雑談掲示板

みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】
日時: 2022/06/30 06:43
名前: ヨモツカミ (ID: HJg.2TAk)

再始動予定につき調整中!
注意書き多くてきもいね、もっと気楽に書ける場にするから待っててくれ!



略してみんつく。題名の通り、みんなでSSを書いて投稿しよう! というスレです。SSの練習、作者同士の交流を目的とした場所になっております。投稿された作品に積極的に感想を言い合いましょう。稚拙な感想だから、と遠慮する必要はありません。思ったことを伝えてあげることが大切です。

優劣を競う場所ではありません。自分が上手くないと思うそこのあなたこそ、参加してみてほしい。この場で練習をしてみて、他の参加者様にアドバイスを求めてみてはいかがです? お互いに切磋琢磨しながら作品投稿が楽しめると素敵ですね。

自分はそれなりに書けると思ってるあなたは、いつもの自分と違う作風に挑戦してみるのも楽しいかもしれませんね。または、自分の持ち味をもっと伸ばすのも良いでしょう。みんつくに参加することで、新たな自分を見つけるキッカケになるといいなと思います。

読み専の方も大歓迎です。気に入った作品があれば積極的にコメントを残していただけるとスレが盛り上がります。当然、誹謗中傷や批判など、人が見て傷付く書き込みはNGです。常に思いやりの精神を持って書き込みましょう。


*作品の投稿は最低限ルールを守ってお願いします。
↓↓
・お題は毎月3つ出題します。投稿期間、文字数の制限はありません。ただし、お題に沿ってないSSの投稿はやめてください。そういうのは削除依頼を出します。
文字数について、制限はありませんがどんなに短くても140字くらい、長くても20000文字(4レス分)以内を目安にして下さい。守ってないから削除依頼、とかはしません。
・二次創作は禁止。ですが、ご自身の一次創作の番外編とかIfストーリーのようなものの投稿はOK。これを機に自創作の宣伝をするのもありですね。でも毎回自創作にまつわる作品を書くのは駄目です。たまにはいつもと違う作品を書きましょう。
・投稿するときは、作品タイトル、使用したお題について記載して下さい。作品について、内容やジャンルについての制限はありません。
小説カキコの「書き方・ルール」に従ったものであればなんでもカモン。小説カキコはそもそも全年齢なので、R18ぽい作品を投稿された場合には削除をお願いすることもあります。
また、人からコメントを貰いたくない人は、そのことを記載しておくこと。アドバイスや意見が欲しい人も同じように意思表示してください。ヨモツカミが積極的にコメントを残します(※毎回誰にでもそう出来るわけではないので期待しすぎないでください)
・ここに投稿した自分の作品を自分の短編集や他の小説投稿サイト等に投稿するのは全然OKですが、その場合は「ヨモツカミ主催のみんなでつくる短編集にて投稿したもの」と記載して頂けると嬉しいです。そういうの無しに投稿したのを見つけたときは、グチグチ言わせていただくのでご了承ください。
・荒らしについて。参加者様の作品を貶したり、馬鹿にしたり、みんつくにあまりにも関係のない書き込みをした場合、その他普通にアホなことをしたら荒らしと見なします。そういうのはただの痛々しいかまってちゃんです。私が対応しますので、皆さんは荒らしを見つけたら鼻で笑って、深く関わらずにヨモツカミに報告して下さい。
・同じお題でいくつも投稿することは、まあ3つくらいまでならいいと思います。1ヶ月に3つお題を用意するので、全制覇して頂いても構いません。
・ここは皆さんの交流を目的としたスレですが、作品や小説に関係のない雑談などをすると他の人の邪魔になるので、別のスレでやってください。
・お題のリクエストみたいなのも受け付けております。「こんなお題にしたら素敵なのでは」的なのを書き込んでくださった中でヨモツカミが気に入ったものは来月のお題、もしくは特別追加お題として使用させていただきます。お題のリクエストをするときは、その熱意も一緒に書き込んでくださるとヨモツカミが気に入りやすいです。
・みんつくで出題されたお題に沿った作品をここには投稿せずに別のスレで投稿するのはやめましょう。折角私が考えたお題なのにここで交流してくださらなかったら嫌な気分になります。
・お題が3つ書いてあるやつは三題噺です。そのうちのひとつだけピックアップして書くとかは違うので。違うので!💢



その他
ルールを読んでもわからないことは気軽にヨモツカミに相談してください。


*みんつく第1回
①毒
②「雨が降っていてくれて良かった」
③花、童話、苦い

*みんつく第2回
④寂しい夏
⑤「人って死んだら星になるんだよ」
⑥鈴、泡、青色

*みんつく第3回
⑦海洋生物
⑧「なにも、見えないんだ」
⑨狂気、激情、刃

*みんつく第4回
⑩逃げる
⑪「明日の月は綺麗でしょうね」
⑫彼岸花、神社、夕暮れ

*みんつく第5回
⑬アンドロイド
⑭「殺してやりたいくらいだ」
⑮窓、紅葉、友情

*みんつく第6回
⑯文化祭
⑰「笑ってしまうほど普通の人間だった」
⑱愛せばよかった、約束、心臓

*みんつく第7回
⑲きす
⑳「愛されたいと願うことは、罪ですか」
㉑嫉妬、鏡、縄

*目次
人:タイトル(お題)>>
Thimさん:小夜啼鳥と(お題③)>>181-182
むうさん:ビターチョコとコーヒー(お題⑲)>>183
心さん:君に贈る(お題⑭)>>184
黒狐さん:神の微笑みを、たらふく。(お題⑳)>>195
よもつかみ:燃えて灰になる(お題⑱)>>196
むうさん:宇宙人が1匹。(お題⑳)>>200



*第1回参加者まとめ
>>55
*第2回参加者まとめ
>>107
*第3回参加者まとめ
>>131
*第4回参加者まとめ
>>153
*第5回参加者まとめ
>>162
*第6回参加者まとめ
>>175
*第7回参加者まとめ

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Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.84 )
日時: 2020/07/21 21:21
名前: 優羽 (ID: h29vvFkM)

参加します!
⑤「人って死んだら星になるんだよ」

(東方怨霊伝説のオリキャラだけで進めていきます)


「人って死んだら星になるんだよ」

闇(アン)は突然そんなことを呟いた。
闇もついにおとぎ話とか都市伝説とか創作物語にハマったかな?

「どうしたの?闇」
「死にたい」
「えっ」

突然だった
急に死にたいなんて
私は貴方が居ないと存在理由が無くなる…

「どうして…」
「葵、私を殺してよ」
「なっ…」

人の話を聞かないで「殺して」って…

なんて人間って馬鹿なんだろう…

行き詰まったらすぐ死にたがるし

視野を広げてよ

誰か貴方を必要としてる

一人くらい…

「闇がその能力のせいで辛い思いをしてるのは分かってる…でもさ…私は貴方に生きて欲しい」
「え?」
「私はさ、いくら闇が死んで星になっても私は星の方の闇じゃなくて生きてる闇がいい」
私は貴方を必要としている

だからさ…

















生きてよ

Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.85 )
日時: 2020/07/21 23:09
名前: 金鳳花 (ID: JAkJcGBk)





 寄せては帰る波が、手招きするようぼくを呼びつける。こちらへおいでと、深い藍の向こうから声をかける。人っ子一人いない、ぼくだけが座る夜の海だ。砂浜はというと、夏の日差しをすっかり忘れてしまったようにひんやりとしていて、ぼくから体温を奪っていく。

 ちりんちりんと、すぐ傍で鈴の音が響いた。ぼくの溜め息をかき消すように、涼やかな音色は響き渡って、闇の向こうに消えていった。

 さざなみと、鈴と、溜息と。それ以外は何も聞こえない。耳を背けたいような事実もそうだけど、もう一度聴きたいと願ったものも、全部。

 あの女性(ひと)にはもう、夢の中でしか会うことはできない。たとえそれが、水面にぶつかった途端に弾けて消える、泡のように儚い幻想だったとしても、構わない。

 もう一度、あの女性の声を聴かせて欲しい。特等席で何度も聞かせてくれた、アリアをもう一度。

 ただし、流れ星に願ったところで、叶うはずなどないのだけれど。

 潮は満ちようとする最中らしく、いつの間にかぼくの足元にまで忍び寄っていた。

 海を眺めていると、あの女性の瞳を思い出す。深海のように底の見えない冷たい藍色なんかじゃなくて、夜の海のように、静かで落ち着いた、万物を飲み込むような深い藍色。

 明るい陽射しを浴びる程、鮮やかな青に映る、夏の海みたいに生命力と活気に満ちた目だった。

 幼いぼくを膝に乗せて、何度も歌を口ずさんでいた。歌っていることが自分である証明だというように、今ここに生きていると定義するみたいに。喉が嗄れない限り、息が続く限り、歌い続けていた。

 その金糸雀のような歌声に包まれた時間は心地よくて、ついつい時間を忘れて眠ることも多々あった。眠りに落ちてしばらくして、気が付いた時にはこんな風に宵闇の中で海に向き合っていたような日もあった。眠りこけたぼくをそのまま抱き上げて、そのまま歩いてきたようだった。

 彼女もぼくと同じで、こんな風に暗がりの海を見つめるのが好きだった、と述べると語弊が生じるだろう。逆だ。彼女と並んでみる景色が心地よくて、彼女が好きなものをぼくも同じように好いただけだった。

 海沿いの田舎町で、該当も少ないこの土地は流れ星がよく見える。一晩も粘れば、二つ、三つと目にすることができた。ただ、ぼくも彼女も、ぼくのすぐ隣に落ちた流星だけは、すすんでみないふりをしたものだ。

 ある朝、その女性は遠くにいってしまった。中々帰ってこなくて、寂しい日はずっと続いたけれども、いつかまた出会えるさと自分を鼓舞した。すぐ傍で鳴り続ける鈴の音は、ぼくが落ち着いていないことを示唆していたけれども、その鈴の音に彼女の歌声を重ねて、何とか辛抱した。

 辛抱かなって、ぼくはようやく今日、再会することができたのだった。

 家の中のことをいつも取り仕切っているおばあちゃんが、良い匂いのする木の箱を大事そうに抱えて帰ってきた。耳をそばだててみたところ、その中には大切な壺が入っているらしかった。

 何となくその匂いの向こうには、どことなく気が落ち着くような香りがした。そんなに重たくなさそうなのに、誰もが両手で大切そうに抱えていた。その殆どの人間が、顔をくしゃくしゃにしていた。

 相変らず、ぼくの気分をなだめるような匂いをしていた。その筈なのに、どうしてか、僕の胸はざわざわと騒ぎ出した。悪いものを食べてしまったように、息苦しくて、胸の奥の方がどんよりとしていた。

 それなのに相変らず、木箱の中からは思わず寄り添いたくなるような匂いがした。

 誰かが気を紛らわすためにラジオのスイッチを入れた。電波に乗って、遠い所から往年の名曲が流れ始める。その時になってようやくぼくは、箱の向こうにある親近感に合点がいった。その事実に、納得なんていかなかったけれども。

 箱の中には、壺の中には、あの女性が居たんだ。

 それ以来、眠ることもできなくて、一日中寝てばかりだったぼくはというと、眠たくて仕方がなかった。大きなあくびが飛び出るけども、意識が睡魔に攫われてはくれない。毛むくじゃらの前足で顔を掻いてみるけれども、気分はちっとも晴れなかった。

 海が大好きな、御姫様みたいな女性だった。思わず、冷たい海に向かって一歩を踏み出した。二歩、三歩と進むにつれて、脚だけでは無くて尻尾までずぶ濡れになっていく。飛沫が目に飛んだせいで、少しヒリヒリとしたが、そんなの些細な問題だった。

 この波に融けるように、泡となって消えてしまえば、もう一度ぼくはあの女性に会えるだろうか。


「みゃあ」


 意を決したような短い声だった。誰も聴衆など存在しない中、届いて欲しい誰かに届きますようにと、鬨の声はさざなみの向こう側へと消えていった。

Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.86 )
日時: 2020/07/23 17:11
名前: ヨモツカミ (ID: RP5FPDMg)

>>79さにちゃん
この世の地獄みたいなお話書くの得意ですよね()
生きているうちにできなかったこと、「輝くということ」。主人公は周りのもの全部殺して、自害して、それで本当に夜空の輝く存在になれたのでしょうか……。絶望的な生活から、輝く何かになりたかったのだろうなと思うと、いたたまれないですね。

>>81心ちゃん
光説、確かに有り得そうですね。私はずっと泡だと思ってたけど。
せっかくだから「やまなし」を読み返してきましたが、最初と最後の文章がたしかにやまなしオマージュで素敵だなって思いました。

みんつくで初めて感想頂いた……!
ありがとうございます。その言い回しは私もお気に入りです。飲み込めないし痛い、あの異物感を抱く気持ちってどんなだろうなと思いつつ書いてました。

河童も私も百合が好きなんですよ。だから楽しんでかけましたね(笑)河童が好きそうな雰囲気を目指して書いたから、それがお好きなら河童とも仲良くなれそう。
てかよくご存知でしたね、今ほとんどカキコにいないのに。そう、ふざまな作者兼、ガネストくんの声の人です。

心ちゃんの文章まじでめっちゃ成長してると思うのでこれからも応援してます。

>>82スノーちゃん
えっ、これはもしかして実話ですか?
以前そのペンネーム使ってましたもんね??
夏の楽しい思い出が途端に消える感じと空がリンクしてる描写が好きでした。

>>83むうちゃん
実体験か……ちょっとコメントしづらい話題ですが、きっと、とても辛い経験をしたのでしょうね。私も似たようなことがあったので少し気持ちがわかります。やっぱり、友達ができると救われますよね。私達は一人では生きていけないんだなあって。
むうさんが最終的に救われてよかったなと思います。保健室クラブ、心が温まる素敵なお話でした。

>>84金鳳花さん
初参加ありがとうございます。
途中まで主人公の正体に気付けないようになってるの、面白いですね。この鈴は何だろう、と確かによく考えたら想像つくかもしれないけど、ちゃんと正体に気付くのは毛の描写のとこですね。
優しいタッチの文章が読んでいて心地よくて、物哀しい雰囲気がしっとりと胸に入り込んでくるような、まあ何というかめっちゃ好きな雰囲気でしたね。言葉遣いとか単語の選び方が柔らかい感じします。
綺麗な文章、というよりは優しくて柔らかい文章って感じ。
悲しいお話でしたが、温かい気持ちになりました。

Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.87 )
日時: 2020/07/23 17:31
名前: おまさ (ID: YJtxeT02)

 初めましての方は初めまして。ジルクとかセイカゲとか読んで頂いた方はこんにちは。複ファにて小説を書いてる者です。
 レベルの高い作品が軒並み投稿されているこのスレに、しかも今更六月のお題で書いた短編を投下するのは大変恐縮なのですが、せっかく書き下ろしたので無茶は承知で投稿させて頂きました。
楽しんで頂ければ幸いです!

あ、あと自分、感想などもらえると非常に喜ぶ習性をもっておりますので、よろしければお願いします。

前置き長くなりました。はじまりはじまりー。




******

お題:②
タイトル:「雨が降っていてよかった」#1

******








雨は、嫌いだ。




 単に自分のような自転車通学者の天敵であるだけでなく、一日を無駄に浪費させることにおいて「雨」という天候を上回るものはそうはいない。

 高校二年の六月。例年のように梅雨入りを果たし、しかしその事実を自分は歓迎していなかった。
 地元の商業高校にスポーツ推薦で進学したこともあり、一年の時迷わず入部したテニス部で、最近までレギュラーになろうという気概で満ち満ちていたことは記憶に新しい。


 一年目は、とにかく必死に食らいついた。如何なる練習も貪欲にこなし、練習のために友人と遊びに行くこともなかった。自転車通学範囲の自宅まで一か月間ランニングで帰ったことだってある。
 全ては、周りを超えるため。レギュラーになるため。それだけを見据えてひたすらに自彊に励む日々は過ぎていった。
 それでも、一年目はレギュラーになることは叶わなかった。うちの高校がテニス強豪校ということもあったのか、二年三年の先輩たちの実力が高かったのかもしれない。だから、「一年目はこんなもんだろう」とやけにすとんと腑に落ちたことを覚えている。
 けれどこうして二年目になって、日々こうして練習に打ち込んでいても、一年前の自分と変わらないように思える。未だにレギュラーどころかスタメンにすら入れていない。このままではいけないという気持ちがあって、それでもじゃあどうすればいいのか、進み方が分からなくて。
 少しでも前に進みたくて。少しでも練習をしようと思って。




そんな矢先に練習が雨天中止とは、誰だって嫌になるというもの。



 毎年六月になると、こちらなどお構いなくいっそ空気を読まないかの如く降り始める霖雨は、コート練習の大敵だ。この街には屋内コートなんてないから、事実上実践練習の手段を潰されるのである。

 
結果何もできずに、時間ばかりが過ぎてゆく。だから雨は嫌いだ。




 
 日本列島の六月に限り、てるてる坊主は効力を失いただの布の屍に成り果てる。…というのはあながち間違ってはいないのではないか、とぼんやり思う。


 今日は曇りかと思い、雨合羽を用意せずに家を飛び出してきたのが運の尽き。下校中に振り始めた雨は、あたかもスコールと錯覚するような勢いでアスファルトに殺到する。
「…はぁ、はぁ…っ」
 立ち漕ぎで息を切らしながら勾配を登る。顔面に打ち付けるおおきな雨粒と、制服の下の汗がひどく気持ち悪かった。

 額に浮かぶのが雨なのか汗なのか分からなくなってきた頃、勾配を登り切ったところに小さな東屋があった。別段派手とか大きいとかそういうわけでもなく、よくよく公園などでも見かけるごく普通の三角屋根。何にせよ雨宿りには十分だ。息を弾ませつつ東屋の手前で自転車を降り、小走りでその屋根の下へ向かっていった。



 自転車を押しながらふと見れば、東屋にはどうやら先客がいるようだ。豪雨で視界が悪いのと屋根下が暗いせいで顔はよく見えなかったけれど、背丈からして同年代らしい。
 その推定同年代の人影は、読んでいたのだろう文庫本に栞を挟み、こちらに一瞥を向ける。



 痩躯の少女だった。
 腕は細く、肩幅も大きくない。姸姿を見る限り筋肉質というわけでもなく、活発な運動部の雰囲気は欠片もない。妖姿媚態というよりかは蜾蠃乙女といった印象だ。身に纏う制服を見る限り、うちの高校の生徒だろう。
 華奢そのものを具現化した身体の上には整った顔が乗っているが、それは絶世の美貌などではなく人並みに可憐な容姿といったところか。漆のいろの長い睫毛と同じ色をした嫋やかな短めの髪はしっとりと濡れていて、同じく雨宿りをしていることが窺える。
 彼女はその垂れ目でこちらを頭からつま先まで見た後、数秒おいて話しかけてきた。



「すごい降ってきちゃったね。……きみも雨宿り?」
「え? …ああ、うん」
「やっぱり? 私も雨宿りしてるとこ。チャリ通には辛いね」
 
 苦笑を浮かべながらどこか楽し気な少女。すこし野暮かと思いつつ、口を開いた。


「その割には楽しそうだけど」
「あ、ばれた?」

 ころころと笑う少女が、……何故か妙に遠く思えた。
 そんなこちらの感慨を気にする節もなく、少女は続ける。






「私、なんだか落ち着くんだよね。こうして雨音を聞きながらのんびりするのってさ」


 …落ち着く? 自分にとっては雨なんて、これほどまでに鬱陶しいものなのに。
 そう思ったが口にせず、しかし沈黙を嫌って訊いた。

「雨……好きなの?」
「どうだろう。あんまり考えたことはないけど……うん、好きかも」
「そ、っか…」


今の自分はどんな顔をしているのか、こちらの表情を見、果たして少女は少し悪戯っぽく微笑んだ。

「ひょっとして雨、嫌い?」

 どこともつかぬ気まずさに曖昧に頷くと、「やっぱり」とでも言いたげな表情をされる。何となく不甲斐ない。
 そんな不甲斐なさが顔に出たのか、一瞬少女は触れることを躊躇うような間を開けた。そして、
「――何で雨、嫌いなの?」
 ささやかな彼女の気遣いに感謝しつつ、雨が嫌いな理由を吐露した。……半ば愚痴にも近いそれを他人の前でぶちまけることに理性が嘆くが、幸い少女はひどく静謐な表情で話に耳を傾けてくれていた。



「……なるほどね」
 話が終わると、少女はそんな風に呟いた。目線の先、少女は垂れてきた前髪を少しかき上げている。
 正直言って、今自分が話した内容は我ながら葬り去りたい気分だ。こんな愚痴以下のものを人に聞かせるなんて、ある意味一種の自慰行為に等しい。ひどく情けなくて、罪悪感に苛まれている。
 と、そんな黒歴史に煩悶する自分を余所に、少女は「それにしても」と胸の前で腕を組み直した。


「きみ――中々に面白いね」





……。

…………。……………………。



…………………………………は?


 無理解、意味不明。向けられた言葉はそれほど予想外なもので。
 面白い?面白いってなんだ。馬鹿にしてるのか。
 思い出してみれば、この少女は最初からどこか超常とした雰囲気というか、不遜なような、まるですべてを知り尽くしたような態度だった。最初は特に意識していなかったそれが、……ここにきて癪に障る。
 苛立ちが募り、つい口調が荒くなった。


「………面白い……? 面白い、ってなんだよ。そんなに人の生き方が可笑しいか」
「……え? いや、わたしは……そんな、つもりじゃ、」
「分かったようなことばかり言うなよ。じゃあ何か? 俺が好きで斜に構えているとでも? ふざけるなよ。何様だよ……っ」

 加速する。激情が、憤懣が、憤怒が、行き場を失った感情の奔流が、垂れ流される。

「分かったような、知ったような口を聞くなよ!!」
「じゃあきみはさ。………自分のことを全て把握できている自覚があるんだ?」


 静謐な、けれど不思議と力のある声音に刹那気圧される。が、すぐさま「はっ」と嗤い、

「ったり前だろ。自分のことは、自分が一番よく分かって、」








「――――じゃあ焦ってるの、気付いてるんじゃないの?」





……っ!?



 衝撃。
 受けた言葉に対して適切な言葉を選ぶなら、それは正しく衝撃だった。想像の埒外から殴られたような―――否、内を正確に射抜かれたような感覚に脳漿が沸騰し、思考回路が一時的に死んだ。
 だが、時間が経つにつれ明瞭な感覚が戻ってくる。
 衝撃、驚愕、反芻、理解の順に脳が回り、そうして理解を得た時には――――もう、遅い。
 そうして答えを得た自分は、反射的にその場に立ち上がった。

―――この場にこれ以上いてはならない。身勝手で自儘な論理を振りかざされるだけだ。




 旋踵。
 今だけは世界のだれにも見られたくない顔を背けて、自転車の停めてある所まで歩き出す。
「………まだ雨、降ってるけど」
「……ぅ、るさい」
 見透かされているような声に、軋むような声音で反論以下の何かを絞り出し、自転車で雨の中に漕ぎ出した。雨は降りだした当初よりも激しく、冷たく感じた。
 顔面に打ち付ける豪雨に必死に目を眇めながら、より強くペダルを蹴った。蹴った。蹴った。




















 何かから逃げてるみたいだな、とやけに冴えた頭のどこかが呟いた。















……つづく(かもしれない)。

Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.88 )
日時: 2020/07/23 18:16
名前: 鈴乃リン◆U9PZuyjpOk (ID: .sLmtVGs)

よもさん >>86

そうですっ!実話です!
あっでも仮名ですよ!!?本名はまた別です!
やっすー(仮名)が考えてくれた名前なんです………!
描写はかなり成長したかもです!
またこの名前で活動しよっ………
トリップで判断していただければ………!

Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.89 )
日時: 2020/07/23 19:40
名前: サニ。◆6owQRz8NsM (ID: s7AEldog)

*よみちゃん

この世の地獄なら任せておけェ!!(スライディング)と叫びつつ返信をば。
どう足掻いても「輝く」人生は送れない、微かにも輝くことは出来ない。だが死んで星になれば?星になれば皆同じ、死んで星になって輝けるのなら、この地獄から抜け出せるのであれば。『よぞらのおほしさま』、どうかそちらに仲間に加えてください。そう願いつつ、主人公の子供はこの選択をしたのやもしれません。まあただ、『救いようがない』のは事実ですけれども。

ではでは、また思い立った時に。

Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.90 )
日時: 2020/07/24 17:45
名前: むう (ID: 4sSOEn9M)

 これにてコンプリート…。
 お題⑥
 タイトル「碧と傷痕」

 ********************


 庭先の風鈴が涼し気に揺れている。
 六畳ほどの和室で、埃をかぶった扇風機に当たりながら私はイヤホンを片耳に突っ込んだ。
 耳の奥から聞こえる微かなノイズ音。

 ひいきにしているラジオ局の番組はもうとっくに終わっていて、騒々しい雑音だけが鳴り響いている。
 それはまるで自分の心の写し絵のようで、私は軽く唇を噛んだ。

「彩夏-。今日、雛ちゃん来るんでしょー?」

 スリッパをペタペタいわせながら、母親が部屋を覗き込んだ。
先ほど玄関の掃除をしていたので、まだエプロンをつけたままだ。 

 さっきコップに注いだばかりのソーダの泡がゆっくり立っていくのをぼんやり眺めながら、私は不機嫌に返した。

「もう、来ないよ」
「……朝、来るって言ってたじゃない。ケンカでもしたの?」
「………ケンカじゃない」

 そう、あれはケンカではない。ケンカよりももっと重くて辛いもの。
 今日の天気、青色の澄み切った青空の日に似合わないような、暗い複雑な出来事だ。
 それが何なのか、その答えに今だに迷っている。

 雛と私の関係は、親友同士だった。だったと言うことは、その関係がもう事実の上に成り立っていないことを表す。
つまり彼女はもう親友ではなくなったのだ。
 

 ・・・・・・・

 きっかけは一本のメールだった。

 六時間目の数学の時間、机の下でこっそりスマホをいじっていたのが運の尽きだった。
二階では合唱の歌声が、そして今いる教室では教師の説明が絶えず聞こえ、危うく眠りに落ちそうになっていたとき、そのメールは届いた。

 ピロンという着信音がなり、反射的に私は顔を上げた。
幸い教師は背中を向けていたので、こっちには気づかなかった。
トーク画面を見ると、雛から一件のメッセージがあった。



 『彩夏って私のこと思っているの?』


 それは余りに唐突で、かつ深い質問だった。
 教室を見回す。一番右の列の最後方の席に座る雛が一瞬チラリとこっちを振りかえった。
その顔にはいつもの愛嬌はなく、私を試しているような険しい目つきをしていた。



 『優しいって思ってるよ』
 『どうして?』


 「どうしてって言われても……」

 答えに困って、すがるように雛の表情を伺うと、彼女はプイっと顔を背ける。
 なぜそこまで不機嫌なのか、私が知るすべはどこにもなく、釈然としないままメッセージの会話は続く。



 『答えなんているの?(笑)』
 『その(笑)ってどういう意味でつけてるの? 私は嫌い』
 『ならやめるよ』
 

 私も雛のことはよく分からない。
 その何の感情も込められないメッセージの裏で、何を思っているのか、どういう気持ちでいるのか私も分からない。


 『彩夏は、私の事優しいって言ってくれたじゃん』
 『うん』
 『じゃあ私も思ってたこと言っていい?』
 『うん』



 『彩夏のことが嫌い』



 何の感情も込められないメッセージとはよく言ったものだ。
 そう、メッセージに感情はない、それは事実。
 しかし、たった一文、10文字にも行かない文章が自分の胸をぐさりと突いた気がした。


 『彩夏のどこが嫌いかっていうとね』


 いつの間にか、メッセージを打つ手が止まっていた。
 初夏の日差しが当たって、充分暖かいはずの教室の温度が、一気に下がったように感じた。
 


 『彩夏の笑顔が怖いの。あと性格ね。自分の事鼻にかけてるでしょ』
 『かけてないよ! 何でそんなこと言うの? そう思ってたらゴメン』
 『そんなことじゃないの。でも嫌いなの』


 『わけがわからないよ。どうしていきなりそんなこと言ってくるの』
 『一人になりたいの』
 『じゃあなれば』


 『でも一人になりたくないの』
 『どっちなの』
 『私は彩夏のことが嫌いだけど、友達が彩夏しかいないの』


 訳が分からなかった。
 私の事が嫌いなら、嫌いと思った瞬間に友達という定義は崩れるのではないだろうか。私の事が嫌いなら、友達なんてやめてくれればいいのに。
 でもそう尋ねる勇気は、何分待っても、湧いては来なかった。



 『だからさ、いつも家に行かしてもらったけど、もうやめるね』
 『…………なんで?』




 『私と彩夏は、多分感じ方が百八十度違うんだ。私は無理やり人の話に乗りたくないの』
 『じゃあ、じゃあもう、連絡しなければいいじゃん!!』




 ・・・・・・・



 いつから私たちの関係が崩れたのか、今となってはもうわからない。
 雛の、誰かを嫌いになってでもその人と一緒にいたいという気持ちが、私には理解できない。
 そう言う所なのだろうか、そういうところで私たちは違う道を歩くようになってしまったのだろうか。


 どちらにせよ、もう雛は来ないし、彼女と私が以前の関係に戻ることもないのだ。
 そしてなんで、私はこんなに冷静なんだろうか。
 なんでもっと取り乱さないのだろうか。


 私は、雛のことを、本当に親友だと思ってたのだろうか…………。
 立てた膝に顔をうずめる。泣きたいとは思う。叫びたいとも思う。いっそ寝てしまおうか。




――そう思っても行動に移さなかったのは、きっと心のどこかで、また希望を求めているからだ。



 【END】




 

Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.91 )
日時: 2020/07/25 19:07
名前: 金鳳花 (ID: BUu7Muqc)

よもつかみさん

コメントありがとうございます。
鈴でドラえもんが出てきたせいで猫のお話になりました。

消えてしまった人魚姫を追いかけるために、泡となって消えてしまうような、それでいてあまり寂しくないような話にしたいと思って書きました。

人間の男の子だったらちょっと変なところでも、ぼくが猫だと分かった時に「なるほど」と思ってもらいたかったので、そう思えてもらえたようで安心しました。

重ねて申し上げますがありがとうございました、これにて失礼いたします。

Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.92 )
日時: 2020/07/25 22:22
名前: 蜂蜜林檎 (ID: bGn7/ALI)

お題④
「金魚救い」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

風に揺らぐ紅い提灯。艷めいた林檎飴。
その林檎飴のせいで赤くなった唇がいつもよりずっと彼女を色っぽく見せる。
浴衣姿の彼女、心美は、ふわりと兵児帯を揺らす。その姿が愛くるしくて、思わずシャッターを押した。

「ヤバい、さっきの花火全然上手く撮れなかったわ」

残りわずかな充電と戦いながら撮影した花火は水をかけたみたいにぼやけていた。
元々背の低い心美には周りの人が壁になるから無理もない。

「下手くそ過ぎない ?」
「酷いなぁ。怜奈のは上手く撮れてる ?」

それなりに上手く撮れた花火を心美に見せながらふと思う。
もう終わりなんだ。
今年の夏はこれで終わり。心美と一緒に夏祭りに来るのもきっと最後。
私達は別々の道を歩む。

幼稚園。小学校。中学校。
私と心美はずっと一緒にいた。
だから、いつまでも一緒にいると思っていた。


『うち、ーー高校に推薦されたの』

それはずっと離れた場所にある寮生の名門高校。
早めに下した選択。止める権利なんて、自分にはない。
でも引き留めたい気持ちが邪魔をしてくる。

行かないで、なんて。

意地でも言うものか。
心美の根っこから否定するみたいで、そんなこと絶対に言えない。

『そっか、おめでと』

祝福。
これが私にできる精一杯の事だった。


「いやぁ、楽しかったねぇ」
「.....うん」

外灯に照らされた帰り道は湿気が鬱陶しくて、何度も何度も長い髪をかき上げた。
同じくらい鬱陶しく蝉の声が鳴り響き、下駄はカランコロンと音を立てる。
心美の手には三匹の金魚。私は一匹。
私の金魚はおじさんにおまけしてもらったものだから、実質すくえたのは0だ。

「あ~暑い。人魚姫はさ、ずっと海の中でいいよね。人魚になりたいなぁ」
「何言ってんの。心美には金魚が似合うよ。ちっちゃいし」
「うわーっ、親友にそんなこと言っていいのかなー」

だって、人魚って泡になって消えるじゃない。
勝手にどこかへ行って、恋して、知らない間に泡になる。
嫌だ。そんなの。

「.....金魚すくいってさ、「掬う」って書くでしょ ?」

指で空中に字を書きながら心美は話す。

「うちはあれ「救う」だと思うのよ。だって、小さなプールに囚われてるのなんて可哀想じゃん」
「はぁ.....」
「それをうちらが「救う」の ! 小さな檻から出してあげるんだよ」
「随分と偉そうだなぁ、心美様は」

暗い夜道に笑い声がこだまする。
涙が出てきたのは、あんまり笑ったからだ。きっと。

「だからさ、うちは囚われた金魚じゃなくて人魚になりたいんだよ。でも」
「でも ?」
「もしもうちが金魚だったら怜奈が救ってね」

言葉が詰まる。喉の奥が絞められたみたいになって、鼻がツンと痛くなった。
金魚は私の方だ。自分に壁を作ってプールに囚われている。
心美は前に進もうとしているのに。それなのに止めたいと思う心がある。
私は金魚だから、いつか人間になって救いに来て、なんて言わないけれど。

「分かった。救うよ」
「あはは、やった。あ、じゃあね」

心美と別れ、暗い住宅街を歩く。
突然何にも無くなったみたいな気持ちが襲ってきた。
...また涙が零れた。
止まらなくて、止まらなくて。
もう彼女に会えない訳じゃないのに。
明日だって、明後日だって会えるのに。
いつかぱったりと会えなくなる日が怖くて、苦しくて、寂しくて。


ああ、今年の夏は寂しい。寂しいんだ。

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【あとがき的な物】

書く書くって言っててすっかり遅くなってしまいました。金魚と人魚のお話です。
いつもふざけた物ばかり書いているので新鮮でした.....魚だけに (やかましい)

Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.93 )
日時: 2020/07/26 15:26
名前: ヨモツカミ (ID: u1PP3L2Y)

>>87おまささん
初参加ありがとうございます。
続きがあるんですね。終わったら感想書かせていただきます。

>>88リンちゃん
素敵なお友達ですね。人にもらった名前で活動し続けるのもなんだか素敵。
そうですね、上からなコメントになってしまいますが、前より描写自体も増えて表現力もついたように思います。この調子で頑張って欲しいなと思います!

>>91金鳳花さん
なるほど。
そうですね、切ないお話だけど、寂しすぎるような雰囲気じゃなくて、どこか温かみがあるような雰囲気でした。金鳳花さんの文章好きなので、8月も是非参加してほしいです。

>>92蜜ちゃん
真面目にシリアスな話なのにあとがきで台無しにしてきたなって思いました(笑)ふざけない話もかけるんですね!
中学から高校に上がると、必ず別れがありますよね。でも人間、どんなに離れてても案外会おうとすればまた会えるものです。だからそんなに悲観的になる必要はないよ、と思うけれど、会えなくなってしまう、と思い込んでしまうものですよね。それだけ大切な相手なんでしょうね。

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