことが好きだから諦めたほうがいいよ、と。




 舞はとても頭のいい女だった。鎖みたいに雁字搦めになった俺らの三角関係を無理やり壊した。


 「あなたは永遠にひなたには好きになってもらえないの。いい加減、わかりなよ」

 ベッドの上で鏡を片手に真紅の口紅を塗りながら舞は言った。俺には選択肢はなかった。
 ひなたは永遠にあなたのものにはならないのよ。私が死んだとしても。
 舞がそう言って俺にキスをしたあと、家を出て行って、そして事故にあって死んだ。ブレーキペダルとアクセルペダルを間違えたらしい。壁に突っ込んで即死だったらしい。よくテレビのニュースでそういう事故を聞いたりはしてたけど、そんなのやんないよねって舞はよく笑っていた。だから、不注意の事故と警察から言われても、俺はどうしても「自殺」という考えを捨てられなかった。


 ひなたにもしも、明日がないとすれば、俺はきっと彼女に告白するだろう。
 薄情な男だと思われようと、長年の彼女への想いを全部吐き散らして、そして失恋するだろう。
 でも俺はちゃんとわかっているよ。ひなたが望む俺の答えを。


 もし、ひなたが明日死ぬならば俺はきっと舞を彼女に返さなきゃいけない。彼女には、舞しかいないから。利用されていることを知らないひなたは、きっとずっとこの先も舞のことを一途に愛すのだろう。でも、俺は時々思うんだ。舞のことを好きな君は、すべてを知っていて、それでも舞のことを愛してるんじゃないかって。


 すべては憶測。そしてひなたが明日、この世界からいなくなるわけでもない。
 ただ、俺たちの中心だった舞は、もうこの世界にはいない。ただ、それだけだ。


***

 お久しぶりです脳内クレイジーガールです。二回目の投稿です。
 一方通行の三角関係で、全員自分のことが好きな人が分かっていて、あえて黙っているというのはとても切ないなってそんなお話です。
 素敵なお題をありがとうございました。楽しかったです。あさぎちゃん、ヨモツカミ様、これからも運営頑張ってください。
 

Re: 第10回 鎌鼬に添へて、【小説練習】 ( No.302 )
日時: 2018/12/01 19:59
名前: 雷燕◆bizc.dLEtA (ID: AQd0kFzY)

   明日という日は


 もしも、私に明日が来ないとしたら、それはそなたらのどこまでも自己中心的なもののとらえ方をよく表した、反吐が出るほどに愛おしい言葉さな。

 そう言ってゆらゆらと四本の尾を揺らす銀狐の話し相手は、赤いランドセルを背負った泣きぼくろの少女一人だけである。太陽はまだ斜めに山を照らしているが、森の中にいれば木の陰になって既に薄暗かった。嵐が来たらすぐに倒れてしまいそうな頼りないバス停シェルター内で、少女は椅子に座りぶらぶらと足を揺らしていた。

「あたしがジコチューとか、ひどーい! 寝て、起きたら次の日が始まるんやけん、ずっと起きちょるおキツネさまにはずっと今日なんはそらそうやろ?」
「私にとっては日の出こそが次の日の始まる合図だが、そなたにとっては意識の途切れが日の区切りなのだな。全ての基準は自分。子供とは、人間とはそういうものよ――」

 坂の上から女が歩いてきた。顔には既に多くのしわが刻まれているが、その足並みはまだ老婆というほどには衰えを感じさせない。あら今日は早いバスやったんね、待たせてごめんね。そう言いながら近づいてきた女は、バス停横に積まれた石の前で手を合わせた。

「今日もこん子を見守ってくださりありがとうございました」

 狐はそれを聞きながら満足そうに尻尾を揺らした。

「おキツネさま、今はこっちおるよ」
「あらそうなん。お話してもらちょったんやね、よかったね」

 二人は手を繋いで坂を上り始めた。
 暇になった狐は散歩に出かけた。昔は村の畑まで行きお供えに答えて実りを配っていたものだが、人間は既に狐を必要としない農業技術を持っている。先ほどの女がたまに花を替える程度になった現在では、狐はこのささやかな石積みからあまり離れることもできない。
 次のバスまでたっぷり一時間はある。その頃にまた狐は戻ってきて、降りる人を見守るだろう。


 やがて泣きぼくろの少女はランドセルを手放し、セーラー服を着てバスを待つようになった。

「なあなあ、おキツネさまパワーで縁結びとかできるんやない?」

 祖母からスピリチュアルな話ばかり聞かされて育ったから、四尾の狐なぞ見えるようになってしまったのだ、クラスの皆に話したら絶対笑われる、と嘆くわりに都合のいいことよ。狐は半分呆れながらも困り顔で少女を見つめた。

「私はもともと豊穣を願って祀られたのだから、縁結びは専門外だ。そもそも今ではろくに私を祀る人間もいないのだから、そのような力はない」
「じゃああたしがめっちゃ祀るし、めっちゃお供えもするわ!」

 その日から少女は頻繁に花を摘んで持ってきたし、たまに食べ物なども積み石の前に置いた。無駄だからやめなさいと狐は何度も言ったが、初めて食べるメロンパンというものは実に美味く、温かい味がした。


 少女がセーラー服を着始めて何度目かの年の瀬が訪れた。これまた人間が勝手に定めた区切りであるなあと話す狐も、実のところこの時期を好んでいた。普段村に住んでいない人間もバス停を訪れ、日ごろ石積みを素通りする人々も、この時ばかりは供え物を手向けるからである。一年ごとに老けていく大人を、みるみる成長していく子供を、狐は静かに見守った。

 少女はバス停シェルターではいつも小さな本を読むようになっていた。勉学のためだろうというのは察しがついていたので、狐も気を遣って自分からは話しかけない。泣きぼくろの高校生には受験がすぐそこまで迫っている。

「あたし、都会に出たいんよ。そのために大学に受からんといけんのや」
「じゃあ私みたいなものとは話しなさんな。唯物主義の都会人に笑われるぞ」
「あたし以外の誰がこんな朝早くこんなバス停に来るっちゅーんや。心配いりませんー」

 狐のアドバイスを笑顔で反故にする少女を見て、狐は頼もしさと少しの寂しさを感じた。都会に行った人間は誰もが狐と話せなくなってしまうから、都会は嫌いだ。都会は嫌いだが、少女はもう自分の力で生きていこうとしているのだ。私の役割はもうすぐ終わりなのだろう。
 狐は少女の成功を祈った。祈りの対象であった自分が、ただ空な未来へ向かって祈らねばならない無力さを感じながら、ただ祈った。


 狐はずっとバス停にいた。一時間に一本のバスは、素通りしていくことが以前より多くなった。既に村から通学する子供はいなくなり、働く者は自分で車に乗るので、狐はたまに買い物に出る老人たちを見るくらいである。

 しかし、その日は多くの人間が村へ出入りしているようだった。坂を上る車を見送る。バスからも複数人降りてくる。皆、黒い服を着ていた。
 森の中が薄暗くなり空が橙に染まった頃、小さな子供の手を引いて、礼服を着た妙齢の女性が坂を下りてきた。狐が道路の反対側を歩くその女性の泣きぼくろに気づいて、尻尾をぴくりと動かした時、バス停の裏から兎が現れた。

「うさちゃんだ!」

 子供がそう言って、母親の手を振り払ってバス停のある側へ走りだす。その時点では、坂の上から降りてくるバスに気づいていたのは、狐だけだった。
 夕方の山にブレーキ音が響く。

 幸いにも、子供とバスは接触しなかった。道路脇に逸れて脱輪したバスは、バス停手前の小さな石積みを倒しただけだった。子供の無事を確認した女性がバスの運転手に何度も頭を下げたあと、二人はバスに乗って山を下りて行った。

 狐はもはやただの石くずとなったそれの隣で、ほっとした顔をして丸まった。花を置いてくれる人もいなくなった今、ちっぽけな石積みであっても、それだけが狐の意識をこの場所に繋ぎとめる縁であった。倒されたままでは、何の意味も持たない。狐には、誰かがまた形を戻してくれるのを待つほかなかった。
 沈みゆく意識の中で、狐は昔交わした会話を思い出す。

 もしも、私に明日が来るとしたら――それは、誰かが私のことを思い出してくれた、さぞかし幸せな日であろうよ。


----------

ほとんどの方は初めまして。雷燕と申します。
今回は珍しく間に合ったので添えさせていただきました。
素敵なお題ありがとうございました。他の方々の作品も楽しませていただきます。

Re: 第10回 鎌鼬に添へて、【小説練習】 ( No.303 )
日時: 2018/12/01 22:24
名前: 友桃◆NsLg9LxcnY (ID: Ds5uTo/k)

 
 もしも、私に明日が来ないとすれば

 透明な筒(つつ)からとりだした紙には、黒く小さな文字が綴られていた。両手でちょうど包み込めるくらいの、軽い素材の入れ物だ。海水に浸ってすっかり冷たくなったそれを足元に置き、私は中に入っていた白い紙をじっと見つめた。
 見たことのない文字だ。私が普段書いている文字よりも、まるみがあってなんだか可愛らしい。文字が綴られている紙は、てのひらくらいの大きさで、四隅(よすみ)に花が描かれている。文字と同じでまぁるい5枚の花びら。なんの花だろう。
 --いや、それよりも。
 なんと書かれているのだろう。
 私はひとり首をかしげて、紙から視線をあげた。日に灼(や)けてちりちりとかわいた髪が視界をふさぐ。それを耳にかけると、まっしろな海が視界いっぱいに広がった。おひさまに照らされて、きらきらと光っている。
 海の向こうからやってきた、知らない文字。知らない声。私が拾ってしまって、良かったのだろうか。
 再び首をかしげて、じっと白い紙を見つめる。
 私だったらたぶん、うれしいことはすぐに家族に言う。友達にも言う。こんな、誰に届くかわからない筒には、きっと入れない。
 あ、でも、もしかして、うれしいとかかなしいとかそういうのじゃなくて、SOSだったりして。無人島にきちゃったの、助けて!って。
 急にファンタジーみたいなことを考えてしまって、私はひとりクスリと笑った。
 ……いや、まぎれもなく、ファンタジーだ。海の向こうから、手紙が届くだなんて。そのファンタジーを、こうやって手にしてしまうだなんて。紙に綴られた字を見ているこの瞬間、まるで私は海の向こうの知らない誰かと時間を共有しているようだ。
 私はくるりと海に背を向け、足元の筒もそのままに、海岸沿いの家まで一目散にかけだした。木の扉を勢いよく開けて、目にとまったペンで白い紙に文字を付け足す。海の向こうの誰かが書いたものとは、違う文字を。誰かの手に届くことを夢見て。
 書けたものを広げて、私はふふっと笑う。
 SOSだったら、読めなくてごめんね。でも、この文字を書いた人を想っている間は、きっと時間を共有できるから。それで、許してね。
 白い紙に、わからないことばの下に、流れるような文字で。

 海の向こうの、私を想って。

Re: 第10回 鎌鼬に添へて、【小説練習】 ( No.304 )
日時: 2018/12/01 22:34
名前: 友桃◆NsLg9LxcnY (ID: Q6rVlPnw)


はじめまして、友桃(ともも)と申します。
最近かたい文章ばかり書いているのでちょこっとだけ小説書きたい〜と思ってたらすてきなページを見つけたので投稿させていただきました^ ^

お題の使い方ギリギリセーフだろうと思って書きましたが、もしアウトだったらごめんなさい! どうにかします!

Re: 第10回 鎌鼬に添へて、【小説練習】 ( No.305 )
日時: 2018/12/02 08:48
名前: 浅葱 游◆jRIrZoOLik (ID: 4934wz6w)


 知らない間にたくさんの方に投稿してくださって、ありがとうございます。
 どれも楽しく読ませていただいていますが、まとまった時間の確保が難しいので、合間見つけて乾燥書けたらな~と思います。

*

>>304→友桃さん

 一文自体をタイトル扱いとしている場合でしたら、タイトルかつ一文として書き始めていただけたらと思います。
 一文が視点主の思いとして、特に台詞ではなく、回想のや心の声として出ているものとして書かれている場合には、主旨に合っているので大丈夫ですよ◎

Re: 第10回 鎌鼬に添へて、【小説練習】 ( No.306 )
日時: 2018/12/03 20:38
名前: ヨモツカミ (ID: ZM6veLFM)

☆第10回 鎌鼬に添へて、参加者まとめ★

 >>288 おにおんぐらたんさん
 >>289 一般人の中の一般人(元鷹ファン)さん
 >>290 知育 菓子男さん
 >>292 夕月あいむさん
 >>294 浅葱 游
 >>295 液晶の奥のどなたさまさん
 >>296 ヨモツカミすぁん
 >>298 杜翠さん
 >>300 月 灯りさん
 >>301 脳内クレイジーガールさん
 >>302 雷燕さん
 >>303 友桃さん

Re: 添へて、【小説練習】 ( No.307 )
日時: 2018/12/03 20:44
名前: ヨモツカミ (ID: ZM6veLFM)

以上を持ちまして第10回 鎌鼬に添へて、を終了とさせていただきます!

平成30年12月3日20時43分

たくさんの投稿ありがとうございました!

Re: 添へて、【小説練習】 ( No.308 )
日時: 2018/12/05 19:21
名前: ヨモツカミ (ID: kK4VKmSg)

>>雷燕さん
こちらでははじめまして。お名前は存じておりましたが、作品を読ませていただくのは初めてでした。信仰を失った神様と、未だ信仰してくれる僅かな人達とのほっこりするような切ないお話で、とても好きでした。
方言の無い県出身なので、方言というものに強く惹かれます。関西か九州らへんの話し方でしょうか? 方言可愛いです、好きです。
また参加いただく機会がありましたら是非素敵な作品を読ませてください。ありがとうございました!

Re: 添へて、【小説練習】 ( No.309 )
日時: 2018/12/09 21:59
名前: 雷燕◆bizc.dLEtA (ID: Ihvrfgr6)

全員分の感想を書くことができず心苦しいのですが、今回の作品は全部読ませていただきました。
お題の活かし方がそれぞれ工夫されていて、読んでいて楽しかったです!

>>290 知育 菓子男さん
今回のお題がそもそも死を連想させるものだったと思うのですが、そこを真正面からテーマにしつつきちんとまとめられていて感心してしまいました(私みたいなひねくれ者はすぐ逃げてしまうので……)。
中二病を患いながらも自分を客観視できてしまうせいで振り切ることもできない、そんな学生の心情が丁寧に書かれていて、多少なり身に覚えのある身としては、むず痒いような気持ちになりながら読み進めてしまいました。
現実を見捨てて死という幻想に逃げていた人が強烈な現実を目にして幻想を打ち砕かれる、という構造がとても好きです。
また、日々の「ジンシンジコ」から死の臭いが消えて蔑ろにされる気味悪さも、書いてほしいところをちゃんと書いてくれた、という印象でした。

>>296 >>308 ヨモツカミさん
このお題でハイファンタジーで来るか! と驚いたのですが、首の皮一枚隣にある死の臨場感はファンタジーならではで、思わず膝を打ちました。(特に短編においては)現代の舞台で首にナイフを突き立てても、どうしても劇の一場面のような陳腐さが漂ってしまうものですから。
また、悪魔と対比することで死を相対化して書きつつ、語り手よりむしろ悪魔のほうが人情のありそうなところが皮肉がきいてて好きです。
一体語り手の過去に何があったのか気になってしまうのですが、詳しく描かれていないからこそ色々と想像が掻き立てられていいですね。

また、私の作品への感想ありがとうございました!
方言は地元の九州のものです。田舎臭くて自分では避けがちな程度まで訛らせて書いたのですが、それでも可愛いと言っていただけて、嬉しくもなんだか気恥ずかしくなりました。
是非また参加してみたいです。

>>303 友桃さん
今回、お題そのものが言葉として大きな意味を持っていた(大きなテーマを匂わせるものだった)のに、それを全て捨て去るような使い方に感動しました。
お題の意味が強いからこそ、それが意味を持たないということに大きな意味が出てくるとは!
文章自体は言葉遣いがとても可愛くて、ほっこりした気持ちで読めました。「まるみ」や「てのひら」等がひらがなで書かれているのが、作品の雰囲気を固めていてとても好きです。
一方で読者だけはメッセージの意味を知っているので、語り手と一緒に送り手に想像を膨らませながら、なんだか不穏な雰囲気を拭えません。明るい文章との対比がいいなと思いました。
海の向こうから届いたメッセージというロマンをまっすぐに明るく書きながら、それだけではない小説で、たいへん楽しく読めました。

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