雑談掲示板

【開催】第14回 紅蓮祭に添へて、【小説練習】
日時: 2022/06/18 14:16
名前: 浅葱 游◆jRIrZoOLik (ID: bC2quZIk)

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 執筆前に必ず目を通してください:>>126

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 ■第14回 紅蓮祭を添へて、 / 期間:令和4年6月18日~令和4年7月31日
 白く眩む日差しの中で、水面は刺すように揺れていた。



 □ようこそ、こちら小説練習スレと銘打っています。


 □主旨
 ・親記事にて提示された『■』の下にある、小説の始まりの「一文」から小説を書いていただきます。
 ・内容、ジャンルに関して指定はありません。
 ・練習、ですので、普段書かないジャンルに気軽に手を出して頂けると嬉しいです。
 ・投稿するだけ有り、雑談(可能なら作品や、小説の話)も可です。
 ・講評メインではありません、想像力や書き方の練習等、参加者各位の技術を盗み合ってもらいたいです。


 □注意
 ・始まりの一文は、改変・自己解釈等による文の差し替えを行わないでください。
 ・他者を貶める発言や荒らしに関してはスルーお願いします。対応はスレ主が行います。
 ・不定期にお題となる一文が変わります。
 ・一作品あたり500文字以上の執筆はお願いします。上限は3レスまでです。
 ・開始時と終了時には「必ず」告知致します。19時から20時を目安にお待ちください。
 ・当スレッドのお題を他所スレッドで用いる際には、必ずご一報ください。
 


 □お暇な時に、SSのような形でご参加いただければと思います。


 ■目次
 ▶︎第1回 氷菓子を添へて、:今日、全てのテレビ番組がある話題について報道していた。
 >>040 第1回参加者まとめ

 ▷第2回 邂逅を添へて、:彼女はいつもと変わらない、甘い匂いをまとっていた。
 >>072 第2回参加者まとめ

 ▶︎第3回 賞賛を添へて、:「問おう、君の勇気を」
 >>119 第3回参加者まとめ

 ▷第4回目 袖時雨を添へて、:手紙は何日も前から書き始めていた。
 >>158 第4回参加者まとめ

 ▶︎第5回 絢爛を添へて、:「フビライハンとエビフライの違いを教えてくれ」
 >>184 第5回参加者まとめ

 ▷第6回 せせらぎに添へて、:名前も知らないのに、
 >>227 第6回参加者まとめ

 ▶︎第7回 硝子玉を添へて、:笹の葉から垂れ下がる細長い紙面を見て、私は思う。
 >>259 第7回参加者まとめ

 ▷第8回 一匙の冀望を添へて、:平成最後の夏、僕こと矢野碧(やの あおい)は、親友の中山水樹(なかやま みずき)を殺した。
 >>276 第8回参加者まとめ

 ▶︎第9回 喝采に添へて、:一番大切な臓器って何だと思う、と君が言うものだから
 >>285 第9回参加者まとめ

 ▷第10回 鎌鼬に添へて、:もしも、私に明日が来ないとしたら
 >>306 第10回参加者まとめ

 ▶︎第11回 狂い咲きに添へて、:凍てつく夜に降る雪は、昨日の世界を白く染めていた。
 >>315 第11回参加者まとめ

 ▷第12回 玉響と添へて、:――鏡よ、鏡。この世で一番美しいものは何?
 >>322 第12回参加者まとめ

 ▶第13回 瓶覗きを添へて、:赤い彼女は、狭い水槽の中に閉じ込められている。
 >>325 アロンアルファさん
 >>326 友桃さん
 >>328 黒崎加奈さん
 >>329 メデューサさん
 >>331 ヨモツカミ
 >>332 脳内クレイジーガールさん

 ▷第14回 紅蓮祭に添へて、:白く眩む日差しの中で、水面は刺すように揺れていた。


 ▼第n回目:そこにナマコが置いてあった。
 (エイプリルフール企画/投稿期間:平成30年4月1日のみ)
 >>156 悪意のナマコ星さん
 >>157 東谷新翠さん
 >>240 霧滝味噌ぎんさん


 □何かありましたらご連絡ください。
 →Twitter:@soete_kkkinfo
 

 □(敬称略)
 企画原案:ヨモツカミ、なつぞら
 運営管理:浅葱、ヨモツカミ

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Re: 袖時雨を添へて、【小説練習】 ( No.134 )
日時: 2018/03/02 00:42
名前: ちん☆ぽぽ (ID: ysDREYUo)

 手紙は何日も前から書き始めていた。書き始めの一文を決めるのに一日かかり、あまりにもよそよそしかったので二日目で破棄。三日目、肩の力を抜いて書いた文は蟻の行列のように終わりがなくて、またくしゃくしゃにして捨てた。そんなことを何度も何度も繰り返して、なぜ彼女は手紙なんて古風な手段を取ろうと思ったのか、そもそも僕は返事を書く必要があるのか、便箋とにらめっこしながら考える。何枚目かの便箋が真っ白なままその日も結局書き上げることができなかったので、いい加減自分の情けなさを認めざるを得なかった。

 手紙というものは難しい。電子機器が発達し、お金と時間をかけずとも一瞬で地球の裏側まで繋がってしまう現代において、この手段はあまりにも手間がかかる。便箋を揃え、文章を考え文字を書き、切手を貼り郵便ポストに投函する。学生時代から進歩のない、この汚い字を書き並べるのすら恥ずかしくて、読んだ相手に笑われそうだと思うととても書き進められない。何分書き慣れていないからなのだろうが、一つひとつに時間がかかる。もちろん、手紙を貰う嬉しさも読む楽しさも人並みに経験があるが、とても自分には向いていないと感じる。
 そんな訳で、彼女から手紙が送られてきた時は途方に暮れた。薄いきいろの花が描かれた可愛らしい便箋に、祖母に仕込まれた美しく力強い文字で率直に「私はあなたのことが好きです」などと書かれては太刀打ちできない。おまけに、鉛筆で書かれた文章の最後、彼女の名前が何かで擦ったようにぼけているのが悲して、その日はどうも涙が止まらなかった。

 「付き合おう」と言い出したのも「結婚してください」とプロポーズしたのも彼女からで、結局「さようなら」を言い出したのも彼女の方が早かった。僕が情けなさに打ちひしがれながら、辛うじて「はい」と返事をするのをみて笑っていたから、彼女は僕に先手を打つのが大好きなのだろう。ある日、家に帰ったら玄関で「私は余命半年。今のうちにしておきたいことはある?」と聞かされた時も、彼女は僕が頭に疑問符をいっぱい浮かべて固まっているのをにやりと笑った。
 「旅行に行きたい、ふたりで」
 「きっとこれからもっと具合が悪くなる。動けなくなる前に行こう」
 と、ふたりで念願のエジプへ旅立ったのはその二週間後だった。山ほどの写真とお土産を持って帰ってきて、荷物が片付かなくて困った。酔ったノリでハンハリーリ市場の商人から買った怪しげな壺は、今も家に飾られている。
 それから、エジプトに熱を上げた彼女が居間を古代エジプトの宮殿のような空間にリフォームしたのも、一日中怪しげなダンスミュージックが流れているのも、晩ご飯がフールメダンメスばかりなのも、僕はたのしくて仕方なかった。
 ちょうど半年後、彼女がもう息を引き取るという時にまでこの怪しげな音楽を彼女が聴きたがるので、僕は泣けて泣けて、泣きながら笑っていた。笑った僕を彼女は寝ぼけたような瞳で一瞬見つめて、笑いながら心臓の鼓動をやめた。
 「馬鹿、いい加減にしろ、笑っちゃうだろ」
 泣きながら笑って、また泣いて、ぐしゃぐしゃのどろどろになった気持ちのまま、彼女の手を握った。たった一人で彼女の死に向かう時、このエキゾチックな音楽がなかったら、きっとその場で首を吊ってた。間違いない。

 そうして、何日か経って彼女から届いた例の手紙には、末尾に「お返事待ってます」と添えてあった。彼女の死に際して行わなければならない面倒なあれこれを終えて、いざ書こうと筆取ればこのザマだ。
 手紙は何日も前から書き始めていたのに、僕は涙で袖を濡らすばかりでまだ手紙が出せない。これは予感だが、死ぬまでずっと彼女に手紙は出せないだろう。
 三途の川の向こう側、君が僕を出迎えてくれた時、沢山お土産話を聞かせられたらいいだろうと思う。手紙は苦手な性分なので。

Re: 袖時雨を添へて、【小説練習】 ( No.135 )
日時: 2018/03/02 01:55
名前: refrigerator (ID: LyBxwAsk)

 手紙は何日も前から書き始めていた。一人の少女は空を見上げる。いつもよりもずっと強い勢いで柔らかな雪が降り続けていた。昨日までの雪が溶けて、凍って。スケート場のようにつるつるになってしまった地面の上に純白の絨毯が広がる。
 四時過ぎ、ほんのちょっと赤みがかった西日が厚い雲の向こうからほんの少しだけ顔を覗かせる。べしゃり。汚い音を立てて、水と雪とが溶け合った深いところに足を踏み入れる。防水のしっかりされた冬靴を履いているので靴下まで浸水することは無い。一寸の飛沫が飛んでスカートにかかる。制服の紺色は水に濡らされてより濃くなる。ぺたり張り付いた冷たい布地に、少女は顔を顰めた。
 ブレザーの上に来た真っ黒なコート、そのポケットに彼女は手袋もつけていない裸の手を挿して歩いていた。駅の近辺には沢山の人がいて、絶えず彼女の隣を流れていく。白い絨毯の上には、何重にも重なった人々の足跡が並んでいる。
 眺めてみると様々な模様があって、それだけ多くの人がこの辺りを歩いたんだなと彼女は思った。溜め息を、一つ。吐いたそれは唇の間から漏れたその時には白く濁った。そのまま、ほんの少し自分の行く道を先導したかと思うと、掌に乗せた雪の結晶のように消える。くしゃり。ポケットの内に秘めた紙に、何本もの皺が走った。
 駅前に並んだイルミネーションは、もう青や白の光を放っており、駅前の広場を賑わわせていた。木に巻きつけられたLEDが、鹿の形に並べられた光源が、鮮やかな光で夕暮れ時を照らし出す。横長の大きなスクリーンには電光が走りっぱなしで、光の線があっちに行ったりこっちへ来たり。じっと眺めていると目がちかちかするくらいに。少女はじんわりと涙を浮かべ、その理由は電光のせいだとした。また、一層深い皺がコートに眠る手紙に走る。きっと、その恋文が再び目を開くことはないだろう。
 また、誰かとすれ違う。その男女は同じ色のマフラーをして、白い景色の中頬を紅潮させて嬉しそうに喋っていた。また、すれ違う。その夫婦は言葉こそ交わさないものの、手を繋いで幸せそうに歩いていた。すれ違う。老夫婦のうち、おばあさんが滑りそうになっていたところを、おじいさんが支えた。少女は、コートの中の手紙を力いっぱい丸めた。
 秀也くんへ。その手紙はその一文から始まる恋文だった。去年と今年、同じ教室にて過ごしてきた、一人の少年へと宛てた手紙。可愛らしいピンクの紙片に、精一杯想いを綴って、家にあった白い封筒に詰めた。古典的な方法だと思う。けれども、電子メールで告白するのは躊躇われた。けれども少女に、面と向かって告白するような勇気も無かった。だから、手紙。こっそりと、帰る間際に彼のロッカーの中に忍ばせようと考えていた。
 けれども少年には、いつの間にか恋人ができていた。まるで雪の精みたいな、とても綺麗な女の子。昼休みの教室で、冷たいことで有名なその少女が、彼の前でだけ顔を桃みたいにしていた。軽く糊付けされた手紙を、その瞬間にもっと強固な封をした。絶対に、誰も見ることができないように。強く、固く。封筒の中に閉じ込めたのはきっと、彼に宛てた言葉だけでは無かった。相手の女の子は、姓も名も、冬を思い起こす名前をしていた。
 靴底の半分以上が、雪の中に埋まる。前に人がいないことを確かめて、積もった雪を蹴飛ばした。冷たい綿毛が宙に舞う。ふわりふわりと、また地面へと舞い戻った。同じことを何度か繰り返す。蹴って落ちた綿毛をまた蹴る様子は、どこか虐めているようだった。
 ぐちゃぐちゃに潰れた封筒を、ポケットの中から取り出した。使い終わったチリ紙のように丸められたその手紙を見る。ぽつり、ぽつり。季節外れの時雨が、彼女の袖を濡らした。寒空の下に降るその雨は、煮えたぎるように熱かった。
 ぽいと、雪の上にその手紙を投げ捨てる。ころりころりと転がって、どこに行ったか分からなくなる。真っ白な封筒が、同じく真っ白な銀世界に溶けたようだった。

 あの手紙も、雪と同じように溶けてしまえばいい。一緒に詰め込んだ、私の恋心と一緒に。

 吹雪はより、一層強く。凍てついた風が、街の中を駆け抜けた。



                                  fin


これまでに投降された方たちと違って、少々短めのお話を一つ。
失恋のお話です。意識したところは、感情を直接表現する言葉をほとんど使わないようにしたところです。
それと、会話文を0にし、心の中の声も最後の改行で区切ったところ以外では書かないようにしてみました。
初めて挑戦する書き方で、少女がどのような思いでそれぞれの行動をとったのか、伝わっていればいいなと感じました。
参加させてもらい、深く感謝です。

Re: 袖時雨を添へて、【小説練習】 ( No.137 )
日時: 2018/03/02 12:35
名前: 葉鹿 澪 (ID: jFRMoa1I)

 手紙は何日も前から書き始めていた。そして、何日も前に書き上げていた。
 可愛いシールで封をした封筒を、そっと指で撫でる。この中には何と書いていただろうか。確か、書き出しは『中学生になりました。』だった。
 自分の住所と、その上に並んだ遠い地。宛名も、もう何度見ただろうか。昔は難しい字ばかりだと思っていたのに、今となっては何も見ずに書ける。見慣れたこの名前が纏う春の色に気付いたのは、この宛名を書いた時だった。
 手紙なんて、届くかどうかも分からない。届いたって読んでもらえるのか。一度送ってしまえば、返って来るのは返信だけ。LINEの方が便利だなんて思う日が来ることを、この手紙を書いた私はきっと夢にも思わなかった。
 もうすっかり剥がれかけていたシールを剥がし、中の便箋を取り出す。隙間なく文字で埋められた二枚の紙は、あの日の私の思いを瓶詰めしていた。
 届くかどうか、届いたかどうかも分からないのに、手紙を書いてしまうのは。
 自分の文字で、伝えたいことがあるからだ。
 大人っぽかったあの子に似合うよう、可愛くとも落ち着いたレターセットを選んだ。
 文香の香りが移った紙を広げ、ペンを持つ。
 何を書こうか。全て書いていたら、きっと便箋が封筒に入りきらない。
 大人びていたその姿を真似て、髪を伸ばしたこと。化粧も覚えて、それでもきっと、まだ妹のように思われてしまうのだろう。中学も、高校も、大学も、楽しいままに終わったこと。そっちは何をしているかな。元気でいてくれるのかな。
 便箋は、あっという間に埋まってしまった。
 しっかり辺を合わせて、折り畳む。封筒は少し厚くなってしまったけれど、きっとポストには入るだろう。
 宛名の美しく温かい色は、一筆書くたびに息が止まる。
 切手を貼って、糊付けすればもう出せる。何度も確認した。
 一通だけの手紙を持って外に出れば、いつの間にか早咲きの桜が枝を淡く染めていた。
 日差しが柔らかい。あの子のようだ。あの子の、名前のようだ。
 ポストに、そっと手紙を落とす。カタン、と戸が閉まる音で手紙と私を繋いでいた糸は切れた。
 あの子は読んでくれるだろうか。読んでくれなくとも、私の名前を見て何か、思ってくれるだろうか。
 家へと帰る道すがら、ふと空を見上げた。少し霞んで埃っぽい青空を、久し振りに見た。


 次の日、私のポストには赤い判子を押された手紙が一通、入っていた。

Re: 袖時雨を添へて、【小説練習】 ( No.138 )
日時: 2018/03/02 14:50
名前: hiGa◆nadZQ.XKhM (ID: eSd0jwFU)


今日は、例のごとく参加させてもらおうと思っているのですが、とりあえず感想の一番乗りをさせていただきますね。

小生僕俺吾妾余某朕輩者@オレッチあっしさん
他の方と変わってコミカルなお話で面白かったです。
童謡を元にしておられ、何だか懐かしい感じがしました。
年上女性の気を惹くきざな男の人が何だか可愛らしかったです。
今度から彼には羊皮紙でも使わせてあげてください 笑


月白鳥さん

読んで一言、「まるでクマムシ」
フィクションの中でならいくらでも作れるえげつない病原体にゾクゾクしました。
丁寧に病気の進行が描かれているので、ありありと瞼の裏にその様子が浮かび、何とも痛々しかったです。
手紙がテーマになっている中、このように格式張った書簡の形式で書くことができる人はきっとカキコだと数少なくて、文章で表現する地力はそれすらこなせる月白鳥さんがこのサイトでは一、二を争う方だなと勝手に思っています。

前回みたいに複数投稿なさるのを期待しております((
異形頭とか((


ぽぽさん
四文字超えると名前が長く感じちゃうので縮めちゃいました。
名前に☆とか入ってて、気を抜いて読み始めたのですが、まさかの純愛でびっくりしました。
それもしっかり彼女との思い出も書かれていて、視点人物の過ごした日々を思い浮かべて追体験できるようでした。
悲しいようで前向きな終わりも自分好みでした。
かつて凄いハンネで小説大賞もらっていた人と似たような雰囲気だなぁとも思いました。


葉鹿澪さん

手紙、届かなかったんですね……。
書くだけ書いて、出すことができず、何年も何年も。
積み重なって十年分か、それ以上溜まったのに届かないというのも何だか切ないですが、現実的にはそりゃ当然、って感じですよね。
うつくしきものたちを読んだ時に同じことを思ったのですが、葉鹿さんの書く文章は、何か引っ掛かることもなく、脳が理解する領域にストンと落ちる気がします。
あえて悪く言えば淡白なのでしょうが、するりするりと読み進められる感覚が自分としては好きです。

Re: 袖時雨を添へて、【小説練習】 ( No.139 )
日時: 2018/03/03 01:39
名前: あんず (ID: 7nUlbL6k)

 
 手紙は何日も前から書き始めていた。
 
 それこそあいつに催促されるよりもずっと前から。なのにどうしても書くことが思いつかなくて、便箋に居座る空白は依然として埋まらない。それを見るとやる気まで失せて、筆はいつの間にか数日止まったままだった。
 それでも日に日に手紙の期限が近づいてくる。そう思うたび比例するように私の思考はもたついていく。書きたくもない手紙なんて、授業で書く無駄に長い作文と大して変わらない。嫌気が差す。最近は随分と雨が続くから、多分そのことも相まって溜息ばかりが増えていく。あいつへの提出期限は、明日だ。
 
 だから仕方なくこんな、馬鹿馬鹿しいことだけれど、私は宛先の本人足る者の隣で手紙をしたためている。そろそろ催促するあいつの声も煩いし、部屋に篭っても私の筆は進まないから。だからといって、もちろん中身は見せない。あいつだってわざわざ見ようともしてこない。あくまでこれは、彼に当てた私からの「手紙」なのだ。
 
「ねえ、書けた?」
「……書けない。うるさい」
 
 ムスッと返した私の声に、あははと軽快な声が返る。何が面白いのか隣で鳥類図鑑を広げて読む彼の傍ら、私の持つペン先は同じ場所をぐるぐるとなぞっているばかりだ。
 なんでもいいからさあ、俺に手紙を書いてよ。なんて、適当な言葉で頼んできたくせに、渡された便箋は三枚分。これだけは最低でも書けと言う。何様だ、手紙ってそういうふうに頼んで書いてもらうものではないはずだ。それに、こいつは一体こんな手紙に何を望んでいるんだろう。
 
「ねえ」
「ん、なに?」
 
 随分と熱心に鳥の図を追う姿にぼんやりと声をかける。てっきり返事はないと思っていたら、思いの外すぐに返事があった。集中している時のこいつは、とことん私を無視するはずなのに。いつもみたいにあてのない、独り言のようなつもりが拍子抜けだ。しかもその目はこちらを見ているものだから、仕方無しに言葉を続ける。
 
「ねえ、ほんとに明日、死ぬの」

 自分の声が少しだけ震えたのが分かった。それを悟られてしまうのが何となく気に食わなくて、不自然に咳をした。きっと気付かれているだろうけれど。
 彼は数秒おいて口を開いた。「うん」と返す、その言葉は淀みない。それからまた少し間を空けて、もともと笑っているばかりの口元をさらに歪める。彼の赤い唇が目に焼き付く。
 
「うん、死ぬよ」
 
「……ふうん」
 
 自分は多分、変な顔をしている。答えた彼の笑顔にイライラとする。自分から聞いたくせに、随分と勝手だけれど。あっけらかんとした顔も声も、私はこいつが嫌いだ。こんなときは特に気に食わない。
 数週間前、私に死ぬと宣言してから彼の言葉は変わることなく同じもの。そして多分、本当に明日死ぬんだろう。私はそう確信している。彼は嘘をつかない。それは私が一番、痛いほどに知っていることだ。いまさら疑うのも馬鹿馬鹿しい。
 それに私がこいつの立場にいたら、死にたくなるのもまあ分からなくない。そう思うから、きっと止めることも野暮なのだ。私は見送らなければいけない。それが私の義務だと、やっぱり自分勝手にそう思う。
 
「俺が死んだら寂しい?」
「まさか」
 
 だよね、と彼の細い肩がすくめられた。もう会話を断ちたくて、相変わらず書くこともないのにペンを握った。俯いて紙を見つめても、別に言葉が浮かんでくるわけでもない。また溜息が出る。このまま紙までも湿ってしまいそうだ。
 だいたい、手紙なんて書くとしたら彼自身だろう。遺書ってやつだ。なんで私が死にたがりに言葉を書き残さないといけないんだ。おかしい。そんな恨みを込めて睨みつけても、今度こそ彼は熱心に鳥の写真を目で追っていて気付かない。息を吐いて、仕方なく開けた窓の外を見た。
 外は土砂降りだった。傘をさして歩くのはあまり好きではないのに、この中をまた歩いて帰るのか。いいことが一つもない。便箋の空白も埋まらない。ただ、明日も雨だったら彼は死ぬことを諦めてくれないかな、なんて考える。彼は鳥になって空を飛びたいと言うから、雨だったら飛べないだろう。ああ、私はもしかしたら寂しいのかもしれないな。もちろん、そんなことは死んでも口には出さないけれど。
 
「手紙さ、俺が灰になる前には書いて。で、棺に入れといてよ」
 
 そしたらいつか読むからさ。言いながら彼は立ち上がった。どうやらもう帰るらしい。壁の時計は二時を指している。私はまだ座ったままだ。人気のない図書館の自習スペースは薄暗く、彼の顔はよく見えない。ただ気配から笑っていることだけは分かった。こいつはそういう奴だ。
 
「じゃあね」

 ひらひらと振られた手が遠ざかっていく。遠ざかったまま、私はあの背中を見ることは二度とないのだと考える。またね、とは言わなかった。それは私の中の淡い望みで、彼にとっては邪魔にしかならない他人の願望だ。だから代わりに笑ってやった。笑顔で送り出した。ざまあみろと舌を出す。彼は背を向けて見ていないだろうけど、それでももう何だって良かった。
 
 
 前日までの雨が嘘のように、やってきた朝は快晴だった。
 
 
 *
 

 ペンは止まることなく動いていく。彼は望み通り鳥になって空を飛んだけれど、だからといって私はこの手紙を書くのを止めるわけにはいかない。これは約束だ。まだ人間であった彼が交わした最後の約束だろうから、それくらいは果たしてやりたい。
 大切なものは失ってから気付きます、とありふれた言葉が頭を駆け抜ける。ということはつまり、彼は私にとって大切ではなかったのだ。いてもいなくても気持ちは変わらない。向かう気持ちは苦々しい。私は心の底からあいつが大嫌いだ、だから涙も流れない。ああ、よかった。
 あれだけ書くことがないと悩んだのに、今では黙々とペンを走らせている。もう返信は来ないから、そう思って好き勝手に書きためるうちに、手紙はまるで日記のようになってしまった。三ページはとうに超えている。数日間の面白くもないことを連ねた紙は、私の前に降り積もっていく。
 彼への言葉はあまりにも少ない。私の恨みつらみと、恥ずかしいくらい赤裸々なことばかり。つまりこれは手紙でなくて、私からあいつへの独白なのかもしれない。返事を待たない一方的な一人語りだ。
 
「……あ」
 
 顔を上げた先、時計はまた二時を指していた。彼の告別式が始まってからすでに数時間。今日も雨が降っていて、やはり外は薄暗い。湿った臭いが鼻を刺した。じめじめとした空気が肺に纏わりついて、カビが生えてしまいそうだ。出棺の時間が近づいていた。こんなギリギリまで式にも出なくて、手紙だけ棺に放り込みに行くなんて無礼だろうか。それでもこれだけは書かなければいけない。それが約束だ。
 便箋最後の半分ほどの空白。今まで書いてきた日記のような拙い文章は切り上げて、最後くらいあいつに言葉を残しておこうか。そう思うと途端に筆が止まって、やっぱり伝える言葉は何もないような気もする。
 だからといって、最後まで私について書くのも気に食わないのだ。あいつに最後に言葉を書き残すなら、私は私自身ではなくて、もっと詩人のような粋なことを残したい。
 
 私はあなたのことが好きでした、試しにそう書いて、急いで紙を破り捨てた。ぞっとしない。分かりきっていたけれど、それは私達の言葉ではないのだ。
 好き嫌いとか、そんな二つの言葉で私達は語れない。といっても、私達があたかも小説のような、詩的で複雑な関係であったかと問われればそれも違う。ただ、違うのだ。そもそも人間の関係性を好きだとか嫌いとか、そんな言葉ですっきりとさせてしまう奴等のほうがおかしい。私達はそんなに馬鹿で単純な生き物じゃない。
 
「ねえ、そうでしょ」
 
 私達は、馬鹿ではないよね。
 返事は帰ってこない。それでも一人で頷いた。彼だって頷くと分かっている。なぜならこれは彼の言葉なのだ。彼は鳥に憧れていたわけだけど。人は馬鹿じゃない、とまるで呪いか何かのように唱えていたのは彼だ。だから言葉を書き進める。
 私はあなたのことが、何だったんだろう。彼は私に何かを残したわけでもないのに。その部分ばかり書いては消して、消して、破り捨てた。三十回を数える頃にようやく、すとんと言葉が私の中に降りてきた。しばらく手を止めた。呼吸までも潜めた。自分の言葉に納得をして、それからもう一度ペンを取る。半分ほど空いたままの空白を睨みつけながら手を動かす。
 
――ここまで長々と私の話ばかりで呆れたでしょう。この手紙を書き終えたら、私はあなたを忘れます。もう思い出しません。だからあなたも、私の夢にも思い出にも出てこないでください。私の全てから消えてください。そのくらいはする義務があなたにはある。
 
 子供じみた理不尽な言葉を書き連ねて、いよいよ最後の行が埋まる。ひどく泣きたくなって、それでも涙は出なかった。悲しいわけではない気がした。それでも苦しいのは本当だった。馬鹿じゃないか、何がそんなに。
 この手紙はまるで遺書のようだ。私の日記と、さようならの言葉ばかり。私が書いた、彼の遺書。いや、彼自身の手はそんなもの残さなかったから、所詮は私の傲慢か。それならやっぱり、これは恋文とでも呼べばいいだろうか。
 震える手と胸の高鳴りの中、夢中で息を吸い込んで、吐いた。声に出しながら一文字ずつ。最後の行にペン先が向かう。私の全てをここで捨ててやる。いいよ、よろこべ、この言葉だけは全部、何もかもあんたのものだ。死にたがりに残す言葉はもうこれっきりだ。だから聞かせてあげよう、私は。

 

「私はあんたのことを、」
 


***** 
 
 2度目まして、あんずです。前回感想を頂けてとてもありがたかったです。今回は私も感想を書きに来れたらな、と思っています。ありがとうございました。
 

Re: 袖時雨を添へて、【小説練習】 ( No.140 )
日時: 2018/03/03 12:00
名前: 扇風機 (ID: LyBxwAsk)

 手紙は何日も前から書き始めていた。けれども、見習い魔女のナナはというと、途中で筆が止まってしまっていた。羊皮紙の前で羽ペンを持った手で頭を抱えて、目の前の光景をどう説明したものかと思案する。あまりに幻想的なその光景は、彼女の拙い語彙で表現するには困難だった。
 折角辿り着いたこの絶景を師であるマーリンに伝えずしてなるものかと、何日も同じ場所に泊まり続けて彼女なりの言葉で手紙に書き連ねていた。最果ての大地に一人住まう魔法の師匠。齢八十だと言うのに容姿はまだ若者にしか見えない世界一の魔法使いである。魔法のインクは、彼女の魔力に呼応していくらでも書き直すことができる。もう既に、羊皮紙十数枚分の言葉を書いては消してを繰り返していた。
 どうしたものかしらね。くたっと垂れた三角帽子の折れ曲がった天辺を指で引っ張りながら、彼女の周りを月のようにくるくる飛び回る稚龍に尋ねた。全長がナナの顔ほどしかない、満一歳の幼いドラゴンはピィと一声泣いて答える。知らないよって、言っている風に思えた。紫色の鱗は、いつかは立派なものになるのだろう、しかし今の仔ドラゴンの鱗は、魚のそれと変わらないくらいに頼りないものだった。卵を孵したのもその後育てたのもナナであるはずなのに、親というよりもはや妹のように扱われていた。私の方がずっとお姉さんなのにと、十三のナナはよく不満そうに唇を突き出していた。
 まあ最初から期待してなかったけどね。元々、人間の言葉なんて理解できない種族なのだ。それも赤ん坊。十三年も生きてきた自分でさえ目の前のその美しい世界を他人に伝えるだなんてできそうにないのに、彼にできる訳なんて無いと決めつけた。では、どうしたものかと彼女は再び羊皮紙と向き合うことになる。
 水晶乳洞、彼女らが今いるのはそう呼ばれる土地だった。通常鍾乳洞は石灰岩が雨水に溶けることにより、長い年月をかけて出来上がる。しかしこの場は、水晶が溶けることによって出来ていた。水晶が溶けてできた鍾乳洞のような土地、それこそが水晶乳洞である。水晶などどうやって溶けるのか、それはその鍾乳洞の最奥、蟻地獄のように窪んだ土地に沈みように横たわる、巨龍の骸が原因であった。
 蝕龍、そう呼ばれる種である。特徴としては丸みを帯びた山椒魚のような頭をしており、身体中黄土色にくすんだ鱗で覆われている。鱗は己が発する酸により溶かされて、ぼろりぼろりと定期的に崩れ落ちるが、下からどんどんと新しい鱗に生え変わる。呼気、汗、血液、排泄物にはあらゆる物質をゆっくりと溶かす強酸が分泌されており、近づく者を許さない臆病なものである。
 そんな蝕龍は、己の体が大地を、湖沼を、大気を穢すと本能的に知っている。そのため、己の死期を悟った時には、周囲に生命が見られないような大地でただ眠りにつくと言う。その時選んだ大地がたまたま水晶に覆われた洞窟であったため、氷柱のような水晶が天井から幾千本とぶら下がった光景が生まれた。そして龍の骸から漏れる酸も尽き、洞窟内の幻想的な光景が発見された訳である。
 そしてさらに珍しいこととして、絶景を作り出す要因はもう一つあった。この蝕龍は二百年に渡る生涯において、ある大陸の毒沼の近くを立ち寄った際に好酸性の菌をその地の獣の血肉と共に摂食していた。あらゆるものを溶かすはずの龍の酸だったが、ごく一部の個体だけが生き残り、そのままその菌だけが増殖した。そしてその菌は、ゴルシフェリンという物質を産生することができた。コンジキホタルカビ、学術的にはそう呼ばれているものだ。そしてそのカビは端的に言うと、金色に光輝くのである。
 だからこそ、深い深い洞窟の最奥、陽の光など全く届かないような洞窟の中でその空間はあまりにも輝いていた。まるで真昼のように明るくて、結晶に当たって吸収されたり、あるいは乱反射された光が優しくその空間を照らしていた。ひっくり返した剣山のような天井を見る。青色、藍色、紫色、その三つの色合いの水晶が地面に向かってその手を伸ばす。成分を学者が分析した結果、それぞれディプライト、インディゴライト、アメズ結晶、そう呼ばれているものと分かった。ただの石英が龍の魔力に中てられて生まれるとされる魔力を蓄えた水晶石である。削って飲めば魔力のドーピングができる特別な物質だが、依存性が強く竜化してしまう危険性を孕んでいるために服用は禁忌とされている。
 本来酸では解けぬような三種のクリスタル。それらも蝕龍の酸の前ではまるで水をかけた砂糖のようにあっさりと溶ける。だが、やはり龍の魔力、それも酸を分泌した張本人の力を浴びた結晶である。最初は溶けて滴り始めてしまうが、徐々に抵抗を得るようにして再結晶する。そうして、垂れて垂れて地面へと腕を伸ばし続けた姿が、この鍾乳洞様の光景だった。
 そしてそれらは、ただ溶けるのではない。それぞれの色合いを持った結晶が、複雑に絡み合うようにして溶け合う。けれどもそれぞれの水晶はそれぞれ全く違った物性を示し、絵の具を混ぜるように完全に溶け合うわけでは無い。それはむしろ、青と藍と紫の三種類の糸が互いによじれて、複雑に絡み合うようにして混合体のようになっていた。
 コンジキホタルカビの放つ光は水晶の中を通り抜けるたびにその色合いを変えて。青、藍、紫以外の光をランダムに吸収する特徴のあるそれらの結晶を透過すると、時折赤や黄色の光が生まれることもある。そのため、水晶そのものは三色しか無いにも関わらず、もっと色とりどりの万華鏡のような光景を鍾乳洞の中に描き出していた。それも、吸収する波長がランダムなために同じ個所を映す光の色合いも秒を追うごとにちょっとずつその顔色を変える。魔力を吸った鉱石特有のその光景は、人でなく自然が生み出した魔法のスクリーンであった。
 こんなに綺麗なのに。ナナは、目の前の光景を目にしながらそれでもこの景色が世界で一番美しい光景でないことに深いため息をついた。最も美しい世界は遥か彼方にあると、彼女の師匠は言っていた。その光景は自分しか見たことが無いとも付け足して。この蝕龍をも超える強力な瘴気を放つ龍、邪竜が存在するらしい。その邪竜から漏れる瘴気は、あらゆる宝玉を溶かしてしまうと言う話だ。
 そうして、魔族の大地の業火山ヴォルガフレイムを越えた先、極寒の平原コキュートスを抜け、底なしの毒沼である龍喰らいの胃袋を渡ったさらにその先、『元は宝石だった』海があるという。エメラルドが、ルビーが、プラチナが金が銀がトパーズが溶けてできた海。波打つたびに虹色の飛沫が飛び、潮引く度に龍の死骸が見えると言う。
 全ては語らないから自分の目で見てこい。爽やかな笑顔で言い放つマーリンのその言葉は、ただただ厳しかった。
 魔族の大地なんて、行こうものならすぐさま死んでしまう。邪悪な魔力が魔力の弱い者を侵して魔人に変えてしまうし、そうして生まれた魔人は我を忘れて人を襲う。闇の侵攻に抗いながらも、呑まれた者に打ち勝てるだけの魔術の素養と修練が必要だ。
 その上三千度の炎に耐え、零下八十度の極寒を乗り越え、数キロに渡る毒沼を渡らねばならない。そして最後に、金まで溶かす邪毒の瘴気に耐えねばならない。魔力に恵まれた者しか見れぬ光景、いくつになったら自分も見ることができるのかなと、肩を落とした。
 ゆっくり書けばいいか。魔法のポーチには、まだまだ食糧が入っている。ちょっとずつ食べれば四日は持つだろう。自分の目で見たその世界を、彼女は彼女なりの歩幅で文にする。呪文でもない言葉を紡ぐのは初めてだけれど、久しく会っていない師匠に出すと思うと心躍る。
 いつか絶対、この世界の綺麗なもの全部見届けてやる。決心を固めなおした彼女に呼応するように、幼い龍がピィピィと鳴いた。




家電製品です
ファンタジー寄りの話にしたかったのですが力不足でした。

Re: 袖時雨を添へて、【小説練習】 ( No.141 )
日時: 2018/03/04 00:01
名前: ヨモツカミ (ID: QzezFalo)

 手紙は何日も前から書き始めていた。筈なのに、『親愛なるアリスへ』で書き始めた紙面には、等間隔に引かれた無数の罫線が並んでいるだけ。檻に入れられた白ウサギさんみたいに、紙は白と黒の繰り返しがあるだけだった。
 インクさえ付いていない羽根ペンは、何10分前から握り締めていたかもわからない。鳥さんの羽根が付いているのだから、パタパタと勝手に動き出して、わたしの代わりに書いてくれればいいのに。なんて考えると、ついついわたしは溜息を滲ませてしまう。
 深く息を吐くと幸せが逃げちゃうよ、といつか彼女に言われたのを思い出した。けれど、逃げる幸せなんて、この目で見たことも無い。幸せってお星様みたいに空に飛んでいってしまうのかな。それとも、キャンディーみたいにポロポロと下に落ちていってしまうのかな。もしも落ちてゆくものなら、この何も書かれていない紙の上には、私の幸福がばら撒かれているのだ。
 そう思った途端、急にペンが走り出した。紙の上でキラキラと光る幸せの欠片を避けながら、わたしの代わりに、彼女に伝えたかった事を綴ってくれている。やっぱり思った通り。鳥さんの羽根が使われているのだから、このペンは生きていたのだ。
 しばらくして羽根ペンが止まる。書かれた文章を何度も何度も読み返して、わたしはまた深く息を吐く。慌てて口を抑えた。わたしの幸福は幾つ散らばってしまっだろう。わからないけれど、書けた手紙をクシャクシャに丸めると、それを後ろに放りなげた。それは、既に床に転がった数匹の丸められた紙の群れに加わって、溶け込んでしまう。似たような内容のくせに、その数だけを増やしていく。
 わたしはまた新しい用紙を取り出しては、白紙と睨み合いをする。こんな事を繰り返して、もう5日が経過していた。出発の日は明日に迫っているのに。
 伝えなきゃ。でも、彼女はこんなことを知ったら、怒るだろう。それでも、伝えなきゃ。でも、彼女は泣いてしまうだろう。もしかしたら、わたしを嫌いになってしまうかもしれない。でも、でも、でも。
 不意に、背後にある部屋のドアを叩く音が響いて、わたしは肩を震わせた。振り向いて、開かれたドアの隙間から覗いた顔にぎょっとする。
 チョコレート色の長髪、長いまつ毛、翡翠の大きな瞳、小さな鼻。この部屋の扉を叩くのは一人しかいないのだから、わかっていた。彼女だ。彼女がお気に入りの、黒と赤を基調とした可愛らしいワンピースの裾が、蝶々みたいに揺れながら近付いてくる。

「なかなか会いに来てくれないから体調崩したのかと思って、私から来ちゃった」

 少女は笑う。チェシャ猫みたい――とまではいかないけど。あんな品のないニヤニヤ笑いでは無く、マカロンのような、可愛らしい笑顔で。
 彼女が足元に丸まっていた手紙に気が付いて、拾い上げた。慌てたが、車椅子に腰掛けるわたしは、立ち上がってそれを止めることもできず、開いた口から溢れる声もなく、オロオロとすることしかできなかった。
 開いた紙面に視線を落としていた少女が、ゆっくりと顔を上げる。不安に歪めたわたしの目を覗き込む翡翠は、疑心に揺れていた。

「……どういう、ことなの」
「…………」

 彼女の口から溢れる、枯れ葉の声を聞いた。わたしはただ微笑んだ。他にどうしていいか、わからなかったから。
 彼女が唇を震わせて、ゆっくり。ゆっくりと距離を詰めてくる。否定するような足取りで。

「もう会えないって、どういうことなの? 私達、もう一緒に遊べないの?」
「…………」

 その手紙には、必要最小限に、伝えなければならない事が書かれている。
 遠くへ行ってしまうこと。
 もう二度と会えないこと。
 あなたとの約束は守れない。それでもわたし達は友達である、ということ。
 最後に、「両手一杯のパンジーをあなたに」という一文を添えて。
 しかし、彼女を憤らせ、取り乱させるには十分な事実が幾つも転がっている。わなわなと震える彼女の肩。大きな二つの翡翠がグラグラと揺れる。溢れた翡翠の欠片は、色もなく透き通っていた。

「嘘付き! 私達ずっと一緒だって、約束したのに!」
「……、……」

 口を開きかけたが、言葉は出てこない。俯くと、彼女とは対象的な、水色のワンピースの裾と自分の病弱そうな細くて白い膝が見える。膝の上に乗せた両手は、無意識に強く握り締められていた。

「今日も……なにも、言ってくれないんだね」

 彼女のその言葉で、胸が痛くなる。鏡に小さなヒビが入るのを連想する。彼女の言葉は鋭利なナイフ。勢い良く突き立てられた刃を中心に、ピシピシと音を立てて、写りこんだ彼女の顔に入る亀裂は広がっていく。嗚呼、彼女が砕けてしまう。
 繋ぎ止めようと必死なわたしに構わず、彼女はその顔を歪める。

「いつも、お花やお手紙を渡すだけで、あなたは何も喋ってくれないよね」

 鏡に映りこんだ少女の顔は、翡翠の欠片に濡れて、失望に歪んで、ひびだらけだ。慌ててわたしは辺りを見渡す。ヒヤシンスは見つからない。どうしよう、どうしよう、どうしよう。
 オロオロしながら、机の上に置いていた紙の上に、羽根ペンを走らせた。罫線など無視して、汚い文字。流れ星の尾みたいに掠れた文字列の紙を、彼女に差し出した。

『ごめんねアリス。夢で会おうね。
両手に抱えきれないほどのハベナリア・ラジアータをあなたに』

 頬を濡らしたまま、彼女が目を瞬かせる。じっと、紙面の文字を読んで、それからゆっくりと顔を上げて、私の方を見た。

「あなたは、逢いに来てくれるの?」
「…………」

 わたしはこくこくと何度も頷いた。壊れた振り子時計みたいに。そうすれば、雨を降らせていた彼女の顔に、太陽が覗き込む。

「約束っ、約束よ! 皆には秘密の、私達だけの約束! ふふっ、また私達だけの秘密ができたね!」

 虹がかかったみたいだと思った。彼女が笑っているならそれでいい。守れない約束と、嘘であなたが笑うなら。わたしも嬉しいから笑う。嘘つきのわたしは、オオカミに食べられてしまえばいいのに。
 ……手紙は、何日も前から書き始めていた。1枚目の手紙は、羽根ペンが書いてくれたわけでもなく、零れた幸せに汚れたわけでもない。わたしが、わたしの手で書いて、でも引き裂いてしまった本音。

『親愛なる偽物へ。
 ずっと思っていたことがあるの。あなたはね、アリスに相応しくないよ。
 白ウサギさんは時間に追われたまま、あなたのお迎えなんて忘れてしまっている。帽子屋さんは三月ウサギの夢に焦がれてお茶会を繰り返しているから、あなたに会いには来ない。チェシャ猫は消えてしまったはずよ。もう二度とあなたの目の前には現れない。
 ねえ、偽物。
 あなたに女王の資格はあるの?
 あなたに涙の泉は作れるの?
 あなたにハンプティダンプティが救えるの?
 あなたにトランプの城を壊せるの?
 
 あなたにわたしを見つけられる? アリスを返してよ。

 あなたのためのスノードロップと共に。夢の続きで会えるといいね、“アリス”』


*鏡の国の君を捜して
***
自己満足なので、まあ、意味わからないと思いますが、私は楽しかったです。少女の夢のような不思議な感じのものを書きたかったのと、ほんのり自分の創作の話です。
「わたし」は喋りたくないので喋らず、代わりに花で気持ちを伝える子なんです。

袖時雨を添へて、【小説練習】 ( No.143 )
日時: 2018/03/06 19:56
名前: 狐◆4K2rIREHbE (ID: 5EP.ptSA)


 こんにちは、銀竹です。
相変わらず、皆さんすごい速さで投稿なさってますね(笑´∀`)
あれよあれよという間に沢山の作品が生まれて、これまではなかなかコメントが残せずにいたのですが、今度こそは!ということで感想書かせて頂きます。
ちょっと短くて書き足りないくらいなのですが、全部楽しく拝見しました!

>>129 浅葱さん
 最初は、何気ない世間話を綴った手紙の内容に、微笑ましいなぁくらいに思っていたのですが、やがて二人の境遇を理解し始めた辺りから、ひどく切なくなりました……。
涙を零しながら、必死に明るい内容を書いていたんですね。
また、手紙に込められた沢山の想いを受け、そうして溢れてくる感情に涙しながら、読んでいたのですね。
運命とは斯くも残酷なもので、何の前触れもなく、人の幸せを刈り取っていきます。
それは事故だったり病気だったり、きっかけは様々だと思うのですが、きっとこの二人も、過酷な運命に翻弄ながら、やるせない怒りや悲しみ、沢山の不安を抱えて……そんな中でも想い合っているのですね。
いえ、そんな中だからこそ、と言うべきでしょうか。
 二人の姿は、痛々しくも立派で、読んでいて胸が締め付けられました。
桜を見に行ったり、海に行ったり、愛を囁き合ったり……そういった普通の幸せが、二人には今、遠く儚い夢のように見えているのでしょうか。
 まだ世界が二人を見放さないことを、願います。

>>130-131 電子レンジさん
 師弟ものは、ずるい(笑)
憎悪というのは時として凄まじい原動力になるもので、この子供も、きっと父を殺されたその恨みから、復讐に人生を捧げてしまったのかなと思います。
だからこそ、復讐を果たす術を教えてくれていた師こそが、実は仇だったと知ったときは、まるで裏切られたような気持ちになったのではないでしょうか。
 顔を合わせるとなかなか上手く言葉が出てこなくて、拳でしか語り合えないような、不器用な者同士のやりとりは、見ていてすごくもどかしいです。
なんか……もう私が出て行って「いや、君の師匠めっちゃ龍馬くんのこと想ってるよ! なんとなく分かるでしょ!」「あんたもう、この子のこと大好きなんだから仲良く暮らしちゃえよ!」と全力で説得したくなりました(笑)
師匠を信じたい気持ちと復讐心がせめぎ合い、葛藤する龍馬くんと、激情に突き動かされ立ち向かってくる弟子の戦い方に、未熟さと成長を感じている柳先生……ああ、もう、ああ。
 柳先生、最後は敗れてしまいましたが、弟子が自分を超えたことを心の底から喜んでいたことでしょう。
もちろん亡くなったお父さんに代わりはいないけれど、柳先生と龍馬くんの間には、師弟以上の親子みたいな絆があったのですね。

>>132 通俺さん
 今投稿されている話の中で、一番好きです( *´艸`)大好きです!
そう、ヤギって本当そうなんですよ。可愛い顔して、あいつらすごい図々しい上に賢くて狡猾なんですw
心を込めて書いた手紙を食べられちゃった主人公には申し訳ないですが、読んでいて爆笑しました(笑)
お相手は年上の女性ということで……きっと、一生懸命背伸びして、良い便箋を買って、時間をかけて書いたんですよね(;^ω^)
それを食べちゃうなんて、あのヤギは言うなれば姫を守るナイト!
……いや、ヤギはそんなこと考えないな、単に食欲に忠実だっただけだな(笑)
 主人公の想いが女性に届くように、心から願っています!
あえてヤギと山で暮らすことを選んでいる女性ですから、案外ヤギを手懐ける術を身に着けて、まずはヤギを味方につけるのも手かもしれませんねw
 白ヤギさんを飼うならば、やはりザーネン種か、なんて(*^▽^*)
素敵な作品をありがとうございました! ンヴェェェエエエ!

>>133 月白鳥さん
 うう、恐ろしい……。治療法も分からない、レゼルボアすら未知の新種の病原体。
相手は目に見えない脅威ですから、研究員の方々は本当に恐怖と戦いながら日々を過ごされていたのでしょうね……。
何とかせねばと研究し続けた「私」が、最期は絶望し、死を望んでいる描写を読んで、心底ぞっとしました。
状況を打破すべく立ち上がったはずの研究員たちが、逃げ出し解放を望むくらいに、事態は深刻なのだ、と。
そして今後、更に感染が拡大していくであろうこの世界の結末を考えて、もう寒気が止まらないです。
 病気の症状などが事細かく書いてあるので、よりリアルに、病原体の猛威、恐ろしさを感じ取ることができました。
この文章は、月白鳥さんしか書けませんよね(;´Д`)
音もなく忍び寄る死の影……現代世界でも絶対にありえないとは言えない状況なので、読んでいて本当に怖かったです。

>>134 ちん☆ぽぽさん
 悩んで悩んで、何度も推敲しながら、一生懸命手紙を書く主人公の気持ちが伝わってきました。
そして、残された時間を共に過ごした、彼女との思い出を語る場面で、うるっときました……。
こんな素敵な夫婦を引き裂いた運命という奴に、一発拳骨をお見舞いしてやらないと気がすみません( ;∀;)
 手紙って、本当に難しいですよね。
「便箋のデザインはどうかな?」「ちゃんと綺麗な字を書けるかな?」、送る相手が大切であればあるほど、より時間をかけて、丁寧に書いていくものなのだと思います。
だからこそ、メールに比べて温かみのある、気持ちのこもったものになるんですよね。
ポストに入れなくても、きっとその気持ちは、天国の彼女に届いています。
今は泣いて、いつか、本当にお迎えが来たら、三途の川の向こうでもお幸せに……!

>>135 refrigeratorさん
 ああ、青春……。涙をこらえているせいなのか、寒さのせいなのか、鼻を赤くして歩く少女の姿が目に浮かびました。
表現力が、素晴らしいですね……!
最後に「感情を直接表現する言葉をほとんど使わないように意識した」と書かれていたので、読み直したのですが、本当に「つらい」とか「悲しい」っていう言葉がありませんでした。
それなのに、少女の切ない気持ちがひしひし伝わってくるのは、refrigeratorさんの文章力の高さ故だなと思いました。
 情景描写も繊細で、かつ洗練されていて、素敵です。
時間で言うと、少女が歩くだけの数分、いや、数秒くらいの出来事なんですよね。
でも、少女が道行く人を羨ましそうに見つめる様子とか、雪が舞い散る様子が丁寧に描かれていたので、たった数秒くらいの出来事なのに、ちょっとしたドラマを見ているような気分になりました。
 いずれ、少女に再び、素敵な恋が訪れるといいですね(*´ω`*)


一旦切ります!

Re: 袖時雨を添へて、【小説練習】 ( No.144 )
日時: 2018/03/06 21:18
名前: 黒崎加奈◆KANA.Iz1Fk (ID: VHLX.tYI)

 手紙は何日も前から書き始めていた。そして、何度もやり取りを交わしていた。
 一日のうちに、何通も出した。君に伝えたいことが多すぎて、一つ、二つとどんどん膨れ上がっていく。もうすぐ君からの返事は来なくなるだろう。だからこうして、君から紙とペンが取り上げられる前にたくさん送るんだ。
 僕がどれだけ君を愛していたか。僕がどれほど君を愛しているか。
 どうしても送れない一通の手紙を見ながら、時が来るまで、君の素敵なところを書き連ねよう。

 あの日は時雨だった。どんよりした暗い雲が街の上には居座り、冷たい冬の雨を気まぐれに降らせている。水に濡れて滲んだインクを、暖炉で丁寧に乾かし、真新しい封筒にいれた。
 君の名前は記録には残るだろう。でも君がどんな人で、どんな風に思っていて、どんな風に生きたのかは残らない。せめて僕にできるのは、君の手紙を保管することだけ。
 あの日は君に会いに行った。大粒の雨が、ぽたり、ぽたりと涙のように斑に降る。傘をさす人、ささない人、人の波を避けながら、ロンドン塔の上の方まで会いに行った。

「あなた、そろそろ怒られるんじゃない?」

 君はいつも、自分のことより他人のことを心配していたね。あの日だってそう、でも大丈夫さ。本当に怒られるタイミングは一番分かってる。だからたぶん、君と直接言葉を交わしたのもあの日が最後。会うのはあと一回。時計の鐘が十二回なるときだ。

「お役人さん、こんなところで油を売ってはいけないわ。早く仕事に戻りなさい」

 僕がずっと口にできなかったことも、すぐに君は見抜いてしまうんだね。そしてそっと背中を押すんだ。
 それが僕の望むことではないと知っていても、ちゃんと仕事をさせようとする。君が悪魔と人に蔑まれるように呼ばれるのも、少しわかる気がするよ。

「愛していたわ」

 ほら、君はずるいから最後の最後で僕の決心を揺らがせる。このまま君の手を取って、一緒に過ごそうか。あの甘い日々に戻ろうか。
 ロンドン塔の鐘が重たく十二回鳴る。ほら、やっぱり君はずるい。こうして迷わせておいて、でも定めに逆らわない僕の性格を知っている。
 あと四十八回鐘がなったら、残された時間が全て終わる。
 だからそれまで、また手紙を書くさ。僕がどれだけ君を愛しているか。僕がどれだけ君を愛していたかを伝えるために。

 時よ、止まれ。美しく、止まれ。
 悪魔と契約することは叶わず、君の時計が零時を告げる。

 僕は、最愛の君の死刑執行許可証を手紙で送る。
 そして君は今日のうちに死ぬ。僕の目の前で、首を切り落とされて死ぬ。
 額についた手のひらをつたって、袖がいつの間にか斑に濡れていた。君と最後に言葉を交わした、あの日の雨のように濡れていた。


*時の悪魔に愛の手紙を添へて。

袖時雨、という言葉自体は冬の季語だそうですね。冬の冷たさと聞くとロンドンが思い浮かんだので。
ロンドン塔は中世、処刑の場として罪人を置く牢獄でした。ロンドン塔の鐘が鳴るときは、誰かの命が費えるときだと面白いだろうなーと。真実かは知りません。
でもゲーテのファウストはドイツなんですよね。時代考証は滅茶苦茶ですが、まぁ時計塔の悪魔ということで。

僕は役人です。君は姦通の罪に問われた女性です。

Re: 袖時雨を添へて、【小説練習】 ( No.145 )
日時: 2018/03/07 00:09
名前: 狐◆4K2rIREHbE (ID: rdey1T1c)


 銀竹です、>>143の続きです!

>>136 Phallus impudicusさん
 男性、女性、その両方に感情移入できる作品ですね(*´ω`*)
自分の好きなものを、愛する人にも好きになってもらいたい、そんな一途で健気な男性の姿は、見ていて応援したくなりました!
感情的になる女性に対し、穏やかな態度を崩さない辺り、きっと根は優しくて真面目な人物なんだろうなぁと。
一方で、執拗さとか狂気みたいなものも感じたりもして、腹の底が知れない危なっかしさにドキドキしました。
 女性の方も、言葉ではきついことを言っていますが、三日も待っている時点で全く気がないわけではないのですよね。
二人は単なる知り合い・友人止まりの関係なのか、恋人同士なのか、それともそういうお店の女性と客なのか……なんて、いろんな想像が膨らみました。
様々な解釈ができる、面白い作品だなと楽しく拝見いたしました♪

>>137 葉鹿 澪さん
 恋愛ものが多い今回のお題の中で、お友達同士の手紙のやりとりも良いなぁと思いながら読んでいました(*^^*)
主人公にとって、きっと相手は友人であるのと共に、憧れのお姉さんのような存在だったのですね。
久しく会っていない相手のことを考えながら、手紙に込める大切な想いは、中学生のころでも大人になった今でも、きっと変わらないのでしょう。
 私も、中学生の頃はLINEなんてなかったので、小学生の時に転校して別れてしまった友達と、文通をしていた時期がありました。
便箋に、やたらめったらお気に入りのシールとか貼ったりするんですよね(笑)
いつの間にか疎遠になって、今はもう文通していませんし、その子がどこに住んでいるのかも分かりませんが、葉鹿さんの作品を読んだら、その子のことを思い出しました。
 残念ながら、主人公の手紙は届かなかったのでしょうか。
ちょっぴり寂しいような、懐かしいような気持ちになれる作品でした!

>>139 あんずさん
 まず、人から頼まれた期限付きの手紙を書かねばならない、という意外な書き出しから始まり、それが明日死ぬのだと言う彼に宛てたものだと分かる部分まで、全く展開の予想がつかず、目が離せませんでした。
一体彼に何があったのか、私と彼はどのような関係で、お互いどんな感情を抱いているのか……あえて多くは語らない文章に、思わずドキドキしてしまいました。
 彼が亡くなった後、「私は心の底からあいつが大嫌いだ、だから涙も流れない」と書かれていますが、そうではないのですよね。
きっと、事態が受け止めきれなくて、まだ感情が表には出てこないのですよね。
飄々として掴みどころのない彼は、大切なことは一切言わず、去ってしまった。
そんな彼に私が抱く感情は、一言では語れない、本当に複雑なものだったのでしょう。
好きだとか嫌いだとか、簡単には言い表せない不思議な気持ち……けれど確かに、私と彼の間には、特別な想いがあったのだと思います。
これはちょっと俗的な言い方になりますが、罪な男だ……。

>>140 扇風機さん
 異世界ファンタジーの素晴らしさを噛みしめながら読んでいました(笑)
最果ての地に棲まう偉大なる魔女、自ら死地を選び眠りにつく龍たち、溶けだした宝石の海……まず、世界観が魅力的です!
 王道な考えで行くと、大地を汚し世界に害を成す生物というは、やはり人間と相場が決まっていると思うのですが、ここでは蝕龍という生物がその立場に在るのですね。
臆病な性質で、水晶をも溶かすような強酸を分泌し、敵を近づけない。
しかしながら、その生態故に、死期を悟ると自ら孤独を選んで死んでいく……。
なんと心優しく、悲しき運命を背負った龍たちなのでしょうか(´;ω;`)ウゥゥ
けれど、その骸が横たわる水晶乳洞は、斯くも美しく幻想的な景色を作り出す……ああ、やはり龍は神秘的で、人智の及ばぬ存在ってことなんですよね!(興奮)
邪龍にしてもそうですが、危険で邪悪な性質を持つ龍であればあるほど、より美しい景色を生み出すとは、なんという皮肉でしょうか!
しかもその龍たちの骸は朽ちることなく、その景色の一つとなってそこに在り続けるわけですよね。
生命豊かな光の情景を大地だと言う一方で、死の気配漂う闇の情景もまた、大地。
大地を汚す強力な力を持ちながら、それでも最期は大地と一体化して眠る龍は、やはり神秘的で(二回目)
 絶景ハンターの見習い魔女、ナナちゃんが、いつの日か師匠と同じ景色を見られるように、祈っています!

>>141 ヨモツカミさん
 一人称視点で描かれた童話チックな文章が、良い意味でヨモツカミさんらしくなく、新鮮な気持ちで読んでました(*^^*)
わたしから、もうすぐお別れになってしまう、親愛なるアリスへ、誠実な愛と信頼(パンジー)を。
傷ついてしまったアリスには、夢でもあなたを想う(ハべナリア・ラジアータ)と嘘をついて。
手紙と花でしか言葉を伝えられないわたしからのメッセージは、やはり抽象的になりがちですが、それでも、そこにはアリスへの深い愛が込められているのが分かりました。
 夢の世界を執筆なさりたかったということで、核心的なことは明らかにならないまま終わりましたが、それがまた幻想的で不可思議な雰囲気を演出していて、素敵ですね♪
 いつかヨモツカミさんが「鏡の国の君を捜して」を書き始めたら、分かる部分も出てくるのでしょうか。
楽しみです(∩´∀`)∩

>>142 雛風さん
 過去へ渡る手紙、ここにきてまた新しいファンタジック要素が出てたな!とワクワクしながら、拝見しました(*^▽^*)
過去の自分に送れる、なんて普通は信じませんけど、いざ「今を変えられるかも」なんて聞いたら、「どうせ嘘なんだろうけどやってみようかな……」って心が傾いちゃいますよね。
しかも、それが本当に過去に送れるとなると、人間なら皆、好奇心と欲望から手を出しちゃうんじゃないかな……と思います。
 なんとなく、見知らぬ母親と兄弟が増えてきたあたりから、嫌な予感はしていたのですが、最終的に「ああ゛っやっぱりお父さんやっちまったよ゛ぉぉお」と、スマホを投げたくなりました(;´∀`)
まあ主悪の根源は最初のお母さんなんでしょうけど、それでも駄目だよお父さん……気持ちはわかるけどもさ、娘に罪はないじゃん、駄目だよ……。
 扱いきれない力に手を出すと、ろくなことにならないんですね。
謎の手から差し出された手紙を、二度は受け取らなかった主人公に、拍手を送ります。

>>144 加奈さん
 詩的で読みやすい文章、そして綺麗な言葉選びが相変わらず素敵だなぁ、と感嘆しつつ、ああ、報われない結末だなぁ……とため息もこぼしつつ。
「君」は姦通の罪を問われたということで、それが彼女の意思に反した行為による罪だったのか、それとも合意の上での行為による罪だったのかは分かりませんが、どちらにせよ、人々を誘惑する悪魔と称されるにふさわしい、強くて魅力的な女性だったのでしょうね。
美しく、艶然と微笑む彼女を想像してしまって、私も惚れました。
 最終的に「僕」は役人としての選択をするわけですが、もしかしたら、二人が手を取って逃げる未来もあったのかな……。
いや、でもきっとこの女性が、そんなことは許さないかな……とか、色々考えました。
彼女の生き様を、僕は生涯忘れないのでしょうね。


 読み込みなど甘かったらすみません(;´∀`)
皆さんの作品、それぞれに味があって面白かったです!

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