雑談掲示板
- 【開催】第14回 紅蓮祭に添へて、【小説練習】
- 日時: 2022/06/18 14:16
- 名前: 浅葱 游◆jRIrZoOLik (ID: bC2quZIk)
*
執筆前に必ず目を通してください:>>126
*
■第14回 紅蓮祭を添へて、 / 期間:令和4年6月18日~令和4年7月31日
白く眩む日差しの中で、水面は刺すように揺れていた。
□ようこそ、こちら小説練習スレと銘打っています。
□主旨
・親記事にて提示された『■』の下にある、小説の始まりの「一文」から小説を書いていただきます。
・内容、ジャンルに関して指定はありません。
・練習、ですので、普段書かないジャンルに気軽に手を出して頂けると嬉しいです。
・投稿するだけ有り、雑談(可能なら作品や、小説の話)も可です。
・講評メインではありません、想像力や書き方の練習等、参加者各位の技術を盗み合ってもらいたいです。
□注意
・始まりの一文は、改変・自己解釈等による文の差し替えを行わないでください。
・他者を貶める発言や荒らしに関してはスルーお願いします。対応はスレ主が行います。
・不定期にお題となる一文が変わります。
・一作品あたり500文字以上の執筆はお願いします。上限は3レスまでです。
・開始時と終了時には「必ず」告知致します。19時から20時を目安にお待ちください。
・当スレッドのお題を他所スレッドで用いる際には、必ずご一報ください。
□お暇な時に、SSのような形でご参加いただければと思います。
■目次
▶︎第1回 氷菓子を添へて、:今日、全てのテレビ番組がある話題について報道していた。
>>040 第1回参加者まとめ
▷第2回 邂逅を添へて、:彼女はいつもと変わらない、甘い匂いをまとっていた。
>>072 第2回参加者まとめ
▶︎第3回 賞賛を添へて、:「問おう、君の勇気を」
>>119 第3回参加者まとめ
▷第4回目 袖時雨を添へて、:手紙は何日も前から書き始めていた。
>>158 第4回参加者まとめ
▶︎第5回 絢爛を添へて、:「フビライハンとエビフライの違いを教えてくれ」
>>184 第5回参加者まとめ
▷第6回 せせらぎに添へて、:名前も知らないのに、
>>227 第6回参加者まとめ
▶︎第7回 硝子玉を添へて、:笹の葉から垂れ下がる細長い紙面を見て、私は思う。
>>259 第7回参加者まとめ
▷第8回 一匙の冀望を添へて、:平成最後の夏、僕こと矢野碧(やの あおい)は、親友の中山水樹(なかやま みずき)を殺した。
>>276 第8回参加者まとめ
▶︎第9回 喝采に添へて、:一番大切な臓器って何だと思う、と君が言うものだから
>>285 第9回参加者まとめ
▷第10回 鎌鼬に添へて、:もしも、私に明日が来ないとしたら
>>306 第10回参加者まとめ
▶︎第11回 狂い咲きに添へて、:凍てつく夜に降る雪は、昨日の世界を白く染めていた。
>>315 第11回参加者まとめ
▷第12回 玉響と添へて、:――鏡よ、鏡。この世で一番美しいものは何?
>>322 第12回参加者まとめ
▶第13回 瓶覗きを添へて、:赤い彼女は、狭い水槽の中に閉じ込められている。
>>325 アロンアルファさん
>>326 友桃さん
>>328 黒崎加奈さん
>>329 メデューサさん
>>331 ヨモツカミ
>>332 脳内クレイジーガールさん
▷第14回 紅蓮祭に添へて、:白く眩む日差しの中で、水面は刺すように揺れていた。
▼第n回目:そこにナマコが置いてあった。
(エイプリルフール企画/投稿期間:平成30年4月1日のみ)
>>156 悪意のナマコ星さん
>>157 東谷新翠さん
>>240 霧滝味噌ぎんさん
□何かありましたらご連絡ください。
→Twitter:@soete_kkkinfo
□(敬称略)
企画原案:ヨモツカミ、なつぞら
運営管理:浅葱、ヨモツカミ
*
Page: 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 全レス
Re: 第7回 硝子玉を添へて、【小説練習】 ( No.232 )
- 日時: 2018/07/03 13:31
- 名前: 彼岸花◆nadZQ.XKhM (ID: LyBxwAsk)
申し訳ございません、3レス使います。
◇◆◇
笹の葉から垂れ下がる細長い紙面を見て、私は思う。君は果たして、妻と会うことはできたろうかと。
ネオンライトが目にうるさい。それだけで目が痛くなってしまう。繁華街が賑わう中、街路樹に紛れて独り静かに佇む笹の枝が、駅前の広場に飾られていた。黄色に青色、桃色といった色とりどりの短冊。イルミネーションと違って物静かで柔らかなのに、鮮やかな色彩が目に焼き付いた。
今年もそんな時期が近づいてきたのか。ふと、笹の枝葉の向こう側に、花屋を見つけた。元気そうな若い娘が、閉店間際なのか軒先に並べていた植木鉢を片付けている。夕日を背負った花屋の店先で汗を流す彼女の姿は中々絵になった。
君も今頃は、こんな風になったものだろうか。たなびく雲を見つめた後、しばしの瞑目。そして私は横断歩道を渡り、本日最後の客になることを決意したのだった。用意するとすれば、サルビアがいいだろうか。
私の記憶が正しければ、おそらく何色のものを選んでも問題なかったはずだ。
「ねえ見てお父さん、すっごく大きな笹だね」
子供らしく無邪気にはしゃぐ君の様子を目にした私は、それだけで胸の奥がじんと熱くなった。もう長い事、君がそうやって笑っている姿を目にしていなかったからだ。病院の屋上、バスローブみたいな入院患者用の白い服を着て、自分よりも背の高い笹を見上げてぴょんぴょん君はとび跳ねていた。
時刻は確か、夕暮れと呼ぶには些か暗すぎるような頃だったろうか。宵の入り口、太陽がすっかり帰宅してしまおうとするくらいの時間帯。空に浮かぶ雲たちも、夕と夜の狭間を曖昧に漂っているせいか、紫色に映った。曖昧に境界線上を漂う、その様子が私には、君と重なってしまったせいか、幻想的な空の景色からすぐに目を離した。
その日の日付は、よく覚えている。もう十年も経ってしまったというのに。七月五日、後二日もすれば七夕がやってくるという、夏の中腹。峠の八月に向けて、段々と気温も高くなっていく、そんな他愛もない一日だ。
ただ、目を光らせて深緑の枝葉を見つめる君のおかげで、私にとっては大切な記念日となったのだ。本当に、君の言う通りだ。あの日君が口にした言葉が、今でも胸に刻まれている。
当然その屋上の笹は、七夕のために用意された代物だった。難病に侵され、病室で退屈そうに折り鶴ばかり作っていた君が望んだ、ささやかな望み。天の川に願い事を託したい。それを聞いた院長が、他の患者にとっても気休めになるだろうと、屋上に笹の枝を用意することを、一週間前に約束してくれた。
ちょっとした、子供の背丈ほどのものを用意するのだろう。そう思っていた私の予想を、彼は良い意味で裏切ってくれた。彼が用意してくれた枝葉は、しなり垂れていてそれでもなお、私の目線ほどにはあったのだから。
「何書こうかなー。ねえお父さん、どんな願い事がいいと思う?」
「さあ。それを決めるのは君自身だよ」
「そっかー。あっそうだ、ねえねえ、願い事の数に決まりってある? 一個しか駄目、とかさ」
「ない、かな……? サンタさんじゃないんだしきっといくつ願っても大丈夫だよ」
どうせなら、一番初めに「私の願いを全て叶えて欲しい」と願えばいい。そう教えてやると君は、可笑しそうに笑った。ずるいなぁ、って快活に。弾ける笑顔が、夜空に浮かぶ花火のように思えて。そう思ってしまった次の瞬間、瞬く間に消えてしまう花火などに例えてしまった自分を悔いた。
「でもそれ、頭いいよね。お父さんってば天才」
「ありがとう」
「うーん、お父さんだったら何てお願いする?」
自分が何かお願いをする前に、他の人の意見を聞きたかったのだろう。それとも、ただの好奇心だったのだろうか。私と君はよく似ていた。互いに、自分の要望なんて口にせずに、相手が悲しまない事ばかり考えていた。
「お父さんはね、君が、元気になってほしいよ」
「あー、ま、そうくるよねー。それ以外、私に関係ないことだったら?」
「他かい? となるともう、そうそう思いつかないな……」
「えー、つまんなーい。お母さんとまた会いたいとか無いの?」
それは確かに、願えるものなら願っていただろう。しかし、君の前で口にする訳にはいかない、そう思っていた。何せ妻は、君の母は、君を生んだ日に死んだのだから。
彼女が君を生んだことに後悔なんて誰もしていない。むしろ君を産むと決めてくれて、心からの感謝を贈りたい。しかし、君に対してその要望を口にするのは、ひどく残酷なように思えた。だからこそ、言わなかったのに。
「そうだね……会いたい、かな?」
「素直になりなよー。でもねお父さん、最近私は本を読むことで知ってしまったのだ。私達はいつか、お母さんと会えるんだってね」
「あっちの世界に行った時には、会えるだろうね」
「違うんだなあ、これが。人は死ぬんじゃなくて、地球からアーカイブ星に行くんだよ。地球での滞在期限が終わっちゃったら、こっちでは死んじゃった扱いになるけど、アーカイブ星でまた穏やかに暮らしていけるんだな、これが」
「懐かしいな、その言葉。映画でも観たのかい?」
その言葉は、私もかつて聞いたことがあった。と言っても私は君と違って、映画から知った言葉なのだが。忘れもしない、学生時代に妻と初めて一緒に観た恋愛作品において耳にした言葉だから。
「だから、本で知ったの」
呆れたような口調だが、その顔は不満を隠そうともしていなかった。ちゃんと聞いてよねと指摘する姿は、会った事もないだろうに君のお母さんにそっくりだった。
「ああ、ごめんごめん」
「まったくもう。でね、それが本当だったら私達はいつかちゃんと、お母さんに会えるからお父さんのお願い事は叶うんだよ」
「……それは、本当であってほしいな」
しばし私は、答えに窮してしまった。別にそれは、妻と会えるという理屈に感激した訳でも無ければ、能天気な君に対して怒った訳でもない。ただ、一つ目の願いが叶うとは言ってくれなかったことが、悲しかっただけだ。
病室に戻らなければ、短冊も鉛筆も机も無い。それゆえベッドの上に座り、君は長方形の紙片とにらめっこしていた。別に、一枚に限らなくてもいいのにと私が言っても、他の人達も短冊を書くからと主張して君は譲らなかった。
書いては、消して。また書こうとしては、消して。黒鉛とゴムとが、交互に紙の上を往復していた。何を書こうとしているのかなと私が覗き込むと、君は決まって舌を出して、体で隠してしまった。そして、「まだ見せられないから」と、顔を赤くしてしきりに唱えていた。
「病気が治ってほしい、とは書かないのか?」
「えっとねー、そのお願いはさ、他の入院してる人も皆するじゃない? そしたら私の短冊が紛れちゃって願い事が届かなさそうだなー、なんて思っちゃってさ」
「一応、ダメもとでも書けばいいのに」
「いーや。ダメもとで書くんだったらもっと叶いそうなことお願いするの」
短針はもう八を指していた。思えば、かなりの時間考えていたものだ。いつも君は、明朗快活に、ずばっと意志を決めると言うのに、その時ばかりはひどく慎重に言葉を選んでいた。書きたいこと、したいもの、すがりたい人、多すぎて絞り切れず、頭を抱えていた。
さらさら書いては、ごしごし消す。そんな時間がずっと流れている穏やかな病室。君の様子を微笑ましく見守る同室の患者さん達はもういない。他の人がいなくなったのではなくて、君が一人きりの病室に移動してしまったからだ。
ノックの音がこだまする。義父さん達が来ると言う話は聞いていなかったため、誰がきたのだろうかと振り返る。そこには顔馴染みの、看護師長さんがいた。白髪まじりの髪を後頭部で一つに束ねている。院長先生の奥さんでもあるらしかった。
Re: 第7回 硝子玉を添へて、【小説練習】 ( No.233 )
- 日時: 2018/07/04 14:20
- 名前: 彼岸花◆nadZQ.XKhM (ID: LyBxwAsk)
「短冊書いてるの?」
「うん。何か一つ、そう考えたら何にするか決まってくれなくて」
「別にいくつ書いてもいいのに」
「ほんとにいいの?」
「ええ、勿論よ」
私なら若返りたいって三十枚くらい書くわねと、冗談めかして彼女は言った。看護師長さんと仲がいい君は、ケラケラとただ笑ってた。じゃあ、明日沢山書こうと君は言って、そうしたらあの人も喜ぶわと彼女も応じていた。あの人、というのは立派な笹を支度してくれた、院長を指していたのだろう。
何せ彼自身、幼くして難病と闘い続けながらも笑顔を絶やさない、君を孫娘のようにかわいがってくれていたのだから。多分に、我儘を言わない君が隠し続けた願い事で、あの大きな笹を彩って欲しいだなんて思っていたのだろう。
「じゃあ、明日沢山書こうかな」
「そうするといいわ」
「とすると、お父さんには見せてくれないのか」
「ざーんねんでした。でも、それなら帰って来てからゆっくり見てね」
翌日と、さらにその次の日、私には出張の予定が入っていた。長野の田舎に私達は住んでいたのだが、東京の会社と新規の契約を結ぶことになっていた。それゆえ、その日だけは休みをもらって、君と二人で七夕をフライング気味に楽しんでいたのだけれど。
そのまま帰ろうかと思っていたのだけれど、君は僕を引き留めた。七夕は、短冊を飾るまで終わらないって言い張って。白紙の短冊を握りしめた君は私と再び屋上へと向かった。当然、院長先生たちの許可は貰っていた。
今日だけはちゃんと、お父さんと一緒に七夕を終えたいから。そんな事君に言われたら、従うしかない。君が転んだりしないように手をとって、踏みしめるように階段を上る。その階段は何だか長く感じられて、天に昇っているような気がして、私の心臓も不安げに震えていた。
けれども、その不安を吹き飛ばすように、扉を開けば夜の闇が広がっていた。薄い霧みたいな雲が天蓋を覆う様な空だった。朧げに輪郭が滲んだ上弦の月だけが顔を見せている。天気も悪く、顔を合わせたものは宵闇だというのに、其処が天国でない事に安堵してしまった。
けれども、今にして思えば黄泉の入り口だったのかもしれない。
眼下に伸びる道を照らす街灯は遠く、明かりなど無い屋上の景色は弱弱しい月明かりだけが頼りだった。暗がりの中に揺れる笹は、恐怖心が煽ったせいか柳のようにも見える。そんな事にもめげないで、明るい表情のまま君は、笹の葉の足元まで小走りで寄って行った。そしてそのまま、何も書いていない白地の短冊をくくりつける。まだ君は、願い事など一つも書いていなかった。
多すぎて、一枚に書ききれないから。ちゃんと明日には全部書き留めるつもりだと言っていた。けれども今は、まだこれで構わない、って。たった一枚の紙きれには、書ききれない大切な想いを、握りしめてこめたから。私の娘であるのが驚くほどのロマンチストに君は育っていた。
夜の闇、その漆黒の中で君が結びつけた真っ白な紙は、夜空の一等星みたいに鮮やかに存在感を示していた。何度も何度も書いては消してを繰り返したせいで、表面は少し薄汚れていた。想いをこめたのはあの葛藤の時間だったのではなかろうかと私は苦笑し、早く病室に引き返そうと踵を返そうとした。夏とはいえ、もう夜だった。体を冷やしてしまう訳に行かない。
けれども君は、探し物をするみたいに上空彼方に焦点を合わそうとしていた。あいにくの曇天。しかも、病院周りには街灯が多く、星なんて大して見えないのに、だ。自宅付近ではそれはそれは綺麗な星空が広がるものだが、ここでは最も明るい星すら見えそうにない。唯一、月だけが私達を見守っていた。
「見えないね、天の川」
大好きなおやつを食べ終わった時みたいに、名残惜しそうに君は唇を尖らせた。この天気ならば仕方ないさと、私は諭す。けれども彼女は、仕方なくなんて無いと私の諦めの速さを否定した。かと思えば、すぐさま機嫌を取り戻して、語尾を高くしながら君は尋ねたんだ。
「ねえお父さん、どうして天の川があんなに綺麗か知ってる?」
「……知らないな」
「ふふ、ならば教えてあげよう」
君は、自分が分からないことを空想して、私に語るのを好んでいた。海が青いのは、昔の人が沢山絵の具をこぼしてしまったからだ、などと。
「織姫と彦星を別れさせた神様はね、企んだんだよ。このまま織姫と彦星が、それぞれ別のものに目を奪われてしまえばいい、って。そしてね、二人を分かつように、硝子玉を敷き詰めたんだ。ほうら、キラキラして綺麗でしょう、って」
「これはまた、随分と輝かしいお話だ」
「むう、何さ。またその大人ぶった顔なんてして」
「そんなつもりじゃないさ。……でも、そうだね。もし天の川が、夜空に硝子玉を添へて、そうして出来上がったのだとすると……それはさぞかし、綺麗なはずだ」
「へへへ、でっしょー?」
私が肯定してみせると、途端にまた、大輪の花を顔の上で咲かせて見せた。
けれど私は知っている。その笑顔の裏で君は、寂寥に暮れていたことを。
分かっていたさ、私だって。君があの夜、天を仰いで、アーカイブ星を探していた事くらい。
だって私は、君の父親なのだからね。
そして私達は病室に戻り、お別れの時間がやってきた。明日と明後日は出張だから、八日の夜にまた会いに来るよと君に告げた。いざ、鞄を持ち上げた時の事だった。君はふと、思いつきをそのまま口にするように、早口で私に声をかけた。
「ねえお父さん、今年から、七月五日は七夕記念日だね」
「何だいそれは」
苦笑して後に、私はふと、そのフレーズが頭に引っかかった。はて、どこかで馴染みのある言葉だが、一体どこで耳にしたものかと振り返る。けれども、中々その答えは出てこない。
まったくもう、勉強が足りませんぞ。などと教師然で人差し指を虚空に向けた。テストに出ると言ったでしょう、そんな冗談まで口にして。
「俵万智だよ。サラダ記念日」
「ああ」
そこでようやく私も思い出せた。有名な近現代の短歌だ。
「大好きな人がね、この味がいいねって言ったから、七夕前日の、何でもないような一日でさえ記念日になっちゃう、そんな意味なんだよ」
「そうだったか」
「そうだったよ」
だから、お父さんと過ごせた今日は、本当は七夕でも何でもないけれど、七夕記念日なの。ほら、七夕とサラダ、って全部アの段の言葉じゃない? そっくり!
生き生きとしている君は本当に元気そうで、病気だという事を忘れるくらいだ。現に、最近は病状も安定してきていた。治る見込みは未だに無かったけれども、それでもしばらくは大事ないだろうと、私も医師も安堵していた。
今度こそ帰らなくてはならない。明日の朝は早いから。そんな風に言い訳して私は部屋を後にした。また、明々後日の夜に会おう、って。
けれども私達が次に顔を合わせたのは、本来の予定を繰り上げた、二日後の七夕の夜であった。出張先から私は、一番早い新幹線の便で、飛行機でもないのに飛ぶような勢いで長野へと戻った。
待ってくれと、何度も。何度も何度も、何度も何度も何度も何度も、声には出さないまま心の中で、数え切れないくらいに叫んでいた。反響が体の中全部埋め尽くして、何も手につかず、時間の流れすら感じない。気づけば空も私の心模様と同じく真っ黒で、座っているシートはというと電車の座席からタクシーのものに変わっていた。
あんなに元気にしていたじゃないか。
あれだけ笑っていたじゃないか。
苦しそうな素振りなんて、つゆほどもしていなかったのに。
薬だって効いていたというのに。
また、八日になったら会おうと誓ったばかりだというのに。
私達はその約束を反故にして、七夕の夜に出会った。祖父母四人に囲まれた君の顔の上には、真っ白な布が被さっていた。
そう、皮肉なことに私達は、織姫と彦星が一年に一度出会える日、七夕の夜に永劫の別れを迎えたのだった。
私はその場で、泣き崩れるようなことはしなかった。けれども代わりに、怒り狂った。
別段医師や院長に理不尽な罵倒はしていない。どこに向かって唾を吐いているのか分からなかったけれど、きっとそれは天に向かって吐いていたのだろう。
どうして急変なんてしたのか。それは誰にも答えられなかった。医者も看護師も、私とて、君の病気は静かにしていると信じていた。そんなもの、病巣の気まぐれに過ぎなかったと言うのに、所詮その正体は、君を蝕む悪魔に過ぎなかったというのに、まだしばらくは大丈夫だなんて、信じ込んでいた。
壁を思い切り殴りつけ、ふざけるなとだけ溢していた。悪い夢を見ているだけだと誰かに認めて欲しかった。別に、不謹慎な冗談でも何でもよかった、後になればいくらでも笑い話にできるのだから、ドッキリ大成功とでも言って、起き上がって欲しかった。
だって君は、急変して病死したっていうのに、いつも昼寝をしている時みたいに、穏やかな天使みたいな顔をしていたから。それが、白い布をどけた君と対面し、初めに思ったことだった。頬をつねれば起きるんじゃないかなんて期待して、その頬に触れる。けれども、その身体はとっくに人肌と思えないくらいに冷たくなっていた。あれだけ柔らかかった頬なのに。
血が出るほどに、拳を壁に打ち付けた。他の患者に迷惑だったろうに、止めさせるべきだったろうに、誰もが私のその行動を止めようとはしなかった。それで気が済むのなら、そう判断しての事だったろう。
滴った血が、床を汚した辺りでの事だった。重苦しい空気の中、院長先生と看護師長さんとが私の肩を両側から叩いた。多分、荒々しい返事をしていたのだと思う。けれどもそんな私に気を悪くすることなく、彼らはついてきてくださいとだけ口にした。
何処へ向かうのか私はきっと尋ねたのだろう、短冊のところだと二人は言った。七月六日、君はせっせと願い事を書き続けたらしい。思いついてはすぐ書いて、大切な願い事も、ささやかな願い事も。ほんの少し、ふざけたような願い事も。
見てあげて欲しいと、二人は言った。君の祖父母たちも、もう既に目にしたのだろう。行っておいでと、ただ、静かな四重奏が私の背を押した。
やぶれかぶれ、だろうか。それとも、僅かに残った君の残滓を確かめるためだろうか。いいや、違う。抗うだけの気力が無かっただけだ。怒ってる風に見せかけて、壊れかけた精神を何とか奮い立たせていた。死してなお、苦しそうになんてしていない君の前で、膝を折ってしまわないように。
Re: 第7回 硝子玉を添へて、【小説練習】 ( No.234 )
- 日時: 2018/07/02 22:42
- 名前: 彼岸花◆nadZQ.XKhM (ID: LyBxwAsk)
風が強く薙いでいた。横殴りの風が、ざらざら音を立てて乱暴に笹を揺らす。折角君が書いた願いが飛ばされやしないだろうかと、少しだけはらはらした。と同時に、吹き荒れるとは何事かと、強風への強い苛立ち。きっと私は、君に顔向けできないほどに歪んだ表情であったことだろう。
先日、柳のようだと思ったことを思い返す。幽霊でいいから、君と会いたかった。
その願いが通じたのか、あるいは私を歓迎してのことだろうか。屋上への扉を開くと同時に、風は次第に弱まって、笹の足元に辿り着く頃には、もうとっくに風は凪いでいた。
七夕なのにそれは、クリスマスツリーのようだった。赤色、黄色、青色、橙、桃色に緑、グレーや水色、紫色の短冊もあっただろうか。色とりどりの長方形が、何枚も何十枚も、たった一本の枝葉を彩っていた。
綺麗だ、などと思う頃に、ようやく私の頭は冷静さを取り戻しつつあった。怒りで誤魔化した、己の脆弱さも次第に自覚し始める。私は果たして、あの子の声を全て読み切ることができるだろうかと、痛む目頭に耐えながら目を見開き続けた。
「実は、他の患者さんは短冊を書こうともしなかったんですよ。これはまず、このまま貴方が見るべきだ、って」
院長の言葉に誘われるように、私は適当に、目の前にあった真っ赤な短冊の願いを読み上げた。
『お花屋さんになりたい』
将来の夢など、一度も語ったことの無い君だった。そうか、花屋さんになりたかったのかと、私は一人溢した。君が死んで初めて、君が未来のことについて語らったことはほとんど無い事に気が付いた。
今度は、青い紙片を手に取った。そこには、また別の願い事。
『お菓子が作れるようになりたい』
また次の、短冊を手に。
『お友達と遊んでみたい』
次。
『かっこいい男の子と恋をしてみたい』
次、次、次。短冊を見てはまた次のものを手にする。君が言えなかった我儘を、一つでも多く知りたかった。
そして願わくば、記していて欲しかった。君が、生きたいと願っていたその意志を。死にたくない、って。病気が治って欲しいと、君に書いていて欲しかった。
『修学旅行に行きたい』
『お泊り会をしてみたい。できれば女子会がいいな』
『お嫁さんになりたい』
『テニスをおもいっきりしてみたい』
『オリンピックを生で見たい』
『お父さんの仕事をしている姿が見たい』
『お母さんに会いたい』
『おじいちゃん家に行ってみたい』
『もっと学校で勉強がしたい』
『妹が欲しい。って流石に無理だよね』
『色んな服を着てみたい』
『お金が沢山欲しい』
『蚊に噛まれない体になりたいなあ』
めくれども、めくれども、私の望む声なんて何一つ見当たらなかった。お母さんに会いたい、その願いが鋭く私に突き刺さる。二日前の夜に交わした会話を思い出していた。それじゃまるで、君が死にたいと願っているみたいだった。
文字が書いてある短冊、その全てに目を通した。それなのに、最後の最後まで、生きたいだなんて書いていなかった。死にたくないと言ってくれなかった。病気が治って欲しいなんて、聞こえなかった。
生まれた時からずっと、我慢ばかり強いさせていた。週に一回は病院で検査。半年に一回は入院、小学校に上がるまではずっと、そんな生活だった。しかも、通院費のために私は働き詰めであったし、独りぼっちにさせることも多かった。
もっと、我儘で、自分勝手に育ってもよかっただろうに、ある夜疲れた私に君は、なんと声をかけたか覚えているかい。待っているだけじゃ暇だから、家事を教えて、だったんだ。毎日夜中に洗濯して、早朝から弁当を作っているのも、全部負担になっていると君は申し訳なさそうにしていた。全部私が、自分で選んでいた事なのに。
甘えて、押し付けてしまったのがいけなかっただろうか。いつからだい、君が死にたいと思い始めたのは。尋ねても、答えてくれる訳なんて、もう無いのに。
茫然と、空を見上げた。ビー玉と同じ、真円になりきれていない不良品の月が浮かんでいた。天の川は、今日も見えない。最期にもう一度くらい、見せてやりたかったものなのに。
泣く気にもなれなかった。むしろ、空に昇れたことを、祝福するべきだろうか。そんな事ばかり考えて、私は項垂れる。あんなに眩しく笑っていたのも全部、虚構だったのかなどと、ありもしない幻想が私の不始末を耳元で責めていた。
もう、去ってしまおうとしていた。しかし唐突に視界に入り込んだ『それ』は異彩を放っていた。赤、橙、黄、緑、青、藍、紫。その他様々な短冊が、それぞれ何枚も何枚も飾り付けられていると言うのに。真っ白な短冊は、一枚しか無かった。
あの日と同じで、暗闇の中でその一枚だけが、存在感を強く示していた。それはまるで、夜空に輝く一等星のように。他の数多の星に負けることなく、強い光を放ち続けていた。この短冊は、二日前に君が私の前で戦っていたものだった。
そう言えば、どうせ白紙だと思ってこれはまだ見ていなかったな。どうせ何も記されていないだろうに、仲間外れにするのが嫌で、それも手に取る。
その晩も、一昨日と変わらないように思えた。しかしその日は、雲に遮られることなく月光が降り注いでいた。それゆえ、あの日見えなかった言葉が、その夜は目にすることができた。
悪戯っぽく舌を見せて、まだ見ちゃダメだと隠した君。どうしても私に見られたくなかったのか、ある時は覗き込もうとしたら途端に消されてしまった。トイレに立つ時も、持ち歩いてしまう始末。
あの日、是が非でも隠そうとした、最初の一枚。結局全部消してしまったはずなのに、幾度も君は同じ言葉を書いて消していたのだろう。あの時君は、何を願うか悩んでいたのではなくて、この言葉を形にするか否か、悩んでいたのだろう。
七夕記念日の話をした時、君は珍しく未来について語っていたね。きっとあの言葉は、私のためを想って手向けてくれたものなのだろう。不意に脚が脱力する。そんな事にならないようにと、気を付けていたはずなのに、膝から崩れ落ちてしまった。何とか手で踏ん張って、また立ち上がろうとするけれど、力が入らない。
声にならない嗚咽が漏れる。とびきり熱い雫が、次々と目の前のコンクリートを濡らしていた。
そして私は、ようやっと望んでいた言葉を手に入れることができたのだ。
鉛筆の芯で薄汚れた白い紙。そこには、何度もなぞって跡が残ってしまった願い事が、浮き彫りになっていた。それはきっと、間違いなく、私の願望などではなくて、絶対に君が真っ先に浮かんだ願い事なのだと自信を持って言えた。
君は、生きたいと願っていてくれたんだと。
『お父さんが、独りぼっちになりませんように』
こんな時まで、君の願いは暖かい。自分よりも、私を優先してくれた。
自分が死ねば、私が一人になると分かっていたから。悲しむと分かっていたから。だから生きていたいと願ってくれた。
多分彼女は、幼い日々にたった一人の寂しさを知ってしまったから。広い家に自分しかいない苦痛を、私に伝えたくなかったから。そんな事を、書こうか書かまいか悩んでいたのだろう。
滝のような、否、川のような雨がひたすらに降り注いでいた。私の号哭は月夜にこだまし、それはまるで激流が岩肌を打ち付けるようだった。落ちゆく雫は月明かりを受け、煌いた。光瞬く硝子玉が、とめどなく次々と降り注ぐ。
あの日君が見たいと願った天の川は、奇しくも君が地球を立ち去った日に現れた。
深い悲嘆に暮れる中、君の愛情が破裂してしまいそうな私の栓を開け、壊れる前に涙させてくれた。聖夜の贈り物、と呼ぶには少し切なすぎるけれども、君の言葉は、確かに届いた。叶いこそしなかったけれど、願ってくれたその事実だけでどうしてこんなに心安らぐ。
この短冊を全て、私が貰ってもいいものだろうかと院長先生にお願いすると、快く受け入れてくれた。君の本音の詰まったそれは、紙きれでありながらも、確かに君の分身と呼ぶにふさわしい。
ひとしきり慟哭して後、私は看護師長たちに導かれるまま、両親たちの所へと戻った。去り際に、見えざる記録の星に想いを馳せる。
願わくば、君たちが出会えている事を。
そんな想いだけ、夜の中にそっと送った。
家につき、ドアを開けるより先に、庭の方へと向かった。そこには、小さな墓標があるからだ。あの日貰った君の欠片を、アルミの箱に入れて土の中に埋めた。我が家にある、小さな君の墓標。寂しくないようにと、ちゃんと妻の使っていたスカーフも共に入れておいた。
先ほど買ってきた、サルビアの花をそっと置いた。色とりどりの花を見ていると、あの日の短冊を思い出す。何色がいいか店員に尋ねられた私は、やはりあの日の笹を思い出し、様々な色の花弁に満ちた、綺麗な花束を所望した。
ご家族にですか、と尋ねた花屋の店員は、きっと本当に花のことが好きなのだろう。娘のためだと教えると、それは素敵ですねと一本サービスしてくれた。
奇跡的なことに、サービスしてもらったそのたった一本の花は、唯一真っ白な花弁を誇っていた。
自宅付近は街灯も無くて、その分運転に気を付けなくてはならないのだけれど、綺麗な星空が自慢だった。月だけじゃなくて、天の川だっていくらでも見える。
どこにあるのか分からない、アーカイブ星に問いかけた。そっちじゃ元気にやっているかい、と。
一陣の風が走り抜ける。供えた献花が揺れている。
ぴょこんと飛び出した細い茎が、上下に揺れている。
笑顔みたいな花が、頷いたように揺れていた。
◇◆◇
ごめんなさい、とても長くて。
それと申し訳ないのですが、今回書いたもの、我ながら気に入ってしまったので自分の短編集のスレッドにも投稿してもよいでしょうか。
一応こちらの企画に参加したものだとも明記するつもりですので。
Re: 第7回 硝子玉を添へて、【小説練習】 ( No.235 )
- 日時: 2018/07/03 21:21
- 名前: 瑚雲◆6leuycUnLw (ID: hsjz4ydU)
笹の葉から垂れ下がる細長い紙面を見て、私は思う。
ふざけるな、と。
『別れたい』──意味のわからないインク塗料の匂いでよけいに腹立たしかった。どうしてこんなことに至ったのか。あいにくだが、当の本人である私には一切覚えがないことだから、説明をしてほしかった。
話は変わるけれど、私はいま、動物園のパンダコーナーにいる。七夕というやつで、特別なイベントもやっているし入場者もそれなりに多い。それなのに連れ添う相手もなく、呆然とする私の周りをたくさんの人が立ち止まったり過ぎていったりする。そんなたくさんの笑顔が目に入ると、どうしようもなく、辛くなった。
自分の気持ちを伝えたい。
いままで私はきっと、そうやって意思表示することを、避けてきたのだ。
しかし、いったいどうしたらいいだろう。自分の気持ちを伝えるために、なにかいい方法はないだろうか。
言葉はだめだ。これまでの経験から、伝わらずに終わることが予想される。
行動はどうだろう。はっきり「嫌」だと伝えるために、目の前のこれを知らんぷりする。いやそれもだめだ。これを無視したところで、根本的な解決には繋がらない。
「……」
そのとき。──ゆらゆらと揺れる細長い紙が、目に入った。
私は、それを手のひらで撫でた。
ああ──こんな変なものをつけた笹を私たちに食べさせるなんてとんでもないイベント、どうしたら早く終わるだろうか。
だれかに願いを託したいよ。
***
久しぶりの投稿です! あんまりやったことのないジャンルに挑戦しました。
Re: 第7回 硝子玉を添へて、【小説練習】 ( No.236 )
- 日時: 2018/07/04 13:00
- 名前: かるた◆2eHvEVJvT6 (ID: xjOxQnc2)
笹の葉から垂れ下がる細長い紙面を見て、私は思う。ああ、そうか。もう七月なんだ。
あの日からまるっと一年が経って、私が今当たり前のように生きているこの奇跡も日常に変わった。
「……先生は、元気かな」
「お前はそればっかだな。知らねーよ、あの人は俺らにもう興味がなくなったんだから」
ふいに漏らした言葉に反応した仁くんは、興味なさげにもう帰ろうと呟いた。もうちょっと待ってという私を無視して彼はスタスタと歩いて行ってしまう。追いかけながら、ふいに見えた短冊に「幸せになりたい」と書かれてあって、なんとなく一年前の私たちならそう書きそうだなって思った。
「仁くんっ、歩くの早いよ」
「お前が遅いんだろ。さっさと歩けよ、クズ」
何回言っても仁くんが私のことをクズ呼ばわりするのは変わらない。これも一年前からだ。一年前に私が仁くんと先生に出会ってから、あれから何一つ変わらない。
変わってしまったのは、私と仁くんを捨てて先生が消失してしまったことだけ。それももう三か月も前のことだ。先生はどうして私たちを置いていったのだろう、一緒に連れて行ってくれなかったんだろう。先生が生きてるかも死んでるかもわからない。もどかしくて毎日がただ只管に苦しい、一年前のあの頃に戻ったような感覚が時々蘇って私は泣きたくなった。
「ねえ、仁くん。さっきね、短冊に……」
「うるせえ、お前の女々しい話を聞いてやる義理はねえ」
「ねえ、仁くんっ」
先を歩く仁くんの腕を捕まえて無理やりこっちに振り向かせた。彼が少しだけ傷ついた顔をしていたことに気づいて、苦しいのは私だけじゃないんだなって思った。
私は無性に感情が昂っていつの間にか仁くんに抱き着いていた。「やめろ、きもいわクズ」と私をひっぺがそうとする仁くんの表情はさっきとは全く別物に変わっている。良かった、いつもの仁くんだ。
「ねえ、仁くん」
「……なんだよ」
「もしさ、私たちが短冊に願い事書くとしたらさ、先生にもう一度会いたいってなるのかな」
「それはお前だけだろ。俺はあの人に会いたいなんて思わない。俺らを平気で捨てたあの人なんかに」
私たちは飼われていた、先生に。
名前も知らない、職業も知らない。先生は一体どんな人間で、どんなふうに生きてきて、どういう経緯で私たちのことを拾ったのか、私は何にも知らなかった。仁くんと出会ったのはその時。私より一週間前に先生に拾われたらしい。何にも知らない私たちは「家族」のように一緒に時間を過ごした。一緒に買い物に行って、一緒にご飯を作って、一緒の食卓でご飯を食べた。私たちが経験したことのない日常を先生が全て教えてくれた。
私たちは先生が好きだった。先生なしでは生きていけないと思っていた。
だけど、私たちは先生がいなくなった今でも当たり前のように生きている。先生なしでも生きていけるんだってそんな証明がしたかったわけじゃないのに。
「前にね、先生が言ってたの。私が織姫で仁くんが彦星だったら、なんか笑えるねって」
「なにそれ、意味不明。ってか俺らは恋人同士じゃないし、お前に会いたいなんて俺は絶対に思わない」
「知ってるよ、でも。先生はなんとなく、私の好意に気づいていて、だからそんなこと言ったのかなって思ったの。仁くんのこと好きになったほうが幸せだって言いたそうだった」
二人で歩いて一緒に住んでいるマンションの鍵を開けた。先生と一緒に住んでいたこの場所も、先生がいなくなってから二人きりだ。私たちはここで先生が帰ってくるのを待っている。ずっと、ずっと。
□
生きている。私は生きている。――そのことで毎日死にたくなった。
仲が良かった友達を何かのきっかけで怒らせて、私はハブられた。ねちっこい陰口を毎日吐かれ、窓から外の景色を見てはここから飛び降りたら死ねるかなって常にそんなことを考えた。言葉の暴力は残虐だ。毎日ここから飛び降りて自分がぐちゃぐちゃの跡にも残らない死体となって、私をいじめたあいつらが後悔で息もできなくなる未来を願った。
親は私を救ってはくれなかった。私は透明人間だった。生きるのに飽きて、やっぱり死のうって思って廃墟になったビルの屋上で裸足になって下を見ていると、その人は私に声をかけてきた。
「勿体ない。君の人生はそれで終わりかい?」
先生は私を子馬鹿にしたように笑った。これから死のうとする私を、嘲笑うように口元を緩ませた。私の腕を勢いよく引っ張って抱き寄せた先生は耳もとで「君のその時間をわたしに頂戴」と囁いて、私はうっかり恋に落ちてしまった。捨てようと思った残りの時間を全部この人にあげたいと思った。それくらいに、私の死を笑った先生は魅力的だった。
そこで私は彼に出会った。名前は知らない。先生が「仁」と呼んでいたから私も彼のことを仁くんと呼んだ。本当の名前が仁なのか、それとも別なのか、そんなのどうでもよかった。私たちは先生に生かされて、先生に飼われたただの野良猫。
私たちは先生が望むことならなんでもした。先生が死ねというなら死ねたのに。
「先生がいなくなっても、私は今日も息をしてる。不思議だよね、仁くん」
「うるせえ。鬱陶しいこと言うなよ」
「先生は帰ってきてくれるかな。私たちがまた死のうとしたら、きっとまた止めに来てくれるよね」
「知らねえ」
仁くんがビールの缶を開けた。プシュッと音が鳴る。仁くんがビールをグラスに注ぐ手つきは慣れている。泡が綺麗にたって、仁くんは一気にそれを飲み干した。私はそんな仁くんを見ながらちょっとだけ笑って、今日も日記を書いた。先生が帰ってきたらこんなことがあったんだよって報告するために。日記帳に万年筆で文字を書いていると、腕に何かついていたのか紙面が赤く染まった。
「やばい、さっきの返り血がまだ残ってる」
「早く洗い流して来いよ。きたねえ」
「うん、ごめん」
先生のためなら何でもできた。私たちはあの人のためなら死ぬことでも生きることでも。なんでも。
日記を書き終えて私は今日も鍵をする。私は××を殺したときについた掌の血液を舌で舐めとり、ごくんと唾と一緒に飲み込んだ。ビールを飲む仁くんに「美味しい?」って聞くと彼はどうでもいいように「うるせえ」と相槌を打ってテレビをつけた。違和感は私たちを今日も凝視している。いつか警察がここを発見して私たちが捕まったら、そう考えるとわくわくした。
先生大好きだよ。日記を机の中に片づけて、仁くんの飲んでいたビールを一口飲んだ。やっぱり苦くて私は好きじゃないなって思った。
***
添へて、のお題がとても好きです。お久しぶりです、前回参加できなかったので今回こそはと思い、早めに投稿させていただきます。また時間ができましたら感想を書きに来たいと思います。
運営様、今回も素敵なお題をありがとうございました。
Re: 第7回 硝子玉を添へて、【小説練習】 ( No.237 )
- 日時: 2018/07/04 17:54
- 名前: 寺田邪心◆IvIoGk3xD6 (ID: EzqnGNEc)
笹の葉から垂れ下がる細長い紙面を見て、私は思う。こんな場所にも、こんなものがあったのか、と。
湿った地面に這う指、薄汚く澱んだ緑色、時折混じる人間の体液は、赤。ぽたぽたと、滴る水の音、ごおん、ごおんとどこからか聞こえてくる鐘。お前も狂えと言わんばかりの重苦しい空気に、今にも飲み込まれそうで足掻いている淡い泥たち。何百人、ここで生命をみずから絶ったのだろう。きらきら星たちが、静かに見守っている樹海に、それは死んだように横たわっていた。
盆は過ぎ、ゆだるような熱気は日に日に涼しい風へと変わり、風鈴を鳴らす。夏だからと馬鹿騒ぎしていた若者たちも、今の時期は小休止、夏の残量を使い切り、家でごろ寝しているか、期限の迫る課題を慌てて片付けているだろう。盆、線香の香りとともに、私は死者へと祈りを捧げた。車で一人親戚の家に赴き、挨拶をして子供たちとスイカを食べ、将来は、星を見る人になりたいと笑顔で語るすがたが、どこか切なくも、美しく見えた。硝子玉をそのまま埋め込んだような、きれいな目をしている。私たちは、墓前に果物を並べ、墓石に冷たい水をかけてきれいにしてやり、遺影の中でほほ笑む先祖たちに、親族一同、並んで手を合わせた。お坊さんの詠むお経、のなかで、ちりんと鳴る風鈴と、外で遊んでいる子供と犬の声と、風の音。私たちは元気にしていますよ、あちらでもどうか、健やかに日々を過ごされていますように。私の父は言った。厳格な性格の父だが、その性格を形成したのは、祖父の教育が大きく関係しているらしい。私は、祖父とは幼少期に数回会ったが、いつも笑顔を浮かべ、優しい人であると記憶していた。遺影の中でも、微笑みをたたえていた。縁側で父は、ハイライトの煙を吐き出しながら、隣で正座している私に昔の話をしてくれた。親父は頑固だった、特に家の中では、俺や妹にそりゃあ厳しくてよ、でもお前が生まれたら途端に、優しいおじいちゃんになっちまって。お前が小さい頃は、親父が着物とか、びい玉とか、ランドセルとかを全部買いあたえてやっていたんだぜ。ハイライトの副流煙が、青い空へとふわふわ、揺れながら天へ昇っていく。正座していた私は、足のしびれに気づき、やっと、その体勢を崩した。父はそんな私を見て笑った、煙を沢山吐き出しながら。奥から母の声がした、「ふたりとも、なんでそんな暑いところにいるのよ。今麦茶持っていくわね」と、どこか、久々にそろった家族を嬉しがるような声色。父は懐かしそうに、目を細めている。また、ちりんと風鈴が鳴る。ふと下に目をやると父の影と、私の影が長く伸びている。高く高く咲いたひまわりも、もうすぐ下を向くだろうか。親戚の子供が東京に帰ってしまって、ぽつんと置いてある、買いすぎてやりきれなかった花火の残りが目に留まる。来年までには湿気るな、ありゃあ。とたとたと、母がやってきて、ガラスのコップに入った麦茶を父、私の順番に、縁側に置いた。私はありがとう、と言う、父は何も言わない。
「あんな親父だったけど、最後は親族みんなに囲まれて、眠るように逝ったんだ。大往生だったのもあってね、葬儀に集まった親族もご友人の方も、悲しむより、あの人はすごかった、ずいぶんと長生きをしたものだ、って思い出話で盛り上がっていたよ。おまえはそんなのおかまいなしに、従妹のねえちゃんとお手玉で遊んでいたな」
先祖たちは、お墓の中で、安らかに眠っている。年に一度、こうして親族が集まり、宴を開き、死してなお、おじいさん、おばあさん、そのまたおじいさんおばあさんもこっちへどうぞ、と酒を注がれる。宴のあと、母は密かに、仏壇に向かって手を合わせ、涙を流していた。こうして盆は暮れ、夏も終わる。涼しい風がカーテンを揺らす。死者たちは冥府へと帰り、また来年会おうじゃないか、と約束して、親族もそれぞれの生活に帰っていく。
「……短冊か」
ぽたり、ぽたり。湖に落ちる雫の音が、不気味に脳裏まで響いてくる。世の中に嫌気がさして、人生を放棄する選択をした結果、ここ、日本一有名な自殺の名所、青木ヶ原樹海で、何人も、人間が死んだ。私がここへ来る途中も、変色しぶら下がった人間の腕や、引き裂かれた衣服の残骸や、荒らされた財布を見てきた。私の仕事は、樹海を掃除することだ。給料は良い。人間がたくさん、恨みつらみを抱えた結果、最期の場所に選んだこの薄気味悪い森。鬱蒼と茂る闇の中、いざ湖を前にすると、そこは別世界のように、しん、としている。時が止まったとさえ感じる。ここで何百人も死んでいる。樹海は迷路だ、湖までたどり着けなかった者もいる。仕事も決まらず、やりたいこともない私は、樹海の管理者に頼み込み、働かせてくださいと言った。この仕事、みんなすぐ辞めていくんだけど、君は大丈夫? と聞かれたとき、やっぱり、やっぱり普通じゃあできない仕事なんだろうなと思い、自分まで緑の泥に引き込まれてしまう気がして、最初はためらったが、大丈夫です、自信はありますと胸を張って答えた。その時は、どうしても金が必要だったので選んだが、なんだかんだで、もう半年ほどこの仕事を続けている。淡々と死んだ人間の「後始末」をしていく私に、管理者たちはそろって感謝した。だけど、こんな仕事を、こんな長い時間やるなんて、あいつはおかしいんじゃないか、と陰では気味悪がられている。
死者の残した遺書や、衣類品、金目の物などはよく目にするのだが、笹と、それに垂れ下がった短冊を見たのは、初めてだ。どこか、公民館なんかで飾っていたのだろうか、人工的な笹に、何枚も、何枚もお願い事が吊るされている。それは無造作に藻や泥の上に散らかされ、数日もするとそのまま、樹海の中に、溶けていって、なくなってしまいそうだ。私はビニール手袋越しにそれを手に取った。人工的な笹の枝に、連なる葉っぱたち、ピンク、青、黄色。樹海の陰気にのまれ、その文字はほとんど見えないものばかりである。やはり、子供から大人まで利用する場所に置かれていたもののようで、幼児の字で「おひめさまになりたい」と書いてあったり、中高生か若いカップルだろうか、「ゆずと来年の夏も一緒にいられますように」とあったり、はたまた、母親だろうか、「息子が有名中学に合格しますように」、こっちはご老人か、「親族が健康でありますように」。こんなもの、こんなもの、どうして樹海にあるのだろう。私は気になって、何枚も何枚も短冊を見たが、手掛かりらしいものは掴めなかった。七夕なんてくそくらえ、と思った自殺志願者が、公民館から盗んできたのかもしれない。どれもこれも、日常の中にある、とても穏やかで、静かな願いだ。きっとこれを書いた人たちは、七夕の夜、天の川を見ようとして空を見上げたり、織姫と彦星の再会を焦がれたりしたんだろう。足元からは死臭のようなものが漂ってくる。ボロボロになった衣服や、苔の生えてもう読めなくなった遺書や、現金も何も入っていない財布でいっぱいのビニール袋に、私はその笹の葉たちを押し込んだ。「おひめさまになりたい」の短冊が、ぐしゃり、と歪んで汚い苔と、血で混ざる。彼女らの願いは、かなっていたらいいな。もう盆は明け、夏が死に、秋が来る。夏の終わりとは、どうやらセンチメンタルになってしまう人間が多く、樹海で首を吊る人間は、日々、後を絶たない。笹はぐしゃぐしゃになった。私はそのなかでひとつ、かすれた文字で、もうろくに読めもしない短冊を見つけた。
「あなたがずっと、私のことを覚えていてくれますように」
樹海。夜の星と懐中電灯だけが私を照らす。澱んだ空気、嫌な緑、這う虫、人の死体と苔の匂いが混ざりあって、脳内でうまく緩和できず頭痛がする。
盆、子供たちとサイダーを飲んだ。親戚みんな集まり、先祖に向かって線香をあげ、手を合わせた。宴会を開いた、親父は大往生だったと父は、寂しげに、けれども笑顔を浮かべていた。
ここで死んでいった人たちに、そんなふうに弔ってくれる身寄りは、いるのだろうか。行方不明のまま捜索が打ち切られてしまった人、家族や恋人から縁を切られ、もうどうしようもなくなった人、ここで横たわっているのは、みんな、自分で望んで死んだ人。盆、きっと帰らぬだろう、彼や彼女たちは。それでも私は、それでも私は、生き遂げた命に、盆が終わって初めて、膝をついて祈りをささげる。線香はない。お坊さんもいない。苔と泥と藻でぐちゃぐちゃの、ふやけた地面に座り込み、手を合わせ、目を閉じる。あなたたちの死だって、きっと、無駄じゃない。誰かがあなたに向けた花束を蹴り飛ばそうとも、私はその散らばった花をあつめて添えて、生き切ったことを、せめて、この仕事をしている私だけでも、みとめてあげたい。
来年の盆も、かえってはこなくていいですよ。向こうで、今度はしあわせに、なってほしいですから。こんな現世なんか忘れて、ふつうの幸せを抱きしめること、それがどんなに素敵なことか、どうか、永らく時間は経ってしまったけれども、いつか、あなたにも知ってほしい。
私はずっと、祈りをささげている。
月だけがこの場所を見守っている。
□
三森電池です。>>0にインパクトを残したくて今回はこんな名前にしてみました。
夏は盆が終わったあとの切なさ、夕暮れが好きです。
Re: 第7回 硝子玉を添へて、【小説練習】 ( No.238 )
- 日時: 2018/07/04 22:59
- 名前: サニ。◆6owQRz8NsM (ID: Ek6/6fUI)
笹の葉から垂れ下がる細長い紙面を見て、私は思う。
「……なんでこんなものを」
いたずらか、願掛けか。家の前に立てかけた笹に付けられたそれ───その紙面には「ままはどこ」とだけ。文字を覚えたての子供の文字だ。たどたどしく、そして震えていたのだろう、ところどころミミズが走ったように、うねっている。
本来こんな字で書くことといったら、「ぷーるにいきたい」だとか、「ぴあのがじょうずになりたい」だとか、そんな夢いっぱいの願い事だろう。だがそんなものはどこにもないのか、ただただそれだけを願うように、「ままはどこ」と書かれている。自らの名前らしきものも、小さく控えめに書いてあった。
「わたし」
否、それは名前ではなかった。そう決めつけるのは早計かもしれないが、世間一般からすれば、それは名前ではなかった。本来「わたし」という言葉は、自らを現す言葉であり、けして名前に使われるものではない。そもそもなぜ名前ではなく、「わたし」と書いたのだろう。
「……ままはどこ、か」
きっと切実に、純粋に、会いたくてそう書いたのだろう。覚えたての文字で、ふるふる震えながら書いたのだろう。普通の子供の夢を書かず、ただ「ままはどこ」と。そんなことを書かせる母親は、今どこにいて果たしてこれを読むのだろうか。
「読んでいるよ」
絶対に。そうつぶやいて、私はそれをもとの位置へ戻した。大丈夫、見ているさ。絶対に。
そういえば数年前くらいかな、私はこの七夕の時期に何かあった様な気がする。覚えてはいないのだが、何故か七夕の時期になるとそれを思い出す。別段、何かあったわけじゃない。あ、でもあったかな?ほとんど覚えちゃいないけど。まあ、いっか。そのときに手帳をもらった気がするな。たしか『母子手帳』?忘れちゃったけど。
私はその小さな願い事が付けられた笹を家にしまうことなく、あえてそのままにしておいた。いつかこの願いを書いた子のもとに、「まま」が帰ってきますようにと。一人の人間として思う。
さてそういえばなんの用で外へ出たんだったかな、そうだちょっと散歩に行こうと思ってたんだ。私は少し背伸びして歩き始めた。
「あの」
ちょうどその時。後ろから声をかけられた。そちらを振り向けば、やせ細った中学生くらいの男の子。なんだか顔色があまりよくない。どうしたんだろうか。
「まま」
口から発せられたのはたどたどしい言葉。弱々しく、すがるような声だった、言葉だった。ん?まま?
「まま は どこ」
グシャリと握りつぶされた、男の子が手にする『手帳』を見て私は固まった。
その手帳には、『私の名前』が書かれていた。
ちょうど七夕の時期の、数年前の日付の。
『たなばたのまま』
書いてるうちにわからなくなりました。初投稿初参加。
もうちょっと胸糞悪い感じにしたかったんですけど、無理でした。かけなかった。というかこんなのしかかけませんでした。
Re: 第7回 硝子玉を添へて、【小説練習】 ( No.239 )
- 日時: 2018/07/05 23:49
- 名前: 彼岸花◆nadZQ.XKhM (ID: 6J53CjAQ)
もう作品の投稿は満足致しましたので他の方への感想を書く人になろうかと再びやってきました。
どなた様
俗世に還った天の女子、タイトルを見て初めに思い浮かんだのはかぐや姫でした。
羽衣に見立てた紙を剥いでやったとするなら、やはり俗世に還ることができるのではないかな、と。
きっと単なる町中の一部分だろうに、とても退廃的な雰囲気が、単語の選び方から想像されました。
それと、視点人物の苛立たしさのようなものや、さっぱりさせた後は反復表現が重なるようになっていて、何となく心境が変わったのかな、などと。
ちょっとだけ、気になったことがありまして。
被害を被るは二重表現に近いので被害を受けたり、害を被るの方が日本語的には自然かなと。
悪意、あるいは悪辣に曝されるや、辱しめられるみたいな書き方も、意図によっては採用されそうですね。
流沢様
自作を投稿し終えて、他の方の作品を読んでいたのですが、「あっ、ヤバイ話似てる」って頭抱えてしまいました 笑
しかも自分の方が投稿が後でしたのでより一層。
でも、同じように話を進めましたが、流沢様のものは寂しく切ない終わり方になっており、やはりどう締めるか、締め括りたいかは人によって違うのかなと感じました。
自分は、明確なバッドエンドが苦手で、どこかに分かりやすい救いの手を登場人物に差し伸べてしまうので、叶わなくても構わないと視点人物が思っている終わり方はできず、こんな方法もあるのかと思いました。
それと、今までの作品と文章の雰囲気が全然違ってて、捉え方によっては失礼かもしれませんが、率直に伝えますと、別人のように上手でした。
自分はただの参加者の一人なのですが、次回も流沢様が参加したら、今度はまたどんな風に変わってるのかなと気になりましたので楽しみです。
瑚雲様
なるほど、やられた!と感じました、面白かったです。
別れを理不尽に突きつけられた人の話かと思えば、短冊つきの笹を食べさせられるパンダの話なのですね。
「どうしてこんなことに至ったのか」その言葉が、読み終えて理解した後にコミカルに響きました。
何がすごいって、初見だと来場者の一人と思い込んでしまうのに、ネタを理解してから読み返しても、齟齬や矛盾、間違いなどなく、むしろ一度目で違和感を感じた表現が、正しく適切な表現だったのかと納得できるところでした。
どんでん返しがとても綺麗で、理解できたとき最高に楽しかったです。
かるた様
二人は人間でしょうからこの表記はよくないかと思いましたが、飼い主の先生が消えて正反対の態度を示す二人が、三月経ってなお連れ添っているのが印象的です。
文中で猫という表現がありましたが、視点の女性はむしろ、蒸発した飼い主を求めてやまない犬のように思えました。
仁くんは確かに、猫の方が近そうですね。
対照的な二人ですが、寄り添い続けているあたり仁くんも多少なりとも愛着が湧いているのですかね。
そうだとしたら嬉しいですねというかそうでないと報われないというか。
先生が誰なのか、どうしていなくなったのか、二人は何故誰を手にかけたのか、分からないことが多く色々と気になる作品でした。
寺田邪心様
何やこの名前ぇ……というのはさておき。
特殊な仕事についてる方をモチーフにした感じですかね。
複数人の登場人物に会話があるのに名前を出そうとしないところにほんの少しのシンパシーです。
樹海という暗く、まがまがしい場所。それも自殺の名所や何人も死んだのだろうと書かれているような。
そんな所を書いているのに、周りからおかしな人と思われている私の話なのに、優しいお話だと思いました。
ときおり現れる、きらきら星、すいか、短冊の彩り、そういったものが対照的に鮮烈な色の印象があって、読んでいく内に頭の中で映えていくような、そんな感じでした。
サニ。様
私の名前とたなばたのままが同じ『』で括られているのでこの女性がままなのでしょうか。
現れた男の子、なぜか握っている私の手帳、無くしてしまった記憶、おそらくはしょった描写を埋めるとぴたりと重なるのでしょうが……私の読解力に限界が来てしまいました……。
数年前に彼を産み落として、そのまま私は去って、記憶を無くしてしまったのでしょうか。
あ、そう言えばミミズが走るとありましたが、多分這うの方がよいような気がしました。
走るだと直線的な印象ですので、ぐにゃりぐにゃりと言った風なら這うの方がいっかなー、という具合です。
とまあ、そんな具合でした皆様の分。
キャッチボールでなく感想の贈り物ですので、無視も応答もご自由に、お気になさらず。
Re: 第7回 硝子玉を添へて、【小説練習】 ( No.240 )
- 日時: 2018/07/06 00:23
- 名前: 霧滝味噌ぎん◆uVPbdvNTNM
そこにナマコが置いてあった。
青年がファミレスで頼んだ税込783円の如何にもファミレスらしいハンバーグ。だが、空腹の青年にとってそれは、世界三大珍味をも凌駕する「ご馳走」と言っても過言ではなかった。今か、今かと待ちわびていた青年の目の前に運ばれてきたのは「ナマコ」だった。
そうだ、これは夢なんだ。
青年は目を擦り、再び皿に目を落とす。そこにはナマコが置いてあった。
青年は頬を叩き、再び皿に目を落とす。そこにはナマコが置いてあった。
青年は焦りと空腹の限度を感じ、少し乱暴にメニューを取り、自分が見ていたページへと紙を捲る。
確かに青年は「特選豚肉ハンバーグ」を頼んでいたはず。恐らく店員の勘違いだろう、そう感じた青年は呼び出しベルに手を書けようとする。そこで青年に電撃走る___________
青年は自分が注文した方法を思い出した。注文を取ったのは「研修中」のバッジを付けた外国人。あまり日本語に慣れていない様子の外国人に対し、青年は「メニューを指差す」と言う方法で注文を行った。
否、違う、違う。青年は額に流れる汗を感じ、特選豚肉ハンバーグの「下」に目を落とす。
そこにあったのは「特選ナマコの刺身」だった。青年は怒った。自身の注文方法を、注文を取り違えた店員を、しかし青年にこの状況をどうにかする方法は無い。青年は諦めてナマコに箸を付け、醤油に軽く浸し口に運ぶ。
「美味い............」
そう呟いた青年は涙を流していた。
-----------
始めまして、霧滝と言う者です。
短いものですが書かせていただきました。
Re: 第7回 硝子玉を添へて、【小説練習】 ( No.241 )
- 日時: 2018/07/06 07:07
- 名前: 浅葱 游◆jRIrZoOLik (ID: elvZvdHE)
注意
皆様投稿ありがとうございます。時間がある時に、浅葱も読ませていただこうと思います(ω)
早急に対応した方が良さそうのもののみ、まず返信していきます。
*
>>彼岸花さん
ご自身のスレッドへの投稿についてですが問題はありません。
お題が添へて、のものであることを明記する以外必要なことはありません。ですので運営の名前等を記載する必要はありません。
*
>>霧滝味噌ぎんさん
申し訳ありませんが、今回のお題は親記事含め、>>228で記載してある、『笹の葉から垂れ下がる紙面を見て、私は思う。』となっております。
今回、霧滝味噌ぎんさんが書いてくださったものは今年のエイプリルフール企画として当日限定で行ったものとなります。そのため、第7回目のものとは適していませんことを、ご理解ください。
今回投稿いただいた作品に関しましては、一度運営で話し合い、取扱いについて改めてご報告させていただきます。ですので削除せずにいていただけると有難いです。
※報告につきましては、添へて相談スレ『質問を添付して、』の方で行います。
今後は第n回目など紛らわしい記載をやめ、何のイベントのお題であるのか、投稿期間はいつまでだったのかということを明記し、運営としても再発防止に努めていこうと思います。
もしよろしければ、第7回目のお題でも一筆執っていただける機会がありましたら、またお待ちしております。
*
浅葱 游
Page: 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 全レス
総合掲示板
小説投稿掲示板
イラスト投稿掲示板
過去ログ倉庫
その他掲示板
スポンサード リンク