雑談掲示板

邂逅を添へて、【小説練習】
日時: 2017/11/15 06:48
名前: 浅葱 游◆jRIrZoOLik (ID: bC2quZIk)

*

 ■第2回目(10/29~)
 彼女はいつもと変わらない、甘い匂いをまとっていた。



 □ようこそ、こちら小説練習スレと銘打っています。


 □主旨
 ・親記事にて提示された『■』の下にある、小説の始まりの「一文」から小説を書いていただきます。
 ・内容、ジャンルに関しては指定なしです。
 ・練習、ですので、普段書かないジャンルに気軽に手を出して頂けると嬉しいです。
 ・投稿するだけ有り、雑談(可能なら作品や、小説の話)も可です。
 ・講評メインではありません、想像力や書き方の練習等、参加者各位の技術を盗み合うのがメインです。


 □注意
 ・始まりの一文は改変、自己解釈等による文の差し替えは行わないでください。
 ・他者を貶める発言や荒らしに関してはスルーお願いします。対応はスレ主が行います故。
 ・不定期にお題となる一文が変わります。
 ・一作品あたり500文字以上の執筆はお願いします。上限は3レスまでです。
 ・開始時と終了時には「必ず」告知致します。19時から20時を目安に告知いたします。
 ・当スレッドのお題を他所の企画スレッドで用いることは例外なく許可しておりません。


 □お暇な時に、SSのような形でご参加いただければと思います。


 ■目次
 ▶︎第1回:今日、全てのテレビ番組がある番組を報道していた。
 >>040 第1回参加者まとめ

 ▷第2回:彼女はいつもと変わらない、甘い匂いをまとっていた。
 >>041 奈由さん
 >>042 アロンアルファさん
 >>044-045 流沢藍蓮さん
 >>046 浅葱 游さん
 >>047 壱之紡さん
 >>049 羅知さん
 >>051 三森電池さん
 >>052 キリさん
 >>056 雪姫さん
 >>058 ぽんこってぃーさん
 >>061  塩糖さん
 >>062  凛太さん
 >>063 黒崎加奈さん
 >>064 雪さん
 >>067 瑚雲さん


 □何かありましたらご連絡ください。
 →@2516Yuzu
 

 □(敬称略)
 企画原案:ヨモツカミ、なつぞら
 運営管理:浅葱、ヨモツカミ

*

Page: 1 2 3 4 5 6 7 全レス



Re: 邂逅を添へて、【小説練習】 ( No.60 )
日時: 2017/11/09 17:28
名前: 壱之紡 (ID: oOvvJxmo)

返信遅くなりました、申し訳ありません。

>>55 ヨモツカミさん

 初めまして、ご感想ありがとうございました。今まで自分の文章に感想など貰ったことが無かったので、非常に嬉しい限りです。
 あの雰囲気を壊さないよう、一つ一つ言葉を選ぶのが大変でした……もう少し私に語彙があれば、もっと違和感の無い文章になったかなと反省しております。
 小説の方も読んで頂けたとあり、もう本当に嬉しいとしか言えません。私も「継ぎ接ぎバーコード」、ずっと前から愛読していました。あの殺伐とした、なんというか甘さを許さない世界観にとても痺れます。
 また次回も、参加させて頂きたいと思います。本当にありがとうございました。


>>57 浅葱 游さん

 初めまして、ご感想ありがとうございました。
 特に意識はしていなかったのですが、技法のところはご指摘頂いて初めて気が付きました。何となく、今まで書いたことのないような文を書こうと思っていたらああなりました。
 方伊義は作家志望の青年で、舞台となったカフェの常連です。一伊達は、精神病を患い、現在入院中の青年です。このカフェで一回相席してから意気投合(?)し、以後一伊達の外出許可が出るたび、一伊達が方伊義に相席を吹っ掛けているような関係です。
 正直この短編は「パンケーキの描写がしたい!」と思い立ち、その勢いで書いたものなので、人物設定はガバガバです。次回はそこをしっかり練って挑戦したいと思います。

 浅葱さんの短編も読ませて頂きました。私はどうしても文の密度が低いというか、濃い文章が書けないので、その点とても参考になりました。アダルティックで濃密な雰囲気がとても素敵です。人物の心の揺れ動きがストレートに伝わってきました。

 今回は本当にありがとうございました。また次回もよろしくお願いします。

Re: 邂逅を添へて、【小説練習】 ( No.61 )
日時: 2017/11/10 19:55
名前: 塩糖 (ID: 0ePFjTAk)

 彼女はいつもと変わらない、甘い匂いをまとっていた。
 それは、とある森の中にある小さな木造建てのお店。
 森の住人と付近の村との調停役が住まう場所。
 その横に置かれた木のベンチとテーブルに彼らはいた。

「んー……実をいうと僕は甘いのは得意じゃなくてね、ココアに蜂蜜って合うかい?」
「ええそれはとても! いい甘さの暴力……、やっぱりあなたの入れるココアは最高ね」
「それはどうも。こっちは毎日来てはココアをせびるキミへ、腹いせで砂糖の量をこれでもかと増やしたんだけどね」

 少女の両手で収まり切れないくらい大きいマグカップ、そこになみなみとついだココア。
 一体、何杯の砂糖を溶かしたかも分からないそれを彼女は喜々として飲んでいる。
 見ているだけで胸やけを起こしそうだ。そう森の調停役は零したが、彼女には聞こえなかったようだ。
 これまた少女の胴体程に大きい壺に木の匙一つ、潜らせ黄金色の液体を口いっぱいにほおばった。

「ちなみに聞いておくけど、もしかしてそれがお昼ご飯なのかい? 流石に無いと願いたいけど」
「? 何かいけないの?」

 不思議そうにに首を傾げながら、口元についた蜜の残りを人差し指ですくってなめる。
 彼は顔に手を当て天を仰ぎ、少女の行く末を案じた。
 その後、それを見張る役目であるはずの人(?)を軽く睨む。
 被疑者は、焦げ茶色の熊である。 

「いえ、私も止めはしたのですが、こちらが用意したものを食べてくれなくて……」
「だってくまきち、鮭とか木の実とかばっか渡してくるんだもん」
「むしろ森にすむのなら当たり前どころか中々豪華な気がするんだけど、あとその子はジョージね」
「森の住人って花の蜜を吸いながら生きてるって思ってたわ」
「妖精じゃないんだからさ」

 勝手にくまきちと命名された知人の健闘がなんとなく目に浮かぶ。

「はぁ……っと」

 さて、と自分の分のコーヒーを飲み干した調停役は席を立つ。
 そうしてちらりとあたりを見回して、姿こそ見えないが確かに他のお客さんの存在を感じ取った。

「ジョージ、悪いけどそろそろお嬢さんを連れて帰ってくれるかい?」
「あぁ、そうですねそろそろ……」
「あらどうして?」

 小皿に注がれた蜂蜜をなめ切った熊に促す、だがまだ私が食べているのにとそれを違和感としてそのまま出した彼女。
 説明を求められると少々困る事柄だったために、調停役は少々困ってしまった。
 知人に助け船を出すために、ジョージは綺麗になった皿を器用に調停役に渡しながら答えた。

「ほらお嬢さん、私は少々大柄で恐い顔をしているでしょう? そうするとこの森の住人が少し怖がってしまって相談をしに来ることができないんですよ」
「なにそれ、くまきちだってこの森の住人でしょ」
「そうはいっても、流石に大きさが何十倍も違えば怖くなるのは当然なのさ。僕だって子供ころからずっといる。だから怖がられていないだけ」

 じゃなきゃ調停役にはなれないよ、そう彼は言った。その目はどこか悲しげにも見えた気がしたが、少女にそんなことは関係ない。
 友人が、見た目を理由に怖がられているから憩いの場から追い出されてしまう。到底許せるものではない。
 だが、ここで反論しようにも彼女には手札がない。

「……つまり皆が怖がらなくなればいいわけね?」
「え?」
「まぁ、それが一番いいことなんだけど」

 出来るわけがない、そう続ける前に少女はジョージにまたがり、さっさと森の奥へと消えていった。
 その際、調停役はなんとなく嫌な予感を覚えたが、直ぐにやってきたリスのカップルやら引っ越してきたらしいウサギの一家の対応に追われ、結局何もしなかった。
 せめてこの時に止めておけば、そう調停役は深く後悔したそうだ。




--次の日

 彼女はいつもと変わらない、甘い匂いをまとっていた。
 ついでに熊も従えて、
 しかも複数、こりゃ勝てない。
 あと普段よりも熊たちがふくよかな気がするし、少女の服装も普段より綺麗になっている。

「流石にこれはやめてほしいんだけど」
「え、なんで?」
「なんでもって、昨日言った通り熊がいると他のお客さんが来ないんだよ。というか、ジョージはともかくどうやってフレッドやイザベラ、ノマク達まで……、一応全員僕の知人だけどもこんな風に集まってくれることは……」
「あら知らなかったの? 蜂蜜があれば大抵の言うことを聞いてくれるわよ?」
「僕の長い付き合いは蜂蜜以下か……」

 かなりへこんだ様子を見せて、調停役はベンチに座り込んだ。
 それでも一応頭数分のポタージュ、少女だけはココアだが用意する元気はあるようだ。

「それで?」
「?」
「いや、ハテナで返されても困るよ。君がこんなことするってことは、まぁ何か言いたいことがあるんだろう」
「あ、そう! ココアを飲みに来ただけじゃないのよ!」

 一応はそちらも理由なのか、ここまでのことをするのなら出来れば理由は一個に絞るくらいの意気を見せてほしかった。
 ココアを飲み干した少女は調停役に近づき、指を眼前近づけた。
 蜂蜜の壺に指でも入れたのか、指の香りはもはや甘ったるい程で少し顔をしかめる。

「少なくとも森の皆にコンタクトをとって色々するには調停役の貴方の力が必要……だから私は思いついたの。
さぁ、この森にすむ熊5頭、それが森の皆にも受け入れられるようにしなさい! さもなくば……」
「さもなくば?」
「毎日ここに張らせるわ!」

 少女の宣言と共に、5頭はそれぞれ鼻息を吹く。ジョージは少し申し訳なさそうにだったが。
 最悪なことを思いつきおってと調停役は少し頭を掻く。
 とにかく、何とか説得しようと言葉を探し始める。

「あー、それをされると確かに非常に困るんだけど……それはきっと君たちも一緒だよ?ここは動物たちだけじゃなくて人間も来るから。それが熊で埋められて近づけなかったら、人間たちも何をするかわからない」
「そこは安心しなさい、既にパパのところへ皆でお願いしに行ってここしばらくは入れないことを伝えたわ!」
「待て、村長の家に押し掛けたの? しかも皆ってことは」

 とんでもないことを言い始めたと混乱する調停役。
 少女の父親は近くの村の長だということは少女が森にいきなり住み始めた時、てっきりどっかから誘拐でもされてきたかと思った際に確かめている。 
 だが、距離的に言えばそう簡単に行って帰ってこれる距離ではない。
 普段ならたまに通る馬車などに乗って、と考えたがいま彼女の周りには……。
 そう思って視線を向けるとジョージ以外は少し誇らしげな顔をした。

「もちろん、この子たちも一緒に! 普段は小うるさいパパだけど、なんか静かだったわね」
「……もしかして、その時いろんなものもらわなかった?」
「あれ、そんなこと教えたっけ? なんか村の皆が食べ物とかいっぱいくれたの。応援してるってことなのかしら」
「多分平和な村に突如として現れた山賊扱いされてたんだと思うよそれ」
「ならいっそのことまた明日にでも蜂蜜をもらいに行こうかしら。森のは大体取りつくしちゃったし」
「一日でも早く解決するから絶対にやめてね! あと蜂の巣をそんなに襲っちゃ駄目だよ!?」

 調停役は頭を抱えた。
 彼はこの後、その日のうちに村の住人に熊に対する恐怖心を取り除く方法を考え始めた。
 だが、よくよく考えてみると熊の方を懐柔した方が早いのでは? と気が付き、調停役は他の森にいる蜂たちに頭を下げ、大量の蜂蜜を獲得。
 騒動は何とか収まった……が、二度とこんなことが起きないように、少しずつみんなを慣らしていくことを少女に誓った。

「すいません調停役さん、私があの子を森に止められなかったばかりに……」
「いいんだよジョージ、この問題を先延ばしにしてきたのは確かなんだから。それより今度は直ぐに僕に報告してね……」

 それ以降、調停役はいつもの甘い匂いがする度に顔をしかめたというし、甘いモノ嫌いがさらに深まったとさ。






*****
 なんかシリアスが続いていると流れぶっ壊したい病である私です。
童話風にしめたかったのですが、ここで実力のなさが浮き彫りに……!
 ちなみに元ネタは森のくまさんなんですが、碌に要素無いですねごめんなさい。

Re: 邂逅を添へて、【小説練習】 ( No.62 )
日時: 2017/11/11 12:59
名前: 凛太 (ID: XQfUe5jY)

 彼女はいつもと変わらない、甘い匂いをまとっていた。彼女の身体は、花で覆われていた。細いつるは彼女の脆弱な体躯ををからめとり、四方からは濃紺の花が綻ぶ。彼女から摘み取った花を煎じれば、妙薬となった。みなが彼女を愛おしむ。だから、僕は彼女を厭わしいと思った。
 父さまがとおつ国に旅立たれた日、僕は冠をいただいた。齢15になる妹の蒼白な泣き顔や、母さまのひっそりとした黒いドレス。何もかもが腹立たしかった。ゆえに僕は一人きりになりたくて、夜の庭園に躍り出たのだ。星々は夜の天幕を飾り立て、つめたい夜風は身を打ちつける。冬の庭園は、物寂しい。けれどもそこに似つかわしくない、したたるほどの花の匂いを感じて、僕は後ろを振り向いた。

「王子さま、どうかお力落としなさいませんように」

 彼女だった。肢体に瀰漫したつるを隠すために、ゆったりとした装いをしていた。それでも袖から零れ落ちる蔓を見やれば、うっすらと花を咲かせている。彼女は切々とした表情を浮かべて、こうべを垂れた。拍子に、はしばみ色の髪が揺れる。

「もういい、お前が慰めたところで、どうにもならない」

 うんざりと吐き出した声に、彼女は面を上げた。ひどく鬱屈とした調子だった。

「どうして、父さまは亡くなったのだろう」
「王さまは、長患いでしたから」
「違う、そのようなことではない」

 かぶりを振ると、彼女は痛々しげに目を伏せた。祈りをささげるように、胸のあたりで手を組む姿は、ある種のひたむきさを感じた。その振る舞いに、何か美しいものを見い出した気さえする。

「お前にまとわりつくものは、万病に効くのだろう。ならば、なぜ父さまは」
「王子さま、それは大きなあやまりでございます!」

 彼女は珍しく声を荒げた。髪と等しい色をしたまなこは、大きく見開かれ、僕に注がれていた。そのことに、僅かばかりの優越感に浸る。国中が欲してやまない娘を、この夜ばかりは手中に収めているのだ。いまいちど、彼女に目を凝らす。木の枝ほど痩せ細った体躯だけれど、顔立ちは悪くない。何よりも、あちこちを這う蔓は、一層彼女を儚くさせていた。

「わたくしの花弁は、痛みをやわらげ、死期をのばすものです。しかし、病を絶つものではございません」
「だから自分を責めるなと、そう言いたいのか」
「そのようなつもりは、決して」
「お前は、本当に浅ましい娘だ。父さまの寵愛を、その身に受け止めておきながら」

 彼女ははっとしたように、口を薄く開いた。そうして楚々とした足取りで近づくものだから、僕は思わず後ずさる。

「王子さま、王子さま。きっと、さみしかったのですね。貴方さまのお父上は久しく床に伏して、共に語らうことなどついぞ叶わなかったから」
「わかったような口を聞くな!」

 力任せに叫ぶが、彼女はひるまなかった。それどころか、彼女はそうっと僕の手を取ってみせる。

「わたくしは、この国に身をささげたいのです。ですから、王子さま。わたくしにできることがあるのならば、この花弁をいくらでも差し出しましょう」

 彼女はそう言って、指のあたりに咲いた、あでやかな花弁を摘んだ。そうして僕の手のひらにのせるのだ。ひとひらの花弁は深い青色をしていて、先端の方にかけて淡く白が滲みでている。

「お前の奇妙な花は、心にまで働きかけるとでもいうのか、馬鹿馬鹿しい」
「そうです、王子さま。もとより、花の香は心を和らげてくれます」

 訝しげにとった花片を、顔の近くまで持ってくれば、抗いがたい欲求に襲われた。蠱惑的な香りがして、酩酊とした心地に陥る。僕は衝動のままに、それを口に含んだ。砂糖の味がした。
 父さま、この国を統べた王さまよ。何故、彼の人は僕をおいて旅立たれたのか。父らしいことを何一つせず、この眼前に佇む甘やかな娘に縋った。僕は彼女が嫌いだ。しかし、今ならわかるのだ。砂糖菓子のような甘美な味を咀嚼し、飲み込んだ時。魔性めいた力が働き、僕を虜とする。

「本当ならば、ジャムなどにして召し上がるのが良いのですけれど。ねえ、王子さま、泣かないで」

 彼女に言われて、はじめて頬を垂れる露に気がついた。それを乱暴に指で拭う。

「僕は冠をいただいた。夜が明ければ、王となる。お前は、僕に忠誠を誓えるのか」

 この問いかけに、彼女は瞳を数度またたかせ、そうしてしとやかな笑みを見せた。

「それが、わたくしの至上の望みです」

 堕ちていくのだ、と思った。彼女が身に宿すものは、妙薬などではない。毒だ。僕を、堕落させる。幼い頃から求めて止まなかった父さまの背を追懐し、皮肉なものだと自嘲した。たまゆらの彼女と、いつかとおつ国に招かれるその日まで、花の香に浸ろう。



はじめまして、凛太です。
面白そうだなあ、と思い参加しました。
匂いにまつわる話を書くのははじめてだったので、すごく新鮮で楽しかったです。

個人的には、壱之紡さんの話が好きでした。
儚げな雰囲気と会話のテンポに惹かれます。

それでは、ありがとうございました。

Re: 邂逅を添へて、【小説練習】 ( No.63 )
日時: 2017/11/13 16:05
名前: 黒崎加奈◆KANA.Iz1Fk (ID: 6DmUuvEI)

冒頭部分が吹っ飛びましたが、無事復旧完了です。
今回は「彼女」「匂い」が限定されるのか、被らないようにするのが大変でしたね。


*
 彼女はいつもと変わらない、甘い匂いをまとっていた。あくまでも友人の話である。僕は熟れすぎた果物のような、腐臭を感じてしまう。
 廃れた教会の墓地に一輪だけ咲いていた白薔薇。それを僕たちは『彼女』と呼んでいた。
 初めて彼女と会ったのは、六月中旬頃のことだった。しとしとと長雨が降り続く中、誰もいない教会に忍び込んだ僕らは甘い匂いに誘われて、美しく咲いていた彼女を見つけた。
 真紅の薔薇に囲まれて、ぽつんと一人佇んでいる彼女に、胸の奥がざわついたのを覚えている。そう、そして花の色香に誘われる虫のように、ふらふらと吸い寄せられた僕たちの目の前で、彼女は人の姿に変わってしまったのだ。

「あら、こんばんは。こんなところに来るなんて、よっぽどの物好きなのね」

 絹のようになめらかな肌は、血の気すら通っていないほど白く、色素が全くなかった。アルビノを思わせるかの容姿で、髪や唇すらも白真珠のようだった。唯一、瞳だけが薄い緑をしていて、その輝きに背筋が寒くなる。
 まるで、棘(とげ)に刺されたような。
 その時僕達がどんなことを話していたのかは、未だにぼんやりしたままだ。

「うふふ、こんばんは。今日は一人なのね」
「なんだか、ここに来なくちゃいけない気がしたので」
「お友達も昨日、同じことを言っていたわ」

 僕たちは毎日のように、彼女に会いに来ていた。両親に帰りが遅いとか、塾をサボっただとか怒られてしまったけれど、教会近くを通ると漂ってくる甘い匂いには逆らえない。二人で行ったり、一人だったり。彼女に呼ばれている気がするのだ。

「あの、どうして、人間の姿になるんですか? 花のままでも、十分に美しいと僕は思うんですけど」

 初めて目にしてから、ずっと気になっていたことだった。紅に染まらず、凛として佇んでいる白薔薇であるからこそ惹かれたのに、わざわざ人の姿を取る意味が分からない。

「それはね――」

 音もなく僕に近づき、耳元で囁きかける。言葉を耳にする前に、チクッと鋭い痛みが頬を刺した。

「あらやだ、そろそろ花の姿に戻る時間なのね」

 結局、僕の質問の答えは聞くことができなかった。
 彼女を見ると、透きとおった白い肌で覆われていた手指が、固い深緑の茎に戻りつつあるところだった。茎についている棘が頬に刺さったらしい。僕の血液が付いた指先の棘を、ペロッと舌で舐める姿から目が離せなかった。純潔という、白薔薇の花言葉からは程遠い官能的な仕草に、中学生ながら思わず唾を飲み込んでしまったほどだ。腰の辺りがじわりと熱をもって、むず痒いような衝動を感じる。
 あぁ、この時からか。
 甘い匂いを纏っていた彼女から、腐臭を感じるようになったのは。彼女の香りをいい匂いと感じなくなった僕は、しばらく教会の近くに行かなくなっていた。
 その一方で、友人は足を運んでいたらしい。

「なんかさー、あの甘い匂いを嗅ぐと行っちゃうんだよねー」
「甘い匂いなんてしてないよ。最近、腐った臭いがして近づきたくもない。枯れる時期だろ」
「そんなわけねーよ。俺、昨日も行ったけど変わらず良い匂いだったし、周りの赤薔薇も綺麗だったし」

 初めて彼女と会ってから、二週間ほどが過ぎている。家とは反対の町外れにある植物園の薔薇は見頃を終え、入口にある看板の花が向日葵に変わった時期だった。
 彼女はまだ、咲いているということだろうか。

「お久しぶりね。最近来なくて寂しかったのよ。ねぇ、どうして顔をしかめているの?」

 友人の言うとおり、彼女は変わらずそこに咲いていた。ただ、周りの赤い薔薇は記憶の中より数が減った気がする。前はもっと、満開に咲いていたのに。
 そして、相変わらず彼女からは不快な臭いがする。以前よりもずっと臭いがキツく、鼻をつまんでしまいたい。でもきっと友人なら、甘い匂いを感じているのだろう。
 今日の彼女は、人の姿をしていなかった。本来の姿である植物の形で現れたのは初めてかもしれない。しかしそれ以上に、今にも朽ちてしまいそうな彼女が気になっていた。

「腐った卵のような、変な臭いがしているので。あとあなたの姿を見て驚いてしまって」
「あらそう。あなたは一度、私が触れてしまったものね。お友達のように上辺だけ見えていれば良かったのに」

 今日は、あの日と同じように雨が降っていた。日が長くなったせいか、明かりをつけなくても彼女の姿がよく見える。でも、あの麗しい白薔薇はどこにもいない。茶色く変わった花びら、しおれた茎、枯れ落ちた赤薔薇。
 間違いなく友人の嗅覚がおかしくなっていると悟った。こんな状態なのに、甘い匂いを漂わせるわけがない。
 急いで引き返そうと後ろを向いたら、何かに足を取られて土に倒れ込んでしまった。泥だらけになりながら身体を起こすと、足首に太い茎が巻きついている。

「どこに行くの?」

 足に刺さった薔薇の棘から一気に血液が吸い取られる。声をあげる間も無く、息苦しさと気持ち悪さが襲いかかってきて、呼吸もままならない。ぐらり、と傾いた僕の身体を、いつの間にか人の姿になった彼女が優しく支えていた。

「やっぱり、童貞の生き血は最高だわ! 永遠に、美しく咲くためには不可欠なのよ。私を飾る、紅の薔薇になりなさい。残った身体は土の肥やしにしてあげるから、安心してちょうだい」
「や、め……て……」

 視界は既に白く、彼女の姿もぼんやりとしか見えない。それでも、僕は逃げようと必死に身体をよじったつもりだった。

「いやよ。だってせっかく匂いにつられて来てくれたのに、逃がすわけがないじゃない。本当は甘い匂いに包まれたまま取り込んであげようと思っていたのに、あなたが性に目覚め始めてしまったから仕方がないの」

――甘い匂いを感じるのは、精通していない男の子だけ。私の姿が見えるのは、童貞の男の子だけ。

 最後に僕が聞いたのは、そんな言葉だった。次に気がついた時、僕はあの墓地に咲く赤薔薇に変化していた。
 パキポキと枝を折って、こちらに近づいてくる足音が聞こえた。彼女と誰かの話し声が、微かに聞こえる。

「こんばんは。最近はあのお友達は来ないのね」
「なんか、学校でも見ないんですよね。行方不明になったとかで、警察が探しているっぽいですよ」
「ふうん、そうなんだ」

 僕の真下にある薔薇の茎が、動いているのを感じとった。
『逃げて』
 もう僕に口はない。ただ友人にそう祈り続けることしかできなかった、七月中旬頃。薔薇の季節はとっくに終わっている。
 彼女は相変わらず甘い匂いをまとって、美しく咲いていた。



*
中世ヨーロッパには、アイアンメイデンという拷問器具を使って、処女の血を搾り取り、浴びていた人物がいたとされています。
処女の血液には不老不死の効果があると信じられていたとかいないとか。

久々に擬人化で書いた気がします。やっぱり無機物を有機物のように書くのは向いているのかもしれません。
あと、今回は意識的に読点を少なめに書いてみました。普段よりも文章の流れが速くなるかなとか。

Re: 邂逅を添へて、【小説練習】 ( No.64 )
日時: 2017/11/13 18:59 
名前: 雪◆EEpoFj44l.

 このスレッドを見つけて、慌てて書かせていただいたものなので少し急展開、設定がおかしいところがあるかもしれません……。それでもよろしければ。


 彼女はいつもと変わらない、甘い匂いをまとっていた。

 玄関のドアを開けてやると、彼女は弾丸のような勢いで転がり込んできた。その香りの発信源である、色取り取りの花たちを胸に抱いて。

 「これねぇ、そこのねっ、空き地にねっ、咲いてたんだよっ、綺麗でしょっ」

 「……ありがと。上がっていいよ」

 興奮冷めやらぬ様子の彼女は、あんなに大切そうに抱きしめていた花を僕に押し付けると、靴を脱ぎ散らかしてリビングへと上がっていってしまった。
 軽いため息をついて、仕方なくピンク色の小さな靴を揃える。靴を脱ぎ散らかしたのも、インターホンを連打して入れてとせがんだのが彼女でも、母に叱られるのは僕なのだ。母は彼女を「私たちと違って裕福ではないから」という理由だけで汚いもののように扱い、忌み嫌っている。
 あんな庶民うちの屋敷に入れないでよと怒る母の声を、僕はベッドの上で聞いていた。

 花を手に持ち、扉を開く。と、目を細めて、陶器の花瓶を物珍しそうに眺めている少女がいた。
 僕が部屋に入ってきたのに気付くと、嬉しそうにぴょこぴょこと跳ねる。頭の両側でツインテールにくくられた髪も揺れた。

 「この間の絵、完成したよ」

 「えっ、本当っ?」

 「うん。……見る?」

 「うん! 見たい見たい!」

 ソファの裏に隠していた花の絵が描かれたカンバスを抜き取り、彼女に見せる。彼女は花の絵を、目を見開いて食い入るように見つめた。餌に釣られる犬のようだった。
 花瓶に挿された、背の高い花の絵だ。淡すぎる色で描いたせいで、輪郭もはっきりせず、主人公である花さえも曖昧な絵となってしまっている。それでも彼女は目を輝かせて見ていた。僕も、最初、もっと子供の頃の絵に比べたらずっと上達していると思う。

 「すごい、本物みたい、きれい……ねえ、この絵貰ってもいい?」

 「……え?」

 そんなこと予想もしていなかった。でも、考えてみれば、こんなものがあっても邪魔なだけだった。

 「うん。……こんなので良ければ」

 どうせ、あとで捨てるつもりだったのだ。

 「本当っ! いいの本当にいいの? ありがとっ、大好き!」

 大きな眸をきらきらさせて喜ぶ彼女。開いた口から、小さな八重歯が覗いて見えた。

 明るい、が第一印象の女の子。小学校まだ一年生、だっただろうか。近所の家に住んでいる子で、名前も花だった。ありきたりな名前だとか、そんなことは思わない。
 僕は滅多に外に出ないし、彼女にも聞かなかった為名字はわからないが、彼女は花という名前のよく似合う女の子なのだ。正に可憐に咲き誇るチューリップのように可愛らしい、愛しい存在。

 そんな彼女とは対照的な、病気がちの僕。外には全く出ず、学校には3、4日に一度くらいしか行けない。それでも昼頃には早退するのだから、生涯の殆どを家の中で過ごしていると言っていい。
 そのせいで、血の気も生気もすっかり失せてしまった白い手で、僕は絵筆を握る。彼女が絵の題材となる花を持ってくる。そんな役割分担ができあがったのはもう一年ほど前だろうか。そもそもの切っ掛けは、彼女が引越してきた時に花を渡してきたことだ。そして僕が喜ぶと彼女は次の日の日曜日、花を摘んできてくれたのだ。僕だけのために。
 しかし母は彼女を嫌い、屋敷には上がらせるなと言う。
 それからは土曜日の正午あたり、母がいつもいないこの日に彼女がやってくるようになっていた。

 少しばかり描いたところで、僕はあることを思いつき、ふと手を止めた。

 「今日は、ここまでにしよう。今度来たときには必ず見せてあげるから」

 「どうして?」

 「いいことを思いついたんだ。この絵が出来あがったら、また君にプレゼントするよ」

 「うんっ! 絶対だよっ、また来るから!」

 カンバスを抱きしめて、彼女はリビングを出ていった。何度も振り返っては「またくるから」を繰り返す。そして家から出ていった。甘い匂いのする花を置いて。

 苦笑しながら、僕はその小さな姿が見えなくなっていくのを見送った。見送った。見送った。……見送ってしまった。

 見送っては、いけなかったのだ。

 土曜日の正午すぎ。彼女はまだやって来ない。

 今までで一番の大作で、丁寧に描き上げた絵。
 彼女へのプレゼントのカンバスには、たくさんの花と、今までと違い一人の少女が描かれていた。屈託のない、素直で純粋な笑顔で、あっちの花へこっちの花へと手を伸ばしている少女。
 見たらきっと驚くはずだ。驚いて、そして喜んでくれるはずだ。笑ってくれるはずだ。早く彼女の笑顔が見たかつた。

 しかし彼女は、約束の時間になっても来なかった。
 直ぐ近くを通っていった救急車のサイレンと、まだ生きていた花の、妙に甘い香りが何故か、僅かな不安感を煽り駆り立てる。

 まさか彼女に何かあったのか。

 そう思って誰もいないことを確認して、家を飛び出した。

 日差しが目を突き刺し、しばらく浴びていなかった太陽の光で肌が焼けるようだった。しかし構わずに彼女の名を呼びあたりを探し回った。息が切れる。

 ある横断歩道にさしかかったところで、彼女に会った。
 もっとも居たのは、僕の知る彼女ではなかったけれど。
 花がそこら中に散らばっている。彼女は今日も花を持ってきてくれていたらしい。今回もカラフルな色の花たちだったが、その中でも一番目を引く、赤い花があった。

 そっと拾い上げると、鉄とあの甘い匂いがした。


はじめまして。おもしろそうだなと思って、つい書いてしまいました。
さすがに短すぎましたね……すみません。甘い匂いと言われるとシャンプーの匂いか香水くらいしか思いつかなかったので必死に考えて書きました。しかし私の脳みそではさすがに無理があったらしくこのようなものしか書けませんでした。申し訳ないです。

Re: 邂逅を添へて、【小説練習】 ( No.65 )
日時: 2017/11/13 22:37
名前: 羅知 (ID: sDaCSOS2)

*少し余裕が出来たので何人か他の方の感想を……。
*あくまで私の主観による感想なのであしからず



>>042 アロンアルファさん

私がこの話を読み終えて浮かんだ言葉は『ぬるりとした幸せ』でした。うん訳分かりません。自分でも言っている意味がよく分かっておりません。なんというか羅知の語彙力がないせいで、伝えきれないのですが単純なハッピーエンドとは違う"ぬるり"としたものを感じたのです。(物語中に出てくる蝋?の影響もあるかもしれませんが……笑)
私の凄く好きなタイプのお話です。特にラストが私好みでした。ああいう愛の形もいいなぁって思いました。


>>044-045 流沢藍蓮さん

一人の少年の復讐の物語、でしたね。救いのない終わりが初めの甘い香りという文章と対比されて余計に物悲しさが増していたと思います。ダフネさんとクローバー君。仲睦まじく過ごしていた二人。彼女が命を失う運命は変えられなかったとしても、その後の彼の行動は変えられたはず……。とても切ない話でした。この物語には沢山の花言葉が出てきましたが、その花言葉の意味によって動かされていく展開はとても面白かったです。ただ少し花の名前が多過ぎて混乱してしまったので、もう少し花言葉の説明は少なくてもよかったかなと思いました。


まだまだ感想が書けていませんが、残りの方はまた明日。


Re: 邂逅を添へて、【小説練習】 ( No.66 )
日時: 2017/11/13 23:10
名前: 黒崎加奈◆KANA.Iz1Fk (ID: ZGVwOSqg)

ども、連投失礼します。感想が滞っているので、投げに来ました。
気になった人だけ書きます。書いてないから読んでないわけではなくて、特になんか言いたいことがなかっただけです。


>>42
アロンアルファさん
 死体に命を吹き込む設定、こうゾクゾクするものがありますよね。最後の一文で、彼らは体を入れ替えながら命を存続させているのかな、と想像しました。身体のパーツを詰めていくところの描写がゆったりとした流れなのが、何とも言えない心地良さでした。
 個人的に、彼女の甘い匂いの元となるのはどの部分なのかの描写が欲しかったです。髪の匂いなのか、彼女の持つ生来のものなのか、水瓶に入っている水が発する匂いなのか、それともそれはただの比喩として使ったのか。せっかくの冒頭指定なので、もう少し内部に組み込むと良いかなと感じました。

>>46
浅葱さん
 スレ主はあまり感想をもらわないかな、という偏見の元。
 長編の一部分を抜き出したようなお話の印象を受けました。彼らの関係性や、今後の展開に謎を残すような終わり方だったからでしょうか。「私」の回想が中心でしたが、ドレスの赤を通して、場面や人物像が目に浮かぶのはさすがだなと。
 一つ気になったのは、冒頭「いつもと変わらない甘い匂い」に対して、彼女と会うのは「久しぶり」であるという点です。「いつもと」という語句が持つ時系列と若干矛盾するかなと感じました。

>>61
塩糖さん
 他の方が軒並み、まぁ私含めて花や血でシリアス調に物語を紡ぐ中、お菓子のほっこりした甘さを物語の軸にしているのが独創的で良いなと思いました。少女が食べるはちみつ、すごく美味しそうですよね。私はあそこまでベタ甘なのは途中でギブアップすると思います。
 冒頭部分で、調停役と被疑者の視点が混ざっていて、そこだけ訳が分からなくなりました。あれ、ジョージって調停役と被疑者のクマとどっちの名前? みたいな。

>>62
凛太さん
 文章の雰囲気が作品の最初と最後で変わるのが、主人公の内面の成長を描いているようで素敵だなと思いました。初めは無理して気丈に振舞っている感じが、後半はしっかりと自覚も伴った行動という印象です。文章も綺麗なので作品の雰囲気に合いますよね。
 細かいところで申し訳ないのですが、夜の庭園に躍り出る。主人公の心情的に、元気よく登場するという意味の躍り出るではなく、足を運ぶ。とかの方が雰囲気的にも合うかなと思ってしまいました。


そんな感じ。

×の××は×の× ( No.67 )
日時: 2017/11/13 23:23
名前: 瑚雲◆6leuycUnLw (ID: KPJQ9RTM)



 彼女はいつもと変わらない、甘い匂いをまとっていた。

 「今日のお昼、なに?」
 「お母さんの作ってくれたお弁当!」
 「へえ。あ」

 彼女が席に座ろうと、机に手をついたときのことだ。そこに置いていた紙パックが彼女の指にぶつかり、ぼとんと倒れた。その拍子に、甘そうないちご牛乳が紙製の門から進軍する。
 おどろいた彼女はつぎの瞬間、そのピンク色の液体に手を滑らせる。結果は一目瞭然。自分の机に、顔からダイブする。ピンク色の水しぶきが噴くと、机の端からぽたぽたと小雨が降った。

 「ちょっと。大丈夫?」
 「ちょっと、痛い」
 「まったく。本当にドジなんだから」
 「えへへ……」
 「あ、お弁当」
 「あ!」

 手に持っていたはずのお弁当箱が、床でぐしゃりと命を絶っていた。しかし彼女が呆けたのは一瞬のことで、すぐにへらっと笑みをこぼす。
 だれひとり慌てる様子もなく、彼女自身手慣れたようにバッグの中ををまさぐりだす。彼女がとてもドジであることを、周囲の人間はだれもが熟知しているのだ。

 「これで、拭く?」
 「あ、ありがとう! ハンカチ、いつもごめんね」
 「ほっとけないから」
 「ヒュー。お熱いねえ」
 「そんなんじゃないよ!」

 僕もそのうちの一人だ。だからこそ放っておけない。そういう性分なのだ。
 そんな僕に、いよいよ彼女の行動が読めるようになってきた。

 彼女にハンカチを渡そうとすると、いつも決まって「あ!」と叫び声を上げる。そして手からハンカチを滑らせる。そのまま床にひらり。掴もうとしてかがんで、それから、なんやかんやあって転ぶか踏みつけるかしてハンカチを汚す。いつもそういう手順を踏むのだ。半泣きの顔が目に浮かんだ。

 僕の差し出したハンカチに、彼女が手を伸ばしてくる。

 「ありがとう!」

 その手にしっかりとハンカチが渡った。

 「え?」
 「また転んで汚すと思ったでしょう?」

 ハンカチを両手で優しくつかんで、胸の前にまで持ってくると。めずらしく彼女は、いたずらっぽくはにかんだ。

 「もう汚さないよ。これは君のだから。えへへ」

 花咲くような笑みに、僕は言葉を失った。








 最後に見た「彼女」の笑顔が、どうも思い出せない。それでもいい。僕には毒のような味だった。
 
 
 「花をかえなくちゃ」
 
 
 まもなくのこと。僕はもといた学校から転校した。

 



 ***

 ここではまたまた、初めまして。瑚雲です。
 とても素敵な企画ですね*
 楽しく書かせていただきました。
 まだすべての方のものを読んだわけではないので感想はのちほど!

 浅葱さんの作品だけは、冒頭からすらすら読んでしまったのでまずは一言だけ。
 雰囲気が、とても好きです……!(訳:しんどい)

 運営ありがとうございます*
 これからもがんばってください!(*'▽')

Re: 邂逅を添へて、【小説練習】 ( No.68 )
日時: 2017/11/14 23:08
名前: 瑚雲◆6leuycUnLw (ID: mNeS.qH2)

 こんばんは、瑚雲です*
 人を選んでしまって申し訳ないですが、個人的に最後まで読んだ作品だけ感想を述べていきます~~


 >>42 アロンアルフアさん

 初めまして。
 地の文が続いていながら千篇一律ということもなく、そういう意味で文章がしっかりとなさっているなあと思いました。後に続く作品もいくつか読みましたが、作品の作りだけなら似ているものが多く、しかしアロンアルフアさんの作品が一番心に残りました。
 私の読解力の問題で、物語の全体像をうまくつかむことができませんでしたが……それでも「ああ、面白い」って思ったのは事実です。なんというか、あまり遠くへ行かずにしかし手元にもいない。手を伸ばしたくなる作品だなという風に思いました。
 あまりはっきりしたことが言えなくてすみません;面白かったです。


 >>46 浅葱さん

 こんにちは。いつもお世話になっています。
 もとより浅葱さんの、深みもありつつ淡白さを併せ持つ地の文が好きなので、作風好きだなあと思いながら読んでいました。「私」と「彼女」の絶妙な関係性。大人めいた表現の中に時折子どもっぽい純粋さがぽつりと差されているので、その明暗にぐっときます。

 とにもかくにも好きでした(これが言いたかった)


 >>47 壱之紡さん

 初めまして。
 これは私なりの回答ですが……一伊達さんは、文章そのもの、ですか……? なんとなくそう匂わせるようなニュアンスで書かれていたように感じましたので。まちがっていたらすみません;
 言葉の弾み具合が好みでした。SSの中での対話って、普通の小説よりも一言一言に重点が置かれるので、無駄なくすっきり読めたー、という印象を受けました。
 あとは……大きなお世話かとは思いますが、隠喩とか遠回しな表現がもっと入っていたらきっともっと物語が魅力的になったんじゃないかって勝手に思っています。遠回しすぎても読者さんは困ってしまうかもなので、スパイス程度に。無礼を働くようで、すみません;

 
 >>51 三森電池さん

 初めまして。
 表現の仕方が、好きだなあと思いました。うまい具合に文字で遊んでいて、それが視覚で訴えてくるという技術に繋がっているのかなと脱帽しました。単純にめちゃくちゃ読み進め易かったです。
 女性のキャラクターが好きです。愛らしさと危なっかしさが入り混じっていて、それが本当にいい塩梅で「かわいい」って思うことができました。ホテルなのに。「ぼく」と「きみ」という表現がホテル内ということとのギャップに繋がっていて、それが私にとっては面白く感じました。


 >>61 塩糖さん

 こちらでは、初めまして。
 世界観が愛らしくて、読むにもさくさくと楽しむことができました。ご本人様も仰られていましたが、いままでとちがうテイストで書かれていたので非常に、いいな! と思いました。似たような作品が続くと、どうも飛ばしたりもしてしまいますし(個人的見解)
 ひらがなの部分でのあたたかさと、全体的な童話テイストもキャラクターの名前も相まって、この世界を作っていたので、「作品」だって感じが強くしました。ジョージ……いいですね。


 >>63 かなちゃん

 こんにちは!
 かなちゃんらしさがフルに発揮されているようでもう、「ああ、かなちゃんだ」って思った……。すごく好きです。美しくて危なっかしくて、甘味。
 男と女っていう対比はこれまでの作品でもいっぱいあったけれど、一番「性」を感じたのはこの作品でした。文章力云々という問題はもう通り越して、やっぱり内容が濃厚だからこそ、かなちゃんの文章に惹かれる人が多いんだなあと改めて感じた。人間味が強いから真にも迫る気がする。
 もう一度言いたい。すごく好きでした。



 ***


 「甘い匂い」というワードで、女性らしさそのものの甘さを表現した人が多かったなっていう印象がしました。「女性」と「甘い匂い」の繋がり具合といいますか……。分かりづらかったらごめんなさい;
 とにもかくにも、似たものが多かったなあと。地の文を連ねることでそれが俯瞰的な要素を含んで「大人っぽさ」にも繋がるとは思いますが、やっぱり作りの似たようなものが続くと個人的には読みづらいなあという感想です。
 それ故に、読まなかった作品もあります。すみません。これはあくまで個人的なものなので、あまりお気になさらないでください。

 読むのもとってもおもしろかったです*
 読ませていただいてありがとうございました。

 

Re: 邂逅を添へて、【小説練習】 ( No.69 )
日時: 2017/11/18 00:20
名前: ヨモツカミ (ID: Rr28cnmE)

 彼女はいつもと変わらない、甘い匂いをまとっていた。
 もう二度と来てはならないよ。この言葉を告げるのは何度目になるだろう。
 茂みに隠れながら怖い顔をする私を見つけると、彼女は花が咲いたように口元を綻ばせ、駆け寄ってくるのだ。思わず溢れる嘆息は呆れか、それとも安堵だったか。
 ふたりの会話は何時だって私の説教で始まる。もう二度とこの森に来てはいけないと言っただろうとか、私と話をすることも本来は禁忌であるはずだとか。しかし彼女は私とは対象的にひどく嬉しそうに笑うのだ。

「何故笑うのだ」
「わたくしは幸福だからですよ」

 当然のようにその二文字を口にするから、胸が締め付けられる。
 彼女の声はその姿からは想像もつかぬほど美しく心地良い。もっと、ずっと側で聞いていたいと願うのを私自身が許しはしないから、耳を塞いでしまえればと思う。思いながら、鋭い爪を携えた、彼女の身体よりも大きな前脚に視線を落とした。私には人間のように塞ぐべき手などありはしない。
 愛おしそうに彼女は両手を伸ばし、暗色の鱗に覆われた私の頬に触れた。白い包帯に覆われた指先は、枯れ枝のようにカサついていたが、微かな温もりがあった。触れ合う事が苦しくて、振り払おうかとも思ったが、彼女のか細い腕などその衝撃で折れてしまうのではないかと心配になって、考えを改める。私達とは違って、人間は恐ろしく脆いのだから。

「あなたって、いつ触れても冷たいのですね。ひんやりしていて気持ちいい」
「人間が暖かすぎるのだ」

 ギョロリと葡萄色の目玉を細めて唸るように言った。
 私は森にひっそりと住まう龍族の生き残りだ。龍は何百年も前に滅んでしまったものとされており、私も私の仲間達が全て息絶えてしまったと思い込んでいるが、真相は闇の中である。簡単に滅んでしまう程脆い種族では無いはずだが、この数百年、仲間の姿を見つけることができなかったのも事実なのだ。あまり期待しないほうが良いだろう。
 彼女は微笑みながら私の顔に身を寄せる。接近した事で、より一層その香りが近くなる。花の匂いだ。甘く仄かに香る、彼女の匂い。
 彼女は呪われていた。
 湖の辺りに住まう精霊達と見間違うくらいに綺麗で優しげな顔は、樹皮のように茶色くしわがれ、左眼には白いクチナシの花が可憐に咲き誇っていた。手足も包帯で隠しているものの、枯れ枝を思わせるほどに痩せ細り、変色している。水面に浮かぶ月の如く煌めいていた彼女の髪は、いつしか色彩を失って、透明とも取れるような白髪に変わっていた。きっと左眼の花が、体中の養分を吸い取っているからだ。彼女の肌や髪を嘲笑うように、花は瑞々しく異質に咲き誇っている。
 その姿を痛々しげに見つめ、耐えられなくなった私は静かに目を閉ざす。
 呪いによりこんな身体になって、最早死を待つだけの彼女は、私の住まう森の奥まで歩いてくる事すら億劫である筈なのだ。日を重ねるごとにやつれ、足取りも覚束無くなってきた。私を抱き締める腕の力も、少しずつ衰えているのを嫌でも実感していた。
 それが耐え難いことでもあり、待ち望んでいたことでもある。だから私は苦しくて、愛おしくて仕方が無い。

「何故……いつも私に会いに来るのだ」

 絞りだすように問いかけた声は掠れていた。
 彼女は私の頬を優しく撫で付けて、耳元に顔を近付けてきた。吐息が耳をくすぐって、柔らかい囁き声。

「あなたがわたくしを愛してくださるからですよ」

 考えるまでもなく、答えが用意されていたかのように、迷いの無い返答だった。
 呪った張本人である私は、瞬きをして彼女の醜くも美しい顔を覗きこんだ。
 龍は悍ましい呪いの力を持っていた。それは、愛した者を花に変えてしまうという呪い。

 あれから幾つの季節が巡っただろう。彼女と出会ったあの日、私はいつものように人の立ち入りを禁じられた森で独り、ひっそりと暮らしていた。
 昼の微睡みの中、風の梵を思わせるほど心地良く、川のせせらぎのように柔らかく響く歌声を聞いたのを憶えている。何百という時を生きて尚、私はこれほどまでに心惹かれる旋律を聞いたことがあっただろうか。龍は自らの悲しい呪いの力を恐れ、心を閉ざして生きるものであったから、こんなふうに心を動かされたのは初めての事だった。
 きっとそれを聴いてしまった時点で、この運命からは逃れられなかったのかもしれない。
 龍の呪いを恐れた人間達がこの森を“禁忌の森”と呼び、人の立ち入りを禁じたはずだったから、愚かな人間の娘が迷い込んでしまったのだろう、と私はすぐに悟った。
 放っておけば良いものを、その時の私は声の主を一目見ずに去ることなどできないと強く感じたのだ。
 木々や茂みを掻き分け、彼女を見つけたとき――その蒼穹を思わせる瞳に、吸い込まれてしまうような錯覚を覚えた。
 私を見た彼女は一瞬だけ驚くように目を見開いて、それから柔らかく微笑んだ。別れを惜しむように悲しげに、誰かを慈しむみたいに優しい歌は、なおも響いていた。

「嗚呼……」

 嗚呼、出会わなければよかったと、心の底から思った。
 愛してしまった。呪わずにはいられなかった。彼女の事を愛おしいと感じてしまったから。
 今でも私は、この出会いを悔いている。あの日出会わなければ、彼女を呪い殺すこともなかったのに。
 
「何故私を殺さないのだ」

 彼女の肩が微かに跳ねて、指先が震えるのが伝わってきた。この言葉を告げるのは二度目の事である。一度目は出会いの日に、風の音と共に流されてしまっていた。

「私を殺し、生き血を浴びるのだ。さすればお前は」
「嫌だ」

 こんな細い腕の何処にそんな力があるのか。彼女はしっかりと私を抱き締めた。繋ぎとめるように、縋りつくみたいに。
 私は、彼女を呪いたくはなかった。何度もこの呪縛から彼女を救いたいと願った。そして、私が死んでしまえば呪いから彼女を解放できることは、私も彼女も知っていた。
 なのに。
 彼女がそっと手を離し、私の瞳を覗き込む。私も彼女の右目と視線を合わせれば、自然と見つめ合う形になる。あの日見た蒼穹の青は既に失われていたが、代わりに淀んだ瞳の奥に強い光が灯っているのを知る。

「わたくしもあなたを好いてしまったのです。このまま花になってしまうのなら、どうか、あなたの側に咲き誇りたいの」
「……愚か者」

 別れ際に告げる、もう二度と来てはいけないよ。それが呪いを解くもう一つの方法だった。龍が愛を忘れてしまえば。彼女の事を忘れ去ってしまえば呪いは解けるのだ。
 なのに。
 どうか、と願ってしまう。彼女が呪われ続けてしまえと。私のものになってしまえと。
 美しき人よ。私の隣で、いつかその身が朽ちるまで咲き誇れ。

***
人外と少女の話が書きたかっただけなのに、書き終えたらとあるゲームにかなり酷似した設定になってしまっていた。でも後悔はしていないです。
紫の目は独占、青の目は博愛という意味があるらしいので、ほんのりそんな感じで書きました。

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