雑談掲示板
- 水が枯れた暁に……5
- 日時: 2022/11/07 17:27
- 名前: 枯水暁◆ytYskFWcig (ID: MwHi91Vk)
こんばんはございます。親記事編集を怠けに怠けまくった枯水暁です。こんな怠惰の限りを尽くすスレ主ですが皆様のおかげでこのみずかれも5スレ目に到達致しました。本当にありがとうございます。これからもよろしくお願いします。調子に乗っていきます。GOGO!
新規のお客様も大歓迎です。本スレはスレ主の『呟き・雑談・更新報告』を主に行うスレとなります。
↓↓↓ご一読願います↓↓↓
【ルール】
話題は基本なんでもOKです。皆さんで楽しく会話しましょう。誰かに不快な思いをさせる話題やそのおそれのある話題は御遠慮ください。
荒らしさんはスレ主が荒らしと判断した場合全て無視します。ご了承ください。また、荒らしさんが来た場合反応しないでください。
過度のものでなければ自作品の宣伝も大丈夫です。感想交流の出来る人とお近付きになりたいです。
タメでも敬語でもどちらでも大丈夫です。
【お客様】
みょみみょ 様
謎の女剣士 様
ベリー 様
浅葱 游 様
みーいん 様
心 様
緑川蓮 様
唯柚 様
オノロケ 様
げらっち 様
坂蜻蛉 宙露 様
優澄 様
ディゲラ 様
*短編感想交流会のお知らせ【梅雨パーティ】
第五回の短編感想交流会を開催致します。
以下交流会に関するレスを貼ります。
概要 >>1
参加者様>>6
この企画が、皆様の良き出会いのきっかけになりますように。
【終了致しました】
【創作物】
『この馬鹿馬鹿しい世界にも……』【完結】
ダーク・ファンタジー板
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Re: 水が枯れた暁に……5【短編梅雨パーティ】 ( No.3 )
- 日時: 2022/05/25 18:06
- 名前: 謎の女剣士◆7W9NT64xD6 (ID: smKqyKSc)
梅雨パーティ参加
【雨と離れたくない想いと】
ザァー…………
「…………」
何とか今日中の講義は全て終わって、最寄りの駅前でいつものように恋人を待っていた頃だった。
講義が終わるまでは文句なしのいい天気だったのに、何故か帰り際にパラパラと雨が降って来てしまうなんておれは付いていないと確信していたんだ。
あまり帰りが遅いと父さんやラーハルトが心配するし、だからと言って濡れたまま帰るなんて出来ないと悩んでいたその瞬間だった。
左側か右側のどちらかかは分からないけど、こちらに向かって走って来る音が少し遠い方から聞こえて来たんだ!
タタタタタっ……
「ごめんねダイ、随分待たせたでしょ?」
「ううん。大丈夫だよマァム、迎えに来てくれてありがとう!」
走って来た足音の主は、訳あって別の大学に通う事になったおれの大切な恋人・マァム。
おれが傘を忘れたと1番に気づいた彼女は突然、おれの許可なく軽々と抱え始めたんだ。
そんな事をしたら、君が走りづらくなっちゃうよ〜。
やばい、こんな事自体初めてだからおれ……顔全体が赤いかも知れないぞ。
「……? どうしたのダイ、熱でもあるの?」
「熱はない……。でもこの体勢は、流石に良くないよマァム!」
「大丈夫よ。あなたは軽いもの、私が保証するわ!」
「…………。もうっ、そういうとこはおれの母さんにそっくりなんだから!!」
「ふふっ! さあ帰りましょう、バランさんとソアラさんたちが私たちの為に美味しい夕食を作って待っているわよ!」
こんな雨も、たまには悪くないかも知れないや。
最初は雨自体駄目だったけど、おれたちの回りを守ってくれるこの雨はとても優しい。
きっと父さんに料理の腕を仕込んだのは、先生かも知れないなぁ。
おれが嫌だって言ってもアバン先生の意思は固くて、流石に言い返せないよ。
これからの雨も、こういう優しい雨だといいなぁ〜。
はい、お題が梅雨パーティ参加という事で初のダイマメインのお話にして見ました。
これからも、宜しくお願いします。
Re: 水が枯れた暁に……5【短編梅雨パーティ】 ( No.4 )
- 日時: 2022/05/26 00:36
- 名前: ベリー◆mSY4O00yDc (ID: QUANNGwI)
梅雨パーティ参加
【変わらない梅雨と変わり続ける太陽】
ザーザー
そんな無数の水が弾ける音をよそに、俺は頬ずえをつきながら授業を聞いていた。6時限目は古文の授業。先生が何か古文を音読しているようだが俺はそんなものに興味を示さず窓外を見ていた。さっきから変わらない景色。梅雨に入ってから余計この景色は変わらない気がする。まあ、別にそれでも良いんだけどな。
運動、勉強、才能。全てオール平均の俺は今の現状に満足していた。この平穏が無くなるなんて人を爪や指で殺すぐらい嫌だよ。
ところで、こんな平凡な俺でも嫌いなこと、人種ぐらいはある。
「では…ここは真緒(まお)さん!古文を現代語に訳してください。」
「…えっ?!私ですか?!えっとえっとぉー『吾輩はねこで…候?名前は未だないです。いづこ…?いつどこで生ま…生れしやほうとはかりのつかぬ??生まれた方が良かったと計り知れない!』」
これは有名な『吾輩は猫である』を古文にしたものを現代訳するのだ。しかし、この真緒は意味がわからない現代訳をしている。
俺が1番苦手なもの、いや、人は努力をしない人だ。この統治 真緒(トウチ マオ)とかいう奴は、結構なお嬢様できっと何不自由なく育てられたのだろう。そんな環境下で勉強せずに遊び呆けてるなんて怠惰にも程がある。そのため俺は統治 真緒が嫌いだ。
まあ、対面した事が無ければ話したこともない。しかし遠目から見ていると、休み時間はだいたい真緒を中心に人だかりができている。
大した努力もしてないくせになんで俺より幸せそうな顔をしてるんだよ。
何度努力しても平均な俺と違って真緒は生まれつきの環境も人柄もいい。憎い。憎くてたまらない。努力しても平均でしか居られない俺らとは真反対であった。
キーンコーンカーンコーン
「あら、チャイムがなってしまいましたね、本日の授業は終わりです!挨拶をお願いしますー」
先生がそう呼びかけると当番がいつものように礼の挨拶をする。そうして、いつもと変わらない日常の1ページは幕を閉じよう…としていた…
「あ、日直の子!この資料職員室に持って言ってくれないかしら?」
今日の日直は俺だ。めんどくさいからもう1人の日直に頼もうかと思ったが、もう帰っている。俺は仕方なくその資料を持って職員室へ向かった。
俺の教室は1階。職員室は4階である。俺はげんなりしながらもその資料を運んで行ったのだった。
このオンボロ学校にエレベーター等もちろんなく、階段を一段一段地道に上がるしか無い。筋肉もなく、ひょろひょろで体力もやしの俺は少しの運動で汗をかいていた。梅雨に入り湿気が多くなってきたこともあり、余計ジメジメしてイライラする。
職員室へつくと『しつれーしまーす。』と適当な言葉を言い入り、無人の担任の先生の机に資料をドサッと置いてやった。その後は簡単だ。帰ってゲームをやるだけ。ようやく家に帰れるのだと思いながら窓の外をふとみる。古文の授業の時と同じ灰色の雲にバケツをひっくり返したように振る無数の雨。
もしかしたら変わってるかも。そんな淡い期待を持った俺が馬鹿だった。
ーそういえば傘忘れたわー
そんな重大なことでも気にせず何も考えず下駄箱へ向かった。
下駄箱を開けて上履きと外履きを入れ替えて履く。俺が職員室へ資料を持っていっていた間にほとんどの生徒は帰ってしまったらしい。俺も早く帰るか。
そう思いながら出口をでると1人の少女が校庭で踊っていた。
ビショジショな制服なんて気にせず楽しそうに朗らかに水溜まりを踏んで靴下をビショビショにしながらクルクルと舞っていた。
コイツ何やってんだ。関わらないでおこう。
そう思って帰路につこうとする。出口の門が近づけば近づくほど少女の舞いが良く見えてしまう。肩までの赤髪を振りまきながら、全身ビショビショになりながら、それでも構わずに踊り続ける。 それが美しく、暗雲が立ちこめる中太陽のように眩しく見えたため立ち止まってその舞いにいつの間にか見入ってしまった。
雨が降っている。そんなこと気にならないぐらいその舞いは美しかった。
少女は気がつくと俺の元へ走ってくる。よく見たらそいつは統治 真緒だった。俺が嫌いな人物である。嫌いな人物だからと言って関わりたくないという訳でない。逆にこいつの泣き顔を見たい…という方向の嫌いだ。
「君。見てたでしょ!」
「そりゃ門が運動場の前にあるんだから嫌でも目につくだろ。」
俺は、『お前の舞いなんか興味ない』アピールをしながら言ってやった。真緒は『あはは』と苦笑いをする。泣く…学生である俺らは泣くなんてことはほとんどない。だからこいつの泣き顔は期待してないが、苦笑いを見れただけでも十分だ。
「けど君~。途中からずっと私の事見てたよね?」
「なっ…?!」
見られてないと思った。いや、見てなかったら俺の方に近づいて来ないよな。こいつの落ち度を幾らか見つけてぶつけてやろうと思っていたが無理なようだ。
「え〜何何?私の事好きになっちゃった?」
真緒はニヤニヤと笑いながら俺を肘で叩く。こういうからかいも俺は大嫌いである。自分がおもちゃにされてる感覚がどうしても我慢できない。
「お前のことなんて大嫌いだよ。」
「かーらーのぉー?」
「…」
呆れた。俺はそう思い学校の門をくぐり抜けようとする。しかし、真緒はもっとからかいたかったのか着いてくる。
「好きって言っちゃえよぉ?ほらほら!」
俺の体内温度は着実に高くなっていった。こいつを殴ろうとさえ思った。しかし、そうなれば最悪停学処分である。俺は我慢した。我慢した…けれど、少し鬱憤を晴らしてもバチは当たらないかと思った。
「お前のことなんて大っ嫌いなんだよ!」
「なんて言って本当は…」
「うるせぇ!大した努力もしてねぇくせにヘラヘラと笑っておいてよぉ!それに金持ちで友達も沢山?意味わからねぇよ!なにもしてねぇくせに馬鹿面で学校に来んじゃねぇ!」
俺は心の内を全て明かしてやった。真緒は「えっ?」と呟きながら1歩、1歩と後ろへ下がっていく。そんな中無慈悲に振り続ける。前髪から数滴水が流れ落ち目の中に入る。目を擦ると泣いているように見えてしまうため俺は我慢して、眉間に皺を寄せて真緒を見つめた。
真緒は俺の方を真っ直ぐに見つめる。真緒はロングヘアの方に入る部類の髪型である。前髪も整っていていつもサラサラだ。しかし、今は髪はベチャベチャ前髪はぐちゃぐちゃで前髪を伝って目の中に雫が入り、涙のように雨水が真緒の頬を伝う。
「努力をしてないのは。君もそうでしょ。」
真緒がいつも朗らかな明るい声とは違う低い地を這うような声で俺を突き刺す。俺が努力をしていない?ふざけるのも大概にしろ。俺は努力して今にいるんだ。努力して平凡な日々を手に入れてるのだ。
「嫌なことが無い。何も起こらない。日常が素晴らしいと妄信しいつまでも自分を正当化する。」
いつものホンワカとした真緒とは思えない鋭く低い声で俺を何度も何度も突き刺してくる。
嫌なことが無いなんて最高じゃないか。何も起こらないのが最高じゃないのか。
「平凡は最高だ。眉目秀麗よりも底辺よりもデメリットが少なく人と余計に関わらなくて良い。それを努力してようやく俺は手にしたんだ。けど…お前は、お前は…!」
努力しなくても友達がいて、勉強出来なくても金でカバー出来て。妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい……
ー羨ましいー
俺は悔しさで舌を噛みながら鬼の形相で真緒を見つめていた。
俺も、真緒みたいな生活をしたい。真緒みたいに友達に囲まれて、真緒みたいに勉強が出来なくても進学に困らなくて、リア充してるお前になりたくてなりたくて仕方がないんだよッ!
…あれ、俺は平均が至高だったんじゃないのか?努力して手に入れた平凡が最高だったんじゃないのか?
「君は、努力しても平均しか取れない。努力しても報われない。だから自分に言い聞かせてたんじゃない?『平均が至高だと』」
「……」
「分からなくはないよ。平均は幸せ。平均の方が何も無く事を成し遂げられる。」
真緒は何かを噛み締めるかのように、過去を振り返り後悔しているように、悔しそうに一言一言ハッキリといった。
「だけど、そうじゃなかったでしょ」
ポツッポツッ
いつの間にか雨音は俺達の髪から流れる雫の音へと変わっていた。
平均は幸せだ。これは揺るぎない事実である。しかし、それよりも、それよりも。
「キラキラしたいでしょ?赤白 共羽(セキシロ トモバ)君っ。」
その瞬間。太陽の光が俺たちの目を刺激した。一瞬目を瞑ってしまうが、直ぐに真緒を見る。真緒は風を感じながら「してやったり」と笑っていた。
「じゃね!共羽君っ!また明日~!」
そう言って統治 真緒は帰ってしまった。
平均が最高だ。平凡が至高だ。けれど…まあ。
もう少し努力してみるかな。
俺はさっきとは打って変わった晴天の元、帰路についた。
ーーーーーーーーーーー
初参加ですがこれで大丈夫でしょうか…
この後にこの小説の解説など出しても大丈夫ですか?初参加のため粗相のないようにしたいのですが、なにかやらかしてしまったのであれば教えていただければ嬉しいです…
Re: 水が枯れた暁に……5【短編梅雨パーティ】 ( No.5 )
- 日時: 2022/05/26 21:15
- 名前: 謎の女剣士◆7W9NT64xD6 (ID: W0QwuHyk)
梅雨パーティ参加
【降り続く雨と大好きな想い人と】
ゲコゲコっ……… ゲコゲコっ………
「……………」
こんな酷い雨の中を、1匹の蛙が明日への道に向かって鳴いていた。
俺が通う大学を離れる前までは同じ講義を受けていたダイやポップと一緒に、雨の日々などについて語っていたりもしていたけど。
それから暫く後、ダイはマァムと……ポップはレオナと共に先に帰って行ってしまった。
最寄りの駅まではそう遠くないと思っていても、俺1人でそこまで歩く勇気その物がなかったんだ。
ポタポタポタっ………
「アイクさん!!」
「ゼルダ……ッ!!」
「良かった。まだ帰っていらっしゃらなくて、私はてっきりあなたは1人で帰ってしまったのだと勝手に思いこんでしまいましたわ…」
「気にするな。それに俺が先に帰ったら帰ったで絶対に連絡よこすだろ、あんた!」
「ふふっ!!」
そういえば今頃ダイやポップたちも、今の俺たちのように2人きりの時間になっている気がするな。
未だに鳴き続ける蛙の声に耳を傾けながらも、俺たちは日が暮れる前までに朝と同じ方角を歩いていたんだ。
すると今まで冷えてしまったとガタガタ震え出す隣の愛しい恋人を見て、俺はある行動に出た。
ぐいっ………
「……あ、アイクさん……?」
「……。少しだけでいいんだ、小雨になるまであんたを抱き締めさせて欲しい!」
「…………」
「……? ゼルダ……?」
「はい、あなたがそれを心から望むのでしたら……私は喜んで引き受けますわ!」
「……。こんなぶっきらぼうな俺を選んで、後で後悔すんじゃねぇぞ?」
「ふふっ、それはお互い様ですわ♪」
未だに降り続ける強い雨の中で、俺たちは1つの傘を手に取りながらもお互いの体温の温もりを感じ取っていた。
こうして誰の邪魔もなく、ゼルダと2人きりにしてくれたこの天気には感謝しなければならない。
徐々に時間が過ぎていく中で、未だに俺とゼルダがこの状態の中……先に帰っていた筈のダイたちに気付かれたのはそれから数分後の出来事その物だったけどな。
はい、2作目の投稿です。
今回は初のアイゼル編ですが、私自身が最後まで緊張してしまいました。
前回のこちらでの企画ではたったの1作品のみだったので、今回は何とか3作品を描くというノルマ達成を目指したいと思いますので宜しくお願いします。
Re: 水が枯れた暁に……5【短編梅雨パーティ】 ( No.6 )
- 日時: 2022/06/06 18:21
- 名前: 枯水暁◆ytYskFWcig (ID: A2Q7zb1k)
梅雨企画参加者様(敬称略)
みょみみょ >>2
【停滞】
謎の女剣士 >>3
【雨と離れたくない想いと】
ベリー >>4
【変わらない梅雨と変わり続ける太陽】
謎の女剣士 >>5
【降り続く雨と大好きな想い人と】
浅葱 游 >>7
【あまいあめ】
謎の女剣士 >>8
【降り止まない雨と大切な絆と】
みーいん >>9
【それぞれの雨】
枯水暁 >>11
【この地でいきたい】
心 >>12
【月下の魔女】
緑川蓮 >>13
【梅雨が終わるまで】
唯柚 >>16
【梅雨】
オノロケ >>17
【雨と流れて】
投稿され次第ここに掲載致します。
お手数をお掛けしますが、間違い等ありましたらご報告ください。
Re: 水が枯れた暁に……5【短編梅雨パーティ】 ( No.7 )
- 日時: 2022/06/09 06:09
- 名前: 浅葱 游◆jRIrZoOLik (ID: UQ9YTOic)
*梅雨パーティ参加(飛び入り失礼します)
【あまいあめ】
梅雨前線は数日停滞する予想です。近隣の住民の方は雨による土砂災害や、浸水などにも注意してお過ごしください。また、所によってはゲリラ豪雨による水害も起こる可能性がありますから、気をつけてください。それでは、いってらっしゃい!
朝、カーテンを開けても日差しは入らず、厚い雲が下がり、外は薄暗い。目と鼻の先に見えるだだっ広い海からの吹き荒ぶ風が、街路樹を左右に揺する。枝が数本アスファルトに落ちていた。天気予報が終わったら学校へ行こう。そう思っていたけれど、そう思うのは学生として一般的なことなのだけれど、ソファに沈みこんだ体は動きそうもない。
本州よりも遅く訪れる、梅雨と呼んで良いのか分からない雨の日々。この地域には梅雨がない。どれだけ強い雨が降ろうとその雨が水害をもたらそうとも、梅雨のせいで、なんて強がりを言うことすら許されていないのだ。梅雨入り速報にも無縁で、その後発表される梅雨明け宣言も遠い他人の話。
ソファに沈んだまま、ぐしゃぐしゃのブランケットに身を包み、天気予報後のニュースを流し見る。その全てが、私には関係の無い話題だった。怨恨による殺人、若者にお金を騙し取られたおばあちゃん、梅雨が明けた地域では夏が訪れて、大粒の雨に打たれるサラリーマンの群れ。モノトーン色の傘の花々に時折混ざる鮮やかな花が、皆一様に駅を目指して進んでいた。
「行きたくないなぁ、学校なんて」
行かないといけないのだ、学校には。テレビ画面の左上、時刻が五十五分になったら家を出よう。タイムリミットが少しずつ近づく。ああ、行きたくない。雨が降っていること、風が強いこと。また、あの子に会わなくちゃいけないこと。
「時刻は五十五分になりました。ここからは地元、札幌のスイーツ特しゅ」
華やかな衣装のアナウンサーの笑顔に嫌気が差し、テレビを消す。私がこんなにも陰鬱とした気持ちでいることも知らないで。仕方なく体を起こし、昨日には準備し終えたリュックに腕を通して、事前に防水スプレーを噴霧していたスニーカーを履く。
普段よりも随分近くに降りてきた雲は、ジャンプして手を伸ばせば届いてしまうんじゃないか。雲に掴まって、そのまま風に吹かれて、私を遠くに運んでくれやしないだろうか。
ありえない空想ばかりが浮かんで、消えて。ドアノブに手をかけ、大きく息を吸い込む。行かなくてはならないから、それだけの使命感で外へ踏み出す。
「うわ」
レインコートを着てくるべきだったかもしれない。制服のせいで防御力の低い足下はびしょぬれ。傘を差すが風に煽られるせいで、から傘オバケのように歩くしかない。そうしたところで無駄ではあるのだけれど、少しだけでもこの雨風に抵抗する。
足下を見ながら歩けばいったいどこから出てきたのか問いたいほどのイトミミズが、久々の雨に喜んでいた。中には踏み潰されたかわいそうな個体もいる。踏んでしまわないようにつま先立ちをして、早く安全地帯に、と学校を目指す。早く学校に着いてしまいたい。独特な雨のにおい。私の嫌いなものだ。
「おはよう、芽衣(メイ)。来ないかと思ったよ」
「おはよ。私も来たくなかったよ」
濡れたソックスが上履きの中で蒸れる不快感。かたい生地のセーラー服も湿り、言い難い気持ち悪さがある。不機嫌さを隠せず、リュックを置いた机が大きく音を立てた。瞬間的に静まった教室内は、またすぐ、さざ波のように騒がしくなり始める。そんな様子を友人の間中三郷(マナカ ミサト)が笑う。彼女は快活で、カラッと笑う。私が口に出す世の中の不平不満も、気まぐれな愚痴も、全て笑ってくれる。
同調せず、共感せず、後腐れもないようなあっさりした関係を築くことができる彼女は、本当に同じ中学生なのだろうかと疑問に感じることもある。けれど確かに彼女は、私と同じ市立緑陵中学校の三年生。小学校から一緒に過ごしてきた三郷は、間違いなく同級生だった。アイドルとジャニーズが好きな、かわいい人。
挨拶を交わしたあと、彼女は別のクラスメイトと談笑する。ああ、なんてまばゆい人だろう。
国語の先生が朗読している間も、数学の問題を解き、保健体育で男子がひそひそ話をしている時も、その片隅に雨音がいた。和気藹々と過ごすことができていた給食の時間は、黙食が始まったことで自宅と変わらない寂しい時間になった。味のしない食事をどうにか飲みこみ、残った時間は頬杖をついて外を眺めるしか、やることがない。
ただ、黙食を、と言われながらも、小さな囁き声は聞こえてくる。中には三郷の声があり、私の耳は雨音よりもしっかりとその声を拾っていた。三郷は友達をつくる才能をもっていた。解消されない不快さが残る幼心が、三郷の笑い声に刺激され、劣情でじとじとと湿り気を帯びていく。
午後の授業はひとつも集中できないまま、放課のチャイムが鳴った。
「芽衣、一緒に帰ろ〜」
「うん。また濡れるの嫌だね」
「ふふ。もう今年も雨の時季だもんね。今日もあたしの家来るでしょ? お母さん迎えに来てくれてるはずだから、乗ってって」
誘われるがまま、まだ湿ったスニーカーに履き替える。風は朝よりも落ち着いたようで、満開に咲いた色とりどりの花が校門に向かって進む。その群れにならって傘を差す。安っぽいビニール傘の私とは違い、三郷は大きなマーガレットが描かれた淡い水色の傘を広げた。
「あの車だよ」
靴が水溜まりに入り、水滴が跳ねる。きゃあ。楽しそうな声を上げて、三郷の母が運転する車に向かう。大きくてきれいな黒いワゴン車。私たちを見て自動で開いた扉からは、優しい柑橘系の香りがした。助手席に座った三郷が手櫛で髪を梳けば、嫌いな雨の隙間から石鹸の香りが広がった。
三郷の家は私の家からそう遠くない位置にある。専業主婦をしている三郷の母は、いつでも温かい作り立ての食事を私に振舞ってくれた。学校での出来事を楽しそうに話す三郷は、本当に家族に愛されているのだろう。三郷が両親と話す時に見せる笑顔は、アルバムの中で幼い私が浮かべていた笑みと変わりなかった。
「芽衣ちゃんのご両親もお仕事大変そうね。我が家でよければ、もうひとつの実家くらいの気持ちで過ごしてね」
「……ありがとうございます」
スカートがしわになりそうな程、強く握る。それはきっと他愛のない心配りだったのだろうけれど、迷惑だと言外に滲んでいるように感じられた。ごめんなさい、帰ってこない両親を家で待たなくて。きっと週に何度も遊びに来て、夜遅くまで居座る子供は不健全だろうし、何より家族の生活を邪魔する迷惑なものに他ならないはずだ。頭ではそう理解できるけれど、誘ってくれる三郷の優しさにつけこみたい。そんな弱さにすがっている。
いつも通り整頓された、かわいらしいパステルピンクと白を基調としたメルヘンな部屋。部屋の中央に置かれたピンク色のクッションの上が、私の定位置だった。三郷は私を気にせずに制服を脱ぐ。無駄な脂肪のない、日焼けを知らない白い肌。まだ幼子のように家族愛に守られた彼女には似合わない、レースがあしらわれた紺色のブラジャー。発育途上の小ぶりな胸を守るそれが、男を意識しているようで、淫猥に見えた。
「かわいいね、その下着」
男を誑かすことを目的としているようで、私は嫌いだけど。
「そうでしょ! 芽衣なら分かってくれると思ったんだよね〜! もう高校生にもなるんだからってお母さんと選んだんだ。芽衣に似合いそうなかわいいのもたくさんあったよ」
「ふうん、いいな。お母さんと行ったんだね」
「さすがにお父さんとは行けないからね。ね、高校入ってバイトしてさ、一緒にお揃いの下着とか買おうよ。ねっ?」
「うん、そうだね」
嫌味のない笑顔が私を見る。ちゃんと笑えていただろうか。学校では聞き役が多いせいか、三郷は言葉の泉からたくさんの話題を出し始める。私はそれを聞いて、時折「そうだね」「大変だったね」と愛想笑いを浮かべるのに徹した。
三郷のように心から楽しそうに笑って話を聞くだけの愛嬌はなく、気の利いた一言をかけられるわけでもなかった。一日の会話は三郷と三郷の両親とで、ほとんどが終わってしまう。自宅での会話は最低限のものばかり。最後に学校の話をしたのはいつだったか、思い出す方が難しい。
それからしばらく三郷の話を聞き、三郷の母が作った料理を食べる。給食と一緒で、いつも味がしない。小料理店を営むことができそうなほど見た目も彩やかな料理だけれど、母が置いてくれるウィンナーと目玉焼きに勝るものはなかった。お腹は満ちていくのに、深い無力感にも似た虚無は心を空っぽにしていく。
それでも美味しい美味しいと笑顔で食事を摂る三郷を見習い、満面の笑みを浮かべて見せた。満足そうな三郷の母の姿に、ばれないように息を吐く。失礼な子だと思われないように、空っぽの心がばれないように、がんじがらめの戒めで守る。そうしないと幸せな光景に心が壊れてしまいそうだった。
食後、母からの連絡を待つ時間を、三郷の部屋で過ごす。父は夜遅くまで働いているせいで、ここ数日見ていない。母と少しは会えるけれど、疲れた顔に、私の話を聞いてほしいなど言えるはずもなかった。それでも、明日は一緒に過ごせるだろうか。
「そうだ、明日もくる? 何しよっか明日は」
時刻は既に二十時を超えた。三郷にとって、今日という日はもう終わるのだろう。私にとってはまだ終わらない夜だけれど。
「明日かぁ。お母さん早く帰ってきてくれると思うんだよね」
「あっ、明日誕生日だもんね」
私の誕生日を覚えていてくれたことに、少しだけ心が温まる。誕生日かぁ、いいなぁ。ベッドに座りクッションを抱えた三郷は、体を左右に揺らす。私はぎこちない笑顔を隠すことができなかった。誕生日なんていいものじゃないよと、三郷には言えなかった。三郷の気持ちを、私なんかが無碍にしてはいけない。
「駅の近くにできたケーキ屋さん美味しかったから、芽衣ママにお願いしてみたら? すごいんだよ、クリームふわっふわで、すっごく甘くて美味しいの」
三郷からのプレゼンテーションに耳を傾け、何度か頷く。多忙な両親も私が産まれた日くらいは少し早く帰ってきて、一緒に食卓を囲み、おやすみを言い合って――なんてきっと無理だろうけれど。
時計が二十時半を過ぎた頃、母から連絡が来たと階下から声がした。大好きな親友から解放される。胸に充満した重たい空気を絞り出すために、大きく深呼吸をした。夜道は危ないからと送ってくれた三郷の母に頭を下げ、真っ暗な自宅へ戻る。雨はいっそう勢いを強くし、時折遠くで雷鳴が響いた。
玄関扉を施錠し、まっすぐ向かった脱衣所で制服を脱ぐ。湿気でベタつく肌が嫌で、シャワーを浴びたくて仕方がなかった。
浴室の鏡に晒された私の肢体は、三郷のようなしなやかなものではなく、むっちりとして幼児を彷彿とさせる。ぽこんと出た下腹部と、スポーツブラで間に合う小さな胸。せめて女の子らしくありたいと伸ばした黒髪。そのどれもがアンバランスで、三郷との違いに苦しさすら感じた。
もっとかわいければ両親は帰ってきてくれるのだろうか。いや、そんなことはないだろうな。目を閉じて髪を洗う。
留守番を任されるようになったのは、小学二年生頃からだった。初めは、怖さもあったが、何より頼られる嬉しさと使命感に突き動かされていたのを覚えている。けれど少しずつ両親のいない時間が増え、家庭よりも仕事を優先したいだけだったのだと気が付いた。
私だって三郷のように甘えたい。家にいて話を聞いてほしい。仕事よりも大切な存在だと抱きしめてほしい。両親と過ごした最後の誕生日は、一体いつの事だったか。私の誕生日を覚えてくれているのかさえ、私には分からない。
「なにが、ケーキをお願いしたら、よ」
良いよね、買ってもらえる子は。良いよね、家に親がいて、愛されて、優先されているのだから。
汚い感情が、深く底の見えない悲しさを伴って私の中身を満たしていく。温かなシャワーは、溢れた涙を隠すことしかできなかった。
よれよれの半袖に、小学生の頃から愛用しているショートパンツを履き、ソファに座る。時刻はもう、帰ってきて一時間以上経過していた。テーブルに置いていた連絡用のスマートフォンには、早くても二十三時になりそうと両親からメッセージが入っている。
ゴオ、とひときわ強い風が吹く。窓に叩きつけられる雨粒が、心細さを強めていく。きっとこの風に乗って遠くを目指しても、私は途中で落ちてしまう。この世界で私は負け組なんだ、愛された三郷と違って。道端の木の枝、潰れたイトミミズ、そのどれもが私と一緒だ。
冷えたブランケットを肩にかける。部屋の電気を付けないままで、目を閉じて、雨音に耳を傾ける。ああどうか。どうかこの心細さも、三郷への劣情も、雨が溶かして流してくれますように。
Re: 水が枯れた暁に……5【短編梅雨パーティ】 ( No.8 )
- 日時: 2022/06/04 16:22
- 名前: 謎の女剣士◆7W9NT64xD6 (ID: m4dweSh.)
梅雨パーティ参加
【降り止まない雨と大切な絆と】
パサッ………
「ねえポップ兄ちゃん、帰りに僕たちの家寄って行かない?」
「ばーか。そうしたいのは山々なんだけど、今はどうするか決め兼ねてんだよ!」
「…。残念だなぁ、今日は僕の兄ちゃんがいつも以上に張り切ってんだけどなぁ〜……」
「……………」
最低だよな俺ァ、折角の子リンクからのお誘いを断るなんて男として最悪だぞ。
そういやぁ姫さんも今日はゼルダの姫さん家で泊まりがけの勉強会やるって、講義終わる間際に連絡が来てたんだよなぁ。
どの道家に帰っても、ダイの奴もマァムと一緒にルイージ先生とマリオ先生の家に泊まるって言ってたっけ。
……気持ち的には子リンクの誘いに乗りたいとこだが、こん時ァどうしたらいいんだよ畜生!!
ピロピロピロ……
「…。何でタイミングよく掛けてくんだよ、ヒュンケル!」
『その声はポップか、事の状況はマルスから聞かせて貰ったぞ! 滅多にない友人からの貴重な誘いを断るとはどういうつもりだ?』
「うっせぇ。いつまでも勝てねぇてめぇ何かによ、俺の何が分かるってんだよ!!💢💢💢💢💢」
『全く…。そうやってムキになるから、周りの事に気付かないんじゃないのか?』
「うぐっ………」
『ふっ。少しでも俺に勝てる自信があるならまずは、子リンからの誘いを素直に受け入れる事だぞポップ!』
「…。悔しいけど分かったよ、まあ…素直になれなかった俺も悪かったしよ…」
『それでいい。但しポップ、引き受けたからには自分自身を見つめ直す事を第1に考えろよ。それ自身でさえ出来なければ、いつまで経ってもオレには勝てんぞ?』
「だ〜。やっぱ前言撤回だ、ほんっとにテメェって奴はマジでムカつくなくそっ!!💢💢💢💢💢」
『おっと。そろそろ切るぞ、先程からマルスに呼ばれているのでな!』
「ふっざけんな! そんなら二度と電話寄越すんじゃねぇよ、畜生!!💢💢💢」
あ〜、マジで腹立つ野郎だ。
確かに今の俺自身を見つめ直すのも大事だけどよ、完全にあの野郎にKOされちまってる事に気づいちまったじゃねぇかよ畜生!!
…あ〜悪ィ、決して子リンクに苛立ってんじゃねぇから安心しろよ。
なんて言いながらも子リンクの奴は、未だにビクビクしながら俺を見ているけどな。
「あのさ、さっきのお誘いだけど…付き合うぜ!」
「本当? 本当に来てくれるの?」
「ああ。今まで変な理由で断っちまってごめんな、こんな雨の日に伺いたくない理由なんて最初からねぇしよ!」
「やった〜! やっと来てくれるようになったんだね!」
「こ〜ら。駄目だよ子リンクくん、あまり走ると転んじゃうよ?」
「あっ……、それもそうだね8勇者くん! ごめんごめん♪」
俺もこんな頃とか、あった気が済んだわ。
初めてデルムリン島に先生と来た時なんてよ、最初から諦めモード全開だったもんなぁ。
今度のテストで追試になるのが嫌だからとは言え、俺自身が現実逃避するなんてカッコ悪いぜ。
それを阻止する為に、こうして一緒にいてくれる大切な友達の家で試験勉強をするって言うのもたまにはいいもんだよな。
そうじゃないとさっきの電話で言ってたあの野郎の言葉を1つずつ思い出す事になっちまうから、そこだけは何としてでも自力で阻止するしかねぇんだよなぁ。
その晴れない俺自身のモヤモヤは、未だに降り止まないこの雨の中をずっと彷徨っているかも知れない。
はい、3作目の投稿としてメインはポップ+子リンク+DQ8勇者くんです。
ちなみに電話口での参加のみとなったヒュンケルは友情出演ですけど、何故か素直に受け入れないのがポップ自身としてのプライドです。
期間が迫っていたのであまりほのぼのっぽくない展開になってしまいましたが、何とか間に合って良かったです。
それでは、宜しくお願いしますね。
感想期間になったら、他の皆さんのお話を上手く述べれるように努力しようと思います。
Re: 水が枯れた暁に……5【短編梅雨パーティ】 ( No.9 )
- 日時: 2022/06/05 20:39
- 名前: みーいん (ID: NjA06ch6)
梅雨パーティー参加
それぞれの雨
「ああもう!今日も雨⁉やんなるわね・・・。」
カーテンを開けたアスカは、もはやお決まりのセリフを吐き、湿気が嫌だの髪の毛のセットが大変になるだのグチグチ言いながら、朝の準備を始めた。
「しょうがないだろ、梅雨だし。でもセカンドインパクト前よりはマシらしいよ。」
シンジは顔はアスカに向けたものの、体は台所で洗い物をしたまま器用にアスカをなだめた。流石主夫。だが、その言葉にはどこかとげがあった。
「ま、人それぞれだもんねぇ。」
アスカもため息をつきながら言うが、その言葉には少し影がかかっていた。
アスカの場合
2004年。ユーロ支部にとある少女が呼ばれていた。
「惣流・アスカ・ラングレー。貴方を汎用人型決戦兵器人造人間エヴァンゲリオン正規実用型(先行量産型)弐号機のパイロットに任命する。」
アスカは支部長からの通告を静かに聞いていた。
「以上だ。出たまえ。」
「はい。わかりました。」
アスカは部屋を出たとたん、廊下を走り、支部病院のキョウコのいる病棟へと急いだ。
「ママ!私パイロットになれたわよ!人類を守るエリートパイロットなのよ!!」
アスカはキョウコの部屋を開け、勢い良く報告した。
が、キョウコは反応を示さず、身動きを取らなかった。
「ママ・・・?」
キョウコは自分だと思い込んでいる人形と心中していた。
外の雨がまるで自分の心に突き刺さるようだった。
シンジの場合
シンジは第三新東京市をさまよっていた。
nervから逃げて二日目。雨が降っているが、そんなものはシンジに関係なかった。
道が続いていない。どこかの峠に来たようだ。シンジはさくを乗り越え、座り込んだ。
峠から見える兵装ビル。神社と初号機が削ってしまった丘。こないだのことを思い出す。
シンジは目をつぶり、静かに泣いていた。
雨はひどくなるばかり。さすがのシンジも移動を始めた。
気づけば、トンネルの中にいた。何とか雨はしのげるが気持ちは晴れない。そして後ろには諜報部の影。抵抗してもつれていかれるだけ。もういいよ。
「・・・ミサトさんの所に連れて行ってください・・・。」
シンジは苦し紛れに言った。
二人の脳内にはそれぞれの雨が思い浮かんでいた。
終わり
Re: 水が枯れた暁に……5【短編梅雨パーティ】 ( No.10 )
- 日時: 2022/06/05 14:31
- 名前: 枯水暁◆ytYskFWcig (ID: 81QlFga2)
>>9
みーいんさん初めまして。短編投稿ありがとうございます。細かいことを言ってしまい申し訳ありませんが、企画参加の場合>>1のルールにありますように、タイトルの上に『梅雨パーティ参加』の表記をお願いします。
Re: 水が枯れた暁に……5【短編梅雨パーティ】 ( No.11 )
- 日時: 2022/06/05 14:48
- 名前: 枯水暁◆ytYskFWcig (ID: 81QlFga2)
『梅雨パーティ参加』
【この地にいきたい】
空が泣いている、なんて、そんなことはあるはずないだろう。神の涙、なんて、そんなことはありえないだろう。そんなことを考えた奴は、頭がおかしいのでは無いだろうか。比喩だとか例え話だとか空想話だとか、そんなことはわかっている。本気でそう考えている奴なんていないだろう。それはわかっている。だけどそれでも、どうしても、考えてしまう。そう思ってしまう。馬鹿だと、感じてしまう。
雨なんてただの天気だ。快晴ならば空は笑っているのか? 曇りなら不機嫌なのか? 雪なら寂しがっているのかな。台風なら怒っているんだろう。だけどそんな表現はあまり見ない。快晴と台風くらいなら見かけるけど、わざわざ曇天に注目する人なんて少ない。私だってそうだ。曇りよりは晴れが好き。晴れよりも、雨が好き。
神の涙なんて、それこそもってのほかだ。烏滸がましいにも程がある。涙を流すということは神には目があると言うのか。神が人間と同じ姿をしていると言うのか。何故人間が神の模造品と考える? 何故人間が特別だと思う? 確かに人間は明らかに他の生物とは違う。知性があり、感情があり、表情がある。だけどそれだけだ。人間は特別でも何でもない。神の涙ということは神も人間と同じ感情を抱くのだと考えているということか? そうなんだろう。馬鹿馬鹿しい。愚かしい。
私はバスから降りた。特に意味もなく安物のビニール傘を差す。石でも投げつけられているような衝撃が傘から手に伝わる。どうやら私は雨に嫌われているらしい。そんなに激しく私を打たなくたって、すぐにこの場から立ち去るのに。
傘から垂れた水滴が、風に乗って袖に当たる。ほら、傘を差すことに意味は無い。傘を差していないと変だと見られるから、差しているだけ。傘を差すだけで、私はこの場所に、沢山の人々が歩くこの大通りに溶け込む。どうしてだろう。ああ、考える必要なんて無いんだった。足元はもう水に濡れてぐちゃぐちゃだ。雨は大地に触れたその瞬間から雨という名を剥奪される。ただの水に成り果てる。だけどその水は、私達が生きるために必要不可欠な命の水。傍にあることが当然であるあまり気づけないだけの、私達を支える重要な柱。
しばらく歩いて、車が通る隙なんてない、人々で埋め尽くされた大きな交差点が目に入った。ちょっとだけ顔を顰めて、けれど足は止めずにその中へ。雨は靴底の辺りまで満ちている。高いヒールは好きじゃない。背伸びするのは、好きじゃない。梅雨の息苦しさと二酸化炭素の息苦しさに、ああ、生きているんだと実感する。雨と風の冷たさに、いま私がここにいるんだと実感する。息苦しい。だけどこれは、嫌いじゃない。道行く彼等と肩や傘が当たって通りにくい。ああ、いきづらい。改めてそう感じた。
交差点を抜けて、人通りが少ない方へと進む。いくら都会と言えど、全ての道に人が詰まっている訳では無い。大通りもあれば小道もある。店が軒並み並んでいる道、――墓地へと向かう道。
よく考えたら、こんな天気の日にお墓参りに来るなんて、おかしいだろうか。でも、今日はあなたの命日だもの。そう。あの日も確か、雨が降っていた。
私は墓地の入口付近で借りた手桶と柄杓を置いて、墓石の前で手を合わせ、掃除を始めた。まずは布で墓石を拭う。墓石は小さくはないけど大きくもない。さほど時間はかからない。それに、掃除をしなくても墓石はそれなりに綺麗だった。
水の入った手桶から、柄杓で水を掬い、墓石に雨を降らせた。私の雨は空の雨に飲み込まれた。それでも私の雨は、確かに存在する。
それも一通り終えると、肩にかけた鞄から供え物を取り出した。活き活きとした花は既に水鉢に入っている。私が備える花は、それとは真逆の枯れた花。水を失った、涸れた花。あなたは私が趣味で作っていたドライフラワーを好きだと言っていた。綺麗な顔で、美しいと笑っていた。久しぶりに作ったこれを、墓前に置いた。
神が完全だとすれば、花も獣も人間も、不完全だ。生きた花も、枯れた花も、全て等しく不完全で不格好で普通で美しい。特別でないからこそ私達はこの世界に生まれ、惹かれ、そして還っていくんだろう。そうして巡っていくんだろう。雨が水と成り、また雨となるように。特別であることに意味はない。人は神には成り得ない。その必要が無い。人間は不完全であるからこそ、特別でないからこそ、これほどまでに美しいのだから、この世界を美しいと感じられるのだから。感情は空には持ち得ない。涙は神には持ち得ない。不完全な私達だからこそ持ち得る美しいもの。私達はこれらを抱えて生きていく。決して捨てることは許されない、特別な権利。
私は線香をあげ、合掌した。地中で眠るあなたに向けた言葉を思い浮かべながら、目を伏せて、息を閉じた。
ああ、いきぐるしい。
だけどそれが、心地良い。
Re: 水が枯れた暁に……5【短編梅雨パーティ】 ( No.12 )
- 日時: 2022/06/09 18:49
- 名前: 心◆sjk4CWI3ws (ID: ErumoK3A)
梅雨パーティ参加させていただきます……!
『月下の魔女』
青いその瞳の奥に、儚(くら)く溶ける色が滲むのを遣る瀬なく思った。そんなこちらの気持ちを見透かしたみたいに、彼女と目が合ってしまう。窓を叩く雨の音が、次第に大きくなっていく。
息が止まる、逃げ出したくなる、しかし少女はそれを許さないだろう。ましてや、己にそんなことができるはずがない。
「何見てるの、玲ちゃん」
ふわ、と小さな欠伸を伴って、何事もなかったかのように問いかけがおちる。肩口よりも少し上で切り落とされた黒髪が、どこか濡れた輝きを帯びて揺れては静止した。
ふっ、と相対する少女もまた目を伏せた。
「……なんでもないですよ、月花様」
まるで男性のように短く切られた髪と、少女特有の硬質な高さを帯びた声。それらふたつが絶妙なバランスで混じり合って、ある種倒錯的な魅力が宿っていた。細く切れ上がったかたちのよい瞳に、少し憂鬱げな色が載る。
そっと、テーブルの上においた手を横へ滑らせた。ごくごく淡い水色に塗られた爪が、硬い石のテーブルの上を擦る。
「でもわたしは、恨まずにはいられませんね。……だって貴女のその才能は、母君から継がれたものでしょう」
だって、こんなにも囚われてしまう。そう喉の奥に留めた一文を、しかし月花は見透かしたように手を伸ばした。玲の華奢な手に、月花の病的なまでの白さを帯びたそれが重なる。
白皙を誤魔化すかのように淡い桃色に塗られた爪が、窓から差し込む光に煌めいた。
「ふふ、お母様にだって人並みの幸せは許されてしかるべきよ。──結婚してこどもを産むことが、必ずしも幸せとは限らないけれど──、あんなにお母様は笑って逝けたのだもの。きっと幸せだったと思うわ」
こんこん、と月花はテーブルを叩いた。
「そこにわたくしたちが異を唱えられるはずもないじゃない。───それにね、わたくしは感謝しているの」
窓を叩く雨が、一層の強さを増す。
彼女は、そう言うだけ言って、ふわりと立ち上がった。玲と月花がふたりだけで住む、広大な屋敷。その一角の部屋から、月花は出ていこうとする。
ゆっくりあとを追いかけて、玲もまた扉を開けた。だだっ広い玄関ホールに月花の影が踊っている。次第に強さを増す雨の音が、明確に響いていた。じわり、湿気が玲の肌を蝕む。下へと続く階段は、どこか濡れているような気がして、滑らないように気をつけなければと思ったのも束の間。
外へと続く大扉に手をかけた月花が、唐突に振り返った。
「だって貴女はもう、あたしのこと忘れられないでしょ?」
それは笑顔だった。この国を背負う魔女ではなくて、ただの齢十八の少女だった。惹きつけられるように足を止めて、玲は息を呑む。ずっとずっと、美しい笑顔だった。
階段の踊り場に立ってホールを見下ろす玲を、じっと見上げて。月花は、己の体を抱いた。かくりと非対称に折れる体が、どこまでも玲の目を釘付ける。
「それはきっと、お母様から頂いたこの魔力故だものね」
優れた魔女は美しい。身体の均整が取れていて、白い肌と艶めいた髪を持っている。それはどうやら体内の魔力故らしい。それで幾人が魔女の虜になっただろう。そして彼女らは、ただ美しいだけではないのだ。
正しく魔性の女ということか、と玲は嘆息した。
「ええ。……月花様は美しい。そして魔法の才もある。わたしはずっと、囚えられて目を離せないのですよ」
素直な告白に、月花はすこし照れたように微笑んだ。その無邪気さに、また一段と玲は引き込まれてしまう。
「あたしや玲ちゃん、国のみんながお母様を忘れなかったのと同じように、あたしのこともきっとみんな忘れないわ。だったら、全部価値はあったもの」
きらり、と月花の瞳の奥に光が宿った。突き抜ける青色が、かつてない輝きを帯びる。それをひとは覚悟と呼ぶことを、そのとき玲は悟った。
そして、扉が開かれる。
はっ、と我に返った彼女が、慌てて階段を駆け下りた。
「待って、待ってよ月花……! わたしを置いていくな、つきか!!」
半ば怒鳴るようにして、彼女もまた大扉から外へ飛び出す。雨が強く打ち付けるのにも構わず、月花の後を追って走り出した。
薔薇園の迷路を折れていく。きっと月花が向かう先はわかっていて、だからか彼女も玲のことを撒くつもりなど端からないようだった。
「なんで、もう終わりなのか? わたしがずっと月花の隣にいるから、いやだ、わたしのことひとりにしないで、つきか……ッ」
走りながら、まるで希うように俯いて、玲はそう呟いていた。
「いつか散る花に願いなんて通用しないの、玲ちゃん。……ずっとわかってたでしょう?」
どこからか取り出した箒で、低空を緩やかに航りながら。当代一の魔女は言う。長いローブが風に舞って、水を吸って邪魔になったのか、ロングブーツが脱ぎ捨てられた。
曰く、魔女は梅雨の季節に散る。薔薇が春の終わりに咲いて、梅雨の雨で枯れるように。
月花の母、【蓮華の魔女】と呼ばれた彼女もまた、ちょうど十年前のこの時期に亡くなっていた。それはどうしようもなく変えられない運命であって規律だったから、玲もそれを受け入れているはず。しかし、こんなにも。こんなにも、狂おしい。
この世界の神を相手取る勇気が湧いてくるほどには、玲は月花に魅せられていた。
「わたしの役目はもう終わりだもの。──継承は神が勝手にやってくれるから、もうあとは散るのみかな」
ただ、きっと月花はそれを許さないだろう。ただ生きろと呪うだけ。まだ雨は降りしきっている。
玲の瞳の先で、ゆっくりと箒が高度を下げた。薔薇園を抜けて少し先にあるところ、それは小さな丘だった。濡れた雑草が素足を叩くのも構わずに、月花はその上に降り立っている。
少し遅れて玲がそこにたどり着けば、ふわりとくずおれるように月花は彼女に体を預けた。すとり、玲がそのまま地面に座れば、二人して身体を濡らしながら目を合わせる。
半ばお姫様抱っこのような体勢で抱え込まれた月花は、もう殆ど目を開けていなかった。
「ねえ、玲ちゃん。わたし、ずっと恋をしていたわ」
丘の上、それは墓地だった。幾代もの魔女がその命を散らしてきた場所。その身体に巡る魔力故、短命の彼女らを看取ってきた墓場だった。
簡素な白い石に名前を彫り込んだだけの、母の墓標に手を触れて、月花は微笑む。滑り落ちる雨は、ただ二人の身体を冷やしていくのみ。
しかしそれを差し置いても、月花の手は冷たすぎた。彼女の手を取った玲が、思わずそれを強く握り込んでしまうくらいに。
「わたしもだよ、月花。ずっときみは、わたしだけの魔女様だった」
ぱきり。彼女の華奢な手に、罅が広がっていく。まるで陶磁器が割れるみたいに、一切の血すら溢さず砕けていくのだ。
風にさらわれては消えていく。
かすかに玲が息を呑んだ。身体のうちを巡る魔力の、その強大な内圧に耐えきれなくなって、身体が崩壊しようとしているのだ。そんなことが分かっても、それを止められる術など持ち合わせていない。
ふふ、とかすかに吐息をこぼすように笑った月花は、満足げに目を閉じた。海に攫われる砂みたいに、彼女の身体は風と雨に溶けていく。服がぱさりと地面に落ちて空洞を知らせ、髪がゆるやかにその質量を失っていった。
ああ、とひそかに声が落ちていた。
散り際すらもこんなに美しいのなら、これを見る者が己だけで良かったと、そう思ってしまったから。ずっと毎年梅雨を恐れて、こんなにもどす黒くて流してしまいたい感情に囚われたのは初めてだった。
独占欲と名のつくものが渦巻いては、完全にかかる重さを失った腕による喪失感が上塗りされる。
「さようなら、【月下の魔女】。……ばいばい、月花」
玲がそう、曇天へ向けて声をかける。幼馴染であり自分の主であり、そして神様だった彼女へ。
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