雑談掲示板
- 徒然なるままに――。
- 日時: 2020/10/02 00:38
- 名前: 黒崎加奈(黒雪)◆KANA.Iz1Fk
*人生色々ありすぎて嫌になるね。
1年振りにサイトを開いてもスレはきちんと残っているし、自分の思考回路が歳を重ねる毎に変わっているのが気恥ずかしくなりますね。
*徒然なるままに、広がるわたしの世界観。
独り言がメインです。話しかけられたら気分で返します。怖い人じゃないよ。
Twitterでやるような短文レスの応酬は、ここでは苦手なので高確率でさよならバイバイ。Twitterでやろうな。
荒らしは参照数が増えて喜ぶだけなので意味無いですよっと。
*気まぐれに、詩やSSなども投稿してる感じです。
もはや自分の思考整理というか日記みたいな使い方の割合が強いですが。
初めまして。あるいは、こんにちは。
黒崎加奈(くろさきかな)と申します。
加奈とでもお呼びくださいな。名前でトリップ変わってますが、黒雪とは同一人物です。
ファジーに生息して、1年に1回ぐらい更新しています。
*宣伝コメントとかは全力で無視します。ので、そのおつもりで。
間違っても自薦の小説とか読みませんから。
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*
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*
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徒然なるままに――。 ( No.389 )
- 日時: 2017/11/21 00:04
- 名前: 黒崎加奈◆KANA.Iz1Fk (ID: 7Dlt8Xrw)
隣にいることが当たり前になってしまうと、失うことが怖くなる。
そんなもんだよね、恋愛って。
*葉見ず花見ず、されど咲く
美しい黄昏時だった。澄み渡った空はそのままに、燃えるような茜色が一面に広がっている。そういえば今朝、ラジオの天気予報では秋分にふさわしい、綺麗な夕焼けが見られると言っていた。
寺の鐘が重たく五つ鳴って、時を告げている。あぁ、もうこんな時間か。射し込む斜陽に目を細めながら、ゆっくりと手を合わせて立ち上がる。墓石の上に置かれた小さな花束は、風に吹かれてゆらゆらと揺れていた。
「あと少ししたら閉めるからね。御参りは日没の少し前までだから」
「あっはい。ありがとうごさいます」
お彼岸という時期もあってか多かった人もいなくなり、いつの間にか霊園の中には私と、寺の住職さんの二人だけになっていた。向かいの通路で掃除をしている小柄な老人に軽く会釈をして、入口の方へと戻りはじめる。
点々と並ぶ墓石の間を歩いていたら、風に揺れる水面が目に飛び込んできた。ちょっとした庭の様な造りになっていて、小さな池と石のベンチと、それを囲むように彼岸花の葉が咲いている。
そっか。もうそんな時期なのか。カレンダーや新聞や、なにかと日付は目にするけれど、いまいち季節の実感は湧いてこなくて。
今年は例年よりも気温が高いらしい。九月下旬だけれど、この夕暮れの時間帯でも半袖一枚で出歩けるし、まだ夏の名残がいたる所に残っている。池のほとりに咲く彼岸花だけが、まもなく来る秋を知らせているようだった。
「去年の今頃は、長袖一枚でも少し寒かったよね。台風とか秋雨前線とかさ、とにかく雨がずっと降ってて、梅雨に戻ったみたいだった。それなのに、今年は嘘みたいにこんなに晴れてさ……」
ベンチからひんやりとした温度が流れ込んできて、体温をゆっくりと奪っていく。誰に向かって私は話しているんだろう。周りには誰もいない。話を聞いてくれる人なんてどこにもいない。でも、私は溢れ出した言葉を止めることができなかった。
「あの日はさ、ほんとに土砂降りだった。外に出ないほうが良いって分かっていたのに、なんで、なんで止めなかったんだろうね。わたし。気を付けてねの一言も言えなくて、ただテレビを見ながら玄関が開く音だけ聞こえて、しばらくしたら電話が鳴ってた。一年経ったけど、今でも信じられないもん。ただいまって帰ってきて、こんなことがあったんだって楽しそうに笑って――隣にいないの。ぐしゃぐしゃになって包帯だらけの顔も、傷だらけの身体も、なんならお墓参り、さっきしてきたのにね。いつまで経っても、どうすることもできないの」
「そんな顔、しないで。俺まで悲しくなっちゃう」
隣から、ずっと聞きたかった声が聞こえた。そんなはずはない。だって、もうわかってる。彼は死んだのだ。それでいて、頭のどこかに分かりたくない自分が棲みついているのも分かってる。どっちにも折り合いをつけることができなくて、ただ時間だけが過ぎてしまった。
「泣いていいんだよ。俺のことも忘れていいんだよ。何もできないのがもどかしいけど、また笑って。ずっと俺は見てるから」
恐る恐る隣を見てみたけれど、やっぱり姿はなかった。さあっと吹き抜ける秋風に、彼岸花の葉が揺れているだけだった。しゃらしゃらと葉がこすれあって音をたてている。不思議なもので、ずっと泣けなかったのに涙がこぼれているような気がした。するりと心から気持ちが流れ出して、彼岸花の葉に吸い込まれているようだった。
いつの間にか冷えていた身体も、心なしかじんわり温かい。
「ありがとう。心配させて、ごめんね。わたし、ちゃんと笑うよ」
心にぽっかりと穴が開いたような虚無感が広がっていた。でもそれでいて軽かった。あんなに見たかった笑顔も姿も見れていないのに、ただ声が聞けただけで満足だった。まるで、彼岸花の葉が悲しい思い出を抜き取ってくれたみたいに、優しくて穏やかな虚無感だった。
そんな私を包み込むように日没を告げる鐘が鳴る。よっつ、いつつ、むっつ。空はまだ茜色に染まっているけれど、もうじき夜の帳がおりるだろう。ゆっくりと紺色が広がっている。ふと見ると、足元には紅の花が咲いていた。彼岸花の花だ。
「お嬢さん、門閉めちゃうよ」
掃除を終えたらしい。住職さんが鍵を見せながらこちらに歩いてきていた。
「あの、この彼岸花って今朝からずっと咲いていました?」
「いいや、今朝は葉が咲いていたはずだよ。あなたが誰かと会ったんじゃないのですかな。彼岸花は『葉見ず花見ず』って言ってね、あの世で花が咲いているとこちらは葉。こちらが花だとあの世は葉が咲くという民話みたいなのがあってねぇ。ほら、ここ霊園だから、そういうのがたまーにあるんだよ。私も若いころ一度あってね、同じように葉が咲いていて、いつの間にか花に変わっていた。しかも今日は秋分で、昼と夜の長さが同じときたもんだ。あちらの人も変わり目に出てきやすいんだろうよ」
運がいいか悪いかは、分からないけどな。そう笑い飛ばして、思ったよりも元気なおじいちゃんだった住職さんは境内の方へと歩き出した。私も、それを追いかけるように霊園を出る。
誰もいなくなった小さな池のほとりで、彼岸花は美しく紅を咲かせていた。
*
最近課題でしか書いてない案件。
テーマというかお題は『秋分』です。
あさねぎんマジで感謝してる。お陰で提出できたよ。
Re: 徒然なるままに――。 ( No.390 )
- 日時: 2017/12/01 17:47
- 名前: 黒崎加奈◆KANA.Iz1Fk (ID: R/632wKI)
*わたしはただ、みんなに好かれたかっただけなのになぁ。
大きく背伸びをした君は、そう言って屋上から飛び降りた。
*
誰かに好かれることと、誰かに嫌われることの、何が違うんでしょう。
私は人に何かを頼んだり、指示を出すことがとても苦手です。言葉選びが下手というか、婉曲に伝える能力が明らかに欠けているから。
そんなつもりが無くても、強い直接的な言葉で脅しに捉えられたり、厳しいと捉えられたり。言葉に棘があるとか言われたこともありますねぇ。
やりたくないことをやらせたくはないけれど、結局あの頃の嫌いだった人と同じことしかできない自分が1番嫌い。
やれやれ。
Re: 徒然なるままに――。*契の花嫁* ( No.391 )
- 日時: 2017/12/22 22:46
- 名前: 黒崎加奈◆KANA.Iz1Fk (ID: 9GiZVMwY)
*生きてます
ようやく更新しました。何か月に1回という凄まじく遅い速度を記録し続けています。黒崎です。
今回の第三部は時系列をバラバラにして投下しています。最後にまとめるか、途中途中で挟んでいくかは考え中。
ちょっとずつ、色々な話とピースを繋げていってる感じかなー。
なんというか、自分の意志で決めたわけではないのに決められたことってあると思うんですよ。古くは結婚相手だろうし、現代だと進路とか生活環境とかさ、親とか。そういうものが自分の中で受け入れられないとき、あなたならどうしますか。
諦めるのか、その環境でもがく自分に妥協するのか、抜け出すのか。
そういった選択肢の一つとして「死」と「記憶喪失」というものを提示できればと思います。物語の展開上の設定もあるんだけどね。まぁ私は妥協するんですけど。
そーんな感じ。受動的な人間がとにかく嫌いになった2週間でした。
徒然なるままに――。 ( No.392 )
- 日時: 2018/01/01 22:42
- 名前: 黒崎加奈◆KANA.Iz1Fk (ID: 85rP6Cyg)
*本年も変わらぬ御愛顧、宜しゅうお願い致します。
皆様は初夢、というものを信じていますか?
一富士二鷹三茄子、夢で見ると縁起が良いと言われるアレです。まぁ私はお察しの通りどうでもいいタイプなんですけれど。
夢なんてここ最近は、地下鉄の構内でターバン巻いたインド系の外人に背後からピストルで撃たれるのしか見てないし、結局心の持ちようだと思うんですよね。
どうして、将来の予想図と寝てる間に見るものは同じ「夢」という言葉で括られるのか。
そんなことを想いながら。
Re: 徒然なるままに――。 ( No.393 )
- 日時: 2018/01/09 21:50
- 名前: 黒崎加奈◆KANA.Iz1Fk (ID: m0Ojn9eU)
化粧をするだけで、ほんのり世界も色づいて見えた。
大人の艶を唇に、頬にまだ見ぬ悦楽を。
目尻にくっきり私を引いて、瞼に夢の煌きを。
*特別な日だから、今日の私は誰よりも女の子。
成人の皆様おめでとうございます。
着物ってやっぱりいいですよね。艶やかでいて、奥ゆかしさもあって。
めっちゃ胸が潰されて苦しかった思い出も残りますが。結局そういうのって思い出補正とやらで抜け落ちて行くんですよね。やれやれ。
小説大会も発表されたみたいで、知り合いの方の名前ばかりで、見ていて楽しかったです。
知ってる人が受賞していると、なんかこちらまで嬉しくなりますよね。
どエロいワンピースを買いました。そんな感じ。
Re: 徒然なるままに――。 ( No.394 )
- 日時: 2018/01/13 12:01
- 名前: 黒崎加奈◆KANA.Iz1Fk (ID: ZGVwOSqg)
*白銀は満ちる
るりら、らりら。
湖の畔に少女の歌声が響き渡る。静かに揺れる水面に、星と少女の姿が映っていた。
るりら、らりら。
誰かに呼びかけるように、小高い丘の上から少女は歌を紡ぐ。十歳を過ぎたぐらいだろうか。
るりら、らりら。
白いネグリジェが新月に浮かぶ、真珠のようだ。食べてしまうには惜しい。
るりら、らり――。
声を飲みこむように口を塞ぐ。
「少女よ、喜ぶがいい。この私の所有物となることを」
白銀の翼、赤く鋭い瞳、ごくりと唾を飲みこむ喉。久々の擬態だったが、映る姿に不満はない。
「水龍レヴィアタン。私のことを知っていて、この湖に来たのだろう? 望みを言ってみろ」
まだ初恋も知らないような少女に口づけたのは、少々やりすぎたかもしれない。現に目の前で起こったことを整理できずに、目を見開いたまま固まってしまっている。それを良いことに、少女をじっくりと眺めさせてもらうことにした。
水の中からだと幼く見えたが、もう少し実年齢は高いようで十五、六ぐらいのようだ。人間にしては珍しく、白色の丸い瞳、少しとがった耳、冷たい月のように輝く銀の髪。背も女にしては高い。体躯は枝のように細く、龍の姿で握ればポキリと折ることができそうだ。人間に見えたが、どちらかというとエルフに似ている。エルフも一人しか知らず、ひと眠りする前のことだったからもう生きてはいないだろうが、身体的な特徴はほぼ同じだった。
ようやく現実に理解が追い付いてきたようで、少女の瞳に生気が戻ってくる。それに気を取られていたせいか――頬を思い切り火の玉が直撃した。
「ひっ人のファーストキス勝手に奪わないでくださいっ!」
「なんだそんなことで雑に魔力を使うな。大体そこらの妖魔ならともかく、私レベルの水龍に火の魔術が効くと思ってるのか。せめて雷を使え、落ちこぼれなのか?」
「これでもエルフとの半血種なのよ! 魔力だけは……」
人間とエルフか。どうりで幼い顔立ちになるわけだ。本人的には睨みつけているようだが、ややたれ目なせいか凄みがでない。
「魔力はあるが、扱えない。そんなところか」
むしろ虐めたくなる表情だ。言葉が図星だったようで、視線を泳がせているのも面白い。
「それで、なぜここへ来た。訳もなく歌いに来たわけではないだろう。望みはなんだ、魔力か、富か?」
「……えっとその……ただ来ただけというか」
「大きな声でもう一度言ってみよ」
「ただ来ただけです! 何も知らなくて悪かったですね!」
少女は吹っ切れた様子で色々と話し始めた。人間とエルフの間に生まれたが、母親は魔力を持たない人間で、その母親に育てられたこと。十歳の時にその母親が死んだこと。父親と名乗るエルフに連れられ、魔術学校に編入させられたこと。魔力を使わない生活が長かったせいで、幼児が扱う程度の魔力も制御できないこと。
「はーん、つまり魔力を持った子供たちが家で教わってくることを、ただの人間に育てられたから全く知らずにいるわけか。せめて母親が人間の魔術師ならまだしも、完全な人間だから仕方がないと言えば仕方がないが」
「……それで学校ではいじめられていて。どうしようもなくなっちゃって、夜中にふらふら歩いてたらここに着いたんです。泣ければいいやって思ったんですけど、すごく静かだから久しぶりに歌ってみようかなって」
話し終えた少女の目尻は、少し赤かった。
「あんまりにも成績悪いし、魔力も使いこなせないし。来月の試験に落ちたら退学なんです。父親とは打ち解けられないし、居場所もないからもう死んでもいいかなって。落ちようとしたらあなたが現れてもう滅茶苦茶」
人間との関わりは少なかったが、少女の悲痛な面持ちは伝わってきた。もとより龍族は相手の感情を読むのにも長けている。種族が違っても、それは変わらなかった。
「龍族の中でも、私のように古の時代から生きるものは魔力もけた違いに大きくてだな。気まぐれで気に入った者の望みを叶える代わりに、代償としてその輩が最も大切にしているものを奪うことにしている。どうだ、偶然の産物だが、お前の時間を私にくれてみないか。その魔力は使いこなさず腐らせるには勿体ない。私が直々に鍛えてやろう。古の龍の誇りにかけて、魔術師にしてやる。今のお前は、時間が一番惜しいはずだ」
少女はほんの僅かに躊躇っていたが、こくりと頷く。
「少女よ、名はなんという?」
「リラ。リラ・ファラン」
小さな手を握り、手の甲に紋様を描いていく。描き終えると青い光を放って見えなくなった。
「これで契約は完了だ。これから毎晩、ここに来い。三週間もあれば学校で習う程度のことは全てマスターさせてやるわ」
見立て通り、一度魔力の道筋を作ってやれば簡単だった。二週間前までは制御できなかったのが嘘のように、高度な魔術も扱いこなしている。リラは炎を使った術が得意なようで、今も無数の火矢を湖へと飛ばしている最中だった。
ふと、別の気配を感じた。反対側の湖畔から、何者かが魔力を探っている気配だった。感づかれたことに気がついたのか、気配がふっと消える。ずいぶん前に滅ぼされたと思っていたが、気配は魔族のものに似ていた。
「さて、今夜で契約は終わるとしよう。もう二度とここへは来るな」
「どうして? あと一週間残っているじゃない」
少女だと思っていたが、ふたを開けると生意気な小娘であった。不服そうに火の玉を身体の周りで飛ばしている。
「私のように膨大な魔力を持つと他の魔術師に感知されやすいのだ。普段は水が魔力を隠す壁となるが、こうも長く、毎夜地上にいては流石に気づかれる。人間やエルフの輩なら構わんが、魔族の気配でな。昔に滅ぼしたと思っていたが、そうでもないらしい。近いうちに、望みを無理やりにでも叶えようと、ここへ来るだろう。リラを巻き込むわけにはいかないからな。もちろん、その前に別の場所へ移動するつもりだが」
「ふうん。意外と優しいのね。授業で習った龍族はもっと自分勝手だったわ」
この少女と別れるのが惜しかった、とは言えなかった。知識を与えれば与えるほど、貪欲に吸収し我がものとする才能を無駄にするところだったのだ。龍の独占欲が刺激される格好の材料となっていた。
「じゃ、さよなら。またどこかで会ったときは続き、教えてね」
彼女も何かを察していた節はあったのだろう。すんなりと元の生活へと帰っていく。
でも、ただで手放すのが惜しくて惜しくて、どうしても、契約の紋様を消すことが自分にはできなかった。
綺麗な白銀の満月だった。移動しようと水面に浮かんだ自分を待っていたのは、魔族の大群だった。ざっと見て、二百ほどいるだろうか。そこまで大きな湖ではなかったため、そのぐらいの数が揃えば結界で湖畔をぐるりと囲われてしまっていた。
「ギシシ! 飼いならシて俺たちのしもべにシてやる」
「ほう? 滅びたと思っていたが」
「生き残ったのサ。そシてお前らが寝てる間に元通り。ほら、懐かシいお仲間だ」
鎖で繋がれた黄金の龍が現れた。辺りに響く猛々しい咆哮。雷龍ファフニール。古の龍の一体で、空から降りてくることは滅多になかったはず。
「気になるダろー! お前みたいに契約シて現れたとコろをぐるりと囲って、あとはちょちょイと操るだけ! 簡単すギて馬鹿になっちゃウ」
ケタケタギシシ。品のない笑い声が大きな騒めきとなって広がる。どこか一点を崩し、そこから逃げる以外に方法はないように思えた。リラがいた、あの小高い丘が一番手薄なはず。そこへ向け、まずは巨大な水の塊を投げつけた――。
「ギシシ! やレ! やレ!」
一斉に緑色の矢、風属性の攻撃が仕掛けられてくる。一体からの攻撃なら何も問題ないが、こうも数が多いとじわじわ削られる。さらに雷龍が魔力を貸しているようで、攻撃が当たったところに電流のビリビリとした痛みが走り、体力をどんどん奪っていく。負けじと濡れた地面を凍らせ、氷塊を魔族に突き刺していくが多勢に無勢。突破する前に肉体の限界が来ることが予測できた。
鎖に繋がれ、操られた旧友をちらりと見やる。気高い龍族の誇りはそこになく、暗く濁った瞳は何も映さない。こうなりたくはない。きっと、同じように戦い、瀕死の状態で抵抗することもできなかったのだろう。
攻撃と防御の手を止め、魔力を一点に集中させる。
「ギシシ! 降参シろ!」
魔族の集団がいきり立つ。降参ではない。元の姿には二度と戻れないが、自らを封印してしまえば手出しはできなくなる。他の古龍が狙われるのも時間の問題だろう。自分が魔族の手に落ちないことで、抵抗の余地は大きくなる。魔力で作り上げた結晶に意識を移そうとしたとき、魔族のものとは違う声が聞こえてきた。
るりら、らりら。
「うグぁ?」
魔力を込めた歌声が湖に広がっていく。魔族の作り上げた結界がみるみる消えていくのが分かった。魔術が発動できないのか、彼らは一斉に退却してしまった。
小高い丘にリラが立って歌っている。
るりら、らりら。
歌い終わった後も、その余韻はずっと残っていた。
「ボロボロじゃない。そんなんじゃ、続き、教えてもらえないじゃん」
「まさかこんな大勢いるとは思わなくてな。当に滅びたと思っていたし、ファフニールが手中に落ちているとは思わなかった。肉体は捨てるしかないが、意識は残せる。契約を消していなかったのが幸いしたな」
白銀の鱗も、翼も、月のようで気に入っていたのに残念だ。鱗には赤黒い血液がこびり付き、翼も破れて肉と骨がはみ出している。意識を結晶に移した瞬間、肉体が光となって弾け飛んだ。
恐らく、リラは目が眩んだことだろう。ゆっくりと漂い、彼女の手のひらに収まった。
「綺麗……乳白色なのに透き通っていて、宝石みたい」
『私の魔力の結晶さ。魔力が大きいほど、大きく美しい宝石に姿を変える。契約しているお前なら、いつでも魔力を供給してやる』
「そっか、意識だけになっちゃったから、直接話せないんだ。なんか不思議だね」
ふふふ、と笑って、少女は湖から踵を返す。新月の頃のような大人しい少女も、魔族の気配もどこにもない。
ただ、満月の冷たい光が少女の後ろ姿を照らしていた。
*
睡眠不足の時にタイトルと結末を考えるのはやめた方がいい。
今回の教訓です。
Re: 徒然なるままに――。 ( No.395 )
- 日時: 2018/01/16 20:59
- 名前: 黒崎加奈◆KANA.Iz1Fk (ID: /BTWE/1E)
*編集後記てきなやつ。
周りの人間がディストピアとか現実的というか、そんな小説を提出する中に、ハイファンタジーを投げつけたら評価がどうなるか気になってしまったのがそもそもの始まり。めっちゃ後悔した。
元々君夢や移花といい魔法とか能力とか、所謂ハイファンタジーやSFに分類されるような小説を書いたことが無かったので、設定を作るのも難しかったというか。あとは短編として纏めるのが難しい。長編のスピンオフとしての短編なら、設定とかそっち読んでねで、テキトーに書いても何とかはなるけど、完全に独立したファンタジーとしての短編だとどうしても情報が限られる。
今回は字数が4000字以内だったから尚更なんだよなぁ。まぁ100文字ぐらいオーバーしたんだけど。
長編なら少女視点に変更して、この話の直後から書き始めるんだろうなー。首締めるの分かってるんでやらないけど。
そんな感じ。
Re: 徒然なるままに――。*Girls by Lady* ( No.396 )
- 日時: 2018/01/31 10:22
- 名前: 黒崎加奈◆KANA.Iz1Fk (ID: Ix.XskY2)
歳をとる度に思うわけです。いつまで少女でいられるのだろうかと。
内面は少女としていられても、外見はどんどん老いていく。
そんな悲しい自己矛盾の狭間で揺れている。
いつまでも少女じゃいられないのにね。
間に合うかしら。
そんな感じ。
Re: 徒然なるままに――。*人魚姫は詩片を* ( No.397 )
- 日時: 2018/02/19 22:37
- 名前: 黒崎加奈◆KANA.Iz1Fk (ID: Vbsc2S9E)
きっと、人魚姫は声を失うときに泣いていたのです。
さようなら、大好きだった言の葉の響き。こぽりと溢れるのは、もうただの泡。
こぽり、こぽり。
失くした音は、いつか記憶からも失くしてしまうのでしょう。
どうして私は人魚として生まれたの?
海なんて、大嫌い。
*
色々逃げたい。やることも終わらないし何もできないね。
でも結局、与えられたことに甘えてたら何にもならないのよね。怠惰な自分が嫌になる。
私には創作のモチベとか意味とか全くなくて、ただなんとなく自分を表現する手段として使ってるだけなんです。
私はまともに何かできる人間じゃないし、考え方も、物事の捉え方も周りと合わない。一番「普通」に縛られているのは、案外、私なのかもしれません。
人と違うことをしなくちゃと焦って、人の顔色を見ながら生きて、私の存在意義が見えなくて、
結局、他人の目を気にしないと生きられない。
自分で何か創り出すことは、たぶん私にとっては嫌いなものでもあるんです。創り出したら「他人」の目に触れるから。でも私が公開し続けるのは、それが私を私として認識できる手段だからかなと。
ありったけの私をぶつけられるのが、文章でしかなかったんでしょうね。
文章を書くのが難しくなったのは、私の見ている景色がつまらないものに変わってしまったから。
残念ね、私は人魚姫にもなれないわ。だって私だもの。
Re: 徒然なるままに――。*人魚姫は詩片を* ( No.398 )
- 日時: 2018/03/22 01:43
- 名前: 黒崎加奈◆KANA.Iz1Fk (ID: 9GiZVMwY)
*嗚呼、生き苦しい
私、何もできないの。やらなきゃいけないことは積み上がっているのに、今日も何もしなかった。
何もしなくても求めてくれるのは誰?
何かしないと私に価値なんてないの。ごめんなさい。私みたいな人がいて。
*
心が止まるのと、身体が止まるのは、どちらが幸せなのでしょうか。そんなことを考えながら【幻想乙女世界】は書いていました。
きっと以前なら、迷わず心と答えたはずです。でもどうしてだろう。今感じてる想いを失うと考えると涙が出てきます。
私は多方面にコミュニティを広げている自覚があります。どこかで上手くいかなくなっても、壊れないように。その中の1つにこんなにも依存するとは思ってもみませんでした。
だから他の場所で生きづらくなるとすぐに逃げこんでしまう。いつか、飽きれられて捨てられてしまうのではないかと怯えながら。
乙女の美しさは永遠ではありません。若さと情欲を知らないが故の無垢さが生み出す、ほんの僅かな時を、私は乙女だと定義しています。
身体は処女。でも情欲を覚えてしまったら、それは乙女ではないのです。
さようなら、美しき乙女の世界。
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