雑談掲示板
- 第十一回SS大会 お題「無」 結果発表
- 日時: 2014/02/27 20:57
- 名前: 風死(元風猫 ◆GaDW7qeIec
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs/index.cgi?mode=view&no=16247
第十一回SS大会 お題「無」
>>523に第十一回大会結果紹介
始めましての方は、初めまして! お久し振りの方達はお久しぶり♪
何番煎じだよとか主が一番分っているので言わないで(汗
余りに批判が強ければ、削除依頼しますので!
題名の通りSSを掲載しあう感じです。
一大会毎にお題を主(風猫)が決めますので皆様は御題にそったSSを投稿して下さい♪
基本的に文字数制限などはなしで小説の投稿の期間は、お題発表から大体一ヶ月とさせて貰います♪
そして、それからニ週間位投票期間を設けたいと思います。
なお、SSには夫々、題名を付けて下さい。題名は、他の人のと被らないように注意ください。
投票について変更させて貰います。
気に入った作品を三つ選んで題名でも作者名でも良いので書いて下さい♪
それだけでOKです^^
では、沢山の作品待ってます!
宜しくお願いします。
意味がわからないという方は、私にお聞き願います♪
尚、主も時々、投稿すると思います。
最後に、他者の評価に、波風を立てたりしないように!
~今迄の質問に対する答え~
・文字数は特に決まっていません。
三百文字とかの短い文章でも物語の体をなしていればOKです。
また、二万とか三万位とかの長さの文章でもOKですよ^^
・評価のときは、自分の小説には原則投票しないで下さい。
・一大会で一人がエントリーできるのは一作品だけです。書き直しとか物語を完全に書き直すとかはOKですよ?
――――連絡欄――――
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_____報告
第四回大会より投票の仕方を変えました。改めて宜しくお願いします。
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Re: 第九回SS大会 お題「白」 投稿期間 1/21~2/21 ( No.432 )
- 日時: 2013/02/23 13:27
- 名前: Lithics◆19eH5K.uE6
- 参照: http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Claude_Monet_011.jpg
○○
目を覚ますと、私は一人だった。
あぁ、長い夢を見ていたのだ、と。
凍えるほどに冷たい風が眠気を覚まし、その奇妙に冴えた頭で、私はあっさりと現実を受け入れた。酷い夢だったのか、懐かしい夢というべきか。それとも幸せな、良い夢だったと、そう思える日が来るだろうか。
「なぁ……居ないのか」
横たわる地面の冷たさが、季節が秋の終わりであることを思い出させてくれる。木立の葉が落ち、金木犀の薫りが漂う庭は意味もなく寂しげで。それは季節のせいにしておく方が良いのだと、私はそう自分を納得させることにした。
日は落ちかけて、空の端は深い群青に沈んでいる。この光が死んでいく時間は美的ではあるけれど、私は好きではなかった。だからこそ、かつては必ず妻がこうなる前に起こしてくれたのだった。だが、その優しさは既に無い。無いのだ。
軋むドアを押して、暗いアトリエに入る。
イーゼルに掛けられたカンパスは白く、穴のように夜に浮かんでいる。絵筆は乾き、生けられた花は見る影もなく干からびていた。それは一年前、彼女が生けた向日葵の花。夏を思わせる鮮やかな黄が、脳裏にはしっかりと残っている。
「あぁ……」
そして、アトリエの奥に掛けられた一枚の絵を目にした途端、私の全身から力が抜けてしまった。日傘を差す女性と、その息子の絵。美しい絵であり、幸せな絵だ。それは『オスカル』という画家が描いた、その生涯の最高傑作だろう。私には絵の中からこちらを見つめる女性と、それを描いた男の心情が手に取るように分かった。
そこには初夏の光が満ちていて、日傘のもたらすもの以外に影などない。なのにどうして……こんなに、儚げな風が吹いているのか。なぜ、ふと目を離せば光の下から居なくなってしまうような危うさを孕んでいるのか。描かれた当時、その絵は幸福そのものでしかなかったはず。だが、もしも時とともに絵の意味も変わるとするならば、その魔的な芸術は到底私の手に負えるものではないと思った。
「オスカル、さん?」
「……!」
不意に背中へと掛けられた呼びかけに、私は背筋の凍る思いをした。
振り返ってみれば、アトリエの入り口に立っていたのは……今や見慣れてしまった女性の姿。かつての友が破産し蒸発して以来、彼女はこの家で暮らしていた。
「ごめんなさい、急に声を掛けて。でも、何だか御気分が優れないように見えましたので」
落ち着いた声。それは私の良く知っている声とは違うけれど、『オスカル』という響きは胸に突き刺さるような感覚がして。私は心配して歩み寄ってくるアリスを目で制して、軽く首を振った。
「いや、大丈夫だ。アリス、大丈夫だよ。ただ、いつも言っているだろう、その……」
「……ごめんなさい、クロードさん」
「ありがとう。さぁ、そろそろ夕飯だろう? 後で行くから、子供たちを頼むよ」
はい、と返事をして素直にアトリエを出ていくアリス。その背中が、私を非難しているように思えた。許してほしいとは思わない。謝ることもしまい。だが、あの名前は否応なしに『彼女』を思い出させる。だから、私はそれを封印することに決めたのだ。オスカルという名前と、彼がかつて誓った絵画のポリシーを。
「そう、決めたんだよ、アリス」
哀れな女だと思った。美しい人でもあった。亡き妻を重ねることなく、彼女を愛することは出来るだろう。そうする事をカミーユは望むだろうし、その道でしか、再び幸せを得ることは出来ないと判っていた。だからこそ、カミーユの面影は絵の中にしかあってはならなかったのだ。
窓の外に白い月が昇っていた。
しばし、その美しさに息を呑む。世界がこんなにも美しいのは、私たち人間が見ているからではないのだろう。悲しくても嬉しくても、幸せでもそうでなくても世界は輝いているのだから。
それが判った今、画家である私が描くべきものは一つだけ。
かつて愛しいものを描いた結果が、この胸を掻き毟らねば治まらない痛みならば。この永遠に残る愛の面影ならば。私はそれを繰り返すべきではないと思う。それは、思い出と共に移ろい老いていく自らの心に留めるからこそ、きっと美しく在るのだ、と。
芳しい夕餉の薫りが空腹を誘い、にぎやかなアリスの連れ子たちとジャンの声が私の心を慰めた。さぁ、私も食卓へ行こう。そして其処に幸せの欠片があるなら、私は笑っていなければならない――
最後に。
『光の画家』の名に恥じぬよう、クロード・モネとして誓う。
この先、決して長くはない生涯において。私が描くのは、この限りなく美しい世界の風景だけであると。
(了)
○あとがき、解説
こんばんは。
ぎりぎりになってしまいましたが、拙筆の作を投稿させて頂きました。一枚の絵をモチーフにした実験作で、モネを主人公に据えた物語はすべてフィクションです。参照の先はクロード・モネの「散歩、日傘を差す女性」が載っています。
クロード・モネはフランス印象派の画家であり、「光の画家」と生前から高く評価された人物です。ファーストネームのオスカルと呼ばれることを嫌い、ほとんど使わなかったことが知られています。妻のカミーユ夫人は「日傘」が描かれた4年後に病死。故に、この作品に漂う不思議な雰囲気を文章化できないかということで、これを書いてみた次第です。なにが「白」であるかは、筆者からは特定しないものとします(苦笑
では、これが少しでも読んでくれた方の心に残りますように。
Re: 第九回SS大会 お題「白」 投稿期間延長 3/6まで ( No.436 )
- 日時: 2013/02/25 18:13
- 名前: 澪#mikana
( 純白のワンピースの少女 )
僕はその夏を母方の実家の田舎へ過ごすことになった。理由はよくある話だ。両親が離婚間近。原因は父親の浮気で。くだらなさすぎて反吐(へど)が出る。人間。愛しても愛されても、本当は誰一人独占なんかできやしないのだ。それに気付かない母や母にうんざりして浮気したけど隠すことができなかった父も皆、くだらない。噂に敏感ですぐ広まる田舎町もくだらない。この世全てくだらないと僕は思ってる。名前だって深山直(みやま なお)って。素直になるように、と名づけられたが自分で言うのは気が引けるけど、ひねくれた性格だし。
唯一の救いは海辺にあることだ。僕は昔から海だけは好きだった。そして海を愛しているといっても過言でない。人間は嫌いだけど海は別だった。海はクールで落ち着いていて愚かな人間を殺してくれるし恵んでもくれるから。白い砂浜、群青色の澄んだ海。砂浜で靴に砂が入るけど気にならなかった。青く澄んで遠くまで見渡せないくらい広い海。僕はじっ……と佇む。
「良い気持ち」
海風も潮の香りが素敵だ。暑いのにさわやかな空、海、風、純白の砂浜。
「ここに住むのも悪くないな」
噂話や人々の密接な関係には閉口するけど。まあ、海さえあれば耐えれるか。都会も田舎も皆、くだらないし。――ただ、優しく朗らかな祖父母は僕でも好きだ。両親と大違い。ってか、母さんがあの祖父母に生まれた自体、奇跡的かも。母さんは田舎が大嫌いで方言は京都や大阪以外、忌み嫌っている。
絶対にあの祖父母を上京させまいとしてあれこれと気を揉む姿は醜かった。田舎は僕も大嫌いだが、祖父母だけは別、海の次に大好きだ。父方の祖父母はさっさと死ねって感じなのに。何だこの雲泥の差は。
くだらないことで気を揉むのはやめよ。とにかく海を楽しむんだ。僕はふと、横を振り返った。遥か彼方に微笑んでるらしき純白のワンピースを着た少女が。同い年そうで田舎にはありえないくらい垢抜けた美女って感じ。……ていうか、今時純白のワンピースかよ。……でも、あの子ならありだ。
―――僕と同じく田舎へ遊びに来てるの?
―――いいえ。ここが私のふるさとよ。
彼女は都会の雌豚共(めすぶたども)が喋る、幼稚で馬鹿っぽい言葉遣いじゃなかった。そこが僕の心に何かを訴えた。そう、何かを。
―――僕は直。
―――よろしくね。……ごめんなさい、また後でね。
と言って彼女の姿がだんだん見えなくなっていった。でも、どうして彼女は、もっと近くに寄らないのか。疑問はあったけど物騒な時代だから仕方ないか、と僕は少し落胆した。他人を簡単に信じない僕があの子をあっさりと信じかけてることに気付いて。
「馬鹿馬鹿しい……。」
なんとなく胸が痛んだ。
おじいちゃんとおばあちゃんの家は純日本家屋だ。もともと僕は洋風より和風が大好きだから、両親が離婚しても母親についていく気でいる。父親はどーでも良いって感じ。高校卒業後、ここに移住しよ。ヒステリックで傲慢な卑しい雌豚――母さんは嫌がるだろうが、僕の人生だから文句は言わせない。地域の過疎化にも貢献するし。母さんみたいのが日本をだめにするんだ、と恥ずかしくなった。ちなみに今、縁側で西瓜(すいか)を食べてる。スーパーより美味すぎる。
おじいちゃんとおばあちゃん二人は近所で死んだ僕と同い年の女の子の話をしていて、海辺のあの子を思い出した。……あの子はもしかして死んだ子も海が好きで弔いに来てたのだろうか。だとしたら今時珍しい子だ。僕は昔気質(むかしかたぎ)の人間だから、こうみえても。
「おばあちゃん、僕、海に行くね」
「……えっ、ああ……そうかい……海へは泳がないでおくれ」
「どうして? ああ、……海水パンツ、忘れたからか……」
おばあちゃん達は口ごもったままだった。仕方ない。忘れた僕が悪いんだしね。家を出て海に通じる小道を歩く。舗装されておらず、逆に癒されるなあ。ふと、近所で死んだ女の子がどうして死んだのか気になった。どうせ赤の他人で自分とは縁のゆかりもないんだ。気にすることないか。――しかし、何でおばあちゃんたちは海に行くことを喜ばなかったんだろ。
―――こんにちわ。
海が見えたころ、すれ違いざまに優しげでおおらかな漁業を営む田舎者の姿した近所のおばあさんが挨拶した。僕も一応挨拶する。田舎は案外フレンドリーだから、悪い面も歩けど嫌いになりきれてない僕。案の定、おばあさんは世間話を始めた。
「海へ行ってもいいけど泳がんほうがいい」
「……どうして、ですか?」
「……ああ。直くんは知らなかったねぇ」
近所で亜里沙という女の子が海で溺れ死んだそうだ。それは事故で仕方ない。海はそういう面もあるんだ。大して怖くなかった。――おばあさんは言うに、この地方では海の溺死者が出た場合、弔いのために泳がない決まりなんだと。泳いでしまうと溺死者が侮辱したと怒り狂うと。天罰が下ると。本当はあんまり海へ行かないほうが安らかに旅立つんだと。僕は迷信が嫌いじゃないので。
「泳ぎませんよ、水着ありませんし」
「そうかい、そうかい。気をつけるんだよ」
そう言っておばあさんはどこかへ行った。それでも、僕は海が好きだったので白い砂浜の待つ海に着いた。……と、またあの純白のワンピースの少女がいた。あの子も迷信を知ってるはずなのに。しかも、また遠くにいるし。そんなに僕が信用できないのか?
―――ねえ、何してるの?
―――海を見ているのよ。
―――奇遇だ。僕は海が大好きだ。
―――素敵ね。あたしもよ。
―――へえ、そうなんだ。……そういえば、名前は?
彼女めがけて大声で質した。いったん黙ったあと、少女はやはり微笑んで。
―――亜里沙よ
立っているのが、やっとだった。
解説&挨拶。
初参加かつ割り込みみたいな形ですみません。澪(みお)と申します。
皆さん、よろしくお願いしますね。
ちなみに主人公はどうなったかは、皆さんのご想像にお任せしますね(殴
ぐだぐだでオチがバッレバレの稚拙な作ですが、もしよろしければ暇潰しに、と。
Re: 第九回SS大会 お題「白」 投稿期間延長 3/6まで ( No.437 )
- 日時: 2013/03/14 03:33
- 名前: 遮犬◆ZdfFLHq5Yk
『白い残像』
目が覚めると、そこは僕の知らない風景だった。
白い霧が目の前を覆っており、よく目を凝らしたところで何物も見えない。ただ、そこには不思議な雰囲気と、どこか体が宇宙の彼方に浮かんでいるような感覚、あるいは錯覚に陥っていた。
まもなくして、体が無意識の内に動いていることを知る。とはいっても、過剰な動きはせずにゆっくりと手が白い霧の中を掻き分けていた。両手で、その先は何も見えないというのに、無意識の内に手を動かしているように。体験したことこそないが、まるで自らが幽体離脱したかのように、別次元を浮遊しているような気分なのだ。
どこにいるのだろう、と考えてみれば、思い当たることがある。この感覚は、前にもどこかで味わったような、そんな気がした。それはいつの頃だったかといえば、よく思い出せない。
と、そこでこれは夢なのだと分かった。現実では有り得ない、とそういう風に頭が"断定した"からだ。
しかし、おかしなものだと思った。
いつもの夢ならば、僕は夢の中で考えることが出来ない。ついでにいうと、夢の内容を忘れてしまう。どこかで体験したような出来事を、夢は勝手に写してくれるだけで、覚えているも何も脳にインプットされているものを映し出しているに過ぎないのだから、元々記憶のどこかに欠片があるのだ。
だが、今回は違う。夢の中で考え事が出来ている。この状況が、どことなく理解出来ているのだ。そう、先ほどこれは夢だと断定できたように。
そんな出来事は、初めてのことだった。今まで15年間ほども生きてきたというのに、今まで一度も味わったことのない不思議な体験がまさに今起きているのだ。
もしかして、これが現実だとすれば、一体自分は何をしているのだろうか。そして、この白い霧は一体何なのだと考えた。
もうすぐ高校生になる自分。しかし、白い霧の中に囲まれた自分が今ここにいる。そして、手でそれを必死に掻き分けていた。
そんな中で、思い返したのはある出来事。
目の前には優しそうな笑みを浮かべる女性がいる。僕を見つめて、手を差し伸ばし、僕はそれを握り締める。そして、歩き出すのだ。
まるで夢のような、そんな感覚を僕は覚えていた。確かに記憶の片隅として存在しているのだ。しかし、白い霧は未だに眼前に広がっている。
そうだ、そうだった。僕は、幼い頃に母親がいたのだと今更思い返す。優しそうな笑みを浮かべて、そっと僕に笑いかけるその女性は、僕の母親だったのだ。
けれど、あぁ、そうか。父さんもいたんだった。母さんは、そこにはいたのか、いないのか。そんなことは忘れてしまったけど、どうしてか覚えているのは母さんの残像だけ。白い霧は眼前で大きく広がりを見せている。何度もそれを掻き分ける、掻き分ける――が、何も変わらない。霧は更に広がりを見せていく。
「これは、何だ」
白い残像が眼に映る。それは何の光景か、白い霧の中に薄っすらと見えた妊婦の姿。あぁ、あれは僕の母親なのだろうか。そして、あの腹の中にいるのは僕なのだろうか。違うような気がしてきた。あれは、僕の母親であって僕ではない。
不思議と見つめる僕は、誰に何を気兼ねすることもなく、その妊婦の方へと歩み寄る。だんだんと感覚が近づいてくる気がした。足で地面を踏むにも力が入る。僕は、ゆっくりとその残像へと近づいていた。
そこに映るのは、僕の父親。嬉しそうな笑顔を浮かべて、妊婦の腹を擦っている。それは僕なのか、否か。分からないが、ただそれは僕の父さんなのではないかという確信のない不安が過ぎていく。どれだけ速く歩いても、そこには辿り着けない。その不安が加速していく。
何だ、この違和感は。気付いた時には、僕はその白い残像の正体がどことなく分かっているような気がした。ただ一つ、この残像が見せてくれたものは、僕の母親は、僕の父親は――――
あぁ、父さん。嬉しそうな笑顔を浮かべて、"その女"の腹を擦っているけれど、それは本当に"僕"なのかい?
白い霧が消えていく。延々と続いた白昼夢がようやく終わりを迎えた。
父親はいない。僕にとって、親は母親だけだったんだよ。父さん、僕は、捨てられたのかい?
「どうなんだよ、父さん」
墓石を前にして、手を合わせた僕はそう呟く。父さんの記憶はまるでない。ただ、事実として僕の父さんだったということの話。ただそれだけのことで、それ以上でも以下でもなかった。
覚えのない、妄想の記憶。奥底にあるはずだと思わなければ、どうにもならないものがある。母さんは今頃、向こうで元気にしているだろうか。
今度こそ、母さんと元気に仲良くやっているだろうか。
「良かったね、母さん。大丈夫だよ、ちゃんと復讐を果たしたら、今度こそ、次こそは――家族みんなで暮らそう」
ここに父親はいない。いるのは、死んでしまった僕の母親と、生まれるはずだった大切な命。それは、一番身近な男に奪われた命だった。
僕は既に、何者でもない。ただ、目の前を過ぎる白い残像を生気のない瞳で後を追う。
血のついたナイフが、僕の懐から姿を見せていた。
【END】
~あとがき~
前回に引き続いて、今回も参加させていただきましたっ。
テスト勉強合間にやっちまった……。ごめんなさい、無性に何か書きたくなる時ってあるんですよね……。やっちゃいけないって分かっていても書きたくなっちゃうっていう……。
白、あんまり関係ないやんって思いますよね、ぶっちゃけ書き終わった後勢いでこんなことになって後悔してます、すみません……。
何となく、白い残像の正体が分かったかなぁ……と思いますが、人それぞれによってまた残像の正体は異なるような気がしないでもないです;
とにかく、主人公どうしてこうなった、みたいなのが書きたかったので……反省してます、すみませんっ。
長文、失礼いたしましたっ。
Re: 第九回SS大会 お題「白」 投稿期間延長 3/6まで ( No.438 )
- 日時: 2013/03/02 14:24
- 名前: アビス
~~失って気付く事~~
どれだけ膨大な知識を詰め込もうが、俺には全く意味がない。
どれだけ素晴らしい恋愛を摘もうが、俺には一切響かない。
俺には記憶が無い、感情が無い。あるのは記録だけ。
目の前で起きたことをただ日記のようにし、頭の中に刻み込むだけ。
刻んだ事は忘れないが、その記録を頼りに人とコミュニケーションをとっても、
こんなの対話を可能にしたロボットと変わりはしない。
俺の頭はあの日から今日までの全てのシーンが刻み込まれてる。
それでも俺の頭は空っぽ。どれだけ脳に景色を刻み込もうが俺の心は微動だにしない。
俺の頭も・・・・・・心も・・・・・・・身体もすべて・・・・・・・
真っ白だ
――――――――――――――――――――
超記憶症候群。医者やどこかの研究員のやつらを俺の『これ』をそう呼んでいた。
日常のありとあらゆる出来事を1秒も漏らさず記憶してしまう症状。
似たのでサヴァン症候群もあるが、これは有る一つの分野で発揮する限定的な症状。
これにかかると脳内が記憶でひしめき合い、結果俺は同時に感情鈍麻にもかかった。
だが俺はそんなことしったこっちゃない。感情が無いんだ。
辞書で読んだツライとかカナシイなんて感情は一切湧いてこない。
これはいわゆるラクと言うやつか、それともムナシイと言うやつか。人間の感情というのは難しいな。
そんな俺でも今少し世間一般的に言うコマッテルことがある。
おそらくこの状況はそれに当てはまると思う。それは・・・・・・・・
「おい!涼真。何時まで呆っとしてんだよ!早く学校に行くぞ」
俺の名を呼び、凄い勢いで腕をつかみ引きずる様にして俺を運ぶこの女の名前は・・・・・確か・・・・・
「ああ、そうだ。美雪・・・・・という名前だったな」
「いい加減幼馴染の名前ぐらい覚えろ!」
「莫大な名称から、お前の顔と一致した名を探し当てるのはクロウするんだぞ?」
「一生そうやって名前当てゲームでもしてろ」
美雪は口角を上げ、そう言葉を返してくる。
俺がこの症状になってからというもの、今まで俺と関わってきた奴等の対応は明らかに違うものになった。
だがこの幼馴染、美雪は、今までも変わらずに俺に話しかけてくる。そしてこれも
「どうでもいいが、人の腕を直ぐ引っ張る癖直せ」
俺は美雪の腕を振り払い先に歩き始める。それに合わせ美雪を速度を合わせて顔を覗き込んできた。
「照れてるのか?可愛いやつだのぉ~~~」
―ボカッ!―
「いっ~~~~た~~~~!!か弱い女の子をグーで殴る!?」
「ウルサイ。以前の俺ならそう言ってお前を殴ってたと思ってな。同じ事してみただけだ」
「以前も今も同じ俺でしょーーーー!!って待てーーーーー!!」
美雪の腕を引っ張る癖。これは俺が幼少のころからずっと変わらない。
こうなるまではもうなんとも思って無かったが、何も感じなくなった今になって
この癖が俺の中で妙な感覚となって襲ってくるようになった。
この感覚が一体なんなのかよく分からない。ウレシイのかハズカシイのかイヤなのか。
何も感じない俺が唯一感じる美雪の癖。これが一体何なのか分かれば、感情も蘇る日が来るのかもしれないが、
掴まれると無性に引き剥がしたくなるから、もしかしたら知るのがコワイのかもしれないな。
―キキィーーーー!!ズカンッ!!!―
感情が蘇っても前と同じ生活を続けることなんて出来ないだろう。
周りからの視線が耐えられなくなる日が必ずくる。
前の俺はそういうことには特に敏感に感じていたような気がしたんだ。
―ワイワイガヤガヤ!―
もしかしたら俺は今心の奥で、この状態でいることに喜んでいるのかもしれない。
だからそれを思い出させるかもしれない可能性を持つ、美雪の癖は俺のコマリの対象なんだ。
「・・・・・ぁんた」
だからと言って美雪自身がコマルというわけではないと思う。
美雪と話しているだけではあの妙な感覚は襲ってこないのだから。
どうにかして美雪にあの癖だけは直させるようにしなければ。さて、どうすればいいものか・・・・・・
「おいあんた○○高校の生徒だろ!?」
「ん?そうだが」
良い策はないかと考えていると、急に後ろから男性に話しかけられた。
さて、この男性は今まで会ったことのない男性だな。
それに服装から高校は分かるとして、どうしてその名で俺を呼び止めたんだ?
「あんたと同じ制服の生徒が今車に轢かれたぞ!!気付かなかったのか!?」
ああ、先ほどの大きな音はその音だったのか。
そんで男の背後に出来ている人だかりはその野次馬か。ふ~~~~。
「興味ない。俺が残る意味が分からないからな」
俺はとっとと学校に行かなくてはならないんだ。何時までも立ち止まってると
美雪はまた怒鳴られて腕を引かれる。出来ることならそれはコワイからな。
ん?そういや美雪はどこいった?さっきまで俺の後ろを歩いていたと思ったんだが・・・・・・。
そんな事を考えてると、男性が俺の心を読んだのかその答えを返してくれた。
それもとても分かりやすく。
「分からないって・・・・・・あんたさっきまであの子と話してたじゃないか。
一緒に通学してたんじゃないのか!!?」
「!!?」
俺は急いでその野次馬を掻きわけて群衆が見つめる者が目に飛び込んできた。
顔を赤くさせ、足元をふらつかせ、呂律の回らない口調で怒鳴り散らす、明らかな酔っ払いのじじぃ。
その傍で横たわる血塗れの美雪。
「・・・・・・・・・」
ああ、やっぱりな。
こんな光景を見ても俺の心は何も動かない。
―――――――――――――――――――
あれから幾日もたった。
美雪の葬式はあったが、それ以外はなんら変わらない日常。
俺は普段通りの生活に戻る・・・・・・はずだった。
「・・・・・・・・・」
何だ?この胸の絞めつけけられる感覚は。
何だ?この頬を伝う涙は。
そうか。もしかしたらこれが悲しいというやつなのか。
あいつが死んで悲しくて、腕を引っ張るあいつを見る事が出来なくて虚しくて。
あいつと一緒に学校に行く事が出来なくなるのが寂しいんだ
あいつの屈託ない笑顔がもう見れないと思うと辛いんだ。
これが感情だ。これが俺が失っていたものだったんだ。けど、やっぱ思った通りだ。
感情なんて無いままの方が良かったんだ。こんな思いをするぐらいなら無いままの方が良かった。
――――――――――――――――――――
今はもうどんな些細なことでも敏感に反応する。
友達の一緒に笑いあう事も、どんなベタベタ恋愛を摘んでも心を躍らせる事が出来る。
ロボットのような対応ではなく一人の人として、人々と接していくこと出来る。
それでも俺の心は空っぽで・・・・・・・俺の身体は何かを欲して・・・・・
俺の頭は前から変わらず・・・・・・真っ白なままなんだ。
~~あとがき~~
久しぶりの投稿になりました。
最近はリアルが忙しくて、自分の作品で手一杯って感じで全くこっちに来る事が出来ませんでした。
今回は今までほとんどやったことない主人公目線でのナレーションだったので、
若干微妙な言い回しとかになってしまったかもしれせん。
それでも、読んで下されば光栄です。
Re: 第九回SS大会 お題「白」 投稿期間延長 3/6まで ( No.439 )
- 日時: 2013/03/02 17:02
- 名前: 瑚雲◆6leuycUnLw
短すぎる短編。
【彼女のシロい、】
近所に巷で有名な子供がいる。
彼女はいつも何かしら動物を飼っていて、毎日同じ道を散歩していた。
それは犬、猫、兎、亀、鳥……など、何でも散歩させるが好きな女の子。
今日は、一体どんな動物を連れてここへやってくるのだろう。
私は内心期待しながら、公園のベンチに座っていた。
そうして朝方の綺麗な太陽が、昇ってきた頃。
彼女はゆっくりと歩きながら、公園に入ってきた。
(……?)
彼女が連れていたのは、蝶だった。
黒くて小さな蝶の胴に、細い糸が巻きついている。
今にも逃げ出しそうなそれは、ぱたぱたと力なく羽を動かしていた。
私は思わず驚いて、立ち上がった。
「ねぇ……いつも変わった散歩、してるんだね」
「……」
「それ、か……可愛いね」
何を言っても、彼女は反応しそうにない。
仕方がない。私は少しだけ息を吐いた。
「その子……名前なんて言うの?」
少女はやっと、上を見上げる。
彼女は、口を開いた。
「……シロ」
そう、言葉を紡ぐ。
シロ、というのが蝶の名前だと言う。
全体的に真っ黒で、小さく黄色の斑点のある蝶。
それなのに、何故“シロ”と名づけたのだろう?
「シロ……? クロじゃ、なくて?」
「……シロ」
「……どうして?」
この子が他の子供と異なる事くらい分かっていた。
だってそう、無邪気に遊ぶ姿も見た事ない。
ただ動物を連れて歩く姿しか、彼女の印象がない。
根本的に、彼女は子供とは外れている。
彼女は、揺れ動く蝶を見つめて。
「まっしろ、だから」
そう言った。
黒い蝶が、また揺れる。
糸に繋がれたそれが、羽を一生懸命動かして。
「え……?」
「……」
「……」
彼女は歩き出した。
たまに何かにつまずいて、それでもまた。
毎日毎日、同じ道を歩いて。
私はぽかんとしたままそこを動けなかったが、
朝の冷たい風が頬に当たって、ようやくベンチに腰をかけた。
向こうで、黒い蝶に繋いだ糸を掴んで歩く少女の姿が見える。
「ああ……そういう事か」
私は少しだけ息を吐く。
そして彼女に繋がれた黒い蝶の姿を思い出した。
そう、確かにあれは――――――――――真っ白だった。
後に、町の人から聞いた。
彼女の飼う動物には全て、シロと名づけられていた事を。
【あとがき】
短編っていうか短すぎる。
久しぶりに参加させて貰いました、瑚雲です。
皆さんは、意味をお分かり頂けたでしょうか?
でも少し分かり辛かったかもしれませんね……もっと勉強したいです。
今回はきちんと投票するつもりです!
皆さん素敵すぎてなかなか甲乙つけられないのですが……;;←
Re: 第九回SS大会 お題「白」 投稿期間延長 3/6まで ( No.440 )
- 日時: 2013/03/03 06:39
- 名前: 書き述べる◆KJOLUYwg82
どうも、書き述べるです。
この大会に投稿するの、何ヶ月ぶりか。。。。いや一年以上経ってしまってたでしょうか。
本編の続きが全然思い浮かばず、漫然と雑談スレ見てたら、俄かにここに投稿したくなってしまい。。。。
テーマが抽象的だったので、頭の固いわたくしめは、直球勝負で書いてみました(笑)
~ベンチウォーマー~
等間隔に24列の直線状の塹壕が掘られた空間で、右端の塹壕を割り当てられた彼が薄暗い地下から天を仰いだ。狭い塹壕から覗く細長い空は赤茶けていて、数条の濃い茶色の筋雲がその空を横切っていた。
空はどんなに時間がたっても、その姿を変えることはない。だから、空高く掲げられた巨大な時計を見ないかぎり、時の流れを知るすべはなかった。
時間は午後7時50分。そろそろ塹壕に、弧を描いて天より堕ちてくる迫撃砲の防御のための蓋がかぶせられるころだった。
右端の彼が深くため息をついた。
出撃を待ちわびている右端の彼は、再び連続待機日数の記録を更新していた。
戦場は血を血で洗う修羅場と化し、みだりに塹壕から頭を出してはいけないとの指示が出ていた。だが、耳を弄す爆音や人の名前を叫ぶ怒号が飛び交う中、左隣やそのまた隣の友軍が威勢のいい叫び声をあげて飛び出していくの耳にするたびに、右端の彼の焦燥は募っていった。
出撃するたびに彼の仲間は生死の境をさまよいつつもこの塹壕に帰還してきていたのだが、中には出て行ったまま帰って来なかった奴もいた。右端の彼が知る限りでは、帰らぬ身となったものは2名。残された塹壕には人員が補充されることもなく、おびただしい量の粉塵が空洞を占拠していた。
地鳴りのような金属のきしむ音が24本の塹壕に響き渡る。蓋がかぶせられる時刻だ。
金属製のふたは、気の利いた塗装もなく、くすんだ灰色の地のあちこちに汚れが染み付いた年季ものだった。蓋が塹壕を覆い尽くすと、殆ど顔も見たことのない仲間同士で最小限の会話が交わされた。最初はみなじっと押し黙ったまま蓋が開くのを待っていたのだが、数日たったある日、誰ともなく愚痴や不安をこぼし始め、今となっては、蓋が閉められたあとの日課となっていた。
仲間の話では戦地は日増しに混乱が深刻になっているとのことだった。戦場に赴いた仲間は、意味のない突撃を繰り返させられ、激しく消耗していた。どの仲間も初めて出撃したときは、縦横無尽に戦場を駆け回った興奮さめやらず、夜遅くまでうっとうしいくらいに武勇伝を語っていたが、一月(ひとつき)もしないうちに勇気は恐怖へと変わり、右端の彼を除く23名の精鋭の精神を蝕んでいった。亡くなった2名は特に出撃の頻度が高く、一人は爆撃の衝撃波による頭蓋骨陥没、もうひとりは背骨がへし折れ、ともに即死だったという。
出撃経験のない右端の彼は、仲間達のおぞましい話を何度聞いてもそれが自分に降りかかってくるとは到底思えなかった。自分に限ってそんなへまはしない。戦場で目覚しい殊勲をあげ、表彰される。筋金入りの自信家の彼はそんな自分をいつも思い描いていた。
だが、まるで総司令部が彼の存在を知らないかのように、連日彼以外の仲間ばかりが出撃を命じられていた。
何処に問題があるのか、彼は総司令部に直談判を試みようとしたが、隣とまた隣の仲間達に強くとめられた。
戦場を目の当たりにした彼らも、自分達が指揮官であっても、その判断は覆ることはないだろう、と。
右端の彼は塹壕の壁越しに彼らにその理由を聞いた。お互い殆ど顔も知らないのに、どうしてそんなことが言えるのか。
彼らは答えた――。
あんたを一目見ればわかる。
戦場は白い。
キャンバスは白いのだ。
だからあんたは出撃できないのだ。
金属ケースの右端にはまっていた白い色鉛筆の彼は、返す言葉を無くしていた・・・・・・。
~『ベンチウォーマー』完~
くそまじめに書いたのですが、、、何でこうなるんでしょうかねぇ。。。。(溜息)
特によく使われ、天に召された2つの色って、何色だったんでしょうねぇ。筆者も存ぜぬところであります。。。。(ぉぃ)
じゃっ!
Re: 第九回SS大会 お題「白」 投稿期間延長 3/6まで ( No.441 )
- 日時: 2013/03/06 10:14
- 名前: 風死 ◆GaDW7qeIec
- 参照: ゾマリ「私の最高分身数は5人です!」スターク「へぇ、凄いね」グリムジョー「俺なんて精々15人しかできねぇよ」ノイトラ「俺はソニード苦手だから3人だな」スターク「俺、25人が最高だよやべぇよ、少ねぇよ」ゾマリ「…………」
「白の世界で」
何も見えない。
本来なら、周り一面に何もかもを覆い尽くす白の世界が広がっているはずなのだが。
あいにくの猛吹雪で視界は最悪だ。
天候は入念にチェックした。
今日は吹雪くことはないと確信をもたないと、俺達登山家は山登りはしない。
俺も素人じゃないから、天候の調査なんて基本的なことを欠かすことは……
「ははっ、何を言っても言いわけだな。万全に万全を期したつもりでも、世界は常にそれを一笑する権利を持ってる」
涙が出てくる。
流れた涙は、すぐに外気で凍りついた。
登山家と名乗って10年近く。
制覇した山岳の数は、もう数えるのもためらわれるほどさ。
その俺が偉大なる自然の気紛れに嘲笑されている。
何千と体験し、知識を積んで調子に乗っていたのか。
そんな練達した戦士を神は、自然に唾吐く目障りな野郎とでも見たわけだ。
畜生。
腹が立つぜ。
登れない山なんてないとか、思い込んでいた俺自身に。
家族に“雪山は良いぜ、何せ俗世の詰らない色がない”とか格好つけていた俺を。
そんなこと言ってたせいで、家族を手放した。
それでも登りたい挑戦し続けたい、気概に溢れていた過去は遠くに過ぎて。
今や俺は、つまらない名誉欲に突き動かされ山を登る屑だ。
「畜生。こんなところで1人で死ぬのか俺は? 破れるのか……もう、駄目だ。足に力がはいらねぇ」
俺は横たわった。
さしたる音もなく、倒れ込む。
たとえ盛大に雪に突っ込んだとしても、凄まじい暴風の音で何もかもかき消されただろう。
10分以上前から体の感覚が失われてきて、今は柔らかいパウダースノーの絨毯に倒れこんでて。
横を見れば雪の壁が棺桶みたいだ。
「奇麗だなぁ」
あぁ、もう何もかもどうでも良い。
俺は十分頑張った。
世界に勝った気でいた俺は、結局ただの勘違い野郎だったようだ。
自然様が本気になっていない安全な時に、彼等に喧嘩を売って勝った気になってただけ。
本当は彼等が俺なんてちっぽけな奴を相手にしていないって、全然気付いてなかったわけさ。
「可笑しいな。吹雪いてるはずなのに、何で世界が白く見えるんだ?」
訝しむ俺。
すぐに理解した。
あぁ、これが俺にとっての三途の川か。
最後に山の壮大さ、凄まじさを理解して思い出したわけだ。
俺自身山を神格化していた過去があったってこと。
怪物だと思っていたからこそ、挑み続けた過去があったってことを。
多くの化物達を踏破して、久しく忘れていたあの感覚。
何もかもを忘れて、心も感情も忘却の彼方へ追いやって、ただひたすら登り続けたあの過去。
「うっうおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ! 負けられねぇ! こんなところで負けてたまるかよ、人間なめんな!」
力を振り絞って立ち上がる。
吹雪の中に、叫び声は消えていく。
だが、俺の挑むという意思は消えない。
どんなに準備をしても、山の移ろいやすい環境はその上を軽々と通過して行くんだ。
今までは運が良かっただけ。
不測の事態に備えた道具や知識が役に立たなかった時は、最後は結局体力と根性の勝負さ。
「行くぞ。足を進めろ」
さぁ、行くぞ。
吹雪き唸る雪山よ。
俺は久しぶりに最高の気分だぜ。
________あとがき
うわぁ、大切な描写根こそぎ必要でも何でもない描写に使ってるよ。
つーか、何で体の感覚とかないのに動けるんだよとか、吹雪いていても白い世とか突っ込みどころ満載(汗
何これ酷い(涙
久々の短編、ここまでひどいと涙が出ますね。
Re: 第九回SS大会 お題「白」 投稿期間延長 3/14まで ( No.443 )
- 日時: 2013/03/10 20:15
- 名前: 雄蘭【ゆうらん】
【il teint blanc entrains.】
私から希望が消え去った時、何が残るのか分かりやしない。貴方はいつも笑顔で私を見ているけれど、それは哀れみなのかと、最近思い始めた。
いつか、終わると思っていて辛くても唇を噛み締めて耐えて来た苦しみも、今では結末を知っているせいか、何だかあまり苦しくなくなってきた。
それは異常なのかもしれないけれど、私にとっては普通と呼べるものだ。
「やぁ、調子はどう?」
「いつも通り、最悪よ」
「…そうか、なら大丈夫」
「あら、酷い事言うのね」
「はは、君の最悪は最高だから」
「良く分かってる」
「ああ、そうだった、今日は君に話した…」
「ねえ……、アンドレ。私ね、白が嫌いなの」
「…いきなりどうしたんだ?」
「白って、何も無いみたいで嫌いだわ。何も無いって事は、生きてない事と一緒じゃない。そんなの、私は嫌だわ。けれど、白は綺麗よね。薔薇だって、スノーフレークだって、とても綺麗だと思う。華は好きだもの。あと…雪も好きだわ。何だか儚い気もするけれど、ちゃんと街を美しくしてくれる」
「確かに、そうかもしれない。それでキアラ、話を聞いてく…」
「それに、白は自由で良いわよね。私はもう動けないし、長く生きられない。嫌になるわ、まだ死にたくないの、やりたい事がいっぱいあるのよ」
「………キアラ…」
「けれどね、私が死ぬのはしょうがないと思う。だって、それが私の人生なんだから。…運命に抗うなんて、神様に悪いもの。神様だって私の事を考えてくれた上でちゃんと運命を決めてくれるんだから」
「……キ…アラ…君は」
「ええ、知ってるわ。全部知ってる。身体はもう動かない事も、長く生きられない事も知ってる。…貴方も知ってるでしょう?私の運命なんて決まってるのよ。だからね、今の内に色々と話しておきたいわ。今まで言えなかった事も、全部、ね」
少し喋り過ぎちゃったかもしれない。でもこれでいいと思う。全部言えたから、全部伝えられたから。
貴方には、辛い思いをさせてしまった。けれど、これも運命なんだ。全てが神様によって決まってる。辛くたってそれを辿るのが生まれてきた私の義務なんだ。
私には、長い時間は残されていないけど、最期くらい幸せに生きようと思う。
愛しい貴方と共に時間を過ごして、精いっぱいの好きをあげたい。今まで貴方に対して考えた事を、短い時間で話したい。
希望はもう無いと思うけど、幸せなら遅くない。
ふと、窓を見れば、そこには銀景色が広がっていた。白は嫌いだけれど、とても愛おしい。貴方と私でこの街を歩いて行ければ良かったなあと今更考えた。
意識が自然と遠のいて、何も聞こえないし見えない。だけど、少しだけ貴方の声が響いた気がした。最期に貴方の声を聞けた私は、何て幸せ者なんだろう。
Re: 第九回SS大会 お題「白」 投稿期間延長 3/14まで ( No.444 )
- 日時: 2013/03/14 01:48
- 名前: 風死 ◆GaDW7qeIec
- 参照: 美琴「あ?」一方通行「あぁん?」麦野「変質者、誰のことだ?」キバオウ「なっなんやお前ら!?」一方「良い度胸だ」美琴「あんたなら、腹に穴空いても誰も悲しまないわよね」キバオウ『なにかやばそうや』麦野「むしろ、体消滅しても文句は言えねぇよなぁ」キバオウ「ぶっ物理的に言えへん―――」
第九回大会 エントリー作品一覧
No1 玖龍様作 「神童」 >>426
No2 白雲ひつじ様作 「課題は自分でやりましょう」 >>427
No3 碧様作 「答案用紙に色がついた時」 >>428
No4 Lithics様作 「奇想『日傘を差す女』」 >>430-432
No5 澪様作 「純白のワンピースの少女」 >>436
No6 遮犬様作 「白い残像」 >>437
No7 アビス様作 「失って気付く事」 >>438
No8 瑚雲様作 「彼女のシロい、」 >>439
No9 書き述べる様作 「ベンチウォーマー」 >>440
No10 風死様作 「白の世界で」 >>441
No11 雄蘭【ゆうらん】様作 「il teint blanc entrains.」 >>443
以上、全十一作品エントリーです!
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