雑談掲示板
- みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】
- 日時: 2022/06/30 06:43
- 名前: ヨモツカミ (ID: HJg.2TAk)
再始動予定につき調整中!
注意書き多くてきもいね、もっと気楽に書ける場にするから待っててくれ!
略してみんつく。題名の通り、みんなでSSを書いて投稿しよう! というスレです。SSの練習、作者同士の交流を目的とした場所になっております。投稿された作品に積極的に感想を言い合いましょう。稚拙な感想だから、と遠慮する必要はありません。思ったことを伝えてあげることが大切です。
優劣を競う場所ではありません。自分が上手くないと思うそこのあなたこそ、参加してみてほしい。この場で練習をしてみて、他の参加者様にアドバイスを求めてみてはいかがです? お互いに切磋琢磨しながら作品投稿が楽しめると素敵ですね。
自分はそれなりに書けると思ってるあなたは、いつもの自分と違う作風に挑戦してみるのも楽しいかもしれませんね。または、自分の持ち味をもっと伸ばすのも良いでしょう。みんつくに参加することで、新たな自分を見つけるキッカケになるといいなと思います。
読み専の方も大歓迎です。気に入った作品があれば積極的にコメントを残していただけるとスレが盛り上がります。当然、誹謗中傷や批判など、人が見て傷付く書き込みはNGです。常に思いやりの精神を持って書き込みましょう。
*作品の投稿は最低限ルールを守ってお願いします。
↓↓
・お題は毎月3つ出題します。投稿期間、文字数の制限はありません。ただし、お題に沿ってないSSの投稿はやめてください。そういうのは削除依頼を出します。
文字数について、制限はありませんがどんなに短くても140字くらい、長くても20000文字(4レス分)以内を目安にして下さい。守ってないから削除依頼、とかはしません。
・二次創作は禁止。ですが、ご自身の一次創作の番外編とかIfストーリーのようなものの投稿はOK。これを機に自創作の宣伝をするのもありですね。でも毎回自創作にまつわる作品を書くのは駄目です。たまにはいつもと違う作品を書きましょう。
・投稿するときは、作品タイトル、使用したお題について記載して下さい。作品について、内容やジャンルについての制限はありません。
小説カキコの「書き方・ルール」に従ったものであればなんでもカモン。小説カキコはそもそも全年齢なので、R18ぽい作品を投稿された場合には削除をお願いすることもあります。
また、人からコメントを貰いたくない人は、そのことを記載しておくこと。アドバイスや意見が欲しい人も同じように意思表示してください。ヨモツカミが積極的にコメントを残します(※毎回誰にでもそう出来るわけではないので期待しすぎないでください)
・ここに投稿した自分の作品を自分の短編集や他の小説投稿サイト等に投稿するのは全然OKですが、その場合は「ヨモツカミ主催のみんなでつくる短編集にて投稿したもの」と記載して頂けると嬉しいです。そういうの無しに投稿したのを見つけたときは、グチグチ言わせていただくのでご了承ください。
・荒らしについて。参加者様の作品を貶したり、馬鹿にしたり、みんつくにあまりにも関係のない書き込みをした場合、その他普通にアホなことをしたら荒らしと見なします。そういうのはただの痛々しいかまってちゃんです。私が対応しますので、皆さんは荒らしを見つけたら鼻で笑って、深く関わらずにヨモツカミに報告して下さい。
・同じお題でいくつも投稿することは、まあ3つくらいまでならいいと思います。1ヶ月に3つお題を用意するので、全制覇して頂いても構いません。
・ここは皆さんの交流を目的としたスレですが、作品や小説に関係のない雑談などをすると他の人の邪魔になるので、別のスレでやってください。
・お題のリクエストみたいなのも受け付けております。「こんなお題にしたら素敵なのでは」的なのを書き込んでくださった中でヨモツカミが気に入ったものは来月のお題、もしくは特別追加お題として使用させていただきます。お題のリクエストをするときは、その熱意も一緒に書き込んでくださるとヨモツカミが気に入りやすいです。
・みんつくで出題されたお題に沿った作品をここには投稿せずに別のスレで投稿するのはやめましょう。折角私が考えたお題なのにここで交流してくださらなかったら嫌な気分になります。
・お題が3つ書いてあるやつは三題噺です。そのうちのひとつだけピックアップして書くとかは違うので。違うので!💢
その他
ルールを読んでもわからないことは気軽にヨモツカミに相談してください。
*みんつく第1回
①毒
②「雨が降っていてくれて良かった」
③花、童話、苦い
*みんつく第2回
④寂しい夏
⑤「人って死んだら星になるんだよ」
⑥鈴、泡、青色
*みんつく第3回
⑦海洋生物
⑧「なにも、見えないんだ」
⑨狂気、激情、刃
*みんつく第4回
⑩逃げる
⑪「明日の月は綺麗でしょうね」
⑫彼岸花、神社、夕暮れ
*みんつく第5回
⑬アンドロイド
⑭「殺してやりたいくらいだ」
⑮窓、紅葉、友情
*みんつく第6回
⑯文化祭
⑰「笑ってしまうほど普通の人間だった」
⑱愛せばよかった、約束、心臓
*みんつく第7回
⑲きす
⑳「愛されたいと願うことは、罪ですか」
㉑嫉妬、鏡、縄
*目次
人:タイトル(お題)>>
Thimさん:小夜啼鳥と(お題③)>>181-182
むうさん:ビターチョコとコーヒー(お題⑲)>>183
心さん:君に贈る(お題⑭)>>184
黒狐さん:神の微笑みを、たらふく。(お題⑳)>>195
よもつかみ:燃えて灰になる(お題⑱)>>196
むうさん:宇宙人が1匹。(お題⑳)>>200
*第1回参加者まとめ
>>55
*第2回参加者まとめ
>>107
*第3回参加者まとめ
>>131
*第4回参加者まとめ
>>153
*第5回参加者まとめ
>>162
*第6回参加者まとめ
>>175
*第7回参加者まとめ
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Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.175 )
- 日時: 2021/02/01 20:38
- 名前: ヨモツカミ (ID: b4Zqa20o)
*第6回参加者まとめ
おまささん:An another automata(with its sarcasm)(お題⑬)>>166-168
12さん:>>129の続き>>169
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.177 )
- 日時: 2021/02/02 13:32
- 名前: ヨモツカミ (ID: IO4DrQxU)
>>176 muteRさん
はじめまして。興味を持ってくださってありがとうございます。好きなお題を選んでご自由に参加してください!
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.180 )
- 日時: 2021/02/05 19:45
- 名前: ヨモツカミ (ID: l0zvL9NI)
まず、そのお題は三題噺です。わかりづらくて申し訳ないです。「㉑嫉妬、鏡、縄」の要素を入れて書いてください。
お題からして違ったので内容は読んでませんが、自分の文章がおかしいのがわかっているならご自分で何度も読み返して直してはいかがでしょうか。
それから小説を真面目に書く気がお有りでしたら、小説の書き方の基礎についてご自分で学んでから出直すべきだと思います。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.181 )
- 日時: 2021/02/05 22:11
- 名前: Thim (ID: XIMmHpeQ)
>>5>>26 続き
棘を彼女の胸から抜き、そっと地面に横たえ、苦しみ一つない表情で眠る彼女を見つめます。
さっきまで、彼女の歌声があんなに辺りに響いていたのに。今はこの世から音が消えてしまったように、静かでした。
月が沈み、太陽が昇り始めて暫くしたころ。薔薇の木が悲し気に枝を揺らし始めました。
「あぁ、どうしましょう。小鳥は死んでしまった。せっかく薔薇が咲いたのに」
ぼんやりとしたまま揺れる枝の先を見ると、彼女が咲かせた赤い薔薇は、最期まで希望に満ち溢れていた彼女のように凛とした様子で咲いていました。
薔薇の木の嘆きの声は続きます。
「このままでは、青年に薔薇を届けられないわ。せっかく小鳥が咲かせたのに!」
その言葉に急激に脳にかかった靄が晴れていくように、意識がはっきりして行きました。
そしてピクリとも動かない彼女の体にすり寄り、頬を彼女の体に押し付けます。
まだ暖かいのに。
今にも目を開けて。「おはよう」なんて薔薇の木に言って、自分が咲かせた薔薇を見て、「なんて綺麗な薔薇なんでしょう」なんて飛んで驚いて、喜んで青年に届けに行きそうなのに。
彼女は目覚めない。あたりまえです。だって彼女の魂は既に黄泉の国へと渡ってしまったのだから。
彼女の体にすり寄ったせいで彼女の血が顔に少しついてしまった。頬から香る鉄臭い香りが、私の意識を一層覚醒させました。
「薔薇の木さん。その薔薇、私が届けに行きましょう」
私の言葉に、薔薇の木は驚きました。
「それは本当? 本当に薔薇を青年に届けて下さるの?」
「えぇ、必ず。私が、彼女の薔薇を彼の元へ届けて見せましょう」
薔薇の木は枝を震わせ、そして私の元へと赤い薔薇を持ってきてくれました。
あぁ。なんて強い香り。
街の花屋を通った時でさえ、これほどの匂いは嗅いだことがない。先ほどついた鉄の香りすらかき消す、甘くて、頭がくらくらする匂い。ずっと嗅いでいたら可笑しくなってしまいそう。
けれどその赤い薔薇は今までに見たどの花よりも美しく、そして街中で見た人間の子供が持っていた砂糖菓子なんかより、ずぅっと美味しそうに見えました。
可笑しいわよね。ただのお花なのに。
今にも私を刺してしまおうとでも言うように、小さな棘が無数にあったけれど、私はえいやと一思いにそれを咥え、そして彼の家へと走り出しました。
口に棘が刺さってとても痛かったけれど、それを離す事だけはしませんでした。時折香るくらくらする程の甘い香りが私の食欲を刺激したけれど、涎を垂らしながらも我慢してただ走りました。
青年の家は分かるけれど、彼がいつまでその家にいるかは分からなかったから。止まっている暇はありませんでした。
そうしてようやく青年の家に付き、ベランダに飛び乗り古ぼけた窓を覗き込むと、そこは丁度青年の部屋でした。彼は一枚の紙切れにペンを走らせ、時折ため息をついていました。
私はほっと安堵し、ベランダにそっと薔薇を傷つけないように置き、そして青年に気付かせるべく窓をひっかきます。
――開けて、開けて下さい。小鳥の薔薇を持ってきたのです。貴方が欲しがっていた、きっとあなたの愛する人も満足してくれる、何よりも綺麗な薔薇ですよ
そうしているとようやく彼は私に気が付きました。椅子から立ち上がってこちらへ向かってくる彼を見て、私は急いでベランダから飛び降り、近くの物陰へと隠れました。
「なんだ? さっき確かに……。あれ……こ、これは! 赤い薔薇だ!」
青年は無事に薔薇を見つけられたようでした。ずんと疲れたような沈んだ声からパッと明るく弾んだ声に変わり、その薔薇を拾い上げると嬉しそうに部屋へと戻って行きました。
もう一度窓を覗き込むとどったんばったんと騒がしく動き回り、大きな箱から洋服をアレでもないこれでもないとひっぱり出しては着て、ひっぱり出しては着てを繰り返すものだから、部屋は目も当てられないほど汚くなっていったけれど、一目で喜んでいるという事は分かりました。
――あぁ、よかった
私はその場を引き返しました。彼女の薔薇なら、きっとどんな人間だって美しいというはず。だからもう大丈夫だと。
踵を返す私の鼻に、ふわりと彼女の薔薇の残り香が香ってきます。毛並みについてしまったのかもしれない。何しろ、とても強いにおいだったから。
甘い、甘い、脳が蕩けそうなほどの匂いはずっとずっと取れないまま日は過ぎて、とうとう夜になりました。
◇◆◇◆
太陽が沈み月が昇り始めた時、私は我が妻にと狙ってくる殿方を避けて過ごしていました。
多くの方は強さを競うために戦っていましたが、そこで負けた方やマナーの悪い方は直接こちらへやってくるのです。
そして今も一匹、無作法な殿方がやってきました。
「何度も申し上げているように、私は強い方以外と番うつもりはありません」
その殿方は血のように赤い瞳を持っていた。だけど目立ったものと言えばそれ位で、それ以外は凡庸な方だった。確か戦いでも中盤辺りで敗れて居た筈。そんな殿方と番うわけにはいかない。この世界は弱肉強食。少しでも強い遺伝子を取り入れ、子どもを生かさないといけない。だからこの長きにわたる殿方たちの戦いをじっと待ってきたのですから。
私がその思いを伝えても「でも」「だって」と女々しく言い訳をする方を冷ややかに見つめていると、視界の隅に何かが映りました。
それは、目の前にいる彼の目なんかよりも美しく、綺麗な赤色をした薔薇。そう、あの青年が小鳥の薔薇を持って、動きづらそうな服を着て歩いていたのです。
顔は薔薇に負けず劣らず真っ赤に染まっていて、体が固まっているかのように不自然に歩いていました。
そして気づきました。彼は今からあの薔薇を意中の人に渡しに行くんだわ、と。
――そうだわ。少し後ついて行って見てみましょう。
そうと決まれば目の前の雄なんて意識の外。戸惑う彼を置いて、私は青年の後を追います。
自分の体の大きさならば態々隠れずとも人ごみで隠れるだろうけど、何となく見つからないように隠れて歩いてみる。そうして歩いていると前に、人間の子供がしていた“すぱいごっこ”なるものを思い出した。あの頃は人間とはなんて無駄で馬鹿な事をしているのだろうと思っていたけれど、なるほど。これは存外面白い物ね。
青年はずぅっとガチゴチに歩いている。まるで銅像が歩いているかのように。その姿に思わず笑ってしまいました。
大丈夫よ青年。あの子の薔薇ならば、どんな人間だろうと夢中になるに違いないのだから――
***
文字数オーバーで二つに分けました。次で完結です。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.182 )
- 日時: 2021/02/05 22:15
- 名前: Thim (ID: XIMmHpeQ)
>>5>>26>>181 続き
青年の後を追って、この丘の上にある大きな屋敷までやってきました。
(ここに住んでいるやつらは私たちの事が嫌いだから、見つかると大変な目にあうって、前に誰かから聞いた事があるからあまり近寄らないようにしていたのだけど……)
屋敷のお庭には沢山の草花が咲いていました。花屋で並んでいるような物も、見たことのない物もたくさんありました。恐らくこの屋敷の女は花が好きなのだろう。だから薔薇の花を欲したのだ。
だったらきっと喜ぶでしょう。顔も見た事もない女だけど、その女の顔が喜びに染まる姿は容易に想像出来ました。
――なのに
「何です、この薔薇は」
胸元に赤い石を付けた女は顔をゆがめてそう言いました。
青年は、呆けた顔で彼女の顔を見つめています。きっと、私も。なんでそんな顔をするのか分からなかった。だって、貴女が求めていたもののはずなのに。なのにどうしてそんな、汚物を見つけた時のような、道端で力尽きた仲間をみる様な顔をするの。
「なんだか変なにおいがするわ。それに色もくすんでいて、私のドレスが霞んでしまうでしょう。なんてものを持ってくるの?」
「そ、そんな……キミが赤い薔薇を持ってきた人と踊ると言ったんじゃないか! だから僕はこうやって」
「あら。私そんなこと言っていないわ。貴方の勘違いじゃなくって? それに私、このブローチをくださった方と踊ることになったの。貴方のようなセンスのない花を贈るような方じゃなく、綺麗な宝石を送って下さるような、素敵な方よ」
そう言って女は胸元の石――ブローチをそっと撫でました。頬は薔薇のように赤く色付いて、とろりと熔けてしまいそうな目がブローチを見ます。先ほどの醜悪な顔とはあまりにも違ったものだから、別人がそこにいるかと錯覚してしまいそうなほどでした。
「っ! な、なんてやつだ! か、金目のものにつられるなんて、この、汚らわしい売女め!」
「なっ、なんてことをおっしゃるの!?」
「うるさいうるさい! 僕をだましたくせに!」
「きゃあ! いやっ。だ、誰か!」
青年は顔を真っ赤にし、肩を怒らせ、女につかみかかりました。女は顔を青ざめさせながら必死に抵抗します。
「何をやっているんだ! ユリア、大丈夫かい?」
そこに一人の男がやってきました。その男は女の肩を抱き、青年を睨みつけました。女は男に縋りつくようにひしと抱き着きます。体を震わせて青年から身を隠すように、視界に入れないようにするさまは、あまりにも憐れでした。
「おい、誰かこの者をつまみ出せ!」
青年の脇に二人の男がやってきて、離せとわめく彼に聞く耳も持たずさっさと何処かへと行ってしまいました。
私はそれを眺める事しか出来ませんでした。何が起こっているのか分からなかったのです。あまりにも想像と違った現実に、呆けたまま抱き合ったままの男女を見つめていると……。
「本当に何て奴だ。あんな恰好で、あのように小汚い薔薇を持ってきた挙句に、彼女に手を出すとは」
「ははは、まあ彼奴のようなものにはあの薔薇がお似合いですとも。お嬢様大丈夫ですか?」
「え、えぇ。守ってくださってありがとう。……とても怖かったわ。それにあの薔薇、なんだか変な香りがしたの。鉄のような……」
「なんと。何かおかしなものが紛れ込んでいたかも知れぬ。受け取らなくて正解だったな」
「えぇ、あれならうちで咲いている薔薇の方が何倍もましね」
違いない。誰かが言ったその一言で、先まで騒然としていた場が一気に笑いに包まれました。
それを見た私は、私は――
「きゃあ! わ、私コイツ嫌いなの! 誰か早く追いやって!」
「この、不幸の象徴め! 出ていけ! 出ていかねばこうだぞ!」
「もういや。今日は散々だわっ」
◇◆◇◆
気が付けば、屋敷から遠く離れたゴミ捨て場にいました。動こうとすると体の節々が痛み、しばらく動けないほどでした。
それでも、ここにいたらまた誰かに蹴飛ばされてしまうかもしれないと、何とか体を起き上がらせて歩きます。どこか、安全な場所へ行かないと。
ぐったりとした足取りでとにかく前へ、前へと。もう気力も何も残っていなくて、でも生存本能に従って、ひたすらに歩いていました。そう、すぐ近くに馬車がやってきているとは気づかずに。
「あっ、ぶねぇな! ひいてしまう所だったぜお嬢さん」
いつの間にか、道路を横断していたようで、あとほんの少し遅ければ馬車にひき殺されていたところでした。馬車に乗ってひた髭ずらの男はわざわざ馬車から降りて私を持ち上げ、人通りが比較的少ない道路の脇へと連れていきました。私はぐったりと、なされるがまま。地面に下ろされた後はもう歩く気力も起きずに地面に倒れ伏せたまま。
そんな私を心配そうに男は見ていましたが、暫くしてまた馬車へ戻って走って行きます。私は何と無しにそれを見続けました。私のようなものにこんな事をするなんて、物珍しい人間もいるのものだと、そう思って。
その時。少し先の道に、あの青年が、薔薇を持って歩いているのが見えました。
「(彼だわ。薔薇を持っている! でも顔も真っ赤で、ふらふら歩いていて、とても危なっかしいわ)」
見えた青年は、迷子の子供のように顔を汁でぐしゃぐしゃにさせながら、ふらふらと千鳥足で歩いていました。だけど、あんな目にあったのに、小鳥の薔薇を持っていてくれたことが嬉しくて、最後の気力を振り絞り這うようにしながらも、青年の元へと向かいます。
向かってどうしたらいいのかは分からないけど、でもとにかく彼の元へ行かなくては。
しかし。
「っもう、うんざりだ! こんな、こんな薔薇、元から汚らしい色だと思っていたんだ。こんなもの、こんなもの!」
そう叫ぶと青年は薔薇を持った手を大きく振り上げ、勢いよく地面へ投げつけてしまったのです。意味の分からない叫び声をあげると頭を抱えてしゃがみこんでしまいました。
そこにあの馬車がやってきて、動こうとしない青年に大きな声で叫びます。
「オイ坊主! そこにいられたら曲がれねぇよ! ちょっとどいてくれや!」
「ひぃっ」
その大きな声に慄いて、青年は急いでその場を離れました。とても速い足取りで、こちらにやってきた青年は、私に気付かないまますぐそばを通り過ぎていきます。
「な、なんで、なんで僕だけがこんな目に。不幸だ、不幸すぎる。い、今に見ていろ。ヒック……ぜったいアイツらを見返せられるような、凄い研究者になってやるっ」
青年がいなくなったことで、馬車はようやく動き出し、青年が捨てた薔薇を――
グシャリ。
私が薔薇の所まで来れた時には、元の面影はありませんでした。泥にまみれ、見るに堪えない姿となっていました。あれ程綺麗だった薔薇は今や先までいたゴミ捨て場にあるのがふさわしい有様になってしまいました。もう、誰であってもこれを美しいだなんて言う事はないでしょう。
しかしそれでも、あの脳がくらくらする程の甘い香りは残っていました。
私は導かれるように、その薔薇をぱくりと口に含みます。
「ヴゥッ……!」
思わずはきだしてしまいそうな所を、何とか耐えて、噛みしめます。
薔薇は指すような苦みを放っていました。あれ程美味しそうな香りをしていた薔薇は、噛むたび泥やゴミを食べているようなえぐみを放ちます。
それでも、私は薔薇を食むことを辞めませんでした。人間たちが私のことをどんな目で見て居ようが、蹴り飛ばされようが、その場を離れませんでした。
そして最後のひとかけらを食べ終わった時。
――ピィヨ、ピィヨ
あぁ、名も知らない小鳥。貴女の恋というものはこんな味だったのね。
貴女をあの時食べてしまっていたら、貴女もこんな味がしたのかしら。
「ナ゛ァ、アァォ……」
=完=
とにかく忘れないうちに投稿しなきゃ!また消えるかも!と思って投稿したので、読み返しがまだです。なのでいろいろぐしゃぐしゃだと思います。すみません。明日、冷静になってから編集していきます。
私より先におかしなところを見つけられた方は、お手数ですがそっと教えていただけたら嬉しいです!
そして最後に、長らくお待たせしてしまって、本当にすみませんでした!
『小夜啼鳥と』これにて完結にございます!
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.183 )
- 日時: 2021/02/11 21:32
- 名前: むう (ID: QQ9u5.zA)
お久しぶりーす!
さて、久しぶりに投稿するぞ。
お題①「きす」よりタイトル「ビターチョコとコーヒー」
********
ずっと前から好きでした、なんて口が裂けても私は言えない。
ラブソングも、恋愛映画も大好きだけど、どこか作り物のような感じがしている。
それでもどこかで君を目で追っているこの気持ちに嘘はないだろう。
――たぶん。
告白とか、自分の気持ちを伝えるとか。
そういう目立つようなことをすぐにできるように
なれたらいいなと思っている反面で、自分には必要ないと距離を置いてしまっている。
「おーい椿木?」
「あ、はい!?」
私は文芸部に所属している。部員はたった三人の同好会のような部活だけど、人付き合いが苦手な自分には最適だった。部室にこもる本の匂いを嗅ぐたびに自分の居場所を改めて感じた。
隣にいた先輩は眼鏡の奥の目を細めて、きょとんと首をかしげる。そのしぐさに私の口の中に苦いものが混ざる。一つ上の吉野先輩。
幼なじみでもなんでもないけど、気づけば好きになっていました。――自分で勝手に。
「文化祭で出す、雑誌のイラストまだできてない?」
「あ、すみません……まだ、です。締め切りいつでしたっけ」
「あと三日後だけど……無理なら美術部員に頼んでみようと思ってる」
私の描いている絵はただの趣味だし、陰の付け方もデジタルイラストも全て感覚でやっているだけだから、美術部員と比べればポッと毛が生えたようなものだ。
それでも先輩は真っ先に私にこう言ってくれた。「絵を描いてくれないか」と。
「椿木先輩の絵ってすごく綺麗で、どうしたらそんなにうまくかけるんですか?」
「うーん、勘かな」
「それ絶対上手な人しか言えませんってー」
一個下の後輩である鈴ちゃんが素直に尋ねてくるけど、いつも私は適当なことを言ってはぐらかす。そう、私は全てにおいて適当に生きている。勉強もテストも、部活も恋も。
勉強は6割取れれば。テストもやれる範囲で。部活は全員入部制で。
恋はもう、流れに乗るまま。
みんながなんでそんなにグイグイいけるのかわからない。告白しました、OKもらいましたでウキウキしている子を見ると殴ってやろうかと思ってしまう。かといって「可愛いアクセ買いに行こ―」とはなかなかならない、変な壁が自分の中にある。
「まあ椿木がいてくれて助かったわ。部活は定員三人からだし」
「まぁ、本読むのは好きなので」
「そっか。コーヒー飲むか? 藤原も」
「あ、お願いします―」
いつから好きになったかなんて聞かないで下さいね、先輩。
気づけばこうでした。
なんでそんなに無気力なんだ、って怒らないで下さいね。
私だってやりたくてやっているわけではないんですよ。
友達の何人かが部活動や恋に熱中している中で私は一人家で漫画やテレビを見てダラダラしてるだけだし、なんかもうどうでもよくなっちゃったりする。そしてそれに慣れてきて、だんだん周りのことに億劫になって。
ああ、自分はどこがずれてるなって、いつも思う。
そして先輩も、こういうのは失礼だと思うけれどもどこか周りに無頓着で。どこか適当で。私よりはきっちりしているけど、テスト勉強はあんまりしてないらしいし、いつもなあなあで生きているとも言っていた。
じゃあ私と何が違うのかな。
渡された、コーヒーの入ったコップの中をぼんやりと眺めながら私は考える。これが私の恋なのだろうか。これが私の学校生活なのだろうか。なんとまあ起承転結のない、薄っぺらいストーリーだ。
キスもしたいと思わない。出来たとしてもへなへなの『きす』。
告白も、相手の名前も聞く気がないけれど。
こんな私でも好きな人がいましたって伝えたら世間は笑うだろうか。
その人も私と同じようなことを考えて生きていて、似てるなって思っていましたと言ったら、引かれたりしないだろうか。こんな恋でも、「それも恋だ」と言ってくれる人がいるだろうか。
あまり起伏のない毎日だけど、私の横で笑ってくれる先輩が好きだと、そうはっきり告げられるようになれば、私の中の悪い怪物もなくなるのかな。
――わかんないね。
〈完〉
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.184 )
- 日時: 2021/03/16 23:44
- 名前: 心◆sjk4CWI3ws (ID: JeNmIPUo)
>>172 ティムさん
ありがとございます! そう、なんだかんだで自分のやつ家族よりも長い時間を共にしてる説ありますからね(??)。大切にしてあげたい……
そしてこれはクリスマスに書こうと思ってたやつでした……よろしくお願いします…………ちょっとファンタジーなのかな。禁止ワード対策で言葉回しが迂遠になってる所があるかもです
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お題⑭「殺してやりたいくらいだ」
作品名「君に贈る」
吸血鬼の弱点とされるもの、それは聖水であったり日光であったり銀であったりする。
そのどれもが全ての家庭に揃っているかと言うとそうではない。しかし、この辺りの住人は昔から吸血鬼を恐れて暮らしてきた訳であるから、この三つのうちのひとつぐらいは家に常備してあるのだ。
だが、街外れに越してきたその家は特別貧しいようだった。何故か四人家族全員が農作業のひとつをする気配もなく、どこかへ働きに出ている気配もない。今なら解る、そんな家が高価な聖水や銀を買えるはずもなかったのだ。だが、生き残った少年には、それが酷く不当で残酷なことのように思えた。
それは聖夜、クリスマスの日の事である。疎まれ続けてきた吸血鬼であれど、その日くらいは祝宴を催したかったのだろう。彼ら彼女らが会場に選んだのは、その街外れの家であった。
結果から言うとするならば、その四人家族はひとりの少年を残して全員が死亡した。体内の血という血を吸われ喰らわれた結果である。しかしいかな吸血鬼とはいえ、体内の血を全て飲み干し喰らい尽くすなど、普段からすればありえない話ではあった。三人の血が特別好みなものであったのか、それともそうせざるを得ない何かがあったのか。
しかし、ひとり残った少年にとってその事由などどうでもいいことであったのである。
憎悪と恐怖が混ざりあったその場を発見した時、彼が何を目指し始めたのかは自明の理であった───
雪が降っていた。どこからかクリスマスの歌が聞こえてくる。それに加えてこどものはしゃぐ声と言うといささか定型であろうか。しかし、白い雪に緑や赤の電飾が色のついた影を落とす光景は、中々に美しいものである。
大通りを一歩抜けたところにある路地裏、そこには一転して静寂が落ちていた。雪が軋む微かな足音が二人分響いている。
「あなたのことが好き」
銀髪の少女は、目の前を行く男の背へ向かってそう告げた。赤と緑、色違いの両目が反応を伺うように細められる。男が足を止める気配がないからか、口元がどこか挑戦的に釣りあがった。自分の恐ろしさを知らぬから、こんな真似ができるのだ。少女はそう思考する。とはいえ今は年端も行かない少女の姿、それにこの男に翼は見えないのだったか。
口元から吐き出される息と同じくらい白い肌。そしてまるで少女と大人の女性の狭間のような、そんな美しさを持った怜悧な顔立ち。
およそ人間ではありえない、そう思わせるほどの美貌である。
完璧という言葉を体現したかのような少女、しかし異形が背中にひとつ。それは音もなく空気を揺らしては、降る雪を辺りに舞い散らせる。
それは翼。肩甲骨付近から生えているであろうそれは、まるで夜空を貼り付けたような、僅かなきらめきを伴っていた。およそ鳥のそれではない。どちらかというと蝙蝠(こうもり)に近い形状をしている。ならばそれは悪魔か、もしくは───吸血鬼と称される類いのもの。
数歩分は空いていた距離を、その翼をかすかに動かして詰める。空気が動き、重力に引かれて落ちていく雪がその向きを変えた。
「聞いてる?」
近くに少女が歩み寄った気配を悟りながらも歩みを止めず、答える素振りすら見せない青年に痺れを切らしたのか。彼女は青年を抱きこもうとするかのように腕を搦めた。それを振り払うことはせずに足を止めた彼、その黒の瞳へ微笑みながら己の顔を映りこませる。
可憐というよりは妖艶といった言葉が似合うその少女は、先程の続きを歌うように語り出した。
「お馬鹿さんなところ、ヘタレなところ。なのに意外と真面目なところ。全部大好きよ、ヒューゴ」
そう告げられて、ヒューゴと呼ばれた青年はくすくすと微笑んだ。頭が僅かに傾けられ、刷毛ではいたような銀色が混ざった黒髪を揺らす。
「僕はもしかして貶されているのかな? それにしてもこんな綺麗なひとにそんなことを言ってもらえるなんて、男冥利に尽きるというものだ……ねえ、お姫様」
彼女のゴシックロリータとでも形容できる服装を見てとってか、どこかからかうような調子を帯びて言葉が発せられた。
「あら、それは承諾してもらえるということ? 後、何度も言っているはずだわ……私の名前はミア。それ以外で呼ばないで」
「何をだい、と問いたいところだけれど、それはつまりきみがしつこく僕に言い続けてることでしょう? ならずっと無理って言っているよ、そろそろ諦めたら? ああ、きみの名前はそういう意味か。僕はもう既に私のもの、と」
「よく分かったわね、そういうことよ。名前の意味まで知ってる博識なところ、そういうのも好きよ」
ヒューゴは動揺の一欠片すらも見せずに、緩やかにミアと呼ばれた少女の腕を退けた。墨を垂らしたかのような黒の瞳を動かして、少女の全身をじっと見下ろす。数瞬後、彼が僅かに息を飲んだようにミアには感じられた。しかしそれはどうやら気のせいだったらしい。何もアクションを起こさない彼に拍子抜けして、吸血鬼の少女は次に告げる言葉を探す。
だが、彼女が口を開こうとするタイミングを読んだように、ヒューゴの方が話し出していた。
「そこで言葉に詰まるの? まあもう良いかな、飽きたなって感じはしていたけれど。……実はね、僕も君に婚約を申し入れようと思って、こんなものまで用意しちゃったのさ。愛してるよ、ミア」
その目の中に、足元の石畳を映しながら。ヒューゴはそう告げる。声音こそ優しく誠実なようでありこそすれ、口元には笑みの欠片すら浮かんでいない。瞳がす、と細まった。ポケットに右手を差し込んで、銀の光を纏う円環を取り出す。
「待って! それは」
「どうして?」
青年の華奢な身体を突き飛ばして離れようとするミアを酷く不思議がるように、かくりと彼は首を傾げる。大切なものを扱う手つきで、当然のように銀の指輪を少女の左手へ嵌めようとした。
が、それは寸前で叶わない。その細腕のどこにそんな力があるのかと思えるほどの強さで掴まれている左手、それをせめてもの抵抗とばかりに少女が握りこんだからだ。
「ね、どうして拒否するの? ミアだって結婚したかったんでしょう、僕と」
「私、銀は苦手で──違う、もしかしてあなたがあの時の子……!? そんな訳ない、だってあなたからはその気配がしないじゃない! いえ、うっすら……? でもこれぐらいなら誤差の範疇、ありえないでしょう!?」
ひどく動揺した様子で、少女はそう呟く。頭が振られると同時に、銀髪がきらきらと光を跳ね返した。
「僕にはお前の翼が見えた。それが証拠だ」
晴れた冬の朝よりも冷たい声で、青年はそう告げた。己の腕の中で、すっかり動揺しきっているのか激しく瞬いている少女を見下ろすと、その声がまるで嘘であったかのように微笑む。
「ミア、きみは……僕がヴァンパイアハンターの一族ではないと分かっていたんじゃないのか? 僕には吸血鬼を殺すことの出来る特別な力なんてない、ただの混ざり物だからね。だからきみにこれを贈るくらいしか出来ない───ああでも、半分ほど混ざってはいるから僕の血は美味いんじゃないかな」
吸血鬼狩りの一族、それは最盛期には貴族の地位すら与えられた特別な血筋。はるか昔、吸血鬼と交わって人外の力を得た一族である。その力が吸血鬼本人を滅することのできるものであったことは皮肉であるが、少なくとも彼ら彼女らはその力ゆえに人外であると罵られ続けることはなかった。むしろ守護者としての地位を確立することが出来たのであるから、それは僥倖(ぎょうこう)であっただろう。
だが、それが血に依存する力であるからこそ、一族は没落していった。当然、結婚を繰り返せば血は薄まる。一族内では純血を尊ぶ思想が強くなり、故に『混ざり物』は忌み嫌われてきた。本家の血筋を半分ほどしか継いでいないヒューゴは、一族の名を汚す存在という扱いだったのである。
だが、そうやって一族の血を残していかなければ──それをいくら彼らが認めなかろうと──吸血鬼の血という恩恵はいずれ消滅してしまう。
穢れと忌みながらも縋るしかないその矛盾、それを思ってか長広舌の最後はどこか嘲笑うような調子を帯びていた。
「純血……だったのね、あなたの家族は……! だから私たちは飲み干さざるを得なかった、あまりにも美味で、まるで麻薬のようだったから。銀も何も持っていなさそうで、この家ならと思って、ただ……」
私たちは生きたかっただけなのに、とかすれた声で吸血鬼の少女は嗚咽する。ただでさえ体力を消耗する冬に、好物を見つけたら。それがなんの防備もしていないとしたら。
生きるためだった。数滴貰って終わろうという話だったはずなのだ。だが、それを彼らの血は許さなかった。飲み干し喰らい尽くすことを、その味が強制したのだ。
「僕の家族だって生きたかったはずだ───死んでいい人間なんてひとりもいないんだから」
そう言うヒューゴの表情を、呆然と少女は見上げた。吸血鬼の血は、吸血鬼が飲んでも美味。そのことに気付いた飢えている吸血鬼の仲間たちは、たちまち同士討ちを始めた。三人の血を吸うなり人を喰らい尽くす獣へと変貌してしまった家族を見て、ミアは絶望したのだ。
危機を感じた少女は必死で逃げ惑って、実際吸われそうになりながらもどうにか逃げ延びた。
その追ってきた吸血鬼の中には、実の父も姉も母もいた。自分の血を吸おうと追いすがってきたのだ。自分はまだ吸っていなかったから良かった、と思う。序列に拘る家であったから、まだ少女の順番は回ってきていなかったのだ。
「家族、ですって? 馬鹿じゃないの、あなたは愛されてなんていなかったじゃない。だから、だからあなたは今生き残っているし、私は死ぬ羽目になってるのよ!! あなたが愛される努力をすればよかったのに……! ううん、あなたは私に感謝するべきなのよ……だって、あんなにも酷く扱われていたじゃない。憎かったでしょ、苦しかったでしょ!? 私たちが殺してあげたからあなたは地獄から抜け出せた! 違う!?」
「地獄かどうかは見方によるね。あの時も外に水汲みにいかされていたお陰で僕は生き残ったのだし……まあ確かに寒かったけれど」
鋭い刃が布を裁ち切るように、ヒューゴは告げる。真っ直ぐに黒と赤がぶつかり合い、先に力を失ったように彷徨(さまよ)ったのは黒の方であった。
刹那躊躇いつつも、それにね、と付け加える。抵抗する力はもうないのか、先程よりも幾分か柔らかくなった少女の手を緩く握りこみながら。
「愛したところで、あのひとたちがそれに応えてくれることはなかったと思うよ───彼らのプライドの高さは異常だったし、だからこそあの三人はきみらに殺されたのだと思う」
傲慢だった継母、実父でありながら冷たく当たってきた父、純血であることを誇示し続けていた義兄。彼らを愛してしまうことを、自分はきっと止められない。昔の幸せな頃に縋っていたいからだ。母様、と小さく呟いてみる。彼女が病で亡くなってから、全て狂ってしまった。
でも、それでも止められない。自分が愛していれば、その愛は返ってくるのではないかと思ってしまう。対価を期待する愛に意味はあるのか。理性ではそんなことはないと悟っていたのに。
それをはっきり言葉にして、ヒューゴは微笑んだ。
「だけれども、僕の方からそれをやめたら、僕が負けたみたいじゃないか。それに、僕はあのひとたちに恩義を感じていて……だからさ。彼らを殺した君たちを……」
それと同時、そっと彼女の白い指に指輪を通した。左手の薬指、心臓に繋がる血管が流れる場所。雪が彼女の黒服の上で煌めいている。
「ぁ……」
どくん、と心臓が脈打った。
からだがくずれていく。たかだか銀の小さな指輪ひとつとはいえ、左手の薬指である。血管を通って毒が回るみたいに、全身が脆くなっていくのが分かる。銀色の毒が、ゆっくりと、だが確かに彼女の身体を蝕んでゆく。まるで血管という血管全てに水銀を流し込んだみたいに、身体が重い。
無理だ、という思いが過った。この男を堕とすのも、生きるのも。最期にひとつぐらい望みが叶ってもいいと思ったのに。末の妹だったから、なにも願いは叶えてもらえなかった。綺麗な服を買ってほしいだとか、美味しいご飯が食べたいだとか、新鮮な血を吸わせてほしいだとか。
それでもそんな家族と共に生きたいと、そんな願いすら叶わなかったのに。
それに彼と結婚出来ればいくらでも血を吸う機会が訪れるであろうし、彼の血はきっと美味であろうという予感もあった。
だからひとつ、彼に夢を見たかった。
「ねえ、どのくらい? さっき、私のこと、愛してるって言った。どのくらい──どのくらい、私の事愛してる?」
縋るように、崩れかけているからだがその答えをもらえれば治るかのように。必死に、その貌を歪ませながら、吸血鬼は叫ぶ。
もらえなかったものをもらいたかった。極論、誰でもよかったのだ。
「────殺してやりたいくらいだ」
愛なんて分からない、という言葉は口の端に溶かして。彼女に向く自分の感情と呼べるものは、それくらいしかなかった。
かすかに息を飲む音。それは幻聴だったのかもしれない。なぜなら、次の瞬間には吸血鬼の身体は砂となって崩れ落ちていたから。
肢体が白色の砂になって、纏っていた黒いドレスが夜空のようなきらめく砂になり、銀髪がくすんだ灰色の砂粒と化す。漆黒の羽は、まるで風に吹き散らされる細かい砂のようになって、音も立てずに空中へ消えた。
先程まで彼女が立っていた場所に手を伸ばしてみても、ただ虚空を切るだけだ。
「吸血鬼は死んだら死骸すらも残らない、か」
ルビーとエメラルドが一つづつ、その場に落ちて雪を照らした。それは吸血鬼が希少とされ、また狩りの対象とされてきた理由の一つである───曰く、吸血鬼を銀で殺したなら、瞳からこの世に二つとない美しい宝石が取れると。
電飾と同じ色合いをしていながらも、遥かに高貴なそのふたつ。その隣に、雪を沈ませながら小さな銀の指輪が落下した。
それら三つを一度視界に収めると、青年はかすかにため息をついた。それが美しさに感嘆してのものなのか、ただ疲労によるものなのかは分からない。
次の瞬間には、何事もなかったかのように、ヒューゴはその場に背を向けて歩き出した。目的を果たして、どこへ行くとも知れずに。少女に思い入れなどなかったかのように、その顔にはなにひとつ表情は浮かばない。愛しているなんて。
混ざりものではない宝石と指輪、それらは確かに地面の上で煌めいていた。その三つを隠そうとするみたいに、静かに雪は降り積もる。
(約6000字/了)
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.185 )
- 日時: 2021/03/16 22:56
- 名前: ヨモツカミ (ID: HMFpzl4Y)
てぃむさん、むうちゃん、心ちゃん、参加ありがとう。またあとで感想書かせていただきます。
参加者ずっと募集中なので、ルールを読んで気軽に参加してください。
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