雑談掲示板

【開催】第14回 紅蓮祭に添へて、【小説練習】
日時: 2022/06/18 14:16
名前: 浅葱 游◆jRIrZoOLik (ID: bC2quZIk)

*
 
 執筆前に必ず目を通してください:>>126

*

 ■第14回 紅蓮祭を添へて、 / 期間:令和4年6月18日~令和4年7月31日
 白く眩む日差しの中で、水面は刺すように揺れていた。



 □ようこそ、こちら小説練習スレと銘打っています。


 □主旨
 ・親記事にて提示された『■』の下にある、小説の始まりの「一文」から小説を書いていただきます。
 ・内容、ジャンルに関して指定はありません。
 ・練習、ですので、普段書かないジャンルに気軽に手を出して頂けると嬉しいです。
 ・投稿するだけ有り、雑談(可能なら作品や、小説の話)も可です。
 ・講評メインではありません、想像力や書き方の練習等、参加者各位の技術を盗み合ってもらいたいです。


 □注意
 ・始まりの一文は、改変・自己解釈等による文の差し替えを行わないでください。
 ・他者を貶める発言や荒らしに関してはスルーお願いします。対応はスレ主が行います。
 ・不定期にお題となる一文が変わります。
 ・一作品あたり500文字以上の執筆はお願いします。上限は3レスまでです。
 ・開始時と終了時には「必ず」告知致します。19時から20時を目安にお待ちください。
 ・当スレッドのお題を他所スレッドで用いる際には、必ずご一報ください。
 


 □お暇な時に、SSのような形でご参加いただければと思います。


 ■目次
 ▶︎第1回 氷菓子を添へて、:今日、全てのテレビ番組がある話題について報道していた。
 >>040 第1回参加者まとめ

 ▷第2回 邂逅を添へて、:彼女はいつもと変わらない、甘い匂いをまとっていた。
 >>072 第2回参加者まとめ

 ▶︎第3回 賞賛を添へて、:「問おう、君の勇気を」
 >>119 第3回参加者まとめ

 ▷第4回目 袖時雨を添へて、:手紙は何日も前から書き始めていた。
 >>158 第4回参加者まとめ

 ▶︎第5回 絢爛を添へて、:「フビライハンとエビフライの違いを教えてくれ」
 >>184 第5回参加者まとめ

 ▷第6回 せせらぎに添へて、:名前も知らないのに、
 >>227 第6回参加者まとめ

 ▶︎第7回 硝子玉を添へて、:笹の葉から垂れ下がる細長い紙面を見て、私は思う。
 >>259 第7回参加者まとめ

 ▷第8回 一匙の冀望を添へて、:平成最後の夏、僕こと矢野碧(やの あおい)は、親友の中山水樹(なかやま みずき)を殺した。
 >>276 第8回参加者まとめ

 ▶︎第9回 喝采に添へて、:一番大切な臓器って何だと思う、と君が言うものだから
 >>285 第9回参加者まとめ

 ▷第10回 鎌鼬に添へて、:もしも、私に明日が来ないとしたら
 >>306 第10回参加者まとめ

 ▶︎第11回 狂い咲きに添へて、:凍てつく夜に降る雪は、昨日の世界を白く染めていた。
 >>315 第11回参加者まとめ

 ▷第12回 玉響と添へて、:――鏡よ、鏡。この世で一番美しいものは何?
 >>322 第12回参加者まとめ

 ▶第13回 瓶覗きを添へて、:赤い彼女は、狭い水槽の中に閉じ込められている。
 >>325 アロンアルファさん
 >>326 友桃さん
 >>328 黒崎加奈さん
 >>329 メデューサさん
 >>331 ヨモツカミ
 >>332 脳内クレイジーガールさん

 ▷第14回 紅蓮祭に添へて、:白く眩む日差しの中で、水面は刺すように揺れていた。


 ▼第n回目:そこにナマコが置いてあった。
 (エイプリルフール企画/投稿期間:平成30年4月1日のみ)
 >>156 悪意のナマコ星さん
 >>157 東谷新翠さん
 >>240 霧滝味噌ぎんさん


 □何かありましたらご連絡ください。
 →Twitter:@soete_kkkinfo
 

 □(敬称略)
 企画原案:ヨモツカミ、なつぞら
 運営管理:浅葱、ヨモツカミ

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Re: 邂逅を添へて、【小説練習】 第二回開催 ( No.41 )
日時: 2017/10/29 19:46
名前: 奈由 (ID: PwJKNb7o)

【消さなくても良いとのことでしたが、念のため再投稿です。以後気をつけます。】


彼女はいつもと変わらない、甘い匂いをまとっていた。
私はこの鬱陶しい百合の香りが大嫌いだ。
悪魔のくせに天使を偽っている彼女の香りが。
彼女が横を通るたびに私は鬱陶しそうな顔をする。すると、
「シクラ!今から仕事なのよ。速く行きましょう!」
彼女は仕事……暗殺を頼まれるたびにハイテンションになり殺しを楽しむ。
私は仕事として必要最低限、一撃で終わらせるのが殺し方なのだが彼女は
天使のように誘い込み少しずつ少しずついたぶっていく、暗殺者とは思えないような殺し方をするのだ。この、甘ったるい百合の香りに乗せて。

「ユリー、今度こそはさっさと終わらせないとアレあげないから」

ちなみにアレ、とは人をいたぶっていくのがだーい好きな彼女の大好きなものだ。彼女いわく
『これがないとマジで行きてけないのよ。シクラ大好きよ!』
らしいのだ。ちなみに最後のはなかったことにしておいて、
そのアレ、とはその名も
『百合漫画』
だ。私もかるーいやつとかは結構好きだし持っているけれどあいつは……
R18やらギリギリものやらエロ百合が好きなのだ。あんな清純そうな顔して色々と悪魔みたいなんだから。
だから私は。
百合の香りが大嫌いだ。
でも、
「もー、私たちはコイビトでしょ?」
なんていう、彼女のことが私は大好きだ。
「何いってるの?先行くよー」
ま、喋り方が金持ちっぽくていいとこのお嬢様っぽいのは気に食わないけどね。

「速く言ってください(−_−#)」

「アクマ!わかったわよー。百合好きちゃん!」
いや、こいつ誰だし。
♦︎ ♦︎ ♦︎

「百合、これは一体どういうことだ?」
彼女は紙の束を机に叩きつけ顔を赤くして問う。

「あら、志倉様!読んでくださったのですね。意味は……分かるでしょう?
それに、気軽に乃花と呼んでくださっていいのですよ?」

「絶対よばねぇ。いくら私が百合好きだからって……後、私のこと面って呼ぶんじゃねーぞ」

「わかりましたわ。面様!」

さらに顔を赤くして彼女は言う。

「お前のことなんか好きになってやんねーからな!このドエロ!」

「……ドエロじゃなくってドMですかね」ボソッ

「お前誰?だ」
「あなた誰ですか?」

「開真百(あくまゆ)合好木(りすき)です。」

「あー!忘れててすいません!このアクマって言う百合好きの子の元です」

これはこの3名が百合を展開するお話である。

Re: 邂逅を添へて、【小説練習】 第二回開催 ( No.43 )
日時: 2017/10/29 23:21
名前: ヨモツカミ (ID: /Zaw2lOs)

>>奈由さん
お久しぶりです。二回目の参加ありがとうございます(^^)
志倉面さんの名前はお花から来ているんですね。素敵です。
開真百さんの名前も面白いですね。
全体的にちょっと描写が少なめで何が起こっているか全てを理解することはできませんでしたが、楽しそうな雰囲気は伝わってきました。百合いいですよね。
後半、誰が喋った台詞なのかがよくわからなかったので、誰が何を言ったのかとか、容姿の描写とかもあるともっと良くなるんじゃないかなと思いました!

Re: 邂逅を添へて、【小説練習】 第二回開催 ( No.44 )
日時: 2017/10/30 02:01
名前: 流沢藍蓮◆50xkBNHT6. (ID: uii.0qYA)

【真夜中に失礼します、藍蓮です。二回目です、投稿させていただきます。
 前回よりはクオリティが上がったはず……。
 えーと、あまりに長過ぎたので二回に分けて投稿させていただきますね。】


《花言葉》

 彼女はいつもと変わらない、甘い匂いをまとっていた。
 斜めに差した日傘の下、妖艶な笑みを彼女は見せていた。
 彼女はダフネといつも名乗った。それはある花の別名だった。その花の名は彼女の本名。彼女の本当の名前は……
 しかし今、彼女はこの世にはいない。
 彼女の名の花言葉は、「不死」「不滅」「永遠」のはずなのに。
 永遠なんて、存在しなかったんだ。
 彼は、彼女が死んだ季節が訪れるたびに思うのだ。

 ――ダフネ、ダフネ。
 君は。
 ……どうして、死んでしまったのだろうか――?


 ◆


 彼と彼女は幼馴染だった。平民の子である彼と、貴族の令嬢であったダフネ。本来は出会うことすらあり得ないほどの身分の差があった。だが彼らは幼馴染であった。
 それは彼が8歳の時のこと。道に迷った彼は誤って、貴族の住む高級住宅街に足を踏み入れてしまったのだ。そんな所を貴族に見つかった。本来ならば、そのままつまみ出されてもおかしくはないくらいだったのに。
 お付きの人間とともに一人の少女が通りかかり、淡く微笑んだのだ。

「まあまあいいじゃないですか。彼は悪意あってここに来たのではないのでしょう?」

 日傘を差した、金の髪に淡紫の瞳のダフネが。
 彼よりもふたつ年上だったダフネが、そんなことを言った。
 お付きの人間は困ったような顔をしたものだ。

「しかしダフネ様、彼はどう見てもここにいるべき者ではないように見受けられるのですが。目障りでしょう、即刻つまみ出した方がよろしいのではないでしょうか」
「誰が私の意思を勝手に決めていいっていいましたの? 私は私なりに行動しますのよ、誠実のカンパニュラ」

 お付きの人間に、柔らかく笑って彼女はそう返した。
 その日も彼女の身体からは、甘い匂いが漂っていた。
 彼女は固まったままの彼に、優しく訊いた。

「ねぇ。あなたの名前はなんておっしゃるのかしら」

 差し出されたのは綺麗な、あまりに綺麗な貴族の手。平民の彼が握るには、あまりにももったいないような気品にあふれた貴族の手。
 彼は彼女に触れるのが怖かった。彼女に触れたら何かが壊れるような気さえした。
 だからその手を取らずに、名前だけを告げたんだ。

「クローバー」

 それはどこにでも生えている雑草の名前。平民の彼にはお似合いな、つまらない名前。
 ダフネ。美しい響きの名前に比べて、彼の名前のなんと、貧弱なことか!
 彼は恥ずかしくなってうつむき、ぎゅっと唇をかみしめた。
 教養のない彼は知らない。その小さな雑草の持つ、花言葉なんて。
 彼女はその名前を聞いて、花が咲いたように笑った。

「クローバー! いい名前ですわね!」

 彼女はその花言葉を、知っていたから。
 驚く彼。彼女に触れることを恐れた彼の手を取って、彼女はその花言葉を告げた。
 触れられた手は、どこか冷たかった。

「ご存知ですの? クローバーの花言葉は、幸運と約束」

 幸運と約束。それは小さくて素朴なもので、あまりにも平民的だったけれど。
 自分の名前、その意味を。よく知らなかった彼は嬉しくなって。
 思わず、彼女に訊ねたんだ。

「君の名前の意味は何?」

 彼の言葉に、無礼者めとカンパニュラと呼ばれたお付きがわめいたが、彼女は悪戯っぽく自分の人差し指を口元に当てて、「黙ってくださる?」とジェスチャーをした。
 黙り込んだカンパニュラを見て、彼女は妖艶に笑った。

「私の名前は**。みんなはダフネと呼びますわ。その意味は栄光と不滅、永遠。美しいでしょう?」

 彼女はその時一回だけ、本当の名前を告げたけれど。
 どうしてだろう、彼は忘れてしまったんだ。
 彼女の名前の意味は永遠。幸運と約束みたいなちっぽけなものではない。永遠なのだ。永遠の栄光。貴族の彼女らしい名前だなと彼は思った。
 それはただの小さな出会いだった。貴族街に迷い込んだ雑草と、貴族街に最初から住まう高根の花と。
 ただのすれ違いだった。すれ違っただけの邂逅だった、のに。
 彼女は彼に言ったんだ。

「ねぇ、約束のクローバーさん。私、あなたのことが気に入りましたの。良かったらまた、会いません?」

 それは、ささやかな「約束」。
 カンパニュラが流石に止めるが、それでもダフネは意に介さないで。
 手に取った彼の手を自分の手に絡ませた。小指と小指が結ばれる。

「迷っただけなら平民街までの地図を差し上げますわ。だから」

 約束しましょうと彼女は笑う。彼か彼女にされるままになっていた。
 栄光の花の艶やかな唇から、吐息とともに言葉が漏れる。

「約束しましょう、また会うと。だってあなたの名前は『約束』。私の『栄光』のために守ってくださる? そして誓いましょう、再会を。この邂逅を、天に感謝して」

 カンパニュラの制止なんて聞かない。二人はしっかり指切りをした。約束は、結ばれたのだ。
 帰り道がわからないという彼のために、彼女は手ずから地図を書いた。教養の少ない彼にもわかるよう、平民街までの道を簡潔に記して。
 彼女は、言ったのだ。

「またいつでもいらっしゃい。私はずっと待っていますわ」

 それが。
 それが、彼と彼女との出会いだった。

  ◆

 それからというもの、毎日彼はダフネに会いに行った。会うたびに彼女は彼と楽しげに歓談し、楽しい時を過ごした。カンパニュラの態度も次第に軟化していき、ある時ダフネは「カンパニュラの花言葉は誠実と節操なのよ」と教えてくれた。生真面目な彼らしいなとクローバーは思った。
 そんな日々を過ごしていくうち、二人はいつしか子供から少年少女になった。
 そしてある時、ダフネは言った。
 それは国が荒れはじめた時のこと。

「私、少し不安ですのよ」

 いつも妖艶に笑っていたダフネ。おおよそ彼女らしくなと思ったクローバーは、どうしてそんなことを急にと訊き返した。すると彼女は答えたのだ。

「私、ただの貴族じゃなくってよ。やんごとない身分の娘なのですわ。最近あちこち物騒になったと聞きましたからね……。こんな時は、貴方の『幸運』にでも縋ってみたいところ」

 彼女と話すことで教養も身に付いたクローバーだったが、彼には「やんごとない」の意味がわからなかった。しかしその後の文脈から、高貴な、という意味だけは汲み取れた。
 高貴な人間は常に政争の真っ只中にいる。その身に何が起きてもおかしくはない。
 現在は動乱の時期だった。彼女はだからこそ怯えていたのだ。自分の身に災厄が降りかかることに対して。
 震える彼女を彼はそっと抱きしめた。その日も甘い匂いがした。
 彼は、言う。

「僕が、守るから」

 たとえ平民にすぎなくたって、僕が君を守るからと何度も何度もつぶやいた。
 その日、彼は道端で四つ葉のクローバーを見つけていたから。
 摘んだ一本のそれを、彼は彼女の髪に挿した。
 彼女の綺麗な金色の髪に、四つ葉のクローバーはよく映えて。
 「素敵だね」と彼が笑えば、彼女はその顔にいつもの笑みを宿す。

「立派なお守りですわ。これ以上ないくらいに」

 平民の彼は貴族の彼女の家に直接かかわることはできないが、彼のおかげで彼女は笑顔を取り戻した。
 だが、やがて時間が来る。帰らなければならない時間が。
 暮れゆく貴族街を見つめて、彼女は頭の四つ葉のクローバーに触れながらも言った。

「また会いましょう、幸運と約束。また明日、会いましょう」

 約束よと笑った彼女は、その顔に切なげな笑みを乗せていた。
 彼は彼女のそんな表情、見たくはなかったから。

「約束するよ、絶対に。また明日、ここで会おうって」

 強く強くそう誓って、彼女の壊れ物のように華奢な手を握った。
 そうして二人は別れたのだ。
 それを永遠の別れだとは、知らないで。

  ◆

Re: 邂逅を添へて、【小説練習】 第二回開催 ( No.45 )
日時: 2017/10/30 07:08
名前: 流沢藍蓮◆50xkBNHT6. (ID: uii.0qYA)

 その次の日、彼が貴族街で見たのは騒動。人々の叫び声。「王の姪っ子が殺された」とわめく声。
 彼はその言葉に何か、感じるものがあったから。
 クローバーは思い出す。彼女の言っていた言葉、『やんごとない身分』。
 集まる人だかりを掻き分けてみたら、聞いたことのある声がする。
 それは、彼女のお付き人のカンパニュラの、慟哭だった。
 彼は、急いだ。
 そして見たのは。

「ダフネッ!」

 綺麗な金の髪を血で濡らし、骨の折れた日傘を隣に転がして倒れる、

 ――ダフネだった。

 彼女は胸から血を流していた。彼の挿してあげた四つ葉のクローバーは枯れて、しなびた茎が髪の隙間から見え隠れする。
 彼の頭が、現実を認識することを拒絶した。
 嘘だ嘘だこんなの嘘だ!
 それでも、声がしたから。

「クローバー……そこにいらっしゃるの……?」

 彼ははっとして、血まみれの彼女を抱きあげた。「僕はここにいるよ」と必死でその耳元に囁く。
 でも、こんな日でも。彼女からは甘い匂いが漂っていた。それは血の鉄の匂いと混じり、むせ返るような匂いに変貌する。
 彼女の名はダフネ。永遠と栄光。不死と不滅を意味する名!
 それなのに今、彼女の命は途絶えようとしていた。
 血濡れて気持ち悪いくらいに真っ赤に染まった唇が言葉を紡ぐ。

「間に合って良かった……」
「ダフネ、ダフネ! 何があった! 君は一体何者なんだ! どうしてこうなった!」

 あわてる彼の質問のすべてに応えるほどの力はもう、彼女に残されてはいなかったから。
 今にも絶えようとしている息の下、永遠と栄光はそっと囁く。

「やんごとない身分……。言ったでしょう……? 私は邪魔だったから消された……」
「聞いた! 君は王の姪なのか! だから狙われたのか! だから殺されるのか、なぁ!」

 彼の叫び声は、今まさに死に逝かんとしている彼女にとってはうるさいくらいだった。

「クローバー……幸運と約束……」

 彼の名を呼んだ彼女は。
 最期の台詞を、彼にしか聞こえないくらいの音量でつぶやいた。

「復讐には……走らないで……」

 彼はその言葉を聞いて、全身が冷えていくような気がした。
 あの出会いのあと、彼は自分なりに調べたのだ。「クローバー」の花言葉について、詳しく。
 クローバーの花言葉は「幸運」と「約束」。そして。

 ――あとひとつ、「復讐」。

 彼女は知っていたのだろうか。彼の持つもう一つの花言葉を。
 どこまでも甘い香りが漂う。それは血の匂いと混ざり合って、狂気じみた香りとなる。
 そして彼はようやく思い出した。ダフネと名乗った彼女の、本当の名を。

「……沈丁花」

 永遠と栄光。不死と不滅。彼女がいつもまとっていた甘い匂いの花。
 それは、沈丁花。
 ずっと忘れていた、彼女の本名。
 クローバーは見た。自分の腕の中でそっと目を閉じるダフネ――沈丁花を。
 昨日まで話していた彼女はもう、二度と目を覚まさない。
 彼は小さくつぶやいた。

「ダフネ、ごめん。僕はもう、幸運にも約束にもなれそうにないんだ」

 だって約束は破られたから。幸運のお守りはまるで効果がなかったから。
 その瞳に、炎が宿る。
 クローバーは低い声で宣言した。

「幸運でも約束でもない。僕は――復讐の、クローバーなんだ」

 彼は叫んだ。

「犯人よ、姿を見せろッ!」

 だが今更、姿を現すような不用心な下手人もいないだろう。
 誰も答えないと見るとクローバーは一瞬でカンパニュラとの距離を詰め、彼が護身用に持ち歩いていた剣をその腰から奪い去った。

「な、何をするッ!」
「決まっているだろう、復讐さ」

 犯人が姿を現さないのならば、自分で探しだして仕留めればいいだけのこと。
 幸せのクローバーは復讐に染まり、人々の前から姿を消した。


  ◆


 復讐はやがて果たされた。クローバーは自力で下手人を見つけ出し、自身も瀕死の重傷を負いながらもなんとか勝った。倒れた彼を救ったのは、これまで彼を追い続けてきたカンパニュラ。彼は今は亡きダフネの付き人に命を救われた。

 そしてそれから何年も経ち、またあの季節がやってくる。
 クローバーは今や復讐のクローバーではないが、もう幸運と約束にも戻れない。
 永遠と不滅のダフネは死んで、復讐のクローバーは復讐を果たした。ダフネは花言葉に逆らって、クローバーは花言葉を忠実に実行した。
 いっそ逆だったら、どんなに幸せだろうかと彼女のいない世界で彼は思った。
 その窓際に置かれた花瓶に入っているのは沈丁花の花。ダフネの、花。

 永遠なんて、存在しなかったんだ。
 彼は、その花を見るたびに思うのだ。

 ――ダフネ、ダフネ。
 君は。
 ……どうして、死んでしまったのだろうか――?

圧倒的これじゃない感。 ( No.46 )
日時: 2017/10/30 07:52
名前: 浅葱 游◆jRIrZoOLik (ID: HwvIGkIw)



 彼女はいつもと変わらない、甘い匂いをまとっていた。血のように鮮やかなドレスはおおきく胸元が開き、豊満な胸があらわになっている。美しくくびれた体のフォルムを見せつけるかのようなドレスに、会場中の男が目を奪われていた。
 私は良くも悪くも平凡な顔立ちであるので、彼女が嬉しそうに駆け寄ってきたのを、少し疎ましくさえ感じてしまう。彼女は私と青春を捨て合った仲だった。今はどこかの大きな会社の役員と結婚し、こうして大きなパーティを催している。男達の視線が注がれていた。大人になり、同性にも憧れをもたせる魅力を手に入れたのか、視線の中には女性のものもある。
「久しぶりね。楽しんでる?」
「いいや、今楽しみが終わったよ。君が来てしまったからね」
 甘い匂いが鼻腔をいっぱいにし、先程まで口にしていたワインの香りが遠のいていく。彼女は、いつもそうだ。素晴らしい体験を、経験を、瞬間を、何よりも早く奪い去っていく。
 彼女は気がついていないようであるが、それはたしかに私の心を締め付け、失われた時間を取り戻そうと躍起にさせた。彼女が気が付かない原因は、私にもある。だからこそ、私と彼女は上手くいっていたのではないかとさえ思うのだ。
「別に私が知ってる人ばかりじゃないわよ。ほとんどがあの人の知り合いとか取引相手」
 役員だもの、みんなが媚を売りにくるのよ。
 ボーイからシャンパンを二つもらいながら、つまらなさそうに彼女は言った。どこか恨めしそうな視線の先、会場の中央あたりでできた人だかりの真ん中に男はいる。
 ふくよかな腹と頬だけで、男がどれだけ裕福な暮らしをしているかが分かった。彼女は謙虚に役員というが、実際には御曹司である。ちらちらと視線をよこす彼女の夫は、私が呼ばれた理由も、私が彼女と親しい関係だったのかも伝えられていないらしい。
「いい玉の輿じゃないか。私といるより、はるかに安定してる」
「もう……そうでもないわ」
 人工的に作られた鮮やかな赤が、結ばれた。何かを考える時、彼女は口をゆるく結び、今のように私の顔をじっと見る。言葉を選ぶのが下手な彼女には、常人よりも長い時間を与えなくてはならない。
 慣れない生活、理解されない気持ち。そんななんてことないものに、彼女は押し潰されかけているのだろう。けれど手を差し伸べることはできない。私と彼女は既に他人で、彼女を助けるのは夫の役目だからである。
「……子供の予定はあるのかい?」
 シャンパンを飲み干し、黙りこくった彼女に声をかける。驚いた顔をした彼女だったが、すぐに自嘲しているような笑みを浮かべた。私は頷く。私たちの間に、余計な言葉は要らない。
 夫に呼ばれた彼女は名残惜しそうに微笑んだ後、大きな輪の中に溶け込んでいった。まざまざと突き付けられる現実は、いとも容易く私達の過去を塗り潰していく。輪の中に取り込まれたとしても、彼女の美しさは群を抜いていた。彼女には深い赤が似合う。それを教えたのは私だった。


 やるせない気持ちを埋めるために食事を楽しみ、慣れたリップサービスをしていれば、パーティーは終わりに差し掛かっていた。最後に食べたショコラの心地よい苦味。
 彼女の夫が両手を広げて話すのを無視し、一足先に外へと出た。冷たい夜風はパーティで火照った体に、心地の良さをもたらす。呼ばれると思っていなかった場に呼ばれたこと、美しい彼女の姿を見てしまったこと。そのどれもが、私を浮き足立たせる要因だった。

 彼女が子供を産めない体にあることが、唯一の救いだった。彼女の中から出てくる、意思を持つ動物は見たくない。それがたとえ彼女にとって絶望の淵に立つような辛苦の原因であったとしても、私が最後に一つ、彼女に出来た孝行だった。
 アルコールで火照った体が、また、内から熱を産んだ気がする。思えば、彼女との出会いは必然で、別れは偶然の産物だったのだろう。大きな川沿いにあるベンチの一つに腰掛け、葉巻に火をつける。彼女とは違う、違和感の残る甘い匂いが、周囲に広がる。
 暗闇に揺蕩う灰色の煙が、雲を醸しているかのように感じてしまう。外は雲一つない好天で、大きく欠けた月が夜道をうっすらと照らす。その光が私の前ではぼんやりと色味を失い、雲の中に消えてしまった。
 葉巻独特の香りと共に吸い込まれる甘い匂い。吐き出した煙も、独りでに揺蕩う煙も、その全てが甘い。葉巻を吸うことは、彼女と別れてから一度もなかった。そもそもが、彼女に勧められてから吸い始めただけで、出会わなければ吸うこともなかっただろう。
 甘い匂いを吸い込む度に、彼女の事が思い出されていく。初めて会ったのは、いつだったか。たしか父が仕事の同僚と飲みに行き、意気投合してからだったはずだ。彼女は親に連れられて、寒い冬の日に私の家へと招待された。透き通るほど美しいブロンドの髪に、雪が積もっていたのを覚えている。その瞬間に、彼女に惚れてしまったことも。
 それからは週に何度も手紙のやり取りをした。好きなもの、好きな遊び、学校での愚痴。そんな他愛もない話から彼女を知っていく体験の一つ一つが、子供心に幸せだった。彼女の事を、私が一番知っているとさえ思ってしまうほどに。
 別れたのは、いつだっただろう。私が州立大学に入り、私立大学に彼女が入学した時だったか。肌を重ね合わすことがなくなり、そうして、全てが終わった。最後に肌を重ねた日の、彼女の涙。罪悪感と切なさから逃げるようにその場から消えた私を、一体どんな気持ちで彼女は見ていたのだろう。

 既に知ることは出来ない彼女の気持ちすら、今の私を惑わせる。
 

Re: 邂逅を添へて、【小説練習】 第二回開催 ( No.47 )
日時: 2017/10/30 20:06
名前: 壱之紡 (ID: igPJjJZM)  <はじめまして、参加させていただきました。>

*白の残り香



 彼女はいつもと変わらない、甘い匂いをまとっていた。


「……いいんじゃない? まあまあ及第点だよ。興味をそそられる書き出しだね」

 彼はそう言って、目の前の大きなパンケーキに蜂蜜をかけた。蜜は夕日を受けて琥珀色に輝き、ケーキの表面を這う。小さく眉をひそめる。真っ白な皿が汚されるその瞬間が、俺は大嫌いだった。しかし彼はその思考を汲んだかのように、こぼれ落ちる蜜をナイフで掬いとる。実に器用に、蜜を一滴も溢さずパンケーキを切っていく。銀色のナイフとフォークを持つ細く白い指。パンケーキを切る仕草も、俺にはまるでピアノを弾いているように見えた。
 そして、パンケーキを口に運ぶ。彼はとても幸せそうに頬張っているが、美味しそうとは思えない。これまた上品に物を飲み込む彼を見ながら、手元のブラックコーヒーをすすった。

「それにしても、君が小説を書くなんてね。僕はすごく意外だ」
「そうか」
「どんなストーリーなのかな?」
「……言えないな」

 彼の色素の薄い瞳に、光が射す。パンケーキの上の蜂蜜の様な、黄金の光だ。彼はそっか、と呟き、唇の端を上げ、俺の目をじっと見つめてくる。悔しいが、綺麗な瞳だ。彼からしたら、俺の目は汚れ、曇って見えてしょうがないのかもしれない。

「そんな事は無いよ。方伊義(かたいぎ)くんの目はまるで夜空みたいだ」

 さらっとした口調で恥ずかしい事を言ってくるのにも、もう慣れた。ことにおかしな男だ。優男の様な見た目の癖に、理解し難く、不思議で、底の無い話をする。彼の言葉の一つ一つが、乾いた大地に降り注ぐ雨のように、染み込んでくる。それは時に暖かく、冷たく、安心感や嫌悪感が湧いて止まない時もあった。こんな言葉に、俺は出会った事が無かった。
 そんな奇妙な男の、言葉も、行動も、雰囲気も、全て全て。ぎゅうぎゅうに押し込める。そんな小説を書きたい。目の前の原稿に、鉛筆が折れる位に、激しく詰め込みたい。書いて、この男に読ませたい。お前がどんなに奇妙な存在か、その小説をつきつけたい。そう思い、筆をとったはいい。しかし、俺は気付いた。
 名前も、年齢も、住所も、趣味も、家族構成も、過去も、現在も、未来も。
 俺はこいつの事を何も知らない。

「……ひとついいか」
「ん? 何?」
「お前の名前は何だ」

 彼はいつの間にか、かなり減っていたパンケーキの一切れを飲み込み答えた。

「一伊達」
「いちだて?」

 俺は眉を吊り上げた。聞いたことが無い。恐らく苗字だろう。何故苗字だけなのだ、と不満に思ったが、思い直した。俺も苗字しか教えていない。

「人柄も奇妙なら、名前も奇妙だな」
「方伊義くんは、僕が奇妙かい?」

 一伊達は嫌悪の色を全く見せず、ゆったりと微笑んだ。夕日に映える、雪のように白い肌が一段と輝く。俺は答えずにコーヒーを口にする。彼は整った薄い唇を開いた。

「そうだろうね、そうだろうな。そうなんだよ。僕は奇妙なんだ。世間から外れてる。まるで隔離病棟の患者さ。しかし奇妙と表現したのは、方伊義くんが初めてだよ。やっぱり僕、君が好きだ」

 そう言うと彼は最後のパンケーキの一欠片を口に運んだ。立ち上がり、穏やかな、それでいて不敵な、いつも通りの笑みを浮かべる。

「でも方伊義くん、君だって充分奇妙さ」

 彼は視線を落とした。一滴も蜜が付いていない、真っ白な、鏡の様な皿を見やる。

「君は、真っ白な皿を汚されるその瞬間が大嫌いなんだろう?」

 彼が笑う。

「また会えるといいね」

 そう言い、彼が去る。ふわりと、鼻孔をくすぐる甘い香りがした。何回も、何回も嗅いだ事のある匂い。まだ彼がそこに居る気がして、俺は目を瞬いた。

 俺は暫し、考えた。考えて考え抜いた末、鉛筆……ではなく、消しゴムを手に取った。彼の言葉、笑い方、白い指。思い出しながら、丁寧に『彼女』の文字を消していく。そして、鉛筆を手に取った。一画一画、丁寧に。先程の会話を一言一言、なぞる様に。
 ……俺は鉛筆を置き、夕日に照らされたその文章を、ただ、じっと見つめていた。



 彼はいつもと変わらない、甘い匂いをまとっていた____

Re: 邂逅を添へて、【小説練習】 第二回開催 ( No.48 )
日時: 2017/10/31 06:02
名前: 浅葱 游◆jRIrZoOLik (ID: Xbolz42k)


*

 おはようございます、浅葱です。
 早速数名の方に参加していただけているようで感無量です……(ω) もっとゆっくり投稿でも良かったんですよとか思ったりしています、期間が私情に伴って2ヶ月近くあります故……。

 何はともあれ、今週末頃に一度返信させていただこうかと思います。言わないとやらないので宣言しました。

 今のところの小さな感想としては、「甘い匂い」の使い方がやはり差を生むな、と。浅葱自身、花や香水が多くなるのではないかなと思いましたが、案外そういう訳でもなさそうな雰囲気がありますね。
 ひとまずこの辺でお暇します。皆様ものんびりとご参加いただけたらと思います!

 浅葱

Re: 邂逅を添へて、【小説練習】 第二回開催 ( No.49 )
日時: 2017/10/31 07:43
名前: 羅知 (ID: bfnwxt1w)


 彼女はいつもと変わらない、甘い匂いをまとっていた。どこにでもあるマンションの屋上にて、時は深夜、今夜もまた僕は彼女と何回目かも分からない逢瀬を交わす。冷たい風がまるで僕達を歓迎するかのようにひゅるりと吹く。煌めく星々は夜の闇の深さと孤独をいっそう僕達に自覚させた。季節はもう冬だった。
 
「貴方は変わらないのね」
 
 僕の目を見て彼女は静かに笑う。僕が今考えていることを彼女は知っているんだろうか。その黒々とした死んだ魚のような目から彼女の今の心情を図ることは僕には出来ない。いや、きっと僕は誰の心情も一生理解することは出来ないんだろう。僕はそういう"生き物"で、そうやって生きていくことしかできない。よく君はそんな僕のことを空気が読めない、といって笑っていたっけ。懐かしい思い出だ。君こそ全然変わってなんかないさ、そう返すと彼女はいいえ、と言葉を続ける。その顔には自嘲的な笑顔が浮かんでいた。
  
「私は変わったわ」
「…………」
「……いや、変わってないのかもしれない。私は変われなかった。変わりたい、って思っていたのに変われなかった。嫌なところだけが残ったどうしようもない人間になってしまった」
 
 その言葉で僕は思い出す。君と初めて会った夜、あの時もこんな寒い夜だったことを。あの夜、僕は星空を見ていた。小さな君がわんわん泣くのを僕はじっと目の前で見ていた。子供の慰め方なんて知らなかったから、僕は君が泣き止むまで、ずっと黙っていた。泣いている君からは、とても甘い匂いがしていた。しばらくして泣き止んだ君は、僕の顔をじいっと見てを呟いた。
 
「おにいさんはおなかがすいてるの?」
「そうだよ。だから君なんか僕はすぐに食べてしまえるんだ、こんな所に出てないで早くお家にお帰り」
 
 ちょっと脅かしてやれば、すぐにどこかへ逃げてしまうと思った。嘘ではなかった。この場から立ち去らせなければ、彼女の身が危なかった。きっと怖がってくれる。このくらいの子供はみんなそうだ。経験から僕はそう確信していた。だけども彼女の反応は違った。
 
「……わたしを、たべて」

 それは懇願だった。苦しくて、苦しくて仕方がないので、どうか終わらせてくれ。そんな歳に似合わない哀しい響きを持っていた。あの頃から今と変わらない死んだ魚のような目だった。子供の癖になんて目でなんてことをしているんだろう、なんて柄にもなく、この少女のことを不憫に思った。だから僕は彼女に言った。
 
 
「"君が大人になったら、食べてあげる"------------貴方、確かにそう言ったわよね?」
「…そう、だね。覚えている。忘れるわけないよ、君との約束だから」
「今がその時よ。私を食べて」
 
 
 あの時と同じ台詞を、あの頃から変わらない死んだような目で吐き出す君。まだ、あの頃は子供の戯言だと笑って流すことが出来た。例えその中にあるものが"本物"だったとしても、冗談にしてしまうことが出来た。
 だけどもう冗談にするにはあまりにも時間が経ちすぎてしまった------------笑えない。君のその"思い"を笑うことなんて。
 
 僕には。
 
 
「…本当はもっと早く食べて貰いたかったのを今日まで待っていたのよ?おかげで随分と私は"汚れて"しまった。なるべく綺麗に終わりたかったのに」
「…………」 
「こんな月夜がよく似合う美しい貴方の一部になれるなら、私のこの地獄みたいな人生も少しは良かったって、思える気がするの」
「………嫌だ」
「今夜は月がとっても綺麗ね。"死ぬ"のにとっても良い……」
「…………嫌だよ、僕は、君を食べたくない……」
 
 
 くすっと笑う君の瞳には、情けない顔をした僕の姿が写っていた。眉は垂れ下がり、顔は泣きそうに歪んでいる。こんな姿のどこが美しいっていうんだろう。僕にとって、この"姿"は僕が"僕"であることの象徴であり、決して赦されることのない罪だ。それを、それを美しいだなんて。
 
 
「そんな顔しないで。私、貴方に会えて幸せだったわ」
「……嫌だ……嫌だ……」
「……貴方に出会わなくても、きっと私はこうしていたの。だから、最期が貴方と共にあることが出来て本当に幸せ」
「…………止めてくれよ……僕は、もう、失いたくない…………」
「さようなら----------------×××」
 
 
 
 君と出会ってから×回目の夜。それが僕と彼女の最期になった。冷たい風がひゅるりと吹いて僕達を歓迎している。風は彼女を連れ去った。僕が決して行くことの出来ない場所へと。一際強い、甘い匂いが、僕を包む。まるで僕を抱き締めるかのように。優しく。
 
 
 約束は、守らなければいけなかった。それが彼女の生前の望みだとするならば。
 
 
 
「------------------ッ!!」
 
 
 
 
 酷く甘い匂いのする"ソレ"は、薫りと違って、とてもほろ苦かった。それでも僕は"ソレ"を口に含んだ。実に数百年ぶりの"食事"だというのに、喉に通らず、ちっとも美味しく感じなかった。
 
 
 ∮
 
 
 昔々男は女と恋に落ちました。相手は三つ編みの女でした。彼女は彼にとても尽くしました。彼も彼女を愛していました。けれども空腹を満たすことは出来なかったので、彼は彼女を食べてしまいました。彼女は知っていました。だから彼女は逃げませんでした。彼と一つになれることを彼女も望んでいました。最期の瞬間、彼女は笑って、彼は泣いていました。食べても、食べても、味なんて感じませんでした。彼女のいた場所には甘い匂いだけが残りました。
 
 
 
 
 数百年の時が経ちました。
 
 
 
 
 彼は一人の女の子に会いました。彼女は"彼女"とよく似ていて、そして-------
 
 
 
 
 
 
 --------酷く甘い、"血"の匂いがしていました。
 
 
 
 
 
*二回目も参加させて頂きました。羅知です。今回はかなり文章を書くのに手こずったのですが、迷った末に恋愛ファンタジーになりました。ほとんど勢いだけで書いたので、粗の目立つ作品になってしまってないか心配です……。前回の反省点を生かし、今回は心理描写にとても気を使いました。凄く楽しかったです。ありがとうございました。


*吸血鬼と"一人の"女の話

Re: 邂逅を添へて、【小説練習】 第二回開催 ( No.50 )
日時: 2017/10/31 23:20
名前: ヨモツカミ (ID: AiEcj3E6)

前回、他の方の感想とか少なかったので今回は増えるといいな。
皆さん、是非遠慮せずに他の方の小説を読んでみた感想とか、書いてみた感想とか書き込んで下さいね。
誰のが好きでした、とかも聞きたいです。ちなみに私は第一回目の参加者様の中で、野田春臣さん、紅蓮の流星さん、キリさん、小夜鳴子さん、波坂さん、塩糖さんのが特に好きでした。

>>アロンアルファさん
2度目の投稿ありがとうございます!
ただグロいだけでなく、その奥に美しさがあるような、独特な世界観に惹きこまれますね。
解釈の仕方は色々あるかもしれませんが、私は狂人の妄想のようだと思いました。僕は彼女を好きになってしまったけれど、見向きもされなくて、それを悪霊のせいにして殺してしまった、とか。だとしたらゾッとするけど、めっちゃ好きだなあと思います。

>>流沢藍蓮さん
結構長めに書いてくださったんですね。ありがとうございます。
クローバーというか、シロツメクサの花言葉を知っていたので嫌な予感がしてましたが、見事にバッドエンドでしたね。
ダフネさんは復讐なんて望んでなかったのに、復讐したところで彼女が帰ってくるわけでもないのに。誰も報われなくて、悲しいですね……(´・ω・`)
ちょっと思ったのが、最初に彼女が死んでしまう事を書くんですね。彼らの出会いから書き始めて後半でまさか彼女が死ぬなんて!という展開にしたら読み手もびっくりするんじゃないかな、って気もしました。

Re: 邂逅を添へて、【小説練習】 第二回開催 ( No.51 )
日時: 2017/11/01 02:29
名前: 三森電池◆IvIoGk3xD6 (ID: EaeNKNkk)

 彼女はいつもと変わらない、甘い匂いをまとっていた。
 なあ、どうしてこんな仕事をしているんだい、とは聞けなかった。傷んだ茶髪と安っぽいワンピース、ベッドの脇に放り出されたボロボロのブランドバッグが全てを物語っているような気がしたからだ。ドアを開けて入ってきた彼女は、ぼくの顔を見て驚いたように大きな瞳を見開いたが、すぐに笑顔に戻って、ぼくの知らない名を名乗り、隣に座ってきた。百二十分でよろしいですね、と、昔よりも随分化粧の濃くなった顔でぼくを見上げる。その引き攣った笑顔に、胸が痛む。
 甘い香水の匂いだけが昔のままだった。ぼくと彼女は、とても衝動的に別れたので、その後の動向などはまったく掴めていなかったが、二年の間にいったい何があったのか。ただ無気力な大学生だったぼくとは違い、彼女は芸術の大学に通い、将来やりたいこともはっきりと決まっていた。それは決して雲をつかむような夢ではなく、実力も才能もある上に努力を惜しまない性格であった彼女なら、ほぼ確実に成し得たであろうものだった。
 あの大学は辞めてしまったのか。そういえば、とことん馬の合わない教授がいて、よくぼくに愚痴をこぼしていたっけな。今もあいつは、生徒の作品に尽く理不尽な文句を吐いて回っているんだろうな。
 違う、こんなことを言いたいんじゃない。ぼくは、こんなことを言うために縁もなかった風俗店を予約して、昔付き合っていた彼女を指名したわけではない。
 居心地の悪い沈黙の中、ラブホテルのBGMだけが控えめに流れている。
 彼女の方も、とっくにぼくの正体に気づいている。それでも健気に、シャワーを浴びましょうと擦り寄ってくる。それが仕事だからだ。このホテルを出ない限りぼくは、昔付き合っていた恋人ではなく、客でしかない。
 彼女の腕を掴んだ。二年前より随分と痩せ細っていた。

 「どうして、こんなところで働いてるんだよ」

 彼女はやはり困ったような顔をした。ぼくだって困っている。どうして救ってあげられなかったのだろうと思っている。付き合っていた頃、ぼくと彼女の間に肉体関係はなかった。それはお互いがはじめての交際相手だったこともあるが、彼女は結婚するまで綺麗な体でいたいと言っていたので、ぼくはそれを尊重した。就職活動を頑張って良い会社に入ってたくさん稼ぐから、早く結婚しようとぼくが言うと彼女は嬉しがって笑っていた。そんな記憶ばかりが蘇ってくる。
 彼女は、すぐに作り物の笑顔に戻り、ぼくに言った。

 「留学しようと思って」
 「うそだ。そんなこと言ってなかっただろ」
 「二年も経てば人の気持ちなんて変わるものだよ」

 甘い香水の香りは昔のままで、それだけが二年前の名残だった。そしてぼくは、未だ二年前の彼女を追い求めている。変わってしまった彼女が、悲しげにぼくを見ている。
 それは本当かともう一度聞いた。本当だと彼女は言った。なんのための留学だろう。伸びた爪とネイルアートを見る限り、前のように芸術に真剣に取り組んでいるとは思えなかった。

 「そんな顔しないでよ。私をわざわざ見つけて、指名したのはきみでしょ」

 ぼくは、大学を卒業して普通のサラリーマンになった。就職活動は同期の中でも比較的上手くいった方で、稼ぎこそそれほど良くないものの、安定した生活を送っている。このまま行けば、あと数年後には家庭も持てるだろう。その時隣にいるのは彼女ではない。じゃあ彼女は、どうなるんだ。
 余計なお世話であることは、指名した時から自覚していた。ただ一言、やり直せと言いたかった。まだぼくらは二十代の前半だ。修正なんていくらでもきく。

 「・・・・・・無責任なこと、言うんだね。きみと別れて私は、自暴自棄になって体を売って、芸術の才能もないって言われて大学も辞めたのに」
 「・・・・・・」
 「きみは立派な社会人になれて、よかったね。私はこんなんだから、もうまともに働けないし結婚もできないよ。三十になるまでたくさん稼いで、世界一周旅行でもして、そのまま、死ぬつもり」

 あぁそうだ、留学なんて話は聞かなかったが、世界一周旅行がしたいというのはたまに聞いていたな。
 ぼくは彼女から目を逸らした。救ってやれなかったのはぼくだ。当時はお互いに足りないところがあって突発的に交際を解消するに至ったが、こんなになってしまうなら、せめて、その後気にかけてやればよかった。死ぬつもり、と至極明るく言った彼女は、もう人生を諦めていて、彼女が死んでもぼくは気付きもせず生きていくんだ。ぼくらが一緒に過ごした時間など、そんなものだったのだろう。彼女からは甘い香りがする。ぼくらはこのホテルを出たら、別々の道を進んでいく。無意識のまま、ごめんと口に出していた。

 「ねえ、そうやって同情するなら一緒に死んでよ、ここで」

 そう言うと彼女は、薄いカーディガンのポケットからライターを取り出した。
 ぼくにはそれを止められなかった。目の焦点すら合っていない彼女が、もう殺してくれと懇願しているように思えた。彼女が持つピンク色のライターに、ぽっと小さな火が灯る。彼女を止める権利などぼくに無いように感じた。
 でも、ぼくはまだ生きたかった。
 殺される。そう確信して、ベッドの横にあった自分の鞄を手に取った。人間、窮地に追い込まれると恐怖で何も出来なくなるものだと思っていたが、火事場の馬鹿力とでもいうものなのか、案外簡単に彼女から距離をとることができた。ソファーの上に一人残って、傷だらけになってしまった手首にライターの火を当てる彼女は、ぼくを見て、さいごに、嘘つき、と言葉をこぼした。泣いているように見えたが、ぼくにはそれをちゃんと確認する余裕はなかった。
 逃げるように部屋を出た。律儀なことに、部屋に入る時渡された鍵がきちんと手に握られていた。

 「きみは、真面目だからねぇ」

 記憶の中の彼女がそう言って笑う。こんなの今更思い出してなんになるんだ。もう彼女はぼくのものじゃない、いつも甘い香りをまとっていた、素敵な彼女じゃない、消えろ。
 ラブホテルの狭い廊下をしばらく無心で歩いて立ち止まり、改めて一連の流れを思い出すと、体がぞくりとした。死んでしまうかもしれない。しかし不思議なことに罪悪感はあまりなくて、それはぼくもぼくでおかしな人間で、恐る恐る振り返ってみても部屋のドアは開かないし、煙が出ているとか異臭がするとかでもない。どうか死なないでくれと願った。まともに生きているぼくに、あらぬ被害が及ぶのはごめんだ。気付けば彼女の事ではなく、自分の保身ばかり考えている。もう彼女は、ぼくには救えないことを痛いほど知る。ぼくがあの部屋で何をすればよかったかがわからない。そもそも興味本位で元彼女の情報を探り、風俗店で働いていることを知り、指名してみたのが間違いだった。何かが変わると思っていたのはぼくだけだった。
 エレベーターのドアが、ゆっくりと閉まる。下へ向かって動き出す。
 無愛想な受付に鍵を返してホテル代を払った。この辺は安い風俗店が多く、ひとりで部屋に入る男性客もたくさんいるので、特に怪奇の目では見られなかった。自動ドアの前で一組のカップルとすれ違い、互いに見ないふりをして歩き去る。外に出ると、冬の冷たい風が体を包みこむ。そういえば、コートを部屋に忘れてしまった。
 街は喧騒に満ちている。馬鹿騒ぎをする若者達が、ぼくのすぐ前を通り過ぎていく。念のため、もう一度振り返って部屋の方を見てみたが、発煙してはいなかった。彼女が生きているのなら、その安っぽいワンピースだけで夜道を歩くのは寒いだろうから、ぼくが忘れてしまったコートを着て帰ってほしいと思った。そして、寒さを少しでも凌いで家に辿り着けたら、すぐに捨ててほしい。かつて付き合っていた冬の日、薄着でデートに来た彼女にぼくの気に入っていたマフラーを巻いてやったら、あったかいねと笑顔を浮かべていた。彼女はあの時も、甘い匂いをまとっていた。


三森電池です。すいませんでした。
初参加ということでいつも書くような陰気臭い話を書いてしまいましたがせっかくこのような趣旨のスレッドなので次はあまり挑戦したことのない題材を扱ってみたいなと勝手に思っております。
私自身教養がなく難しい単語や言い回しが苦手なのですが小説の内容としては少しだけ大人向けかなって感じです。マジでこんな男とは付き合いたくないですね。お粗末さまでした。

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