雑談掲示板
- 【開催】第14回 紅蓮祭に添へて、【小説練習】
- 日時: 2022/06/18 14:16
- 名前: 浅葱 游◆jRIrZoOLik (ID: bC2quZIk)
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執筆前に必ず目を通してください:>>126
*
■第14回 紅蓮祭を添へて、 / 期間:令和4年6月18日~令和4年7月31日
白く眩む日差しの中で、水面は刺すように揺れていた。
□ようこそ、こちら小説練習スレと銘打っています。
□主旨
・親記事にて提示された『■』の下にある、小説の始まりの「一文」から小説を書いていただきます。
・内容、ジャンルに関して指定はありません。
・練習、ですので、普段書かないジャンルに気軽に手を出して頂けると嬉しいです。
・投稿するだけ有り、雑談(可能なら作品や、小説の話)も可です。
・講評メインではありません、想像力や書き方の練習等、参加者各位の技術を盗み合ってもらいたいです。
□注意
・始まりの一文は、改変・自己解釈等による文の差し替えを行わないでください。
・他者を貶める発言や荒らしに関してはスルーお願いします。対応はスレ主が行います。
・不定期にお題となる一文が変わります。
・一作品あたり500文字以上の執筆はお願いします。上限は3レスまでです。
・開始時と終了時には「必ず」告知致します。19時から20時を目安にお待ちください。
・当スレッドのお題を他所スレッドで用いる際には、必ずご一報ください。
□お暇な時に、SSのような形でご参加いただければと思います。
■目次
▶︎第1回 氷菓子を添へて、:今日、全てのテレビ番組がある話題について報道していた。
>>040 第1回参加者まとめ
▷第2回 邂逅を添へて、:彼女はいつもと変わらない、甘い匂いをまとっていた。
>>072 第2回参加者まとめ
▶︎第3回 賞賛を添へて、:「問おう、君の勇気を」
>>119 第3回参加者まとめ
▷第4回目 袖時雨を添へて、:手紙は何日も前から書き始めていた。
>>158 第4回参加者まとめ
▶︎第5回 絢爛を添へて、:「フビライハンとエビフライの違いを教えてくれ」
>>184 第5回参加者まとめ
▷第6回 せせらぎに添へて、:名前も知らないのに、
>>227 第6回参加者まとめ
▶︎第7回 硝子玉を添へて、:笹の葉から垂れ下がる細長い紙面を見て、私は思う。
>>259 第7回参加者まとめ
▷第8回 一匙の冀望を添へて、:平成最後の夏、僕こと矢野碧(やの あおい)は、親友の中山水樹(なかやま みずき)を殺した。
>>276 第8回参加者まとめ
▶︎第9回 喝采に添へて、:一番大切な臓器って何だと思う、と君が言うものだから
>>285 第9回参加者まとめ
▷第10回 鎌鼬に添へて、:もしも、私に明日が来ないとしたら
>>306 第10回参加者まとめ
▶︎第11回 狂い咲きに添へて、:凍てつく夜に降る雪は、昨日の世界を白く染めていた。
>>315 第11回参加者まとめ
▷第12回 玉響と添へて、:――鏡よ、鏡。この世で一番美しいものは何?
>>322 第12回参加者まとめ
▶第13回 瓶覗きを添へて、:赤い彼女は、狭い水槽の中に閉じ込められている。
>>325 アロンアルファさん
>>326 友桃さん
>>328 黒崎加奈さん
>>329 メデューサさん
>>331 ヨモツカミ
>>332 脳内クレイジーガールさん
▷第14回 紅蓮祭に添へて、:白く眩む日差しの中で、水面は刺すように揺れていた。
▼第n回目:そこにナマコが置いてあった。
(エイプリルフール企画/投稿期間:平成30年4月1日のみ)
>>156 悪意のナマコ星さん
>>157 東谷新翠さん
>>240 霧滝味噌ぎんさん
□何かありましたらご連絡ください。
→Twitter:@soete_kkkinfo
□(敬称略)
企画原案:ヨモツカミ、なつぞら
運営管理:浅葱、ヨモツカミ
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Re: 賞賛を添へて、【小説練習】 ( No.73 )
- 日時: 2018/01/17 18:24
- 名前: Alf◆.jMJPlUIAs (ID: qflJ.uco)
「問おう、君の勇気を」
全き無音がそこにあった。
されど、それは問うていた。
つややかに輝く漆黒の鱗。宝冠のごとく頭を取り巻く蒼き角。長い首、なだらかな丘に似た背、舵を切る太く平たい尾、それらを一本通す背の骨から、鎧の皮膚を突き抜けて伸びた青玉の棘。背に二対、腰に一対の翼持ち、その雨覆、綿羽、風切羽のことごとくに、己が讃える百万の神を刻む。
貌は蜥蜴にも狼にも見えた。見上げるほどの巨躯は遥かいにしえに滅びた恐竜を思わせる。五指を備えた指は人間に似て器用に動くも、指先の鉤爪は猛禽の獰猛さを以って友好さを拒絶する。ぬらりとなまめく鱗は蛇蝎に似ても似つかず、神話を徴す六翼は鳥とも虫とも、蝙蝠ともつかぬ。
そして何より、縦割れた瞳孔を持つ、如何な空よりも澄んだ蒼穹の双眸に、似るものは一つとしてなし。
死して尚爛々と輝く瞳を、俗界の生物は持つ由もない。
「ぁ……嗚呼っ」
聖殿の龍の加護を得るべく進軍した勇者に与えられたのは、試練でも庇護でもなく、聖殿の真ん中にごろりと転がされた骸であった。
疵は一つ。喉元の逆鱗から心臓を通す矢の一撃。誰の与えたものかは知らぬ。恐ろしく劣化した矢に刻まれた国章は、同行する賢者の記憶にすらない。紀元の前五千年から後三千年、雨後の筍の如く勃興し衰亡したあらゆる国と家の証を記憶する、かの偉大な紋章官が知らぬと言うことは、それ以上に古いということと同値である。
そして、聖殿の龍はそれだけの間死体として此処に転がっていたということもまた明白時。少なく見積もっても八千年、骸は腐りもせず喰われもせず、そして聖殿に誰さえも寄せ付けなかった。
骸であると知った驚きが過ぎ去ったあと、勇者とその同朋の背を貫いたのは底知れぬ畏怖だった。神の座を持つ龍が死ぬこと、その骸をして己より遥かな高みの存在であること。理解を深めるほど、勇者たちの身体は物言わぬ死体に震え上がるばかりであった。
「……龍の角は」
ひとしきり恐れ顫えて、ようやく打開の口火を切ったのは赤髪の魔女だった。魔女狩りの火を生き延び、どころか狂乱と享楽の火を友に狂信の村を火の海に沈めたという火炎の申し子。火と酒の神の加護を得たとも言われる才が操る炎は、龍の放つ息吹にすら匹敵するという。
彼女もある種狂気の火種を抱える者だった。なればこそ、より狂気的な荘厳さの中に在りて立ち直りも早かった。
「龍の角は、飲めば無尽蔵の魔力を得る」
「イーシャ、何てことを言うんだ!」
「だってもう死んでるじゃない! どうせもう加護は得られないのよアルフ。なら、残骸からでも恩恵を得て良いはずでしょ!」
勇者アルフの諌める声を、振り千切るようにイーシャは叫んだ。それは全く正論で、アルフはたちまちの内に黙らされることになった。
そこに反駁があった。
「聖殿の主様を……主の御使いの御身を、辱めるのですか」
背に純白の翼を広げ、頭に光輪を掲げて、腰には梟の意匠が彫られた銀の弓。泥濘著しい山道を通りながら、純白の衣装に泥跳ねの一つもない清らかな彼女は、勇者ら一行に神が遣わした御使いである。
如何な破戒の魔女も、上位の存在たる御使いに責められては黙るしかない。魔法を使う身にとって、彼女ら神の使いは、魔法を扱うに必要な手引きを一手に引き受ける仲介者。神の次に逆らいがたい存在だった。
潤んだ銀彩のまなこを龍の骸へと向ける天使へ、更なる反論があった。
「だが、聖殿の龍の加護を得られなくなっていることは事実だ。龍の護りの加護が無いなら、せめて龍の肝を呑んで病毒を遠ざけるしかない。でなければ、致死毒の蔓延する“門”の先へ辿り着くことは出来ない。……他の聖殿を探している暇は、ないぞ」
「そ、それは……」
狼のように鋭く剣呑で、それでありながら理知的な光を帯びた瞳。紋章官の賢者である。長く伸びた犬歯を見せながら、賢者は狼がするように鼻面へしわを寄せた。解決しがたい悩みのあるとき、よく見せる顔貌だった。
聖殿の龍から素材を剥ぎ取る。それは辱めと変わらない。勇者のすべき行いとは到底思えぬ。天使の言う通りだ。然れども、やらねば一生先へは進めないのだ。現実的に、そして機械的に考えれば、どちらが人類の未来にとって大切なことかなどすぐに分かる。
だが、単純な二者択一だけでことが収まらないからこそ、勇者は勇者なのだ。我々は清廉で潔白であらねばならず、高潔な武人芸人であらねばならず、何より人間であらねばならぬ。泥臭い人間性と理想的な非人間性の両立を、勇者とは否応にして求められるのだった。
――だから。
「問おう、魔女イーシャ、そして勇者アルフ」
こうした場で話を動かすのは。
「問おう、聖女リザ、賢者グランドン」
現実を見つめるばかりの魔女でも、理想と高潔さの徒たる天使でも、知識と理性に頼る賢人でも、それら全てを纏めようと奮起する勇者でもない。
彼等は若い。若く溌剌として、だからこそ揺らぐ。ならば。
「血を被り、はらわたを抉る勇気はあるか。龍殺しを、真の龍殺しとして成す勇気はあるか」
背を押すのは、戦場を渡る老雄の声。
かつて龍殺しを成した、満身創痍の老兵の声だ。
「バルド……」
「龍は頭が落ちるまで死なぬ。永く腐り落ちなかったのも頭が繋がっているが故に。だが最早命亡き骸であることに変わりなく、腐敗しない肉体に結びついた魂はいつまでも縛り付けられたままだ」
バルドは、軋る義足を引きずりながら龍の骸へ歩み寄った。
十数年前、災禍の龍を屠った彼は、その半身を犠牲に逆鱗へ刃を突き立てた。輝くばかりの白銀の鱗をもったその龍の、切り出された骨身が彼の半身を繋いでいる。一度は成った屠龍の凄絶さを思い出し、岩に鑿で刻んだような皺を一層に深くしながら、二指の欠けた右手が黒い骸をそっと撫でた。
硬くしなやかな鱗越しに感じる、ぎっしりと詰まりに詰まった筋肉の感触。己が手で切り刻んだ災禍の龍も凄まじかったが、聖殿の龍はそれに勝るとも劣らぬ。これほどの者をただ一矢で獲った狩人は、きっと当代の伝説か英雄だったのだろう。
想いを馳せたのはほんの一時。すぐに手は離れ、磨き上げた翠玉に似た目が、立ち尽くす若人達を見た。
「素晴らしき龍だ。血肉は我々を満たす糧となり、骨皮は雨風毒苦を凌ぐ盾となり、臓物は万病を癒し遠ざける医薬となりて、角牙は何をも切り拓く至高の刃となる。そして肉体の軛を離れた魂は、いつか苦難が地を覆うとき、それを祓う龍に再び生まれ出ずる」
「……過去の龍殺しの教訓かい」
「そうとも言うし違うとも言えるだろう。輪廻の在り方は龍も獣も人も、何も変わりはせんからな」
ひどく詩的に紡いで、アルフの訝るような問いは軽やかにかわし、バルドは腰の短剣を抜いた。光によらず仄かに輝く白刃は、龍の牙を丁寧に研ぎ上げて形作られたもの。生半な鉄や鋼などは、音もなく膾に切り捨てられる、そんな恐るべき切れ味の持ち主である。
その切っ先を、老兵は龍に向けた。
むくろが投げかけた問いに、若き勇者が是を以って答えたのは、それから数刻も経った後のことだった。
***
「問おう、君の勇気を」
もとい
『龍はふたたび死す』
***
悪なるものを打倒する勇気
聖なるものと相対する勇気
或いはそれを陵辱する勇気
いずれ欠けても勇者ならず
なれば龍殺しとは試練なり
***
勇者一行「塩焼きにすると最高だったよ」
Re: 賞賛を添へて、【小説練習】 ( No.74 )
- 日時: 2018/01/17 14:15
- 名前: hiGa◆nadZQ.XKhM (ID: vZOIuDRE)
Alfさん
読み進めながら目を閉じると、その竜の姿がまざまざと思い浮かぶようで、そのまま一息に読みきりました。
ファンタジー、特に龍は大好きなので丁寧に、雄々しく凛々しく逞しく、神聖で威厳のある姿を丁寧に書いて下さってて、とてもワクワクするような心地でした、というのが僕個人の感想です。
今度はもっとゆっくり読もうと二週目も読んだのですが、一周目以上に、硬派で重厚なファンタジーのような描写に惚れ惚れしました。
Alfさん的にはそのつもりがなくても僕はそんな風に思ったので「何いってんだこいつ」と思ったらぜひ鼻で笑ってください。
あまり常用しないような漢字が多く用いられているのに誤字や脱字のようなものも全然無くて、すごく丁寧に書かれていらっしゃるなと思いました。
強いて言うなら前半で漢字になっていた骸が最後の方で、平仮名になっていることでしょうか。もし意図的でしたら描写の意味を汲めなかった僕を罵倒してくださ((
一作目がこれだと二人目以降が萎縮してしまいそうだなと思うくらいに、自分としては好きなものでした。
普段感想なんて書かないのですが衝動的に書いてしまうくらいでした。
言いたいこと言っただけなので返事は無理になさらなくても結構です。
あ、そうだ。
最後の一行ダンジョン飯らしくてくすっとしま((
Re: 賞賛を添へて、【小説練習】 ( No.75 )
- 日時: 2018/01/17 15:07
- 名前: 銀色の気まぐれ者 (ID: AyZL16vM)
・・・どうして。どうしてどうしてどうしてどうして。
あの時、勇気をださなかったのか。小さな彼には、そんな
経験がいくつもあった。小さな彼・・・いや、彼女が、
初めて勇気をだしたお話。
「もう終わった!無理だ無理!こっから取り戻せる訳ない!」
それが彼が心の中でいつも言う口癖であり、逃げる為の言い訳だった。
学校に完全に遅刻すると、心の中でいつもそう唱え、行きたくもない
所へゆっくりと行った。一緒に遊ぶ約束をしている人の前で、「いれて」
なんて言えない時、自分の中で葛藤した。それでも言えなくて、後で
自分を責めて、責めて、責めた。”どうして”そんな言葉が、何度も
頭の中を過る。そのたびに自分がいやになった。言い訳を言う自分が。
逃れようとする自分が。楽しようと怠ける自分が。自己嫌悪で、押しつぶ
されそうになる。それでも、なにもできない。目の前で起こっている
出来事を止めるなんて、できない。・・・ある日。クラスメイトが虐め
られていた。行こう行こうと思っても、一向に足が動かない。”助けなきゃ”
その考えだけで、彼は殴りかかった。虐めっ子に。
「虐めなんて馬鹿みたいな事するな!!日本には虐めで死んでった子が
いっぱいいるんだぞ!!命を粗末にするな!!」
・・・なんて。なんて話があったら、少年・・・いや、少女は勇気を
出せたのだろうか。ただ。少し位は・・・進歩したのではあるまいか。
いつか。いつか、勇気を出してなんとかする。という事ができるのか、
こんな自分でも人の役にたてるのか、少年は・・・考えた。でも、答え
なんてわからなくて、まだ彷徨ったままだ。そうして、少年はどこか
クソ真面目な自由人へと変わり果てた。
Re: 賞賛を添へて、【小説練習】 ( No.76 )
- 日時: 2018/01/19 03:19
- 名前: 豬〓続笳〓RIrZoOLik (ID: jqQtRbNM)
*第3回お題
「問おう、君の勇気を」
*
遅くなりました、浅葱です。
今日、この更新を持ちまして第3回を開きたいと思います。投稿期間は1月17日~2月10日までです。
今回からスレッド名が「賞賛を添へて、」となりますので、キーワード検索される方はお気をつけ下さい。
誰かに認められるというのは、どんな人間であっても嬉しいものだろうと感じます。承認欲求が満ち、優越感が満ちる。
研鑽し合えるような、そうした交流の場になればいいですね。
*1/17追記
早速お二人もの方に投稿していただき、ありがとうございます。
他方でも物議を醸しました今回のお題について追記させていただきます。
○ 「問おう、君の勇気を」
× 君の勇気を問おう。
× 問おう、君の勇気を
上記に示しましたが、カギカッコも始めの一文として指定させていただいております。
また親スレを見てくださった方ならご理解の程だと思いますが、そもそも始めの一文に据えないというのはご遠慮ください。
こちらが提示したお題が分かりにくくなってしまいましたこと改めてお詫び申し上げます。申し訳ありません。
Re: 賞賛を添へて、【小説練習】 ( No.77 )
- 日時: 2018/01/17 18:31
- 名前: Alf◆.jMJPlUIAs (ID: qflJ.uco)
>>74
hiGaさん
ご感想ありがとうございます。
龍はモチーフとしてとてもカッコいいので(語彙力が死んでしますが、本当にただただカッコいいと思うのです)、ひたすらそのカッコよさを自分なりに突き詰めていった小噺となります。語られる龍はいずれも既に死んでしまっていますが、死んで肉になっても尚、胸の裡や人の身に爪を立てて残り続ける威容が少しでも見えればいいと思います。
「骸」から「むくろ」への変化ですが、これは小山のように巨大で複雑な「骸」から、ばらばらに切り分けられ理解された「むくろ」へ。難解な一つの漢字から平易な平仮名への変化で、勇者らにとって龍殺しが成されたことを暗示したつもりです。分かりにくく申し訳ありません、精進いたします。
練習スレとのことで慣れない文体に筆を執ってみましたが、ご好評頂けたなら何よりです。
聖なる龍を塩焼き。何とも罪作りな状況ですが、勇者一行はそれなりに楽しんでいそうです。暫くは聖なる龍のもつ鍋や聖なる龍の筋煮込みが食卓に並ぶことでしょう。
>>76
浅葱さん
御題に合わせて最初の一文を変更し、誤字訂正を含め多少の改稿をさせて頂きました。大変失礼いたしました。
Re: 賞賛を添へて、【小説練習】 ( No.78 )
- 日時: 2018/01/18 20:20
- 名前: メデューサ◆VT.GcMv.N6 (ID: 098ciEJY)
「問おう、君の勇気を」
そう書かれたメモ用紙を回収し、私はため息をついた
こんなしょうもない肝試しなんかで問われる勇気に意義はあるのだろうか、いや絶対無い
「み、見つかりました?」
「おー回収した回収した。早よ戻ろ」
そう言うとその女子―リボンの色が違うから他の学年だ―は私の後ろにいそいそと隠れる
この子みたいにホラーが苦手な人間もいるんだからもうちょっとみんなが楽しめるものにすればいいのに。なんて思いながらもチェックポイントの焼却炉を後にした
*********************
さすがに帰りは静かだった。お化け役の人達は次の組でも驚かしてるのだろう
この女子校には夏休みに入る少し前になると互いの親睦を深めるため校舎に一泊するという変わったイベントがある
そして、その夜には肝試しをするというのが我が校の文芸部の伝統だ――なんて夏を目前にしてホラーにハマったアホの部長は言ってたけどたぶんいつもの思いつきだ。だって去年こんなのなかったし
「ひょあっああぁあっ!?」
背後から突然聞こえた悲鳴に思わず驚く
「す、すみません。ただの鳥でした…」
驚かすなよ!なんて心の中で毒突きながらなんとか苦笑いで取り繕う。
あーあ、こんな調子だから部室から出るのも時間かかったんだろうな。だから慌てて追いかけて来たんだろうな
確かに私はホラーが平気だ、だからこういう風に突拍子も無いところで悲鳴をあげる人間と組ませたのはぶっちゃけ正解。
そうでもしないと驚かないもんねーはっはっは組ませた奴は後で何か奢らす
「あのさ」
「はいっ!?なんでしょう…」
「あんまくっつかないでくれる?歩きづらい」
「えっ、あっ、すみません…」
……………………………
「いや!だから!手ぇ離して欲しいんだけど!?」
「えっ、すみませんいやです、怖いです…」
「知らんわ!あっつい!動きづらい!」
「すみませんすみません……」
そう言いながらも全く離す気配が見えない。繊細なのか図太いのか
あんまり恐る恐る歩くもんだからついつい怒鳴ってしまった。でもこっちだって早く冷房の効いた部屋で涼みたいんだからキビキビ歩いて欲しい
*********************
「やあやあおかえり〜トップバッターご苦労様」
「………ただいまでーす」
「あっれれー?なんかテンション低くない?」
扉を開けた瞬間アホの部長のお出迎えを受けて一気に疲労感が増した
「お疲れ様。乃々井さん、これよかったらどうぞ」
「あ、あざーっす」
副部長からオレンジジュースを受け取ってありがたく一気飲みする。めっちゃ生き返るわこれ
「あ、そういえば今日の組み分け考えたの誰ですか?」
「んえ?」
「いや、今日相方引っ張ってくの苦労したんで組み分け考えた人には何か奢ってもらおうかなと。くじ引きもなかったし考えた人いますよね?」
「へっ、え?なーんのこと?」
「あっ部長ですかーダッツ奢ってください」
「ちょちょ、なんか勘違いしてないキミ?」
「声上擦ってんですよ。観念してください」
いやー日頃の行いって大事だなー
ともかく、部長にダッツを奢ってもらえる事になって私は満「乃々井さん?組み分けって何の話?」
ん?
「や、私と一緒に帰ってきたじゃないですか」
って
あれ?そういえばあの子どこだ?
部屋を見回しても私以外には部長と副部長しかいない
あ
「今回の肝試しはみんな一人で行く予定だよ?」
そういえばこの部屋
「大体メモにも書いてるじゃん?『君』の勇気を問おうって。複数人で行かせるなら『君たち』ってちゃんと書くよ。仮にも文芸部だもんそんな基礎の表現間違いは絶対しない」
全部の学年揃ってるのに
「ちょ、ちょっとあなた、その腕どうしたの?早く保健室で手当てを…」
あの子と同じリボンの人いない
え
じゃあ
あれ?
Re: 賞賛を添へて、【小説練習】 ( No.79 )
- 日時: 2018/01/18 21:49
- 名前: 奈由 (ID: IhjUQN9o)
(投稿させていただきます!)
「問おう、君の勇気を」
学校の屋上、柵を越えた先、後数歩踏み出せば空へと落ちる場所。
そこに1人の少女が立って居た。
長く無造作な髪の毛、腕に見える傷、夏に不似合いなカーディガン。
誰もが分かる。彼女は自殺しようとしている。目線の先は森。
彼女は一歩踏み出し、次の一歩を空中にだ──
せなかった。
彼女の後ろにある柵、のところに立つ少年、彼が彼女を引き止めた。
「勝手に死ぬな、先に、先に俺に死なせてくれよ」
「あなたには、死ぬ勇気があると?」
「は?なけりゃこんなとこには来ないだろ?」
「死ぬのが怖い、だから私を止めた」
「違う?」
「それは……」
「最後に問おう、君の勇気を」
彼女はそう言ってかすかに笑い、森へと落ちた。
鈍い音がした。
それを見た少年は思った。
俺には、理由がないんじゃないだろうか。
自殺する理由が。
だから、勇気がないんじゃないか。
君の、いうとうりだったんじゃないだろうか。
死んだであろう君の問いに、せめて、答えなければいけないのではないのだろうか。
彼は柵を越え、言った。
「きっと、どこかにある。」
森に向かってなんぼか踏み出し、落ちた。
鈍い音がした。
♢ ♢ ♢
「みー、これ、うまくできたと思うんだけど、どう?」
「ああ、短編のお話だっけ、いいと思うよ。私は好き」
「やった!じゃあサイトに投稿、しよう、かな?」
「では、問おう、君の勇気を」
「ふっ」
『ははははは!』
「いや、何真似してんだし」
「え、面白くない?」
Re: 賞賛を添へて、【小説練習】 ( No.80 )
- 日時: 2018/01/18 22:01
- 名前: 日向◆N.Jt44gz7I (ID: X.vArSoM)
「問おう、君の勇気を」
ああまた始まって仕舞った。私は御猪口片手に頭を抱えました。否、それはしなかったのですが。このまま頭を抱えてしまったら熱燗を頭から被ってしまうことになりましょう。いやしかし気を違えた振りをした方がまだ得だったのやもしれません。何しろ先輩が此のような呑みの席で此の口上が吐かれたら私の負けでしたから。一体此れで何度目か。
「何ですかね先輩、復たあの本の話ですか」
「これこれ君よ。復た、とは何だね。僕ぁこの話を君にするのは初めてだぞう」
先輩は紅ら顔でささくれ立った人差し指の端を私に向けた。先輩は一度書き事に集中しなさると原稿の上で鉛筆をがりがりさせながら、御自分の指もがりがりしてしまう嫌いがありました。皮が破けてしまおうが血が滲もうがお構いなしに執筆なさるので、他の女学生らは彼を敬遠なさります。その上悪いことに文章の中で主人公が笑うと御自分もお顔を破顔させ、主人公が怒ると其のげじげじ眉毛を吊り上げなさり申し上げました、そして泣かせの場面となるとその後机がびちょんこになっていたのでした。コケトリーな女主人公なら尚更最悪で、どうかどうか筆舌に尽くしがたいその御有様、想像して戴きたく。
先輩は以前として呂律の回らない舌を必死に使って、声を荒げつつ酒臭い唾を飛ばしていました。何ということでしょう完璧に出来上がって仕舞っているではありませんか、最悪、じーざす。
「第一ね、僕ぁねえ、ああいう手合いのが厭なんだ。何だい、御読者が頁を捲って読み進めなきゃあ事件は起きなかっただの、此れ此れは死ななかっただの。人を莫迦にしているんじゃあないかしら、ねえ」
「これで四回目なんですがね、ええ。先輩はいつもその本をえらく酷評しなさる。私はそうは思いませんが」
どうしてなのですかい、とはわざと尋ねませんでした。どうせ聞かなくてもその杯を干せば鼻の孔をふんすふんすお広げになって再び御高説を賜るでしょう。これは私の先輩の癇癪に対する小さな抵抗でもあったのです。
先ほどの口上は先輩の言及なさっている本の一節でした。先の冬にナニガシ文庫より発売され、随分話題になった書物でありました。その書物の売りというのが【読者が犯人である】という何とも不可解な謳い文句だったのです、しかも仄暗い表紙に巻かれた帯にでかでかと何ともけばけばしい赤文字で鎮座しているではございませんか。先輩は手をわなわなと震わせてその本を取るなり、憤慨してお金も払わずに本屋から走って行ってしまったのです。
「ええい君は大莫迦者だ。無論世の中もだ、よく聞けい、このような草書を悦んで重版にした編集社も印刷屋も狂っていやがる」
狂っているのは先輩でありませんか、そう言いたくなりました。はははと先輩はわざと馬鹿笑いをして一瞬白目を剥きました。先輩の熱がどんどん増していくものですから周りのお客さんが言い合わせたかのように怯えた顔で此方の卓を見遣りました。私はただそのようなときは、済みません、とやたら神妙な面持ちを準備して顔の前で手刀を斬ります。
平常なら理詰めで頭でっかちの筈の先輩でしたが、どういうわけか不思議とこの話題になると頭がお回りになりませんでした。そしてひとしきり教養とアルコオルを含んだ唾を御吐きになると泣き疲れて眠るのです。全く莫迦莫迦しいのは先輩ではありませんか。どうしてここまでして拘泥されるのかちっとも訳が分かりません、私は。
「先輩、御兄様は」
私が端を発した瞬間、先輩は時が止まったようにぴたりと、ありとあらゆる身振り手振り酒を煽る手呂律の回らない舌どうして歯列矯正をなさらなかったのか疑わしい歯のかち合い少ない睫毛の瞬きを全て止めました。瞳孔は収縮を繰り返し、平常よりあれほど鍛えていらっしゃる顔面の筋肉は情けなく痙攣するのみです。私はそれを毅然とした態度で見詰めました。一分か十秒かそれは分かりませんがいくらか経った後に唇を震わせ、鯉のように口をぱくぱくさせなさると口内で行き場を失っていた涎がヒノキの卓上に垂れました。
先輩は声にならない声を喉奥から絞り出すと幼児のように涙をぼろぼろと零してしゃくりを上げました。
「莫迦だなあ、死んじまって」
また其のような事を仰って。
私も貴方もただ認める勇気が出ないだけではありませんか、先輩。
先輩はひとしきりさめざめお泣きになると、畳の上に、私に背を向けて横になりました。
暫くすると畳の上で寝息が聞こえてきましたので、私は勇んで巻いてきた筈の黒髪を耳に掛け、すっかり馴染みになったタクシー会社に電話するのでした。
Re: 賞賛を添へて、【小説練習】 ( No.81 )
- 日時: 2018/01/18 22:32
- 名前: 何でもしますから! (ID: 0o3cuTPE)
後書きはないですが前置きです
好き勝手書きました、本当に申し訳ございません、あらかじめ謝ります。
長編ファンタジーのクライマックスみたいな感じになっておりますが、私自身こんな設定の物語聞いたことも作ったことも書いたこともありませんので、今回書いた以前のストーリーに関しては私に聞かれても答えられません。キャラクターの名前?ないです。
最後にアドバイスですが、読まぬが吉。何のために書いたかって、自分の練習のためとしか答えようがなく……。
主催の方々には土下座するくらいの所存であります。
追記
そんだけ好き放題したくせに2レスに分けなきゃ投稿できないこのスタイル。
あの、ほんとごめんなさい!許してください!(ハンネ)
↓本編
「問おう、君の勇気を」
初めて彼女の手をとった時の声を、彼は思い出していた。敵に襲われ、体も衣服もすりきれてしまっていたというのに、あの日の彼女の心は何一つ傷ついていなかった。凛々しく問うたその声には一片の揺らぎもなく、茶色い瞳は真っ直ぐに彼の瞳の奥を射抜いていた。その時彼女を助けられるのは目の前の彼しか居らず、彼が逃げ出したらもう死んでしまうというのに、彼女はまず目の前の少年の勇気を問うた。
あの時本当は、彼女がどれだけ心細く感じていたのだろうかと、彼は想う。後に彼女は、一人きりの部屋で泣いていた。彼が手をとってからと言うものの、彼女は孤独を知らなかった。だから久々に、風邪をひいて独りで寝ていた夕方に、孤独の寒さに涙していた。その姿を見て彼は、彼女のために戦いたいと己の意志を再確認した。
そんな彼女は、事切れる最期の時まで独りになることはもう無かった。目の前に相対している仇である、氷の魔女から目を離さず、彼はその氷の魔女と初めて向かい合った時のことを思い出した。あの頃は浮かれていたと、当時の愚かな自分を思い出してほぞを噛む。何度こうして過日の己を悔いてきただろうか。思い出さない日なんて、一日たりともなかった。それくらいに彼は許せなかったのだ、氷の魔女と、そして自分を。
炎の魔女を倒した、調子に乗っていた。今なら、二人でなら誰だって倒せると思い上がっていたのだ。そうして出会ったのが現代最強と謳われた女、白い装束に身を包み、凍てつくような眼光で刺すように威圧する、氷の魔女。その心は無機質で、氷のように冷酷だった。
そして今も、その冷酷さは変わらない。持ち前の氷の魔法で、じわじわと彼を追い詰めるその様子は、まるで狩りを楽しむ狼のようであった。彼の抵抗する勇気を少しずつナイフで削ぎ落とすように、ゆっくりと彼の体力を消費させる。彼が彼女に託された魔法も全て、己の莫大な魔力で捩じ伏せた。溢れ出る魔力はどこからか鉛色の雲を呼び寄せ、そして吹雪を巻き起こす。春の昼間だというのに、彼女を中心としたその空間は恒久の夜に包まれた雪国のようだった。
悪魔に魂を売っただけはあるなと彼は目の前の氷の魔女を睨み付けた。もはやその肉体は女どころか人間であることを辞めており、魔力の器としての存在でしかなかった。誰一人として触れることは能わないが、それでも殴れば薄氷のように粉々になるような、脆い体。その肉体の脆弱性を代償として氷の魔女は、人間離れした魔力を得たのだ。
それはそれで助かったと、彼は思う。いくら彼女の仇とは言え、女性を殴るというのはほんの少しだけ抵抗があった。それ以上の怒りがあるため、結局敵討ちはすることになっていただろうが、一欠片の躊躇も無くなっていた方がいいに決まっている。
肌を突き刺す冷気が、また一段と強くなる。凍えるような寒さではなく、痛みだけが体の表面を駆け抜けていた。その昔、北国が実家の友人が言っていた「寒すぎると痛くなる」というのは本当だったんだなと思い出す。
そろそろ、氷の魔女は赤子の手を捻るような戦いに飽き飽きしており、終いにしてやろうと絶大な魔力を荒れ狂わせていた。ただそれさえも、相手にとっては児戯に等しい。
負けられない。託された魔力を胸に、ただそれだけを彼は考えた。何があっても負けられない。目の前のこの女だけは必ず、自らの手で討ってみせる。それが、死して黙する彼女に誓った、再起のための約束だった。決して諦めない、絶望しないし、恐れもしない。
恐怖に足を震わせた自分を思い出す。初めての氷の魔女との邂逅、浮かれきっていた自分達の力と相手との力量の差、恐れ戦いて背を向けるも、足がからまって上手く逃げられなかったあの日、彼を庇うように彼女は凶刃を浴びた。
「クレイマン」
魔力を込めた掌を地に押し当て、眷属の名を口にした。大地が隆起し、大きな丸い岩の塊が現れる。ずんぐりとした手足と顔のようなものがせり出てきて、物言わぬ泥の人形となった。それが、一体や二体ではなく何百体と生まれていく。あまりの数の、その多くの人形達に囲まれた彼の姿は、もう氷の魔女の位置からは確認できなかった。
「またそれか」
言ったはずだと、退屈そうに魔女はため息をついた。そんなもの自分には通用しないと、何度も言葉のみならず実践を以て示していた。凍てつき、くだけたクレイマンはいくつも転がっている。無駄な努力とは滑稽だなと、氷の魔女は嘲る。
「独りぼっちで誰からも愛されなかった土の魔女らしい魔法だ、寂しさを紛らわすために土くれに囲まれ、仲良しになったつもりになる」
そんなもの幻想に過ぎないというのに。氷の魔女は下らない意見を切り捨てるように土のゴーレムを蹴散らし始めた。腕を振るえばそれは指揮者のタクトのように吹雪を操り、前線のゴーレムから機能停止に陥らせる。構成する土の中の水を完全に凍結させたり、巨大なゴーレムなら周囲の蒸気を凍結させ、氷の中に閉じ込める。子供をあやすようにゆらゆらと腕をふって吹雪を意のままに動かす、それだけで彼の作り出したゴーレムはみるみるうちに減っていく。
退屈、それだけが魔女の胸中に渦巻いていた。悲鳴も無い、血も溢れない、ただただがらくたを生産するだけの虚しい抵抗に、感じるものは何も無かった。敵討ちだと息巻いてきたにも関わらず、結局は物言わぬ人形頼り。どうせ何も残せないなら、断末魔でほんの少しの悦楽を与えて欲しい。
飽き飽きして、欠伸をこぼしたその時だった。まるで氷の魔女がそのように振る舞うと予測し、待ち構えていたかのように、彼は唐突に飛び出した。残った魔力のありったけ、そのほぼほぼ全てを使って巨大なゴーレムを作り出す。形が簡易なので大きさの割りに使う魔力は少ない、このまま質量で押し潰す作戦だ。我が身を犠牲に、氷の魔女を掴んで押さえつけようとする。
>>82へ
Re: 賞賛を添へて、【小説練習】 ( No.82 )
- 日時: 2018/01/18 22:30
- 名前: 何でもしますから! (ID: 0o3cuTPE)
命を代償に、魔女の力は口付けた相手に受け継がれる。そうして彼は土の魔女の力を得た。これまでは溢れる魔力を供給する、いわばタンクのような役目に過ぎなかった彼だが、それにより独りでも戦える力を得た。これまではただ、魔力の足りない彼女を補うだけの彼が自力で魔法を使えるようになったのは彼自身二人でいた頃より強くなったと感じていたが、それでもやはり、寂しさに胸を打たれて仕方なかった。
どうせ死ぬなら、君にあげようじゃないか。死の淵まで、彼女の声は凛々しくて、一片の揺らぎもないものだった。好いた女性からの口付けだというのに、何も嬉しくなかった。敵討ちを心待ちにしていると、氷の魔女は冷たい微笑を浮かべていた。
今日がその時だ。あの日も、彼らが自分の魔力に敵わないと理解すると、退屈そうに欠伸をした。好機があるとしたらきっとそこだけだ。隙は突いた、全力は尽くした、もう後は作戦が上手くいくことを信じるしかない。
急いでゴーレムの下敷きにならないところへ飛ぼうとする氷の魔女に、すがりつくように彼は飛びかかる。既に勢いよく飛び出している彼の方が、急に動き出した氷の魔女よりもずっと早く、その左腕に手が届く。後は掴むだけ、ぐっと指先に力を込めるように指示し、後一寸もあれば最強の名を欲しいままにしてきた魔女に手が届く、その時だった。
「及第点、といったところね」
彼の動きは、まるで停止を押された映像のように、急にピタリと止まった。掴まれそうだと判断した魔女は、回避ではなく迎撃を選んだ。相手がほぼ全ての魔力を使ったと言うなら、自分が温存する必要もなくなる。最後のゴーレムは確かに巨大で山のようだが、それでも全魔力を使えば術者ごと氷漬けにできる。そう、判断してのことだ。
そしてできあがった氷の中の剥製は二つ、今にも倒れそうな巨大な土人形、そしてここまで彼なりに健闘した一人の人間。最後の最後、少しだけ楽しめたわねと、魔女は楽しげな微笑を浮かべて見せた。
とどめを刺そうかと、僅かに残った魔力で鋭利な氷の槍を彼女は生成した。もうすっかり魔力は使い果たしており、普段なら一瞬で千と作れる氷の槍も、二、三作るのが限界だった。
これで終わり、天高く指した指を下に振り下ろすような動きで念じると、三方向から氷漬けのままの彼の体を串刺しにした。心臓を、頭蓋を、腸を、それぞれの刃は貫いた。土の魔女と同じ死に様なら彼も本望だろうてと、彼女なりに彼を弔った。
いつものように、勝利の一時に浸ろうかと、一度ゴーレムの下敷きにならない位置に彼女は移動し、指を軽く鳴らしてみせた。彼、そしてゴーレムを覆っていた氷は一瞬で砕け散り、きらびやかに宙を舞う。キラリキラリと氷の破片が舞い遊ぶ中、彼が先程作り出したゴーレムは誰の姿を捉えることもなく、虚しく地に伏した。そのゴーレムに寄り添い、先程まで相対していた、元は魔法の使えなかった男のことを思い出していた。
これだけの魔力量は、普通の人間にしてはありえないものだ。全く才能というものは恐ろしいと氷の魔女は惚れ惚れとした。人間を辞めていなければ、確実に自分は負けていただろう。
ふと、自分の足が何かを蹴飛ばした。それはごろりごろりと転がった。何だろうかと見てみると、一つだけ残った食べかけの団子のようで、先程氷の槍に貫かれた頭部だった。どれ、その顔を拝んでやろうと、ひょいとそれを持ち上げる。やはり頭というのは重たいものだ、そう思いながらもふと一抹の疑問が生まれる。
はて、それにしてもこんなに重かったものだろうか、と。
次の瞬間だった、すぐ側のゴーレムの巨大な頭部にヒビが入ったのは。手元に持ち上げた物体の方に意識を戻す。それはよく見ると、人間の頭では無かった。表面の色さえも再現し、表情さえも自在に変える、精巧な土人形。彼の本体だと、氷の魔女が錯覚していたのはずっとその人形だった。
なら、本体は。気づいた時には、もう遅かった。おそらくは、大量のゴーレムに身を隠したあの瞬間が、この作戦の始まりだったのだろう。ゴーレムの巨大さは、自分の身を凍死から護る目的もあったのだろう。
彼は潜んでいたゴーレムの中から飛び出した。そのために必要な魔力だけを温存していたのだ。これだけ大きく作ったのも、氷の魔女に全魔力を使いきらせるため、そしてその状態で決着をつけるには、自分もほぼ全ての力を使う必要があると分かっていた。
魔力も尽きた魔女は、驚きもあってか足が止まっている。いや、気づいてもしばらくは動けないだろう。悪魔との契約で奴の体は常人よりもずっと脆い。
「自分のことは、もう痛め付けた」
彼には三つ、氷の魔女が口にした中で訂正したい言葉があった。一つ目は、かつて氷の魔女が彼女のことを弱いと言ったこと。彼女の意思は、まず間違いなくこれまで会ってきた誰よりも強かった。
自分自身、体力を使いきってヘロヘロの体を、しゃにむに動かす。こんな千載一遇の好機は、絶対に逃さない。戦う前から、戦っている最中も、ずっと、ずっと思っていた、一発ぶん殴らないと気が済まない、と。
自分自身は、彼女が死んでから何度も何度も傷つけた。何日も飲まず食わずで徘徊し、そこらのチンピラにわざと喧嘩をしかけ、囲まれてなぶられ、立ち直ってからも血ヘドを吐いて修行した。
氷の魔女は、力の及ぶ範囲全てを凍てつく死の大地にしようとした。きっと彼女はそれに反抗するだろう。悪魔に魂を売った魔女に、そんなことはさせないだろう。彼にできる贖罪はそれだけだと、ずっと鍛えてきた。そしてついに届く時がきたのだ。
二つ目の訂正は彼女の魔法が詰まらないものだということ、寂しさを紛らわすことしかできないというもの。この魔法で救われた人もいれば、彼女は友人を作った。彼女の力は友を作る魔法であり、愛する人を護る魔法だった。
迫り来る、鬼神のような形相の少年に、ここ百年ずっと負けなしだった氷の魔女に、初めて敗北の二文字が迫っていることを感じさせた。負けた際には悪魔に魂を引き渡す、そういう契約になっている。しかし、逃げようにも飛ぶ魔力も走る体力も残っていない。
彼の拳が、魔女の頬をとらえた。その頬は冷たいが、氷のような冷たさでなく、まるで死人のように暖かみが無いと表現する方が正しかった。人間を殴っているのとは、全く感じの違う、異質の感覚。だが、ついに捉えたのだ。
歯を食い縛り、足腰から全力で踏ん張る。軋む全身のバネを使って拳を振り抜いた。あまりにも軽く、人間離れした体が宙を舞う。
というのも当然だった。氷の魔女はとうの昔に本来の肉体を失っていた。悪魔と契約したその日から、彼女はその莫大な魔力と魂だけを朽ちぬ人形の中に収納させていただけだった。
敗北、契約履行の条件を満たしたため、魔女の魂は悪魔に引き渡された。魂を失った人形は、地面にぽとりと落ちると、そのままもうピクリとも動かなかった。
そして三つ目、土の魔女は誰からも愛されていなかったというもの。
「いたんだ、少なくとも一人は、確かに」
魔女が呼んだ鉛色の雲は次第に散りつつあった。春の柔らかな日差しが彼へと降り注ぐ。
こうして、長かった彼の戦いは幕を閉じた。
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