雑談掲示板
- 【開催】第14回 紅蓮祭に添へて、【小説練習】
- 日時: 2022/06/18 14:16
- 名前: 浅葱 游◆jRIrZoOLik (ID: bC2quZIk)
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執筆前に必ず目を通してください:>>126
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■第14回 紅蓮祭を添へて、 / 期間:令和4年6月18日~令和4年7月31日
白く眩む日差しの中で、水面は刺すように揺れていた。
□ようこそ、こちら小説練習スレと銘打っています。
□主旨
・親記事にて提示された『■』の下にある、小説の始まりの「一文」から小説を書いていただきます。
・内容、ジャンルに関して指定はありません。
・練習、ですので、普段書かないジャンルに気軽に手を出して頂けると嬉しいです。
・投稿するだけ有り、雑談(可能なら作品や、小説の話)も可です。
・講評メインではありません、想像力や書き方の練習等、参加者各位の技術を盗み合ってもらいたいです。
□注意
・始まりの一文は、改変・自己解釈等による文の差し替えを行わないでください。
・他者を貶める発言や荒らしに関してはスルーお願いします。対応はスレ主が行います。
・不定期にお題となる一文が変わります。
・一作品あたり500文字以上の執筆はお願いします。上限は3レスまでです。
・開始時と終了時には「必ず」告知致します。19時から20時を目安にお待ちください。
・当スレッドのお題を他所スレッドで用いる際には、必ずご一報ください。
□お暇な時に、SSのような形でご参加いただければと思います。
■目次
▶︎第1回 氷菓子を添へて、:今日、全てのテレビ番組がある話題について報道していた。
>>040 第1回参加者まとめ
▷第2回 邂逅を添へて、:彼女はいつもと変わらない、甘い匂いをまとっていた。
>>072 第2回参加者まとめ
▶︎第3回 賞賛を添へて、:「問おう、君の勇気を」
>>119 第3回参加者まとめ
▷第4回目 袖時雨を添へて、:手紙は何日も前から書き始めていた。
>>158 第4回参加者まとめ
▶︎第5回 絢爛を添へて、:「フビライハンとエビフライの違いを教えてくれ」
>>184 第5回参加者まとめ
▷第6回 せせらぎに添へて、:名前も知らないのに、
>>227 第6回参加者まとめ
▶︎第7回 硝子玉を添へて、:笹の葉から垂れ下がる細長い紙面を見て、私は思う。
>>259 第7回参加者まとめ
▷第8回 一匙の冀望を添へて、:平成最後の夏、僕こと矢野碧(やの あおい)は、親友の中山水樹(なかやま みずき)を殺した。
>>276 第8回参加者まとめ
▶︎第9回 喝采に添へて、:一番大切な臓器って何だと思う、と君が言うものだから
>>285 第9回参加者まとめ
▷第10回 鎌鼬に添へて、:もしも、私に明日が来ないとしたら
>>306 第10回参加者まとめ
▶︎第11回 狂い咲きに添へて、:凍てつく夜に降る雪は、昨日の世界を白く染めていた。
>>315 第11回参加者まとめ
▷第12回 玉響と添へて、:――鏡よ、鏡。この世で一番美しいものは何?
>>322 第12回参加者まとめ
▶第13回 瓶覗きを添へて、:赤い彼女は、狭い水槽の中に閉じ込められている。
>>325 アロンアルファさん
>>326 友桃さん
>>328 黒崎加奈さん
>>329 メデューサさん
>>331 ヨモツカミ
>>332 脳内クレイジーガールさん
▷第14回 紅蓮祭に添へて、:白く眩む日差しの中で、水面は刺すように揺れていた。
▼第n回目:そこにナマコが置いてあった。
(エイプリルフール企画/投稿期間:平成30年4月1日のみ)
>>156 悪意のナマコ星さん
>>157 東谷新翠さん
>>240 霧滝味噌ぎんさん
□何かありましたらご連絡ください。
→Twitter:@soete_kkkinfo
□(敬称略)
企画原案:ヨモツカミ、なつぞら
運営管理:浅葱、ヨモツカミ
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Re: 添へて、【小説練習】 ※お知らせ追記 ( No.123 )
- 日時: 2018/02/16 19:25
- 名前: 一匹羊。 (ID: 7MSbsDqk)
冴えない小学生だったことを覚えている。そして冴えない中学生になった。そんなことを言い出せば、その後引き続き冴えない歴を更新し続け、冴えない大人になった今があるのだが、それは一先ず置いておこう。中学の生徒は、ほぼ小学校からの持ち上がりだった。なのに僕は、中学一年、二回目の委員選びでも、クラスに友達がいなかった。よって同じ委員会に入ろうぜ、なんて言葉を言い交わすこともなく、淡々と図書委員になった。小四の頃から合わせれば八回目だ。皆勤賞だなと自分を嘲笑ってやったのを覚えている。どうせ今回も特に変わったこともなく終わるだろう。……ああ、でも。仲のいい司書さんと話せることと、それから。『あの人』の顔が見れることだけは、少し楽しみだな。そう思った。
レンさん……当時は城之内花蓮さんと呼んでいた彼女は、よく図書室に来ていた。始めは月に一回程度顔を見れるくらいだった。学内の有名人は書まで嗜むのか、と慄いた。それから、なんだか普通に顔を出して話しているのが恥ずかしくなった。彼女は、当時もとてもとても美しかったから。二月経った程度から僕の担当する曜日に毎度来るようになったのは多分、毎日図書室を訪れていたのか、司書さんと話したかったのか、どちらかだろう。僕としてはその頃にはもう、彼女に憧れていたから、毎週その日が来ることが、楽しみなような、怖いような気持ちだった。
後期、委員会。もう少し勇気があれば、彼女と言葉を交わすことが出来るだろうか……などと思っていた、中学一年九月の僕へ。
「本当に薄いなこのビールは。一体全体何をどうしているのか問い詰めてやりたいよ」
社会人になった僕は、なぜかレンさんと、居酒屋に来ています。
『今晩食事でもどうだい』
そう言われて、舞い上がる心がなかったと言ったら嘘になる。というか、こんな美人に食事に誘われて舞い上がらないやつがいたら、そいつは男じゃない。レンさんからお店の話をまだ聞いていないと思ったし、思い出話も、今の話も。沢山話したいことはあったけれど、僕らはもう、あくまで仕事の関係なのだろうと諦めていたから。ただ僕は真っ先に慌てた。
『あの、レンさん。僕そんなに今日持ち合わせがないです』
『うん? 何を言う』
彼女が名家の出身であること、そしてその家はある大企業も運営していることはあくまで噂だ。確かめたことはない。でも、実際に今彼女は店を二年経営していて、その店は流行っている。服装一つとっても、彼女と僕の差は歴然だ。もしかしたら彼女は先達として奢ってくれるつもりなのかもしれないが、甘えたくはなかった。僕が二人分支払える、もしくはせめて割り勘出来る店を……!
そう考えて己の経済力のなさに拳を握りしめていると、レンさんはふっと笑った。
『いいから付いて来い』
そうして付いて来た先にあったのが、先に述べた居酒屋である。壁は汚れていてその上にベタベタとメニューというかお品書きが貼られ、テーブルがみっしりと置かれているような、どこにでもあるありふれた居酒屋だ。社会人の、いや、最早大学生の味方と言って差し支えないような。何なら僕は、同系列の店に大学生時代お世話になったことがあった。
「ふむ、しかしこれも一つの味わいと言えるな。醍醐味と言うべきか。何にせよこの安さであるならば、コストパフォーマンスは高いのかもしれない」
「いや、低いですよ。レンさんもしかして初居酒屋ですか」
相変わらず発音のいいコストパフォーマンスはスルーし、僕は突っ込む。先程泣いているところを見られてしまって以降、気まずくて目も合わせられなかったのだが、流石にそれは突っ込んだ。前々からここの酒は、安いとはいえ薄すぎる。上機嫌な彼女は鷹揚に頷いた。
「機会がなくてな。おっ、このもつ豆腐とやらは何だ。実に興味深い」
でしょうね、と僕は思う。彼女の身の回りは、彼女に相応しい品格高い人々だったんだろうし、彼ら彼女らはこんなところへは来ないだろう。
それにしてもはしゃいでいる……。レンさんは普段の余裕と自信をたっぷりと滲ませた笑みではなく、年相応の笑顔を見せていた。可愛い。彼女が何か言う度ふわふわの桃色が揺れ、きらきらと柔らかく緩んだ目元が楽しい、楽しいと主張するのだ。眩しくて何だか見ていられない。動悸が凄い。何で僕をここに連れて来たんだろうとは思ったが、聞く余裕はなかった。
「君は何を食べる」
「え? えーと、こっち……のチーズピザかこっちの海老マヨか……」
「無駄は嫌いだ。迷うのは時間の無駄だ。食べたければどちらも食え。オーダーお願いします!」
無茶苦茶だ。というか、食べきれなくて残すのは、金と食材の無駄じゃないのか。ぐちゃぐちゃとそんなことを考えていると「君は、注文したものを粗末にするような真似はしないだろう?」と来た。だからなぜ考えていることがわかるんだ……。
✳︎
無駄は嫌い。レンさんは、本当に昔からそうだったな。委員会に入るや、今まで適当に回していた雑事の当番制を言い出した。誰かがするだろうと放っておかれていたことも彼女のおかげで浮き彫りになった。普通そんなことをすれば、疎まれそうなものだけど、彼女が言うと説得力しかなくて、レンさんと同学年の三年生も彼女に従った。
そして、僕と当番をしている時も、「城之内先輩、こっちをお願いします」と言うと、途端に剣呑な目つきで僕を見た。その頃は柔らかかった……いや鋭かったな。今と少し違うけどその頃から鋭かった口調で。
「君とはこれから約六ヶ月の付き合いになるよね。その間ずっと城之内先輩って私のことを呼ぶつもり? 城之内先輩と花蓮では、その差はコンマ数秒かもしれない。敬語とタメ口でも同じでしょう。でもそれが六ヶ月続けばロスは一体何秒、何分、何時間になるのかな。私は無駄が嫌い。今すぐ改めて」
僕は慄いた。女の子を名前で呼び捨てる、先輩にタメ口を使うなんて、したことがなかったから。しかも、憧れの相手を。頰が熱くなるのを僕は感じた。
「……花蓮さんじゃだめですか……?」
そう聞くと、彼女は髪をかきあげた。多分この時が、彼女の髪をかきあげる癖を初めて見たときだったと思う。
「五十点。レンさんで許してあげる。私も、君のことは珠希じゃなくてタマって呼ぶから」
その日から、放課後のカウンター当番が終わった後、校門までの短い距離を、何故かレンさんと帰るようになったのだった。彼女は仕事中は私語を慎む人だったから、それで僕は少しずつ彼女のことを知っていった。
✳︎
「余所見をするな」
レンさんが僕の袖を引っ張った。そんな台詞、まるで睦言みたいだ……。
まだ頰の全く赤くないレンさんが、そのまま拗ねたような表情で柔らかそうな唇を開く。
「私の店について聞いてくれるんだろう?」
「あっ、はい、そうですよね。そうです」
それからは沢山話をした。レンさんの『dame』がどんな思いで立ち上げられ
、どんな道程を乗り越え、どんな現在があるのか聞いた。一流大学を出て、いくらでも選択肢があったレンさんが店長になったのは、自分一人でも出来ることがあることを、証明したかったらしい。そんなことみんな知っているというのに。途中何度も追加注文をし、彼女は意外と食べるし、飲むことを知った。そして、自分が酔うと陽気になることも。……今までは一杯付き合ったら退散していたから。
陽気と言うか、いつも腐らせてしまっていた言葉たちが元気になる。どこにそんなエネルギーを隠していたんだと突っ込みたくなるほど、言葉はぽんぽんとレンさんに投げつけられた。それを受け止めたレンさんが、何だか楽しげに笑うから、僕は無性に嬉しくなって、また無駄なことを喋った。
「レンさんはお家は継がなかったんですかあ」
「君は無知なようだから教えてやろう、家を継ぐのは長男と相場が決まっている。だが私は一人っ子だからな、婿養子を迎えることになるだろう」
レンさんは、酒を飲んでいるとは思えないほどしっかりしていた。そして、その時だけなんだか、置いていかれる子供のような響きを声に含ませた。それが悲しくて僕は話題を変える。
「僕なんかと飲んでていいんですか。恋人なんかは」
彼女は僕がそう言った瞬間物凄く不機嫌になった。そして言う。
「私が不貞をはたらく人間に見えるか」
「滅相もありません」
「恋人はいない。いたら君とここへは来ない。ああでも、恋人が欲しいと思うことはあるな」
桃色の髪をかきあげて彼女が言うものだから、まるで普通の乙女だなと僕は思いながらフォローする。
「すぐ出来ますよ、レンさんなら」
「……それ以上に友達が欲しい。そうだな、他愛もないことをいつまでも語らえるような友が欲しいな」
「……えっと」
「嘘を吐くなとは言ったが、気休めの慰めまで禁じた覚えはないぞ」
しばらく話しているとこんな話になった。
「なんで、そんな喋り方になったんですか」
「直球だな。君はいつもそうして喋るといい、無駄が省ける。……そうだな、私の容姿は整っているだろう?」
「えっあ……ハイ。タイヘンウルワシュウゴザイマス」
「……タマ。君は女性の褒め方も勉強しろ。まあ、私は私の容姿が世間でどう評価されるか知っている。そして、そのせいでどんな輩が引きつけられるかもな。実害も何度も被った。だから、物凄く変な奴になってやることにした」
「はい?」
文脈が読めなくて僕は困惑する。彼女は桃色の髪をくるくるといじった。
「元から散々変わり者だとは言われていたからな。この珍妙奇天烈な髪色も作戦の一つだ。まあ一番効果があったのはこの喋り方だな。勿論TPOは弁えるがね、お陰で悪い虫は大分減ったよ……タマ?」
気付けば僕は、自らの髪を弄る彼女の手を、そっとどけて、桃色の綿菓子に触れていた。柔らかい。
「僕には今の髪も、話し方も、すごく魅力的に思えるんだけど」
ああ、何だかすごく眠い。今なら何でも伝えられそうな気がする。蛮勇でも何でもいいや。ああでも、これはだめ。でもあのことなら、とうとう伝えられなかった可哀想なあの日の僕の代わりに言ってやろう。
「レンさんは僕の初恋だったから、中身が一番すごく魅力的だってこと、僕は知ってるよ」
レンさんが目の前で目を丸くしている。すごく可愛い。少し幼くて、あの頃みたいだ。あれ? ……どうして彼女は、泣いているんだろう。整った柳眉がくしゃくしゃに寄って、歪んだ目元からつうと涙を零している。
「タマが私の初恋だったって言ったら、嘘になるよ」
「だよね。分かってるよそんなの。アイドルがファンに恋をするなんて、ありえないべ」
「飲み過ぎだよ、タマ。お開きにしよう」
Re: 添へて、【小説練習】 ※お知らせ追記 ( No.124 )
- 日時: 2018/02/16 19:27
- 名前: 一匹羊。 (ID: 7MSbsDqk)
そうしてその日は別れた、らしい。気がついたらスーツのままマットレスの上にいた。窓の向こうでは朝日が強烈に街を照らし出していた。僕には昨日の記憶が途中までしかなくて、どうやって家に辿り着いたのかも分からなかった。僕はバスルームに向かう傍ら、昨日見た夢について思い出していた。
僕は城之内花蓮に恋をしていた。男子中学生の恋なんて、他の子よりも可愛いだとか自分と話してくれるだとか、理由はそんなものなのだろうけど、とにかく僕は彼女が好きだった。ただぼんやりとアイドルに憧れていたのが、実際に話すようになって、少し身近になったのだ。相変わらず僕にとってアイドルだったことには変わりないが。昨日見たのはその頃の夢だ。
「本が好きなんだね」
「え? あ、はい。まあ。どうして……」
「重そうに角ばった厚手のトートバック。教科書はもっと大きいし、本かなって。それもいつも持ち歩いているから、かなりの本好き。恥じなくていいよ、私も本は好き」
彼女の洞察力は凄かった。そして僕のコンプレックスの一つを、余裕に満ちた笑みで包み込んでくれた。
今思えば、その時が始まりだったのだろう。僕は嬉しくて嬉しくて、笑いながらありがとうございますと言った。
「クラスの人には……からかわれるんで、隠してます。元々勉強しかできないやつだって揶揄されてるんで」
「やっぱり本好きだよね。揶揄って十三歳からは中々聞けないよ。まあどうしようもない部分もあるんじゃないかな。中学までって全教科、国語が出来れば大概何とかなるからね。後は努力と継続力だよ」
「大概って言葉も、十五歳からは中々聞けませんね」
「言うようになったじゃない」
本の話も沢山した。先生の話なんかも。彼女としたのは他愛もない話が大半だったことを覚えている……あれ? 他愛もない話。僕は回想のテープの再生を止めて、考え込む。まただ。また、既視感がする。どこかでこの言葉を聞いたような。僕はシャワーを終えて、タオルで髪を拭く。だめだ、考えがまとまらない。
取り敢えず、レンさんには謝らないとな。記憶が無くなるほど飲んでしまったこと、ああまた、こっ酷く言われる予感がする。ご機嫌取りに何か買っていこう。並の菓子は慣れているだろうから、そうだな、珍しいものを。幸い今日は土曜日だ。月曜また営業で彼女を訪ねる時までには何か買えるだろう。
✳︎
「モノで釣ろうなどという不埒な考えをする後輩に、君を育てた覚えはないのだが?」
「い、いえ、これは以前のお食事の時のお詫びと申しますか」
「尚悪い。モノで誤魔化すつもりか君は。まず何を謝罪したいのか述べろ」
月曜日。僕は菓子折りを持って『dame』を訪ねていた。ところが、マトモにプレゼントもお詫びの品も渡したことのない僕は、「こんにちは、営業に参りました。あの、これよかったらどうぞ」という、ぎこちなさしかない渡し方をしてしまったのだ。案の定彼女は烈火の如く怒っていた。
「はい! えーとまず、先日前後不覚になるまで飲んだことと、そのためレンさんにご迷惑をおかけしたであろうことと、最後に先日の記憶が一切ないことについて謝りたく存じます」
「……無論知っているとは思うが、度を超えた飲酒には急性アルコール中毒の危険性がある。自分の酒量くらい把握しろ。それでも社会人か。とは言え君の様子がおかしいにも関わらず、飲ませ続けた私にも責任はある。すまなかった」
「そんな、やめてください。隠キャ極めすぎた自分が悪いんです」
「いんきゃ?」
「陰のあるキャラで隠キャです」
「自分を卑下しすぎだ。不愉快だぞ」
また怒らせてしまった。彼女は誇り高い人だから、周りもそうでないと我慢ならないのだろうな、と自省する。兎に角、怒りながらも彼女は贈り物を受け取ってくれた。
「これはなんだい」
「飴です。鎌倉で購入しました。よければ」
そう言った瞬間、彼女が大袈裟なほど大きな溜息を吐いた。髪をいつものようにかきあげる。
「タマ。君はこんな通説を知っているか。異性に贈る贈り物には、それぞれ意味があると」
そんな話は知らなかったので首を横に降る。
「例えば財布ならば、いつでも貴方の側にいたい。ネクタイピンならば貴方を見守っている。口紅ならば貴方に接吻したい、というようにな。勿論菓子にも意味がある」
説明とは言えレンさんの口から貴方にキスしたいなどと言われて赤面する僕の耳に、衝撃的な一言が飛び込んできた。
「飴に隠された意味は貴方のことが好き、だ」
……知らなかったとは言えなんてものを渡してしまったんだ僕は……! 内心頭を抱えながら、僕は「え、えっと! その、あの、人間的な意味で、あの、ちがくて」などと口籠る。瞬間。「アッハハハ!」と開けっぴろげな笑い声が部屋の中に響き渡った。笑い声の主はひーひーと腹を抱えている。
「まじないのようなものだよ。意味を込めて渡さなければ何の意味もない。すまんなタマ、意趣返しにからかわせてもらったぞ」
「なんの意趣返しですかぁ……」
こちらは最早半泣きである。レンさんは「覚えていない方が悪い」などと意味不明のことを言った後、深く椅子に腰掛けた。
「それで? 口説いてくれるんだろう?」
その言葉選びはずるい、と思いながら僕はずっしり詰まった鞄を掲げる。この土日、飴玉探しだけに奔走していたわけじゃない。軽く息を吸って、吐いた。さあ、ゲームの時間だ。今日こそ彼女を墜とす。
その日僕は、初めての契約を勝ち取った。
それから僕のスマホに、一人分の連絡先が増えた。
✳︎
放課後の図書室は静かだった。
よく晴れた日で、テスト前でもない日は来館者は少なかった。だからだろうか、自分の作業をする僕にレンさんが話しかけてきた。
「タマはお人好しだね。それ、タマがする必要あるのかな」
僕は近くなった球技大会の、名簿作りとチーム分けに勤しんでいたのだ。別に僕は実行委員でも係でもない。レンさんにもそれは分かったのだろう。
僕は気まずいなあと思った。以前同じことを言った時には、いいこぶってるギゼンシャだと笑われたのだ。
「でも、誰かがやらなきゃいけないんで。これくらいしか得意なことないし」
レンさんは暫く黙っていた。呆れられたかな? と半ば諦めの入った思考をしていると、僕の持っていた書類から名簿が掻っ攫われていった。
「誰かに頼ることは出来るでしょ。それから、こういうのが得意なの、意外と色んな力がいるんだよ。だからタマはすごいよ」
✳︎
あの日レンさんが教えてくれたこと。誰かに頼るということ、自分は案外すごいのだということ、どちらも余り理解出来ないまま打ちのめされて、僕は大人になってしまった。だけど、再び出会って、思い出した。意気地なしの僕でも出来ること。そしてそれを性懲りも無く忘れかけた時、レンさんはまるで袖を引くように、僕に教えてくれる。
「これでやっと十店舗目ですよ」
「そうか、おめでとう。今日は私が奢ろう」
「割り勘を所望します」
「意固地な奴め」
彼女と食事をするのは六回目位になっていた。もう飲み過ぎるようなヘマはしないし、契約を取る前のあの張り詰めた感じもなくなっていた。今の僕らは彼女の言葉を借りれば、一連托生の仲間なのだから。……仲間、か。
「やっぱり勇気が欲しいんですよねえ」
「タマ、それは何度目だ。しつこい男は嫌われるぞ。それにな、私は、この数ヶ月で君にすっかり勇気が付いてきた気がするよ。十件の契約がそれを示している。それに、君には初めから踏み出す勇気はあったのだから」
ああ、そんなことはないんですよ、レンさん。本当に僕は意気地なしで、だめなやつなんです。
だってあなたに告白する勇気が湧かない。
貴方が好きです。潤んだような猫目に長い睫毛が好きです。吊り上がった口元が好きです。どんな髪型も似合うと思います。几帳面に整えられた服装が好きです。余裕と自信を含ませた笑い方が好きです。呆けた時の幼い顔が好きです。髪の毛をかきあげる癖も、奇抜な発想も、男のような喋り方も、全て好きです。でも言えない。初恋だっただなんて言って、大嘘だ。今も好きなのだ、でも。貴方はずっと、僕のアイドルだから。アイドルは、手が届かない存在。そんな理由で、彼女を僕は諦めようとして諦めきれずいる。
「僕には勇気なんてないんです。ちょっと足を伸ばす労力は払えるけど、革命的には変われない」
ふむ、と彼女は鶏つくねを頬張って考えた。余談だが、僕らが飲む時場所を考えるのはいつも彼女で、そこはいつも庶民の味方だ。
「ヘルマン・ヘッセは知っているね」
「あ、はい」
「彼の著書『デミアン』にこんな言葉がある。『鳥は卵の中からぬけ出ようと戦う。 卵は世界だ。生まれようと欲するものは、 一つの世界を破壊しなければならない』。勇気を出すということは、現状を破壊する覚悟があるかということだと思うよ。また、人間関係は化学反応だというユングの言葉もあるね。私はこれは人間関係のみに限った話ではないと思うんだよ。戻れない、その覚悟を問うのだとね」
どちらの言葉も知っていたが、それらを勇気に結びつけたことはなかった。僕にはあるか? 彼女との今の関係や今の僕自身を、革命的に破壊する覚悟が。
……ない。あるわけがない。だって今の関係は居心地がいい。あなたとずっとこうして話して、お酒なんか飲んで、隣で歩いている、その距離感が心地いい。ドキドキするけど、キスしたい、だとか、もっと先を考えないでもないけど、それはいけないと僕の中の誰かが警鐘を鳴らす。だから、今のままでいいと、そう、思っていたのに。
Re: 添へて、【小説練習】 ※お知らせ追記 ( No.125 )
- 日時: 2018/02/16 19:29
- 名前: 一匹羊。 (ID: 7MSbsDqk)
「もう会えない」
もう何度目か分からなくなった逢瀬で、そう告げられた。彼女にしては珍しく、格式高いレストランに呼ばれて、僕はスーツを着ていたし、彼女はドレスに似たワンピースに身を包んでいた。僕は余りに動揺して立ち上がった。嗜めるような溜息が僕を宥める。無遠慮な視線に足が竦んで、折れるように座った。
彼女は静かな、静かな猫目で僕を見ている。僕が恋した瞳だ。そしてその恋が今終わろうとしている。僕は項垂れて問う。
「何か僕、しましたか」
「理由をまず自分に問うのは君の美点だが、今回ばかりは私の勝手だよ。すまない。君のことは好いている」
どくんと胸が跳ねた。好いている、と言われたことは初めてだった。多分僕の求める意味ではないのだろうけど。
「見合いの日が決まった。……ほぼその男に決まりだそうだ。言っただろう、私は不貞ははたらきたくないと」
友達として会えないんですか、とは聞けなかった、だって、つまり、そういうことだ。
一番夢を見た言葉を、一番聞きたくなかった形で聞いている。僕は縋るように言った。
「婚約、しないでください」
「その前に言うことがあるんじゃないか」
ぴしゃりと返された。そうだ、僕はまだ大事な言葉を言っていない。だけれど、勇気が、今の状況を破壊する勇気がなかった。彼女を彼女の世界から連れ出す勇気がなかった。彼女の責任を負う勇気がなかった。
……レンさんは、桃色の髪に白色のワンピースで、今までで一番うつくしかった。そう、そういえば、あの時も同じ衝撃を受けた。レンさんがレンさんだと気付く前、彼女の価値観のうつくしさに胸を打たれて、多分その時に同じ相手に二度目の恋をした。
終わってしまうのだろうか、このまま。
「君からどうしても聞きたかった言葉がある。たった二文字でよかったのだがな、……とうとう聞けなかった。少し話をしようか」
僕は、今まで見た様々な彼女を回想していた。
「私は中学時代読書家だったのは知っているね。うちの図書室はどうも埃っぽくて困るな、と思っていたら、ある日一角が綺麗になっていた。次の週は隣の一角が。通い詰めると、水曜日に掃除が行われていることがわかった」
『一緒に帰らない? とは言っても、迎えがあるから校門までなんだけど』
そう楽しげに笑う彼女は、相変わらず髪をさらりとかきあげていた。取り巻きに見られたらどうしようと青くなる僕に、くすくすと笑った彼女が『面倒を持ってくるやつがいたら私がやっつけてあげるから大丈夫』と言う。どうしてか、彼女は昔から僕の感情を読むのがうまかった。
「それから、貸出カードに私の知らない名前が増えた。どうやら彼は私と読書傾向が似ているらしく、色々な本でその名を見た。彼は水曜日に図書室を訪れるようだった。気になっていたら彼の名が入り口にある。本来あるべきだと思っていた係がうちの図書室にはなかったのだがな、彼は進んでそれを引き受けているようだった。司書に聞いたよ。彼は水曜日の当番だった。君だ、平野珠希」
下駄箱で、三年のところで待つ彼女の元へ行く時間が好きだった。誰かが待っていてくれることの幸福を、待ってくれている誰かを探す幸福を、彼女が教えてくれた。
『友達が欲しいなあ』
そう言った彼女に驚いた。彼女はあの時間以外はいつも誰かに囲まれていたから。それに、あの時間でさえも部活中の誰かによく邪魔をされる。彼女は孤独とは無縁だと思っていた。
『みんな私に遠慮する。気を遣って、それからゴマをする。そんな人間関係、うんざりしない? 私はまっすぐな言葉や表情と出会いたい』
『あ……それ、なんか分かります。僕ほら、目立たないんで。話しかけられても、どこか薄い壁を貼られてるみたいで。笑ってる時は、ああ何か頼みたいんだろうなってわかります』
『タマも? そっかあ……他愛ないことをいつまでも話せる友達、欲しいね』
そうだ。あの頃から彼女は、友達を欲しがってたじゃないか。でも、僕らが話していたのは他愛ないことばかり、僕らは、何だったのだろう。友達、だったんじゃないのだろうか。そうだ、僕らは確かに、友達だった。
「私は君と同じ委員の曜日を、熱烈に希望したんだ。ある期待を胸にね。実際に出会ったタマは、優しく心細やかな気遣い屋で、面倒ごとを黙って引き受けるお人好しだった。そして、私のどんな言葉にも、純粋な反応を返す少年だった。とても表情豊かでね、考えていることが分かりやすかったよ。……初めて出会う人種だった。他愛ない話で、嬉しそうに笑ってくれた。期待通り君は友達になってくれた。でもその頃には私は君を……」
言ってよ。僕は心の中で希う。でもそれが叶わないことは分かっていた。よしんば口にしたとしても僕に現状を変える勇気はない。
そして恐らく、彼女にも。
彼女は深く椅子に腰掛け直し、溜息をつく。運ばれてきた料理はすっかり冷めていた。
「君が初めて……担当されたのが私の店だったのは、君に期待をしていたんだろう。君にみんなが頼みごとをするのは君に頼り甲斐があるからだ。後は、利用されないことだ」
違う。そんな人生の先輩ぶった言葉を聞きたいんじゃない。
勇気を出せ、僕。全てを破壊する勇気を。
泣きそうになりながら言葉の海を漂う僕に、彼女は笑う。初めての辛そうな笑顔だった。余裕なんてそこにはなかった。そして、丁寧に包装された何かを僕に手渡した。
「最後の餞別だ。受け取ってくれ。……さよなら」
……どうやって帰ったかは覚えていない。まるで初めの食事の鏡写しだ。記憶も消えて仕舞えばよかったのに、と僕は思った。狭いワンルームで、手渡された包みを解く。ああ、と嗄れた声が喉から漏れた。
渡されたのはモスグリーンの、マフラーだった。いつか飴を渡した日、大概のプレゼントの意味は調べたし、彼女と飲みに行ったときそれを確認もされたから、確かだ。マフラーをプレゼントするその意味は。
『あなたに首ったけ』
涙が止まらない。彼女は少なくとも、伝える勇気を持っていたのだ。僕と違って。
『問おう、君の勇気を』
それから何度、僕は躓いてきたのだろう。でも、もう間違いたくない。意気地無しをやめたい。
「——レンさん!」
『……タマ……?』
電話越しに帰ってきた声は濡れていた。僕の声もぐしゃぐしゃに濡れている。多分、この声を聞くのはこれが最後になるだろう。一音たりとも聞き漏らしたくなくて、僕はスマホを耳に押し付ける。
「レンさん。ずっと前から好きでした。好きです! 大好きです!」
直接言えない意気地無しでごめんなさい。と言うと、『私もだよ、私もそうだよ』と返ってきた。
『私も好き、タマ。ずっと好きだよ。でもごめん。私は家を裏切れない』
「それでいいよ。あなたが手の届かない人になっても、ずっと好きです! ごめんなさい、気持ち悪いやつで……」
僕が俯くと、『こら』と彼女が濡れた声で笑った。
『私の好きな人の悪口言わないで。全く君は時たま至極、想像力に欠けるね』
レンさんは息を吸う。
『でも私は、君のそんなところもどうしようもなく好きだったよ』
過去形になった。
「これでおしまい、そういうことだね」
『うん。でも忘れないから』
「酷いや」
会えもしない、他の男のものになる彼女のことを、僕は諦められそうにない。そんな僕がいる限り、彼女は僕と会おうとはしてくれないのだろう。
それでもいい。それでもいいと、そう思えた。僕は最後に、殻を割ることが出来たのだから。彼女のいる世界まではまだ遠かったけれど。
通話を切った。夜は更けていく。そうしたらやがて、朝が来る。あなたのいない朝が。それはとても寂しいことで、今だけは泣いていいよな、と僕はシーツに頭を沈めた。
ーーーーーー
長い連投失礼しました。「問おう、君の勇気を」から産まれた城之内花蓮と、平野珠希に少しでも何か感じていただければ幸いです。
Re: 添へて、 ※必読お願いします。 ( No.126 )
- 日時: 2018/03/18 16:32
- 名前: 浅葱 游◆jRIrZoOLik (ID: iwgSfCLQ)
こんばんは、浅葱です。今回、第3回目が終了したということもありますので、改めて【添へて、】の注意事項や主旨について説明させていただこうと思います。
理由としましては、各回において注意事項を守れていない方がいる点、運営からの提示が十分ではない点があるからです。参加者様を制限してしまうことは控えたいのですが、【添へて、】を利用される方に求める最低限の事項となりますので、必ず目を通してください。また、今後守ることが出来ていない方がいましたら、個別で対応させていただきますことをご理解ください。
説明を行う前に、大切な部分や強調させていただきたい部分には、【】←こちらのカッコを利用します。
では、以下から始めていきます。
■添へて、の目的
このスレッドは小説を練習するために設けられているスレッドです。今まで書いたことがないジャンルの練習、人の作品を読んで書いてみたいと思ったから少し書きたい、自分の書き方をもっと個性持たせていきたい。そんな様々な目的で活用していただくスレッドです。
また、書いていただく際にはこちらが提示する【始まりの一文(以下、一文)】を書き始めとしていただきます。練習としてお題という制限がある中で書いていただくこと、ご理解ください。
■添へて、の利用について
1.荒らしなどへの対応
運営が対応しますので、作者様各位は反応しないでください。作者様にとって作品を貶されることは、非常に腹が立つことでしょうし、悲しくなることだと思います。時に作者様が荒らしに対して攻撃する様子などを見ることがありますが、このスレッドではお控えください。彼らは総じて、暇人かかまってちゃんか、いたい人です。もしくはのーたりんなので、相手にするだけ時間の無駄です。皆様の時間を奪うわけにはいきませんので、運営に丸投げしてくださればと思います。
2.小説以外の投稿
他作者様への感想や、運営への提案等、ほかの参加者様に害を与えない投稿でしたら、いつでもお受けしています。
3.投稿回数、HN
回数に決まりはありません。思いきましたら、思いついただけ投稿していただいて問題ありません。HNにつきましても、こちらが決めることはありませんので、お好きな名前で投稿してください。
4.投稿文字数
原則500文字以上3レス以下でお願いします。最大文字数としましては5000×3=15000字前後です。
5.内容、ジャンル
全年齢板ですので、カキコ自体の規約に沿っていただけたらと思います。R18に近い作品に関しましては、運営の方で話し合い削除願いを出すかどうかの判断をさせていただきます。
■お題となる【一文】について
1.提示時間
【一文】は開始を伝える際に合わせてお伝えします。目安は19~20時ですが、変動も考えられます。
2.【一文】の変更
第4回目……と今後添へて、が進んでいくたびに【一文】も変わります。開催時にお伝えする以外で、【一文】が変更されることはありません。
3.表記
■第3回
「問おう、君の勇気を」
のように、今後セリフのお題が出てくることもあります。■の下にある一文がお題となります。
4.使用
親記事に【一文】がありますが、投稿時には必ず記載しているようにしてください。改変や差し替えに関しましては許可しておりません。
5.無断利用
以前【一文】を用いた作品が、SS板に投稿されているのを確認しました。お題として出している【一文】ですが、運営側の作品としての側面もあります。ですので、カキコ内ではご自分のスレッドのみでの掲載としてください。掲載時の連絡は任意とさせていただきますが、添へて、で投稿した旨、使われている旨は必ず記載してください。
外部サイトでの掲載は【必ず事前に連絡】をしてください。
■いただいている質問への返答
Q:投稿期間後に感想を送ってもいいの?
A:ぜひどうぞ。
あくまで決めているのは小説の投稿期間です。終了間際に投稿された作品に感想を送りたい方や、その他の感想、意見につきましては、いつでもお待ちしています。
Q:期間を過ぎたけど小説を投稿していいの?
A:まずは運営にご一報ください。
無断で投稿された場合には、申し訳ありませんが削除依頼を出させていただきます。添へて、のTwitterアカウント(@soete_kkkinfo )へのリプライ、DM、当スレでのレスポンスにて対応させていただきます。また、期間後の小説投稿につきましても、文字数やレス数は厳守してください。
Q:投稿作品にタイトルつけていいの?
A:もちろんです。
タイトルへの制限は何もありません。
Q:お題だけ借りてSS板に書いていいの?
A:許可していません。
どのような理由がありしても、カキコ内の他企画(SS板、ユーザー主催のSS大会)では利用しないでください。
Q:カキコ内の自分のスレッドに投稿していいの?
A:もちろんです。
ですが添へて、のお題を利用した旨は明記するようにしてください。よろしくお願い致します。
Q:カキコ外に投稿していいの?
A:推奨はしていません。
投稿前には必ず運営に連絡を入れ、判断を仰いでください。
Q:Twitterじゃないと質問できないの?
A:カキコでも問題ありません。
当スレッド内でしたら、質問やご意見ご要望お待ちしています。
Q:ばなな(頭が悪そうな顔)
A:しゃんぷぅおいしい(頭が悪そうな顔)
*Q:一人の人が名前を何度も変えて投稿していいの?
*A:推奨はしておりません。
しかし運営から強制できるものでもありませんので、参加者様各位の良識によるものとしてください。
■終わりに
長々とした文章で、読みにくかったかと思いますが、最後までお付き合いくださりありがとうございます。参加してくださった皆様や、今後参加を予定してくださっている皆様のおかげで添へて、は成り立っています。参加してくださる皆様が快くこの場を使えるよう、運営一同邁進していきたいと考えています。
その為には皆様のご協力が不可欠でありますこと、改めてご理解くださいますようお願い申し上げます。また、ご不便やご迷惑をおかけすることもあるかと思いますが、今後とも添へて、をよろしくお願い致します。
*
2018/02/19
運営管理:浅葱 游、ヨモツカミ
*
Re: 添へて、【小説練習 ( No.127 )
- 日時: 2018/02/27 18:43
- 名前: ヨモツカミ (ID: ZwgiIWe6)
(微妙なタイミングで感想を投下していくスタイル)
>>NIKKAさん
お名前が視界に入ったときビビりました。名前同じだけの他人じゃないか……? と思いかけましたが、この文章はあなたしか書けないよなぁと。初参加ありがとうございます。
添へて史上、一番沢山人が死んでる……(と思ったけどそうでもなかった)。本当に描写力とか語彙力高くて、ゴア表現も映えますね:( ´ω` ):
いつも思いますが、にっかさんの文は、映画でも見ているように光景が頭に浮かんで凄いなと。いや、臭いや空気まで想像できてしまうので、映画じゃすまない。生々しくて、本当にその場に立ち会っているように気持ち悪くなるので、もう、凄いとしか言えない。
“勇気”の形が他の人とは全く違っていて震えました。にっかさんの文章がやっぱり好きです。
>>あるみさん
いつもお世話になっております。初参加ありがとうございました。
いいですね、最後のところスカッとしました(笑)あえて、もう使わない結婚雑誌を凶器としてチョイスするあたりがなんか好きです。小学生の頃は一緒に遊んでいた相手でも、婚約者の仇ですしね。男も、まさか僕がそんな行動に出るなんて思ってなかったでしょうね。静かに燃える狂気って感じで好きでした。
硬すぎない文体で、スッと入ってきたのでスラスラ読めました。私はあるみさんの言葉選びとかも多分好きなんだろなと思います。
半分より後半くらい? で、「けれど僕きは一つだけ心当たりがある。」って、謎に「き」が入ってくる誤字がありましたので気になりました。
>>狐さん
わあ、なんかそのハンネ新鮮ですね。私はいつも呼んでますが。参加ありがとうございます。
凄い、闇の系譜ファンホイホイですね……! ファンなのでゴキブリの如くホイホイされてしまいました!
本編では明かされてないエイリーンさんとグレアフォールさんというか、闇精霊や精霊族の関係が知れてよかったです。ミストリア編では「なんかよく知らないけど髪がサラサラで強くて悪いやつ」な印象だったエイリーンさんの行動の理由がちょっとわかって、彼にも感情移入できるようになりました。ほんと、これからの展開が楽しみになりますね、ありがとうございました!
>>波坂さん
安定のほのぼのスロープでしたね(*^^*)中学生可愛い。
実を言うと、私もこのお題を見たときに隣人がゴキブリ対峙を依頼してくるという展開を思い付きかけたので(それよりも書きたいものができたからやめたけど)勝手に親近感を覚えながら読んでました。
あとですね、ウェーブスロープさんの文章は基本読みやすくて好きですし、ほのぼのを期待してる反面、折角練習スレですし、今度は普段書かないような奴も書いてほしいなとか勝手に思いました。
>>黒崎加奈さん
お題の相性よろしくなかったんですか(笑)
でも、加奈さんらしさを感じられる、しっとりと胸の中に入ってくる文章だなあと思いました。私はとても好きです。
今まで何故か気付きませんでしたが、私は加奈さんの書く短編好きなんですね……。なんというか、「うおおお好き」っていう暴力的な好きではなく、スッと入ってきて「あれ、私もしかしてあいつの事好きになってる……!?」みたいなタイプの好き(何言ってるか自分でもわからんよ)なので、気付かなかっただけで、完全に恋してます。
今回のやつは、なんだか国語の教材に良さそうだなと思いました。悩み多き学生が共感しやすくて、考えさせられるところが多いので。「問一 このときの作者の心情を、20文字以上30文字以内で答えなさい」とかありそう。
Re: 袖時雨添へて、【小説練習】 ( No.128 )
- 日時: 2018/03/01 12:03
- 名前: ヨモツカミ (ID: BFllzVbI)
*3/1
こんにちは、ヨモツカミです! 回数を重ねるごとに参加人数が増えていっているようで、とても嬉しいですね(^^)
今回、少しだけ苦戦した方もいたかもしれませんが、皆さんの考える勇気の形はと何か、それは誰に問うものなのか。本当に様々な世界が展開されていて、読むのが楽しかったです。
それに、感想を書いてくださる方も増えて、良い傾向だなぁと思いました。ただ書くだけでは練習になりませんものね。人に意見を貰って、始めて改善点が見つかるんだと思います。
さて、次回のタイトルですが、今まで浅葱に任せっぱなしでしたが、今回私が考えました。「袖時雨を添へて、」になります。
袖時雨とは、袖が涙に濡れるのを時雨で例えた言葉、だそうです。つまりは涙の事。卒業シーズンなので、お別れに涙する人も多いかなあと考えて選びました。別れに泣いた分だけ素敵な誰かと出会えると良いですねー。
第4回のお題:手紙は何日も前から書き始めていた。
期間は【3月1日から3月24日】を予定しておりますので、よろしくお願いします!
Re: 袖時雨添へて、【小説練習】 ( No.129 )
- 日時: 2018/03/01 15:28
- 名前: 浅葱 游◆jRIrZoOLik (ID: WnB.4LR6)
手紙は何日も前から書き始めていた。うん、書き始めてはいたんだ。君に送ろうと思ってね。けれど父が家を捨ててしまったり、祖母が亡くなってしまったり、短い間に色んなことが起きてしまった。それに、少し怖かったんだろうね。君に手紙を送ろうとするのは、それなりに、私の胆力が試されている感覚がしていたんだ。君は、その事を知らないだろうけどね。
じんわりと紙が湿る。
私の母親は元気に過ごしているよ。ご飯を作るのが最近の楽しみになってきたらしくて、今まで作ったことがないのにランチまで作るようになった。この前食べたホットサンドは絶品だった、君が食べられないなんて考えられないくらいさ。
あ、でも君ってパンがあまり好きじゃなかった気がするぞ? どうだったっけ、私がパン好きなのは覚えてくれてると思うんだけど、私が君の事を忘れちゃダメじゃないか。君もそう思うだろう?
そうだ、君が好きだった十番街のオムライスをこの前食べたんだ。同僚と行ってきたんだよ、そこは変な勘違いをしたらいけない。写真も同封しているから、後で封筒の中を確認してみておくれね。君が美味しいってよく話してくれていた、ケチャップの素朴なオムライスがね、私も美味しいと感じたよ。意外と食の好みは合うのかもしれない。米かパンかは、私達には小さな悩みさ。
紙が、静かに鳴いた。
そう言えば君が入院していたことを、出張先で知ったわけなんだけれど、その後容態は変わりないのかい。君からの便りがなくなってしまうと、こうして手紙を送ることを戸惑ってしまうんだ。意気地無しの自覚はあるんだけれどね、こればっかりは直りそうもないから、許して貰えると嬉しい。
だから、出来るなら手紙を送ってくれよ? 私は君の字で、君の言葉を知りたいと思っているんだからね。それが私への罵倒でも、受け止める。昔約束したんだ。覚えているかい? 君に何があっても私は守るし、受け容れる約束さ。だから君は、嘘偽りなく私に言葉を送ってほしい。無理にとは言わないけれど、私はそれを楽しみに待っているし、望んでいるんだ。言葉を発するのが怖いんだろうことは、分かっているつもりだけれど、それでも言葉が欲しいんだ。私だけに向けられた言葉が。
雨が降りそうだ。この人はこんな私を、救い出そうとしている。読み終えた紙を、一番後ろにまわす。らしさの残る字が、懐かしくて、嬉しくて、溺れてしまいそうだ。指で字をなぞっていくだけで、それだけなのに、この手紙の送り主の声が、香りが、すぐに思い出されてしまう。もうとっくのとうに忘れてしまっていたはずなのに。この人は私を忘れていなかった。あの人の中に私が生き続けている。その事実に心が震える感覚さえした。
私はまだ君を愛しいと感じているし、何より君がいないとダメなんだよ。白状すると、ほかの人を抱いたこともあるけれど、それでも君を愛していた時のような熱情は出てこなかった。性の趣向が変わったのかと思ったりもしたが、そんなこともない。私はいつも君を想い、君の中に私自身を残したいと思っていた。だから君以外の誰かを愛せなかったんだ。この気持ちを察せられて慰められたこともある。私は慰めなんかじゃなく、君からの愛が欲しいだけなんだ。
また二人で、春に桜を見に行かないか。梅の咲く頃にもう一度話しをして、いつ桜が咲くのかなんて他愛もない事を話さないか。その時は一緒に弁当を作って、敷物とちいちゃな椅子を持って、笑い合いたい。私の作る不格好な握り飯と、君の作った美味しい唐揚げを持って行きたい。笑いながら桜を見て、夜は洒落たレストランで、大人らしいひと時を過ごさないか。君が私を忘れていないなら、また、私と過ごしてくれないか。
手紙には跡が残っていた。乾いて、波打った小粒の跡が。どちらのものだろう。この人の気持ちが溢れ過ぎて、私まで。
夏だってそうさ、一緒に海へ行こう。格好つけたくて泳ぎを習ったんだ。報告すると君は格好悪いと思うかもしれないけれどね、構わないよ。私の姿を見た君を、ときめかせる準備は出来ているから。覚悟していてほしい。君と会ったら私はね、思ったよりも語れなくて、思ったように動けなくて、笑われる準備もできてるんだ。ただね、会いたいんだ。今の私を見て、今の君を見て、大人になったねって言い合おうよ。……ごめん、少し、文字が滲んでしまったね。書き直そうか、どうしようね。君なら"気にしないで"って笑ってくれそうだ。勝手な思い込みかな。でも期待して、このままにしておくよ。
文字だけだと、きっと私の気持ちの全てが伝わってくれないから、君に分かってほしいから、私のありのままを残す手紙にしよう。君は今、どんな格好をしているのかな。趣味はどうだい? まだ歌ってくれているのかな。美しい君の声が私も好きだった。手紙は難しいな、今も好きなのに、すぐに過去の話みたいに思わせてしまう。好きだ、君の声が。今だって、耳元で聞こえるんだ。私を呼ぶ君の声が、君の香りが届くんだ。それなのに横を見ても君はいない。私は、私はどうしたらいい? 君を諦めたくない。愛し続けているのに、君が遠いのは、どうしてだろう。嫌な事を考えてしまうんだ。もう私は愛されていないのではないか、君に愛しい人が出来てしまったのか。気が気じゃないんだ。格好悪いけれど、私が君だけを見ているように、君にも私だけを見てもらいたい。それだけ、愛している。だから、
最後の紙を、前面に出す。息がうまく吸い込めない。愛してくれる人の懐かしい字と香りで包まれた手紙が、私のことも包み込んでくれている。今しかないと思った。今を逃したら、もう会えない。そんな気がしてしまった。
ぼさぼさの髪を整えて、淡い色のリップを塗る。あの人が好きだった白いブラウスと花柄のスカート。小さなカバンの中にはペンと紙を無造作に詰め込んだ。あの人に、貴方に、私は伝えないといけない。貴方に会うため、私は音の無い世界を駆けた。
□三月一日、十番街で君を待つ。
*
声を失って、さらに何かを失った人のことを世界は愛せるのか。そんなことを書いてみたかった。
*
Re: 袖時雨を添へて、【小説練習】第4回目 ( No.130 )
- 日時: 2018/03/02 02:15
- 名前: 電子レンジ (ID: FBcNFC6k)
手紙は何日も前から書き始めていた。俺は口下手だから、顔を見ても伝えられないことはきっと沢山ある。けれども。どうしても、伝えたいことがある。
迫る鋭い蹴りを避ける。上段、下段、また下段。鍛え抜かれたその脚技は死神の鎌のように俺の首を刈らんとする。強くなったもんだなと、目の前のガキの成長が何だか誇らしい。衰えつつある体に鞭打ち、その猛攻を受け、避け、また避けた。
こいつに指導を始めたのは、まだまだこいつが幼い頃だったな。目に怒りと涙とを湛え、実父の棺桶の前で立ち尽くすこいつの姿を、俺はまだ覚えている。軍の下らない派閥争いに巻き込まれて、こいつの父は殺された。そして俺は、殺された男から見て、敵対派閥の幹部だった。
全員ぶっ殺してやる。初めて聞いたこのガキの言葉がそれだった。俺は自分の部下がわざわざ殺めた男がいかなる人材か知るべくその葬儀に参列した。派閥こそ違えど、同じ軍に属することには変わりない。それに、男はかなり遠い階級にいたとはいえ、俺の部下でもあった。
正確には、部下の部下のそのまた部下。接点など何一つ無い。しかし、その正義たるや、俺にまで聞こえるほどだった。だからこそ、その顔を拝める最後の機会は逃したくなかったのだ。そして出会った、己の持つ全てを伝えるに値する者と。
だから俺は、復讐を望むその言葉に触れて自ら近づいてしまった。歪められた正義を薪として、黒ずんだ煙をあげる憎悪の炎に。誰が父を討ったかは、幼い子には分かる由も無い。だから決めたようだ、父の敵だった者全て切り捨てる、と。そんな激しい感情に魅入られた。
「何で、何であんたが……!」
その目はいつぞやの目と同じで、やはり怒りと涙に満ちていた。悔しいだろうな、ずっと教えを請い、師事してきたその男が実のところ仇と呼ぶに相応しければ。こいつが泣くのも理解できた。けれども俺にとって、こいつに戦う術を叩き込んだのは侮蔑でも無く、かといって贖罪でもなかった。惚れ込んでしまったのだ、その目に。
青白い光を放つ半透明な刃を避ける。大振りな攻撃は控えろと教えたはずなのにな。成長したとは言え、まだまだ頼りない弟子に俺は嘆息する。踏み込み、脚に力を溜める。肉体強化の異能、それにより大砲のごとく高められた膝蹴りをその腹部に叩き込んだ。苦しそうな悲鳴を漏らし、そいつの体は真っ直ぐに吹っ飛んだ。
お互いにぶっきらぼうだった俺たちは初めての教育からして障害だらけだった。父が死んで精神は荒れ、跳ねっ返りの生意気な子供。俺も大概大人の言うことなんて聞かない悪ガキだったとはいえ、もう少し聞き分けがあった。教えるのは思ったことを素直に述べるのがこれ以上無く苦手な俺。無口な似た者同士だったが、相性は最悪だった。
けれども。俺たちはどうしてだか、一度(ひとたび)その剣さえ交えれば、その間だけ雄弁に語り合うことができた。だからこそこの師弟関係は続いたと言える。俺たちは己に秘めた異能力のみならず、戦闘様式も初めからよく似ていた。
吹き飛び、壁に叩きつけられたあいつが立ち上がる。蹴りの瞬間に腹部の耐久力を上げたのだろう。意識するより早く、攻撃を食らうと思った時には反射的に気張れ。その教えは体に染み付いてくれたらしい。
そうこなくては。終わらぬ闘争に高揚する。これまで戦う術を授ける際に数えきれぬ程その刃は受け止めてきた。けれども、押さえきれぬ殺気が振るう本気の一太刀は、それら無数の手合わせを飯事と思わせるほどに格別だ。口内を切ったのか、血の混ざった唾をあいつは吐き出した。それは、これから再び踏み込むという合図。読まれかねない悪癖は早いところ矯正しろとかつて言ったが未だ直っていなかったのか。
床を蹴る音、狭い廊下を駆けてくる。もうその目からは動揺も怒りも躊躇いも消え、使命感に燃えていた。そうだ、それでいい。父の敵討ちこそが、お前の生きてきた目標なのだろう。先程までの情けない眼光が嘘のように肝の据わった顔つきだ。
「お前の父を殺したのは俺だ」
今朝ようやっと、弟子に宛てる手紙をしたため終えた俺は、そう伝えた。それは同時に、ガキが軍へと入籍する日でもあった。本当に、ギリギリだった。実のところもっと早くに打ち明けるつもりだった。こいつが軍に入れば、派閥のことを知るのは間違いない。親父の仇が俺と知るのは時間の問題、それまでに決着させなければならなかった。
けれども。俺は本当に臍曲がりで、手紙でだって中々正直になれなかった。照れ隠しばかり書いた紙切れを、何度も何度も破り捨てた。時にぐしゃぐしゃにしてゴミ箱へ投げ、何本もペンのインクを空にした。自分にとってそれだけ、真っ直ぐな気持ちを言葉にするのは困難だった。だが、余すこと無く書ききった。これまで伝えてこなかった全ての事を。
奴は一度、この戦闘のリズムを変えようと刀を引っ込めた。より近い距離で息吐く間も無い攻防を望むらしい。より速い展開を広げた方が勝機はある。なるほど確かに間違ってはいない、なぜならこちらは全盛期をとうに過ぎた齢五十の体だ。
させるかと、手にした刀を向かってくる影に振り下ろす。俺の刀はあいつのと違い自在に消すなどできない。白銀に煌めく鋼鉄の刃が走った。神速の一閃、俺の斬撃をそう言わしめたのは昔の話。だが、それでもなお鋭い一太刀を造作もなく避ける。本来の調子が戻ってきたようである。そうだ、お前を鍛えたのはこの俺なのだから、そうでなくてはならない。
戸惑い硬直するガキに対し、先に刃を向けたのは俺の方だった。何を言っているのかと、悪い冗談を嗜めるようあいつはひきつった笑みを浮かべた。その言葉に真実味を持たせるため、俺はゆっくりと剣を抜いた。何でもいいから斬りかかる理由を作るために、「やはりお前の存在は邪魔になった」と言って。監視カメラに見せつけるように俺から斬りかかった。
数分前、初太刀を何とか凌いだあいつは喚いた。ようやく、父の仇は俺だと言う言葉を飲み込み始めた。事実としては俺の部下が手にかけた訳だが、俺のせいと言っても過言ではない。嘘をついてない風に繕えたと思う。「何でここまで育てたんだよ」の声が、父を奪われた日の「全員殺してやる」と、重なった。それが何だか、俺の心を打ってならなかった。
仕方ない。単なる好奇心から指南を始めたガキに愛着が湧いてしまったのだから。そして若い剣士が、復讐に囚われてその刃を曇らせるのは、同じ剣の道に生きる者として妨げねばならなかった。
自国にも、敵国にも、様々な異能力者が溢れている。炎を操る者、雷を操る者。テレポーターに、未来予知。そんな様々な兵が無数に居る中、俺たちが得た力は単なる肉体強化だった。シンプル故に伸ばしやすく、シンプル故に強力無比。しかし、シンプル故に迷いが浮き彫りになる。曇った精神が、その者を弱らせる。
俺が持つのは己の体と、手にした武器を強化する能力。ガキの持つのは、体内で練った気を己の体に注ぐことでその分肉体を強化する能力だった。微妙な差異はあれど、とどのつまりは身体能力の向上が主。あいつの師に、俺以上の適任はいなかった。
このガキは、全盛期の俺をも凌ぐだけの可能性に満ちている。未来ある男だ。そんな男が、復讐なんかで燻ってはならない。こいつの親父を目の敵にしていた連中を地方へ飛ばしたり処分したりし、用意を万全にしてから俺はその派閥を抜けた。幹部の座を盟友に託して。なぜわざわざ抜けるのか、問われはしたが、しつこく引き留められはしなかった。俺は元々戦場を塒(ねぐら)にするような男、派閥争いなんて頭痛の種は要らんとだけ答えた。その後はただ、弟子を育てて戦場で暴れるだけ、心労も溜まらぬ暮らしを過ごした。
俺のことを最も慕っていた部下一人は「恭哉さん、辞めないでくれ」と何度も言っていた。けれどもその頃にはもう、肉親が一人もいない俺にとって、あいつは息子も同然だった。
過去を振り返る俺に、自身と瓜二つな体術が降りかかる。右正拳から左目潰し、首を反らしたその隙に足払い。闘気迸る重撃が脛に入る。しかし、岩のように強固に活性化された俺の足は崩れない。ただ、痺れるような衝撃が走る。
今度はこちらの番だ。あいつは表皮を強化することで気を纏い、鎧のようにしている。青白く体表から漏れている光がその証だ。まずはそれを削ぐ。
足払いまで済ますと、一瞬奴は目の前で動作を止めた。それが甘いと言うのに。一度攻めれば畳み掛けないと、反撃の危険性がある。知らしめるために俺は形勢を一転させ反撃に移る。
ただただ、楽しくて仕方が無かった。己が育てた最高傑作、それと拳を、そして剣を交えるのが。次第に我が弟子の一挙手一投足が速くなる。各行動の間隙は短くなり、その攻め手は秒を追う毎に激しさを増す。剣を重ねるごとに、その衝撃は重くなる。
ふとその顔が目に入った。泣きたいようで、笑いたいような般若の顔。そうか、お前も同じか。
そして俺はごちゃごちゃと考えるのはやめにすることにした。最後の授業を始める。もし俺が生きお前が死ねば、それはそこまでの男だったというだけだ。
Re: 袖時雨を添へて、【小説練習】第4回目 ( No.131 )
- 日時: 2018/03/02 02:21
- 名前: 電子レンジ (ID: FBcNFC6k)
一度距離をとったガキが、拳を開いて手刀の形をとった。流し込まれた気が指先から伸び、刃渡り一メートルほどの剣となる。青白く、透き通る、硝子のような。だがそれは鋼鉄の剣に劣らぬほど強固な剣。それはまるで奴自身の意志のよう。
俺の刀と奴の剣、交わる度に火花散る。一度、二度、三度四度。どちらから斬りかかっている訳でもないような不思議な感覚。相手ならそこに剣を置くであろうという信頼から次の一振りを己もそこへ置く。まただ、ピタリと噛み合う刃が牙を打ち鳴らすように唸って。斬り結ぶ度に火花が彩る。
別に由緒正しい剣の道ではない。戦火にまみれながら覚えた喧嘩闘法。だがどうして、俺たちにはこれが似合う。
斬って、斬って。斬って斬って刃を重ねた後に奴が切っ先のみをこちらに向けて踏み込む。唐突な突き、しかし対応する手立てが無い訳は無い。
避けるのが通常なら安全策だが、ことこいつの相手に関してはそうではない。一キロ先の針の穴を弓で射抜くような精密さ、それほどの集中力を持ってして、迫る高速の刺突に己の刀の切っ先を合わせる。ナノメートル単位で誤差無く衝突した互いの突きは、ぶれることも弾かれることもなく邂逅した。
普通突きの後には剣を戻すモーションが求められる。しかしこいつの剣は自在に消すことが可能。剣を引き戻す隙など無く、むしろその隙を突く攻撃に合わせカウンターを入れられる。
押し合う最中、手応えがふと途絶えた。警戒していた唐突な納刀。ほんの少し俺の体は前へと傾く。先刻の仕返し、そう言わんがばかりに腹部に鈍い痛みが走る。腹筋を引き締めて能力でさらに堅牢なものとする。それでも抑えきれぬ威力で、後方へと押しやられた。
追撃。俺がよろめいた隙に、余計な行動は必要ない。ただ一直線で攻め入るのが正義。勝ちを確信したのか踏み込みが甘い。
俺の方から踏み込んだのが驚きだったようで、あいつは驚きの色を浮かべた。老体だからと侮ったのか拳骨をまともに顔に受けて奴は後方へ飛ぶ。壁にもう叩きつけられぬよう、剣を地に突き刺してブレーキをかけ止まった。互いの足が止まる。
「あんたじゃないんだろ?」
「いや、俺だ」
先に戦闘を中止したのは奴の方だった。そしてその言葉の意味は聞き返さずとも分かった。父の仇が、ということだろう。しかし俺はあくまでも自分だと主張する。
「だったら、ここまで鍛えることもなかったはずだ。あんたなら軍への入隊も裏から潰せたはずだ」
「今日は普段より饒舌だな」
「俺を焚き付けこっちから剣を抜かせるんじゃなくて、自分から斬りかかったのは何でだ、まるで全部、俺のため」
「黙れガキが」
今までずっと否定してきたものを、自分以外の口から放たれるのは聞きたくなかった。それが例え、ずっと俺を師事してきた弟子だとしても。
それに俺の本音は全て、もう残してある。きっとこれが互いの顔を見て交わす最後の対話だろう。そう思った俺は、残した言葉の存在を匂わせる。
「いつも俺が酒を隠してる戸棚」
「それが何だ」
「そこに全てを置いてきた」
だからこれ以上ごちゃごちゃ抜かすなと俺は言外に告げる。口下手な俺を誰より理解するガキは、それに素直に頷いた。俺は自室へ置いてきた、手紙の中の一言を胸の内に復唱する。復讐なんぞ、俺を糧に捨てていけ。
本当にお前は、強くなった。老いてさらばえるしか無くなった俺が、この先誇れる最後の一刀。俺はこの十年、一度も呼んだことの無い、愛弟子の名を口にした。
「こい、龍馬」
「はい、柳先生」
それに応えるように、俺のことをおっさんとしか呼ばなかった龍馬も俺の名を呼ぶ。生意気な。
小細工は要らなかった。開いた距離を最速で駆け、真正面から俺たちは互いの剣を振りかざす。残る力を全て込め、想いをぶつけるように剣を交わした。激しい衝撃が腕を震わせる。
互角、ではなかった。俺は両の腕で受けるに対し、龍馬は一刀、すなわち片手だけの力。なら、空いた左手は。
天井へ向けてその手を伸ばす。二本目の刃が現れた。そして拮抗する剣戟、その局面に斬り込む。
音もなく、長年使ってきた俺の刀は両断された。刀身を失い、軽くなってしまった柄だけが己の手に残る。折られた刃は地を転がり、甲高い声を上げた。
そして龍馬はさらに踏み込む。迷いなど無く、その目は俺のその先を見据えていた。あぁ、そうだ。俺など越えてその先へ進め。
駆け抜けるそのすれ違いざま、俺の体に切創走る。血潮が溢れ、吹き出して。深紅の池に俺は浸かった。
何て目を、してやがる。その目は悲しみに揺れていた。初めて会った頃不意に見せた、父を亡くした子の目と同じだ。
あぁ、俺のことをそう見てくれるのか。視界が滲むのが、血を失ったからか俺も泣いているからか分からない。
ふと、真っ白になった光景に、大人びた姿の龍馬が映る。今後こいつが、こんな風に育ってくれるといいなと、願った。
ゆらゆらと、焼けるような痛みも溶けるように和らいでいく。そしてそのまま、龍馬がこれから歩む道程を夢に見るように俺は眠った。
★★★★★★
「止まるんじゃねぇぞ……」
☆☆☆☆☆☆
しがない家電製品です。
春休み、暇してたら面白そうなものを見つけたので参加しました。
おじさんの散り際を書きたかったのですが、分かりやすく書けたのかとても心配です。
楽しかったので、同じテーマでまた違ったものも投稿させていただくかもしれません、その時はよろしくお願いします。
Re: 袖時雨を添へて、【小説練習】第4回目 ( No.132 )
- 日時: 2018/03/05 21:39
- 名前: 通俺◆QjgW92JNkA (ID: d3qJlMm2)
手紙は何日も前から書き始めていた。
それがついに句点、「今度お暇がありましたら何処か、お出掛けになりませんか。」を書き記したことで完成した。何度も何度も推敲を重ね、もはや良し悪しも分からなくなってしまったが……きっと、ここまでの時間と労力を掛けたのだ、きっと平均的なものよりは上であろうという自負はあった。
便箋などは、私が手に入れられるものの中では最高級のものを用意し、洋封筒に入れて蝋で閉じる。
うん、我ながらおしゃんてぃという奴なのではないだろうか。クスリと笑いがこぼれ、慌てて誰かいないか確認してしまう。自室なのだから、当然私以外はいないのに。
その時ふと時計が見えた。アンティーク調のそれは、そろそろ寝なければいけないことを私に伝えてくれる。
「……うん、もう寝ようか」
手紙をいち早く届けたい気持ちもあったが、今夜はこの高ぶる気持ちを抑えベッドに入ろう。なに、手紙は逃げないのだ。問題はない。
明日はいい天気……いや、手紙を読んでほしいのだから午前は雨天で、ちょうど読み終わるころに晴れればよい。そんな子供じみた妄想をしながら、段々と意識はまどろみの奥へと沈んでいった。
◇
早朝、まだしばし眠くはあったが手紙のことを思い出して飛び起きる。当然のことだが、手紙は寝る前と同じ場所に置いてあった。身だしなみを整えて、いざいかんあの人の家へ……と普段の私を知る者が見れば目を丸くするような顔で自宅を出た。
……妄想というのもしてみるものである、こうもり傘を片手に少々浮足立ちつつ歩みを進める。豪雨ではない、しとしとと降り落ちる雨粒は、書物を読んで物思いにふけるにはいい日だ。
さて後は午後に晴れれば完璧なのであるが、そこまで求めては罰が当たるというものか。
町を抜けて、林を通り、山を登る。
生活に困ればいつ下りてきてもいいと伝えようとしたこともあるが、彼女の今までを侮辱するようでそれは心の奥底にしまい込んだ。
それに、高原で動物たちに囲まれながら暮らす彼女の心惹かれたというのもあったから……私が言うのはお門違いというものである。
いつの間にか、雨がやんでいた。もう少し降ればいいのにと思いつつも傘をしまう。
とうとう彼女の家、石造りで煙突からは白い煙を出している姿が見えるようになる。パンでも焼いているのだろうか。
さてさてここまで来たのはいいものの、どう渡すか。それが問題である。いきなりの来客は失礼だろう、だがしかし手紙だけを置いて帰ればきっと彼女はそのことに不満を持つだろう。
「めぇー」
「おぉ山羊か、君も一緒に悩んでくれるのかな?」
うんうん唸っていれば、いつの間にか足元に可愛らしい黒毛の山羊がやってきていた。まだ若いのだろうか、短い角と小さい体躯はどこかあの子を思わせる。
……本当に角が生えているわけではない、髪型のことを指している。そう心の中の彼女に釈明する。
「めぇ?」
「ん、なんだね物欲しそうな顔をしおって。生憎だが私は今、彼女に届ける手紙しか……いやそうだ、道中のおやつ代わりに買ったリンゴがあったな。食べるか?」
「めー」
安いからとつい買ってしまった。しかしよくよく考えれば自分は別段好きではないし、彼女などはリンゴの木が庭に生えている、食べ飽きているだろうに持っていけばそれは嫌がらせだ。
ならば、このお腹を空かせているらしき山羊に与えるのが最善に近いに違いない。
「……どうした?」
「めぇ」
そう思ったのに、リンゴを近づけてみてもスンスンと匂いをかぐだけで舐めようとも食べようともしない。
小さいとはいえ、もう乳飲み子からは離れたと思っていたが……まだ乳離れが出来ていないのだろうか。
ならば仕方がない、リンゴは適当に鳥にでもやるとして、私はさっさとこの手紙を入れてしまおう。よく考えれば、今回は飛脚にでも頼んだといえば彼女も気に病むこともあるまい。
赤いポストに入れて、今日は去るとする。
彼女の家に背を向け、今来た道を戻ろうとすると先ほどの山羊の声が後ろから聞こえてくる。
「めぇー」
「はっはっは、見送りの言葉のつもりか。中々に賢いや……ぎ」
あぁ賢い、非常に賢い山羊だ。
――なにせ、ポストを器用に開けて、手紙を加えようとしている。なるほど、目当てはリンゴではなく紙だったらしい。
黒山羊さんたら読まずに食べた、童謡を思い出す和やかな光景。
「……な訳ないだろう! 離せ山羊畜生め、これは私が丹精込めて書いて手紙だぞ!?」
「ぶぇー」
「手紙に食いつきながら鳴くとかいう器用なことをするんじゃない!」
もはや封筒のほうはダメだろう、だがそれでも、今取り返せば何とか中身は助かるかもしれない。そのためには、どうにかしてこの山羊の口を開けさせねばならない。
今では無垢なる黒山羊が悪魔の使いにさえ見える、そもそも山羊が食べる紙というのは植物性のものだけではないのか。
いや、そんなことはこんな畜生にはわかるまい。人に例えたら油ならば機械油でも揚げ物ができるといったアホな知人のようなものだ。
「離したまえ、さもなくば今夜の私の食卓に並べるぞ!」
「んめぇ~」
「あーっ! むしゃって音がした! わかった、私が悪かったからせめてそのまま食いちぎるのだけは―!!」
◇
結論から言えば、蝋の部分だけ残されてすべて食された。私の顔が絶望に染まり、膝をついている間も悪魔はすりつぶす様に口を動かしてこちらを嗤う。
何故だ、何故こんなことに……文面はいい。下書きがあるのだからそれを書き写せばいい、ただそれだけの話。
しかし、あの手紙に込めた思いは唯一無二、一期一会なのだ。
たとえ今から私が彼女を思い筆に起こしても、きっとそれは全く別のものなのだ。
ああだがしかし、きっと今明日未来のその先でも、この山羊に抱く憎悪は変わりあるまい。
「ふふ、ふふふ……トマトが余ってたな。若い肉ならば煮込む必要もない、ソースをかけて……」
「――な、なにをされてるんですか……?」
「なぁに、このにっくき獣をどう料理してやろうかとな……うん?」
山羊以外の声が聞こえた。透き通る、怒りで染まったどす黒い心さえも漂泊してくれる声。おかげでふっと冷静に戻り、ようやく隣に彼女が立っていたことに気が付く。
まずい、いくら何でもこの醜態を見られたのはまずすぎるというものだ。必死で言い訳を考えて、絶望と混乱にまみれ方向性もない思考では何も生み出せないことを理解する。
その間に、彼女は地面に落ちていた蝋を拾い上げ、それが何なのかを理解してしまったようだ。
「……蝋? も、もしかしてお手紙を――」
「し、し」
「し?」
どう逃げる、どうかわす。すでに手紙が食べられたということは悟られた。ならば、いつもの私の如く、キザに決めて煙に撒け。
黒山羊に食べられた、童謡、ああそうだ何も届いてはないがお返事も欲しい。
ぐちゃぐちゃに混ざり合った思考は、一つの捨て台詞を生み出した。
「――白山羊を飼っておく!!」
そう言って、私は山道を転がり落ちるように走り抜けた。
「……ごようはなあに、って書けばいいんでしょうか?」
「……めぇー」
女は一人、黒山羊に話しかけた。
******
どうも通俺です、手紙と聞いたら私は山羊しか思い浮かびませんのでこうなりました。
ちなみに女性のほうが年が上です。
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