雑談掲示板

みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】
日時: 2022/06/30 06:43
名前: ヨモツカミ (ID: HJg.2TAk)

再始動予定につき調整中!
注意書き多くてきもいね、もっと気楽に書ける場にするから待っててくれ!



略してみんつく。題名の通り、みんなでSSを書いて投稿しよう! というスレです。SSの練習、作者同士の交流を目的とした場所になっております。投稿された作品に積極的に感想を言い合いましょう。稚拙な感想だから、と遠慮する必要はありません。思ったことを伝えてあげることが大切です。

優劣を競う場所ではありません。自分が上手くないと思うそこのあなたこそ、参加してみてほしい。この場で練習をしてみて、他の参加者様にアドバイスを求めてみてはいかがです? お互いに切磋琢磨しながら作品投稿が楽しめると素敵ですね。

自分はそれなりに書けると思ってるあなたは、いつもの自分と違う作風に挑戦してみるのも楽しいかもしれませんね。または、自分の持ち味をもっと伸ばすのも良いでしょう。みんつくに参加することで、新たな自分を見つけるキッカケになるといいなと思います。

読み専の方も大歓迎です。気に入った作品があれば積極的にコメントを残していただけるとスレが盛り上がります。当然、誹謗中傷や批判など、人が見て傷付く書き込みはNGです。常に思いやりの精神を持って書き込みましょう。


*作品の投稿は最低限ルールを守ってお願いします。
↓↓
・お題は毎月3つ出題します。投稿期間、文字数の制限はありません。ただし、お題に沿ってないSSの投稿はやめてください。そういうのは削除依頼を出します。
文字数について、制限はありませんがどんなに短くても140字くらい、長くても20000文字(4レス分)以内を目安にして下さい。守ってないから削除依頼、とかはしません。
・二次創作は禁止。ですが、ご自身の一次創作の番外編とかIfストーリーのようなものの投稿はOK。これを機に自創作の宣伝をするのもありですね。でも毎回自創作にまつわる作品を書くのは駄目です。たまにはいつもと違う作品を書きましょう。
・投稿するときは、作品タイトル、使用したお題について記載して下さい。作品について、内容やジャンルについての制限はありません。
小説カキコの「書き方・ルール」に従ったものであればなんでもカモン。小説カキコはそもそも全年齢なので、R18ぽい作品を投稿された場合には削除をお願いすることもあります。
また、人からコメントを貰いたくない人は、そのことを記載しておくこと。アドバイスや意見が欲しい人も同じように意思表示してください。ヨモツカミが積極的にコメントを残します(※毎回誰にでもそう出来るわけではないので期待しすぎないでください)
・ここに投稿した自分の作品を自分の短編集や他の小説投稿サイト等に投稿するのは全然OKですが、その場合は「ヨモツカミ主催のみんなでつくる短編集にて投稿したもの」と記載して頂けると嬉しいです。そういうの無しに投稿したのを見つけたときは、グチグチ言わせていただくのでご了承ください。
・荒らしについて。参加者様の作品を貶したり、馬鹿にしたり、みんつくにあまりにも関係のない書き込みをした場合、その他普通にアホなことをしたら荒らしと見なします。そういうのはただの痛々しいかまってちゃんです。私が対応しますので、皆さんは荒らしを見つけたら鼻で笑って、深く関わらずにヨモツカミに報告して下さい。
・同じお題でいくつも投稿することは、まあ3つくらいまでならいいと思います。1ヶ月に3つお題を用意するので、全制覇して頂いても構いません。
・ここは皆さんの交流を目的としたスレですが、作品や小説に関係のない雑談などをすると他の人の邪魔になるので、別のスレでやってください。
・お題のリクエストみたいなのも受け付けております。「こんなお題にしたら素敵なのでは」的なのを書き込んでくださった中でヨモツカミが気に入ったものは来月のお題、もしくは特別追加お題として使用させていただきます。お題のリクエストをするときは、その熱意も一緒に書き込んでくださるとヨモツカミが気に入りやすいです。
・みんつくで出題されたお題に沿った作品をここには投稿せずに別のスレで投稿するのはやめましょう。折角私が考えたお題なのにここで交流してくださらなかったら嫌な気分になります。
・お題が3つ書いてあるやつは三題噺です。そのうちのひとつだけピックアップして書くとかは違うので。違うので!💢



その他
ルールを読んでもわからないことは気軽にヨモツカミに相談してください。


*みんつく第1回
①毒
②「雨が降っていてくれて良かった」
③花、童話、苦い

*みんつく第2回
④寂しい夏
⑤「人って死んだら星になるんだよ」
⑥鈴、泡、青色

*みんつく第3回
⑦海洋生物
⑧「なにも、見えないんだ」
⑨狂気、激情、刃

*みんつく第4回
⑩逃げる
⑪「明日の月は綺麗でしょうね」
⑫彼岸花、神社、夕暮れ

*みんつく第5回
⑬アンドロイド
⑭「殺してやりたいくらいだ」
⑮窓、紅葉、友情

*みんつく第6回
⑯文化祭
⑰「笑ってしまうほど普通の人間だった」
⑱愛せばよかった、約束、心臓

*みんつく第7回
⑲きす
⑳「愛されたいと願うことは、罪ですか」
㉑嫉妬、鏡、縄

*目次
人:タイトル(お題)>>
Thimさん:小夜啼鳥と(お題③)>>181-182
むうさん:ビターチョコとコーヒー(お題⑲)>>183
心さん:君に贈る(お題⑭)>>184
黒狐さん:神の微笑みを、たらふく。(お題⑳)>>195
よもつかみ:燃えて灰になる(お題⑱)>>196
むうさん:宇宙人が1匹。(お題⑳)>>200



*第1回参加者まとめ
>>55
*第2回参加者まとめ
>>107
*第3回参加者まとめ
>>131
*第4回参加者まとめ
>>153
*第5回参加者まとめ
>>162
*第6回参加者まとめ
>>175
*第7回参加者まとめ

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Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.74 )
日時: 2020/07/08 00:42
名前: 心◆sjk4CWI3ws (ID: 2WotnGCk)

感想へ返信を。

>>69  よもさんへ
感想ありがとうございます。ふへへへ、哀愁! 感じてくれてなによりです。そこを今回は頑張りました。
寂しい夏、って聞いたときにやっぱ部活だな……と思ったところが始まりです。
感想返すの遅くなってごめんなさい

>>72  むうさんへ
感想ありがとうございます。流石って言ってもらえて大変嬉しいです。そうなんですよね、人がいないと寂しい。部活って特にそうで、もうなんかそのどうしようも無い感じを現せたらいいな、と思って。
フフフフフフ、そんなに長くないんですが……夏の暑い感じと、静まり返ってる感じに引き込まれてくれれば(?)幸いです。

Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.75 )
日時: 2020/07/11 09:22
名前: ヨモツカミ (ID: ph.qpJs.)

>>71卯さん
そこまで重い感情の関係だなって、初見でわかる感じではなかった気もするので、もっと深い繋がりがあったなら、事細かに描写してみてもいいんじゃないかなと思いました。
私も女子同士の繋がり大好きなので、次回の参加を楽しみに待っております!

>>61千葉里絵さん
お久しぶりです、参加ありがとうございます。
種族を超えた愛情、という時点で障害はいくつもあるでしょうから、最終的に少し悲しい形で終わるのがなんとなく予想できていて、やっぱり切ないですね。
それでも確かに二人が愛し合っていたなら、悲愛も美しいことでしょう。

>>63ひにゃりんさん
あ、途中なのか。ちょいちょい途中で投稿される方いるので、大丈夫ですよ。
ただ、続きが気になるからみんな最後まで書いてから投稿してほしいなとおもったりする。別に投稿期限無いんだから。


また少しずつ感想返していきます。返信とか、作品に対する語りとか聞けると楽しいです。

Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.76 )
日時: 2020/07/13 21:15
名前: ひにゃりん (ID: VV1SbMFQ)

記憶の星空、完結させました!

Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.77 )
日時: 2020/07/20 15:52
名前: ライター◆sjk4CWI3ws (ID: x/6n8l/c)

お題④「寂しい夏」
タイトル「その夏、僕は。」


「小さな町に住む青年の不思議な夏を写した二枚の寂しい銀幕です。」

 ポスターに描かれたのは黒髪の少女と若い男。そして、そこにはこんな文字が印刷されております。とても寂しくて、どうしようもない夏の夕焼けのシーンからその映画は始まるのです。
 ───その夏、僕は。



 夕焼けに沈む外の街から、微かに太鼓の音と人のざわめきが響いていた。六畳の部屋で全開にされた窓から吹き込む風が、カーテンを揺らしている。テレビは付けっぱなしになっていて、部屋を淡く照らしていた。その小さなテレビから、ニュースキャスターの若い女性の声が流れてくる。煩く外で鳴くひぐらしの声で途切れ途切れにしか聞こえないが、そもそもテレビの持ち主は居眠りをしているらしい。

「今年の芥川賞───いたのは、────先生の───です。デビュー作は、───の『やまなし』───作品で、タイトルは『その夏、僕は。』────」

 寝返りを打った男が、テレビのリモコンの上にのしかかる。テレビがぶつりと切れて、部屋の明るさががくりと下がる。その時吹き込んだ強烈な風が、机の上に投げ出されていた原稿用紙の束を部屋に舞わせた。



 僕がクラムボンと出会ったのは、酷く蒸し暑い夏の夜だった。

 その日はちょうど夏祭りの日で、なにかネタがないかと売れない物書きの僕は外に出た。僕がそれを志したのは、かつて宮沢賢治の作品の美しさに触れたからだ。特に「やまなし」は素晴らしい。文章から伝わってくる、水底の美しさ。光の瞬く様すらも、この目で見ているかのようだ。同じ岩手に住んでいるからこそ、その憧憬の念は益々強まった。僕は鈴木敏子氏と同じくクラムボンは泡だと思っている。

 夏祭りに出かけた僕は、人の多さと暑さに参ってしまい、ふらふらと近くの川辺へと歩いていっていた。どこか遠くで太鼓の音がする。淡い提灯の光が川に反射して揺らいでいた。河川敷に腰を下ろして、僕はぼけーっと揺れる水面を眺めていた。周りには誰かといる者たち。一人だ、僕は。
 祭りというのは不思議だ。何処か別の世界がこの世界に重なるように、人は騒いで歌う。もし今僕が居るここが、他の世界とつながっていればな、と思う。打ち上がる花火が、川に映り込んでいた。この世と何処かの境界が薄くなって、此処は本当に異世界であるような。まるでそう、やまなしに登場する幻燈の世界のような。そんな気がする。
 その時、不意に水面が跳ねたような気がした。キラキラと舞う水滴を確かに僕は見た。僕は底知れない何かを感じて、吸い寄せられるように川岸まで降りていく。

 そこにいたのは、美しい黒髪の少女だった。

 彼女は何も喋らなかった。ぺたんと地面に座り込んでいる。川から現れたのか、それともここで倒れていたのか。だけど、彼女は救いを求めるような目で僕のことを見ていた気がした。先程のふらふらした思考も相まって、僕は彼女へ手を伸ばして問いかけた。

「大丈夫?」

 そう言われた彼女は、少し戸惑っているように思えた。僕の手に彼女の手がふれて、ゆっくりと全身が顕になる。薄い色合いの浴衣のような衣と、長い髪。僕などがこの淡くて儚い右手を握りしめたら、泡と融けてしまいそうだ。

「…………わた、し……」

 髪を揺らして、少女は懸命に喋ろうとしていた。

「無理しなくていいから、えっと……名前、は?」

 何かカッコつけたことを言おうとしても、言葉が出てこない。それにしても端正な顔立ちの少女だった。長い睫毛と、うっすらと煌めく黒の瞳。周りが水に濡れている。ならば本当に川から現れたのだろうか。そこまで来るといよいよ物書きの妄想だ。

「…………………………クラ…………」
 
 口をぱくぱくと動かして、必死に言葉を紡ごうとしている。だけどとても無理をしているように見えて、僕は慌てて少女に言った。

「クラ? えーっと、くらら、とかかな……最近の子はそう言う名前の子も多いって聞くし……」

 自分で言いながらも黒髪にはあまり合わないかな、と思ったけれど。そう言いながら、僕は笑った。───彼女が何であるかも知らずに。

 
 ────あれから、一週間が経つ。何も彼女が出自について話さないので、僕は彼女を家に連れ帰ることにした。祭りでたくさんの人が出ていたのが幸いしたのか、僕らはだれにも咎められることなくアパートに着いた。
 くららは暑さに弱いらしく、僕のエアコンなんてついていない部屋ではすぐに体調を悪くしていた。だから、僕がバイトに出ている間彼女に図書館に待っていて貰う。二人、というのは楽しかった。
 くららはよく笑う。いつもきらきらした笑みを見せている。僕のつまらない現実という日々は、どうやら彼女のおかげで妄想にしろ何にしろ華やかなものになっていった。



 ────一年が経った。再び、夏祭りがやってくる。もう僕らは良い友達になっていて、彼女も大分喋れるようになって来ていた。だけど、彼女は何も明かさない。時折悲しげな顔をして、外を見ている。彼女のそんな行動を見て、僕はもしかしてかぐや姫なんじゃなかろうかと思っていた。だが、それにしては早い。まだ一ヶ月ほどある筈だ。
 夏祭りに僕らは繰り出して、案の定人酔いした。くららも目を回していて、僕は彼女を連れてあの川の前に立った。長い黒髪を揺らして、去年と同じ着物で。
 彼女は、泣きながら笑った。

「ごめんなさい。ありがとう。」

 どこかで打ち上がる、去年と同じ花火が。この世界は幻燈であるような。そんな感覚が、蘇る。

「待って……待って、くら……!」

 その時、僕は気付いた。

 彼女こそが、クラムボンなのだと。

 泡のように儚くて淡くて、そして幻燈。彼女に、宮沢賢治が、クラムボンという名前を与えたのだ。だから、彼女は、僕にクラと言ったのだ。彼もまた、これを見た。そして、あの『やまなし』は生まれたと仮定するならば。僕に出来ることは。

「クラムボン!」

 叫ぶ。消えてしまうのだ、彼女は。名前を呼んで、引き止めたい。寂しい、僕はそうなったら絶対に寂しい。どうしようもない。そんなことを言いたいはずなのに、僕は彼女の名を叫ぶことしか出来ない。

 『クラムボンはかぷかぷわらったよ。』

 かぷかぷ。その形容が相応しい笑みを見せて、彼女は川へ消えた。泡が弾けて、一瞬僕の視界が塞がる。そして跡形もなく、何も無かったように。

「わらった。」

 ぱっと空に花火が咲き、にわかに僕しかいない河川敷を照らしだした。

 それから、六畳のせまっ苦しいアパートの一室に駆け戻って、僕は原稿用紙を取りだした。彼女は確かにここにいた。机の上に叩きつけ、ペンを探し出す。最初の頃に買って、それ以来パソコンで執筆のような事をしていたので使わなかったものだ。うっすらと被った埃を払いのけ、僕はペンを握り、最初の一行を書き始める。僕による、僕の為の、僕の物語。僕が、彼女はここにいたことを証明するための物語。


 僕がクラムボンと出会ったのは、酷く蒸し暑い夏の夜だった。



 バサバサと舞い落ちた原稿用紙は、男の上に積もった。さほど枚数はないが、埋め尽くす程に入れられた赤のチェックが、彼のこの作品に対する情熱を物語っていた。物書きと言うのは、こういう物なのだろう。どうしようもなく囚われて、ただ何かのために狂ったように文字を紡ぐ。
 いつの間にか蝉は鳴き止み、町は夜へ沈み込み。男の寝息だけが静かに響いていた。
                                               


「その男についての銀幕はこれでおしまいであります。」

 映画のエンドロールの最後に映された文字は、観客の人々の印象にとても良く残りました。


─────ここから後書きです────────────
 めっちゃ書きたいものをかけました。分かりにくくなってたらすいません。あと私の書くSSお題要素薄いのは定期だと思うのです。
 長め。

Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.78 )
日時: 2020/07/18 08:05
名前: ヨモツカミ (ID: qjlG8/Oc)

そこにあなたが見えるのだ。

 この世の終わりみたいに、星々は瞬いている。終わった命を叫んでるみたいだ。実際に、このあまねく光の一つ一つが声なのだろう。
 我々は生きていたのだと、声高らかに。叫んでいる。
 そこにあなたが見えるのだ。





「死体を見に行こうよ」

 いつも突拍子もないことを言うあなたが、今回ばかりはずば抜けておかしなことを口にした。何だって、と聞き返すべきか、もういっそ聞かなかったことにしようか迷った末、私は困ったように肩を竦めて聞き返すことを選んだ。

「人って死んだら星になるんだって。あんたが言ってたんじゃん」

 だから天上の星々は死体。夜空はあまねく死体遺棄現場。あなたはそういうことが言いたいのだろう。
 私が人の死後が星になるっていうのは、そういう意味で言ったわけではないのだが。もっとロマンチックな意味合いを混ぜていたのに、星空を死体と表現することで、一気に生臭くてグロテスクなものに変わってしまう。言葉の力を侮らないでほしいものだ。

「でも、星を見に行くなんて。急にどうしたの」

 こう見えても、私達は天文部の部員だった。たった二人で構成された、殆どそれらしい活動もしていない幽霊部員達。一年生のときに先輩たちと一緒に天体観測を行ったことはある。でも、活動はそれっきり。先輩達が卒業してからは新しい部員が入ってくることもなかったし、元々いた部員もやめていったし、気が付いたら私は形だけの部長になっていて、彼女が副部長になっていたのだっけ。
 でも、本当にそれだけ。元々星にそれほど興味があったわけでもない私達が、再び望遠鏡を覗き込むことはなかった。高校三年生の夏、この日を迎えるまでは。

「活動なんかほぼしてなかったけどさ、わたしたち天文部でしょ? 最後くらい、それらしいことしたいと思わない?」

 思い出づくりがしたいとか、そういうことを彼女は言いたいらしかった。悪くない提案だと、私も思えた。星が特別好きなわけじゃない私達でも、一年生のときに先輩たちと見た空の美しさは知っていたから。
 それじゃあ、今週の土曜日。夜の八時に学校に集合。彼女は勝手に決めた。私はその日が晴れるかどうかも知らないのに。
 あとで土曜の八時の天気予報を調べると、その時間に丁度水瓶座流星群が見れるのだと知った。偶然とは思えないので、彼女はそれを知っていたのだろう。下調べはバッチリだったわけか。死体を見ようだなんてロマンスの欠片もないことを口にした割には、素敵な思考回路をしている。
 私はただ、彼女と過ごす土曜の八時を楽しみに待った。





「先に学校で待ってるよ」

 通話口の彼女の声はそう言っていた。お互いの家もそう遠くないのに、むしろ学校のほうが遠いくらいなのに、どうして私達は別々に学校に集合しているのだろう。そんな疑問を抱えながらも、私は一人で電車に乗り込んだ。
 そういえば、電話で聞いた彼女の声にはやけに元気がなかったような気がする。気のせいだ、と言われればそれまでなのだが、どうにもそれが胸に引っかかった。喉に刺さった魚の小骨みたいにチクリと痛みを伴い、そこにあり続けようとする。どうしてこんなことが、そんなにも気になるのだろう。謎の胸騒ぎに、思考が乱される。
 きっと、そんなに心配することではないのだ。だって、ただ単に友人の声色に少し覇気がなかっただけなんだ。そういうときだって、たまにはあるだろう。でもどうしてこんなに違和感があるのか。
 わからないことにもどかしさを抱きつつ、電車の外を眺める。既に暮方の空は、深い青とオレンジが入り混じった不思議な色をしていた。そこに、点々と星の灯りが見える。既に美しい空だと言えたが、これから完全に陽が落ちて、夜の闇に輝く星は、もっと美しいものとなるのだ。私達は、それを見に行く。
 天文部なんて、形だけの部活動だった。でも、入ってよかったと思える。高校生活の思い出なんて、振り返れば辛かったこと、楽しかったこと、なんだってあった。そのうちで、親友である彼女と過ごした時間は一番長かったかもしれない。そんな大切な友と見る星空に、思いを馳せた。
 きっと、素敵な夜になる。
 電車に揺られながら、まだ着かぬかと心を踊らせた。あなたと過ごす時間が、私にとってどれだけ大切なものかなんて、あなたは知らないだろう。隣にいるだけで嬉しくなるこの気持ちなんて、知らないだろう。別にそれで構わない。それでも、私にとってのあなたは、かけがえのない友達なのだ。
 高校の最寄り駅についたので、電車を降りる。本当はもっと近いところで待ち合わせをすればよかったのに。そうすれば、駅から学校までの道のりだって一緒に過ごせた。
 ああでも。もしかしたら、望遠鏡の準備などを先に済ませるつもりだから、集合場所を学校に選んだのかもしれない。彼女の思惑はわからない。まあでも、なんでもいいだろう。
 学校に着くと、彼女にSNSでメッセージを送った。「今どこにいるの」と。返信はすぐにきて、「屋上で待っている」とのことだった。
 私は暗い廊下をスマホの明かりで照らしながら進み、階段を上がっていく。土曜日だけど、この時間では部活に来ている生徒もほとんど帰ってしまっているため、何処も消灯されていた。暗い廊下は酷く不気味に思えて、彼女と一緒なら怖さも和らいだのに、と少しだけ不満を抱く。でも彼女はこの真っ暗な校舎を一人で歩いたのだろう。彼女だって、私と同じように恐怖を抱いたのではないか。どうだろう、あの子は暗闇を恐れるようなタイプではなかった気もする。文化祭のお化け屋敷を意気揚々と進んでいた彼女の背中を思い出して、どうせ私は彼女より臆病者ですよ、なんて一人で勝手にひねくれる。
 屋上に辿り着くと、人の気配は無かった。誰もいないなんてことはないだろう、彼女は先に来ているはずなのだから。そうやって見回したら、彼女は確かにここにいた。

「……え?」

 フェンスの、向こう側に。
 息を呑む。見間違いではない、確かに彼女はフェンスの向こう側、一歩でも踏み出せば終わってしまう、屋上のギリギリのところに立っている。
 何をしているの、冗談でも面白くないよ、危ないよ。そんな声もうまく出ないほどに、私の心臓はバクバクと跳ねていた。

「あ。やっと来たね」

 彼女はこちらに気付くと、いつも通りに笑って、手を振る。なんでもないことみたいな笑顔が、このときばかりは不気味に映る。

「なんのつもりなの……危ないよ」
「だから、死体見に行こうって言ったじゃん」
「……何を言ってるのか、全然わかんないよ。とにかく早く戻っておいで。そんなとこにいたら、落ちちゃう」

 彼女は微笑むばかりで、こちらに戻ってくる様子はない。なんのつもりなのだろう。わからない、親友なのに、何を考えているか検討もつかない。不安で仕方がなかった。怖い。彼女を失うかもしれない。そればかりが私の中をぐるぐると回っていた。
 私は自分の足じゃないみたいに力の入らない足でなんとか彼女との距離を詰める。腕を掴め。こちら側に引き寄せれば、きっと安全が確保されて。大丈夫。
 でも一言、親友が「来ないで」と口にしたから、私達の距離は数メートル離れたまま、縮まらない。

「あんたと過ごせる日々が終わっちゃうならさ。せめて星になって、あんたに観測してほしいなとか。思っちゃったんだよねえ」
「何言ってるか、わからないよ。ねえ、やめて。お願い、やめてよ……」

 普段通りの口調で言うから、日常会話みたいに聞こえる。でもこれは、人の命がかかった最後の会話だ。それがわかっているから、私はとうとう泣きだしてしまった。涙で頬を濡らしながら、懇願する。
 彼女は飛び降りる気なんだ。どうして。理由なんてわからない。でも、やめさせなければならない。わかってはいるものの、方法が何一つわからなかった。
 行かないで、行かないで。うわ言みたいに繰り返すのに。
 言葉は何一つあなたには届かないのか。

「必ず、わたしを見つけてね」

 ああ。声も上げられずに手を伸ばしたが、全然届きそうもない。彼女はフェンスを軽く押して、その弾みでふわりと傾いていく。全ての出来事が、その瞬間だけスローモーションで過ぎていった。
 あなたの長い髪が揺れている。制服のスカートが翻る。長い脚が宙に投げ出される。細い腕が、バイバイって言うみたいに振られていた。
 そうして、あなたは満面の笑みで、でも泣いていた。憑き物が晴れたみたいな清々しい笑顔が、涙で濡れていた。どうしてそんな顔をしたのか、その理由もわからないうちに、彼女は空に投げ出される。
 もう、逝ってしまった。

「……なんで」

 力の完全に抜けきった足では立っていられない。私はその場にぺたんと座り込んだ。心臓はもう、狂ったみたいに胸を叩いている。親友が落ちた。死んだのだ。目の前にいたのに、助けることも止めることもできなくて、どうして、なんで、と自分を責め立てる。
 電車の中で、彼女の声に元気がないのがやけに気になったのは。なのに、私は何もしなかった。何もできなかった。あなたは、元々今日この瞬間死ぬつもりだったのか。どうしてなの。何か辛いことがあったなら、私に話してくれれば、力になれたかもしれないのに。
 それとも、何もなかったから私にも話さずに逝ってしまったのだろうか。
 彼女は純粋に、星になりたかったのかもしれない。この夜空で輝く、あまねく光の一つに。
 ああ、それなら酷い人だ。
 私はぼんやりと夜空を見上げた。薄暗い闇の中、散りばめられた光が自由に輝いている。この一つ一つが、誰かの命であると。そう言ったのは私だった。
 ならば、ここに彼女もいるのだろうか。星の海の中で、私に見つけられようと、光を放っているのだろう。
 泣きながら見上げていると、強い光が空を横切った。そうか、今日は流星群が見えるんだっけ。





 あれから私は高校を卒業して、大人になって、それでも夜空を見上げるたびに、色濃くあなたのことを思い出すのだ。
 星に詳しいわけじゃない私には、この光の一つ一つの名前はよくわからない。配置にすら星座という名前があるが、それだって詳しくはない。だから勝手に決めた星の並びがある。
 夏が来ると、必ず見えるのだ。それはきっと、私にだけ見えるあなたという星座。
 結局あなたが何故命を絶ったのかはわからないまま。遺書だってなかったから、誰も何も知らない。私すら知らないのだ。
 でも、あなたはここにいる。人は死んだら星になるから。


***
お題⑤
実はこの作品はコメライで活動してらっしゃる河童さんに案を頂いて書きました。死体を見に行く女子高生の話を読みたかった私達の、半合作みたいな。楽しかったです。

Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.79 )
日時: 2020/07/18 07:47
名前: サニ。◆6owQRz8NsM (ID: 8.aLOQP.)

お題「人って死んだら星になるんだよ」
タイトル「クズの細道」

(※閲覧注意)


 親は子供に無償の愛を捧げる。子供は親に無償の愛を還す。ああなんと素晴らしきかな親子愛。だがそんなものは砂糖よりも、甘ったるい。現実は泥水と雑菌にまみれた水道水よりドス黒い。親は子供を裏切り、子供は親を切り捨てる。それは至極普通のことだ。余程のことがない限りは、歳を重ねるにつれ、互いが煩わしい存在となる。
 だがそれがもっと早い段階で『起きて』いたらどうだろうか。

「人って死んだら星になるんだよ」

 無垢な子供にそう語りかけるのは、名も知らぬ大人。その大人は今にも命の灯火が消えかけている所だった。何を思ったか通りがかりのその子供に語り始めたのだ。
 子供の服はぼろぼろで、髪の毛もお世辞に綺麗だとは言えなかった。傍から見れば『孤児だ』と言われてもおかしくはないだろう。そんな子供に、死にかけの大人は話し続ける。

「だから、今死んだとしても、夜にはお星様になっているから、怖くないのさ。キラキラ輝いて……生きてるうちに出来なかったことが、お星様になれば出来る。そう、輝くってことが」

 子供は何も話さない。ただ黙ってその大人の語りを聞くのみ。目はぼんやりと、その者の瞳を見つめていた。

「これからもうじき死ぬけれど、お星さまになればみんな一緒なんだ。みんな一緒に夜空の点々になる。そこには性別も貧富も何も無い……」

 やがてゆっくりと声が小さくなっていき、大人はついにその『火』を消した。何も語らなくなった大人を暫くじっと見つめた後、ぼろぼろの子供はその場からふらりと立ち去った。

 子供がたどり着いた場所は、かつて暖かな家庭があったはずの家。今そこにあるのは、毎日毎日違う男を連れ込んでは事を致している『母』と、毎日毎日八つ当たりをしてくる『父』。アルコールが強い酒を無理やり飲ませたり、快楽に狂うさまを見せつけたり。まさにこの世の地獄の縮図がそこにあった。
 扉を開けば父が母を殴り付ける光景。子供が入ってきたことに気づいていないのだろう、革ベルトや酒瓶で殴り続けている。母は母で嫌々と泣き叫ぶばかり。その下にころがっていたのは顔も知らない別の男。今日もまた連れ込んでいたのだろう。
 だけど、それはもう今日で終わり。だって今日の夜からは、『みんなおなじ』なのだから。

 子供は台所から『包丁』を手に取ると、真っ先に父を深く刺し貫いた。

 1回では終わらない。何度も何度も、刺す、刺す、刺す。砂場をスコップで掘るように、刺す、刺す、刺す。刺す、刺す、刺す。そして引き抜く。
 父が終わったら、今度は母も、見知らぬ男も同じように。刺す、刺す、刺す。原型など分からぬように。刺す、刺す、刺す。刺す、刺す、刺す。

ぶしゅ、ぐちゅっ、ぐちゃ、ぶちゅっ、ぬちゃ、ぬちゃ、

ずるぅり。

 さて最後の仕上げだ。みんな一緒なら、そう自分も『同じ』にならなければならない。真っ赤に染まった包丁の切っ先を、自らの首に向ける。これでようやく『ぴかぴかになれる』。


「きょうから、ぼくも、おほしさま」


 その日の空に輝く星は、やけに『赤く輝いていた』。



本編執筆中の息抜きに。
やっぱグロくなったり後味が悪いのはご愛嬌ってことでひとつ(コラ)。

Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.80 )
日時: 2020/07/18 07:59
名前: ヨモツカミ (ID: qjlG8/Oc)

>>63ひにゃりんさん
ちゃんと完成させたんですね! すごい。
自分に価値を見いだせない主人公が衝動的に描いた夜空。その中に浮かぶ、今では存在しない星。すごく素敵なシチュエーションだなと思います。
ただちょっと描写が少なくてわかりづらいところも多々あるように思うので、後自分でも読み返して丁寧に描写を増やして見るといいかもしれません。

>>77心ちゃん
すごい好きなお話でした。こういう夏の話が読みたかったんだよ!
クラムボンの本当の正体はなんだったのか、彼女はどこに消えてしまったのか。不明な点は多いですが、それは敢えて明かされないほうが美しいのでしょうね。真夏のぬるい空気が漂う夜、河原に写り混む大きな花火の情景が浮かんできて、芸術点の高い文章だなと思いました。
結局この物語は映画何かのワンシーンだったのでしょうか。考察は得意じゃないので、わかったことは少ないけれど、切ない別れと美しい夏の景色が哀愁を漂わせる素敵なSSだったと思います。

Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.81 )
日時: 2020/07/19 12:24
名前: ライター◆sjk4CWI3ws (ID: DhPI.PIY)

>>80
よもさんへ
感想ありがとうございます。好きって言われた! やった!
これはですね、最初は三題噺の方で投稿するつもりで書いてたので泡なんです。私個人は光説を推してます(誰も聞いてない)
芸術点高いと言って貰えて嬉しいです! そこ強調してよかった。
はい。そう、ヒントは文体の書きわけ、ですね。二枚の銀幕の内、一枚目は現在、二枚目は過去、最後にもう一度一枚目。銀幕を一枚二枚とは絶対に数えないと思うのですが、幻燈では無いので。
分かりにくいな(オイ)
最初と最後のセリフ? を『やまなし』リスペクトにしたのがこだわりです。所々にやまなしっぽい言葉が入ってる気がするので比較すると面白いかもです。そんなにないですが。

>>78
よもさんへその2
好きです。まずもって地の文の厚みが桁違いですよねすごいな。
『喉に刺さった魚の小骨みたいにチクリと痛みを伴い、そこにあり続けようとする。』
この言い回しがめっちゃ好きです。さすがです。
綺麗だなー、いいなー。エモいという言葉の意味をよく分かってないですが、エモい。素敵な百合だ、よもさんの書く百合の沼に落ちそう。
そして河童さんではないですか。ガネストさんの人だ! 巫山戯た学び舎の人だ! すごい! ってなりました。


私も精進、ですね……!

Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.82 )
日時: 2020/07/19 14:37
名前: 待雪草◆U9PZuyjpOk (ID: 9BBPtvSY)

お題⑥『ペンネームと彼』

「あっつぅ……………」

セミの鳴く音がずっと聴こえるこの頃。
夏だ。

「さーや!帰ろっ!」

そう言って帰りの挨拶の後に1番に私の席に駆け寄ってくる奏音(かな)のランドセルには、水色の鈴の付いたストラップがついている。
これは私がある県に旅行に行った時、彼女に贈ったおみやげ。
かなは水色が似合うから………と言って水色の友禅と鈴の付いたストラップを選んだ。

「んじゃ、帰ろっか!」
2人で並んで歩き出す。
すると後ろから声がした。

「おいさや!かな!俺を置いてくなよ!」

ソイツの黒いランドセルにも鈴。
ちりん、と鳴らして走ってくる。

彼はちょっとしか走ってないくせに汗をかき、Tシャツで拭ってる。

「やっすー、ぜんぜん走ってないじゃん。」

やっすー____彼のあだ名だ。
名字が“安田”だから、やっすー。

やっすーの息が落ち着いてから、3人で歩き始める。

「最近暑いよなー…………アイス食いてぇ…………」
「めっちゃわかる。プールとか海とか行きたいよなぁ」

そんな会話が毎日続いてる。
私は苦笑して、ランドセルから下敷きを取り出し、2人に仰ぐ。

「おー………さんきゅー…………」

入道雲が目の前にもくもくと現れている。

「もうすぐ夏休みかー…………また5人でどっか行きたいねぇ」

5人、というのは私達3人にとても仲良い2人を合わせる。先月の席替えで偶然出くわした5人なのに、いつの間にめちゃくちゃ仲良くなっていた。
ただ2人は私と帰る道が違うから、今はいないだけ。

「じゃあさ、プールとかどう?気持ちいっしょ?」
「いいな!」

やっすーがぴょこっと犬のように反応する。
それに対してかなはびっくりして、後ろにすっ転んでしまった。






______________________________________

「おぉっと?」
「プール来たぜひゃっほぉ!」

あの話をしてざっと1週間後、親の許可も貰い、いつもの5人でプールに行った。
私はハイテンションで、ざばんとプールに飛び込む。
水が太陽の光を反射し、キラキラと輝く。
ぶくぶくと息をすると、泡も輝く。

キラキラな1日だった。

スイカのボールを投げあったり、競泳したりして、この日だけは幸せに感じた。

家に帰る時、皆でバイバイ、と言い合った瞬間、




楽しかった1日は泡のように消えた。

青い空は黒くなり、雷の音が鳴っていた。

このような楽しい日々は、もう無いって私に感じさせるように。




「ねぇやっすー……………」
「ん?どうした?」

家が唯一近いやっすーと、家に帰ってる途中。
彼が私の方を振り向く。
その衝動で、彼のプールバッグに付いたあのストラップが揺れた。




こんなこと、言えるはずないってわかってるのに。





「私さ、転校するんだ。」




彼の反応が怖くて、顔を伏せてしまった。
でも彼は、こう言った。




「お前さ、SNSとか使ってる?」

唐突過ぎる質問に、私は固まってしまった。

「…………使ってるけど?小説書いてる。」
「それさ、俺、ずっと考えてたんだけどよ………」

……………あっ。

『名前どうしよっかなぁ…………』
『名前?』
『うん。ネットで小説書いてるんだけどさ、ペンネームみたいなのいいのないかなぁ…………って。』
『ふーん………………』

いつだっけ?結構前か。
私の独り言。
いつの間にか泡みたいにすぐ消えてた記憶。

「で、何?」

彼は少し顔を赤くさせ、言った。
彼と私のプールバッグについた鈴のストラップが音を立てた。







「“鈴乃リン”ってどうだ?」

Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.83 )
日時: 2020/07/21 15:45
名前: むう (ID: PXRiSL3w)


 どうも、ご無沙汰しております。
 受験勉強の合間に気分転換で書いていきたいと思います。
 ちなみにこの小説は、私の体験をもとにして書いてるノンフィクションです。
 お題制覇目指して頑張るぞ―――!
 
 お題⑤「寂しい夏」
 タイトル「保健室クラブ ~私の居場所~」


 ********************


 ―2017年 七月。


 小学6年生のとき、私は多くの傷を抱え、多くの宝物をもらった。
 
 




 キーンコーンカーンコーンと授業の開始を告げるチャイム。
 6年2組の教室の一番真ん中の列の一番前の席で、私は算数の授業の準備をしていた。
 他のクラスメイトたちが数人化のグループで話しているのを見やる。 


 『ねえねえ、昨日のドラマ、面白かったよねー』
 『○○○○が主役やってるやつでしょー。めっちゃ可愛いよね』
 『それなー』


 「それな」とか「おけ」とか、私は一度も使ったことがなかった。それに、勉強熱心な塾長をしている父の経営する塾で中学勉強対策の授業を受けていたので、ドラマを見る時間もなかった。早い話が、それらの話題に乗れる要素はどこにもなかった。


 でも、ドラマなんか見なくても、話題に乗れなくても死にはしない。
 今は六時間目、これが終わったら超特急で家に帰って勉強をする。今日は塾は休み、好きなことをして過ごせる。


 そんなワクワクした気持ちは、あっという間に吹き飛ばされてしまうのだ。
 こんな事件があった。
 算数担当のH先生という女の先生が、授業時間にプリントを落としてしまい、それを前列の席にいる私に拾ってほしいと頼んだ。
 別に断る理由もなかったので、私は廊下に落ちたプリントを触ろうとし―――。


 「あー、あー、やめろって! ブツブツ菌がうつった!」
 「ブツブツ菌―ブツブツ菌!」


 私は奥歯を噛んだ。
 小学6年生に進級したのと同時に、私は一部のクラスの男子からいじめを受けるようになった。他の子はいじめられている私を守ろうともせず、ただ黙って男子たちの行動を見ていた。



 「プリント、どうぞ」
 「ありがとうね、むうさん」
 「ブツブツ菌ー! ブツブツ菌ー!」
 「こら!」



 …………家族には何も言えない。迷惑をかけさせたくない。
 ………兄弟に相談もできない。だってまだ幼稚園児なんだから。

 でも、学校で抱えるストレスは胸の内に溜まって、睡眠障害まで引き起こすようになった。
 苦しい、辛い。泣きたい。死んでしまいたい、いなくなりたい。
 そんな私が、ついに起こした行動は……。



     逃走。



 説明はそれだけで十分だ。つまり、学校から自宅に向かって逃走を実行したのだ。
 トイレに行くふりをして、三階から一階まで駆け足で階段を降り、昇降口の鍵が開いているのを確認して外に出る。そして必死で走ったのだ。
 これで何かが変わるかなんてそういうことは考えず、がむしゃらに走り続けた。
 そして泣いた。泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて泣いた。


 怒られても良かった。学校に連れ戻されても良かった。
 ただ、今だけは、今だけは。





 そして。
 私は、保険の先生と相談して、登校手段を変えることにした。
 保健室登校。その名前の通り、教室に直接上がらずに保健室で過ごすやり方だ。

 保健室登校を始めた初日、カーテンで仕切られた部屋の奥で私は初めてイチゴちゃん(仮名)と話した。
 イチゴちゃんは今年初めて同じクラスになった女の子で、小学2年生からずっと保健室登校をしていた女の子だ。


 「え、むうちゃんッ?」
 「え、っと、今日から、保健室登校になって……」


 「え、先輩?」
 「Mちゃん」

 そこには、近所に住んでいる一つ下の後輩のMちゃんもいた。さらに、去年学校に転校してきた女の子もいたのだ。

 そこでの生活は、とても楽しかった。
 私が別室登校になったことを機に、友達になれた子もいた。
 クラスメイトのキノコちゃん。声優が好きだと言うことを最近知ってから、更に話題が弾んだ。
 モモちゃん。おっとりした性格とは裏腹に、グロいものが好きというギャップがある。

 思えば、この辛い一年間があったおかげで、私は友達の幅を広げることが出来たのだ。
 学校に、保健室という居場所を見つけることが出来たんだ。
 寂しいと思っていた夏は、保健室登校という機会で、こんなに楽しい夏に変わってしまった。


 『ねーねー。このみんなのグループ名って何にする?』
 『保健室クラブって言うのはどう?』
 『いいねそれ。流石むう!』


 私の人生は、あの時、あの時間から、リスタートしたのです。
 まるで、今まで止まっていた時間が動き出したみたいに。
 

 この先、色んな楽しいことや辛いことがあったけれど、もう私は大丈夫。
 新しい友達や、転校後に知り合った後輩や先生に囲まれながら、私は生きている。

 ありがとう、保健室クラブ。
 


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