雑談掲示板

【開催】第14回 紅蓮祭に添へて、【小説練習】
日時: 2022/06/18 14:16
名前: 浅葱 游◆jRIrZoOLik (ID: bC2quZIk)

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 執筆前に必ず目を通してください:>>126

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 ■第14回 紅蓮祭を添へて、 / 期間:令和4年6月18日~令和4年7月31日
 白く眩む日差しの中で、水面は刺すように揺れていた。



 □ようこそ、こちら小説練習スレと銘打っています。


 □主旨
 ・親記事にて提示された『■』の下にある、小説の始まりの「一文」から小説を書いていただきます。
 ・内容、ジャンルに関して指定はありません。
 ・練習、ですので、普段書かないジャンルに気軽に手を出して頂けると嬉しいです。
 ・投稿するだけ有り、雑談(可能なら作品や、小説の話)も可です。
 ・講評メインではありません、想像力や書き方の練習等、参加者各位の技術を盗み合ってもらいたいです。


 □注意
 ・始まりの一文は、改変・自己解釈等による文の差し替えを行わないでください。
 ・他者を貶める発言や荒らしに関してはスルーお願いします。対応はスレ主が行います。
 ・不定期にお題となる一文が変わります。
 ・一作品あたり500文字以上の執筆はお願いします。上限は3レスまでです。
 ・開始時と終了時には「必ず」告知致します。19時から20時を目安にお待ちください。
 ・当スレッドのお題を他所スレッドで用いる際には、必ずご一報ください。
 


 □お暇な時に、SSのような形でご参加いただければと思います。


 ■目次
 ▶︎第1回 氷菓子を添へて、:今日、全てのテレビ番組がある話題について報道していた。
 >>040 第1回参加者まとめ

 ▷第2回 邂逅を添へて、:彼女はいつもと変わらない、甘い匂いをまとっていた。
 >>072 第2回参加者まとめ

 ▶︎第3回 賞賛を添へて、:「問おう、君の勇気を」
 >>119 第3回参加者まとめ

 ▷第4回目 袖時雨を添へて、:手紙は何日も前から書き始めていた。
 >>158 第4回参加者まとめ

 ▶︎第5回 絢爛を添へて、:「フビライハンとエビフライの違いを教えてくれ」
 >>184 第5回参加者まとめ

 ▷第6回 せせらぎに添へて、:名前も知らないのに、
 >>227 第6回参加者まとめ

 ▶︎第7回 硝子玉を添へて、:笹の葉から垂れ下がる細長い紙面を見て、私は思う。
 >>259 第7回参加者まとめ

 ▷第8回 一匙の冀望を添へて、:平成最後の夏、僕こと矢野碧(やの あおい)は、親友の中山水樹(なかやま みずき)を殺した。
 >>276 第8回参加者まとめ

 ▶︎第9回 喝采に添へて、:一番大切な臓器って何だと思う、と君が言うものだから
 >>285 第9回参加者まとめ

 ▷第10回 鎌鼬に添へて、:もしも、私に明日が来ないとしたら
 >>306 第10回参加者まとめ

 ▶︎第11回 狂い咲きに添へて、:凍てつく夜に降る雪は、昨日の世界を白く染めていた。
 >>315 第11回参加者まとめ

 ▷第12回 玉響と添へて、:――鏡よ、鏡。この世で一番美しいものは何?
 >>322 第12回参加者まとめ

 ▶第13回 瓶覗きを添へて、:赤い彼女は、狭い水槽の中に閉じ込められている。
 >>325 アロンアルファさん
 >>326 友桃さん
 >>328 黒崎加奈さん
 >>329 メデューサさん
 >>331 ヨモツカミ
 >>332 脳内クレイジーガールさん

 ▷第14回 紅蓮祭に添へて、:白く眩む日差しの中で、水面は刺すように揺れていた。


 ▼第n回目:そこにナマコが置いてあった。
 (エイプリルフール企画/投稿期間:平成30年4月1日のみ)
 >>156 悪意のナマコ星さん
 >>157 東谷新翠さん
 >>240 霧滝味噌ぎんさん


 □何かありましたらご連絡ください。
 →Twitter:@soete_kkkinfo
 

 □(敬称略)
 企画原案:ヨモツカミ、なつぞら
 運営管理:浅葱、ヨモツカミ

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Re: 賞賛を添へて、【小説練習】 ( No.93 )
日時: 2018/01/21 21:51
名前: 浅葱 游◆jRIrZoOLik (ID: Zxp7PmDc)

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「問おう、君の勇気を」

 凛と澄ました声が、心地よい音色となって耳を擽る。

「君は何を求めるのか」

 勇ましさを内に秘めた、けれど凛とした一本の芯が通った声色は、自分だけでなく、そこにいる全ての人を魅了していた。今この瞬間において、彼女が世界の中心にいるかのような、そんな錯覚さえ思わせるほど。
 彼女を見つめる人々は、誰も彼女の本質を知らない。彼女はひたすら、彼女らしさを求めているように私には思えた。何故か。それは彼女自身すら分からないら漠然とした何かによる所が大きい。それは自分の中でも咀嚼できず、ある種畏怖を感じさせるような存在感をもって、そこに在る。
 静かに己を主張しているのだ、彼女は。彼女が歩く。その一挙手一投足が見る者を惹き付ける。彼女こそが輝ける場を、聴衆に作らせている。

「俺は誰にも負けない力がほしい。この手で愛する人を守りたいんだ」

 主人公の台詞はありきたりのものでありながらも、演者の力だろうか、それを渇望する主人公の気持ちを考えさせられる。同時に、自分がこのように問われたらとも。自分は何を望むのだろうか。誰と分からない相手に、何を伝えるのだろう。
 愛したい人がいるから、その人を守りづけられる時間だろうか。肘置きに挿していたドリンクを一口。

「力か。お前が求める力は何のために使われる?」
「愛する人を守るためだ」
 
 愛する人を守るために自分が求める時間も、他を犠牲にしてでも手に入れたい力のひとつなのかもしれない。そう考えると、主人公の考え方は自分と近しいものだと仮定でき、それまで少し退屈であった主人公達のやりとりに引き込まれ始めた。

「愛する人のために、それ以外の人達が犠牲になってもか?」

 それまでのやりとりの中、主人公に感情移入していた自分は、はたと自分を取り戻したような心地がする。主人公は正義の男よろしく「もちろんだ!」と強く語る。場面が移り変わる中、ただ一人だけ、その場面から動くことが出来ない。
 犠牲とは、何だ。自分が、望むもののために捨てられる犠牲とは。主人公は勇気を問うた彼女から得た力で、囚われた想い人を助けるため、敵を倒していく。叫ぶ敵と、踏破されていく恐怖に慄く親玉。喜ぶ想い人だけが、主人公の行いを正義としているような気がした。
 では、自分にとっての正義とは何か。クライマックスよろしく迫真のサウンドが場内を湧き立てる。魔法が、剣術が、激しくぶつかり合う中で、自分の隣に座る想い人を盗み見る。口を半開きにしていても可愛いと思ってしまうあたり、すっかり彼女に惚れ込んでいる自分に笑みが零れた。
 自分は果たして横に座る彼女を、全ての困難から守りきることが出来るだろうか。今現在、高校生として、片想い相手とやっとの思いで来たデートの中、可もなく不可もない関係の彼女を守れるのだろうか。そもそも両想いになれる可能性だって低いのにな。スクリーンの中で手を繋ぎ合う二人を見て、思わず頭に浮かんだ。
 幸せそうな二人の笑顔と、二人の帰還を喜ぶ城下町の住人達。彼らは、主人公がどれだけの敵を倒していったのか知らない。主人公が倒した悪の権化が、敵側にとってどれだけ大切な相手だったのかも。知らないまま、仮初の幸せに酔って生活するのだろう。そう考えると、彼女を守るために何かを犠牲にする事は自分には無理だ。

「思ってたより楽しかったね! もーほんと主人公みたいにカッコイイ人と会いたいよねー!」
「姫華は王道主人公好きだと思ってたから、喜んでくれて嬉しいよ」

 頼んだパスタが冷めてしまいそうな勢いで、想い人が映画の感想を話す。君が好きそうな王道主人公を選んだのは、君の初恋の人がまさに王道主人公みたいな人だったから。

「もし姫にさ、彼氏がいたとしてさ」
「何それ、私への嫌味? まー聞くけど、なぁに?」

 ん、と小首を傾げて自分を見る彼女に、相変わらず恋に落とされる。

「彼氏を危険な目に合わせる人がいたら、姫華はあの主人公みたいに、なりふり構わず彼氏を助けに行く?」

 もしそこに、相手側の気持ちがあっても、無視して彼氏を助けられるかい。自分でも最低な質問だと思う。それでも少し聞いてみたいと思ってしまった。姫華が答えに悩んでいる間、その短い時間が永遠にも感じてしまって、やり場のない居心地の悪さを感じないようにするため、味のないエビピラフを口に運ぶ。
 姫華も時折パスタを食べる。フォークを回す指の細さが、彼女の儚さを際立たせている気がした。朝、メイクは練習中と照れくさそうに笑っていたが、とても似合っていると思った。グラスに薄くついた桃色の口紅も、自分のためにしてくれてるのだ思うと、意地悪な事を聞いてしまう。末期だなと、バレないようにため息を吐き出す。

「私さ、たぶん徹底的に喧嘩するよ」
「喧嘩は良くないけど、喧嘩するの?」
「当たり前じゃん! だって私が好きで好きでたまらない人でしょ? その人が私のことを好きでいてくれるなら、私はそれに応えてあげたいもん」
「じゃあ、それで姫華が危ない目に遭っても?」
「――うん」

 ふわりと、何にも変えられないほど美しく、柔らかく、姫華が笑う。

「あ……そうだよな」
「うん」

 気が付いたら無くなっていたエビピラフを求めてスプーンを彷徨わせる。失言をした。自分にはない強い意志が、姫華にはある。その事実が、自分の女々しさを強めていた。

「優大は?」

 パスタを食べ終えた姫華が、そう、静かに尋ねてくる。

「優大なら、どうするの?」
「俺は、なんつーか、自分の一切合切を投げ捨てて守りきれるか不安、かな」
「うんうん。あ、デザート頼むね!」

 店員さんに紅茶のシフォンケーキを頼んでから、また姫華は自分に話の続きを求めてきた。真っ直ぐに見つめられると、どうも恥ずかしくなってしまうけれど、それを悟られてしまわない位に、片想い年数は長いのだ。

「俺は守ってあげたいし、愛してあげたいと思う。けど、家とか、学校の事とか、そういう現実的な部分ばっか見るから……」
「じゃあ、私と一緒に居たらいいじゃん」

 手の中から、弄んでいたスプーンが滑り落ちる。金属と陶器のぶつかる、甲高い音が二人の間に響いた。姫華は、変わらない様子で、いつも通り可憐に笑う。

「なんちゃってー」
「いや、うん……」

 心臓に悪い。今度ははっきりと、姫華にも聞こえるようにため息を吐く。キョトンとした顔でシフォンケーキを食べる姫華を見ていると、笑みがこぼれた。

「美味しい?」
「美味しい!」

 幸せそうに生クリームを付けて、大きくケーキを頬張る彼女を見て、恋をしていると再確認する。

「優大ならちゃんと女の子守れると思うから、自信持ってね」
「……うん」

 水を一口飲み、一人勝手に決心をする。

「俺も姫華みたいにさ、その、何があっても好きな人守れるようになるからさ、俺が姫華のこと守れる男になるまで、待っててくれませんか」



*

 それなりにそれなりな恋愛をさせてやりたかった。
 各参加者様の勇気、非常に楽しく読ませていただきました。

Re: 賞賛を添へて、【小説練習】 ( No.94 )
日時: 2018/01/21 22:58
名前: NIKKA◆ShcghXvQB6 (ID: oUHD/Fyc)


「問おう、君の勇気を」

 そう芝居がかった口調で問う男は下卑た笑みを浮かべ、赤々と光りを放つ、それを手渡してくるのだった。坩堝の中、溶けた真鍮が揺らめき、その液面からは確かな熱気が伝わっている。それを受け取ると、眼下にて押さえ付けられている僧侶の顔を二度、三度、四度と執拗に踏みつけるのであった。切れた唇から血が湧き出し、その血の中に混じる白は抜けた歯だろうか。それが顔を覗かせ、痛みに悶える足枷の鎖ががちゃがちゃと音を立てているも、その鎖を繋がれた馬が気にする様子もない。

「口開けとけよ、お前の好きな十字架をこれから作ってやるんだ。死んでも唇から離れないんだぜ。そうだな、云わば立派な殉教だ」

 そう僧侶へ語りかけ、彼は笑っていた。周囲には首を裂かれた女の死体、泣き叫ぶ子供、首を失い物言わぬ骸の群れ。坩堝を持つ男もまた同様に笑みを湛え、ぐるりと辺りを見回すのだった。
 押さえつけられ、怯えたように声を漏らす僧侶の口は閉じられないように、鎚の頭が突っ込まれており、それは舌の動きを阻害しているのだろう。彼の命乞いは声にすら成らず、大凡暴虐を強いる者達が聞き入れる事は無かった。

「殺しに勇気なんて必要ない、お前に問われるまでもない」

 坩堝の男はそう軽口を叩き、僧侶の腹を三度ばかり踏み付けた。口内に溜まった血が噴水のように吹き上がり、飛沫が舞う。泣きじゃくるばかりの子供の顔が、僅かに赤く汚れていた。さっさと殺しておけと一瞥すると、同胞である男がその子の頭を掴み、石畳の上を引き摺っていった。泣き叫ぶ声が次第に大きく、激しいものへと変わっていく。その声が止まった時、ふと見遣れば子供の後頭部は大きく陥没しており、すっかり脱力し微動すらしなくなったその身体を豪奢なステンドグラスへと投げつけ、そのまま外へと放り出すのであった。

「神は居ないなぁ、無駄死にだなぁ?」

 神を存在し得ない物と嘲り、その男は自らの持つ鎚でこめかみの辺りを二度ばかし掻いた。そして彼は短く一つ溜息を吐くと、思い付いたように突然、僧侶の右目を叩き付けた。肉の拉げるような音は不快で、飛び散った血のそれは辺りを汚すだけ。より一層、僧侶の悲鳴が大きくなる。男の同胞達はその様子を見て、嗤うばかりで何者もその行為を咎めるような事はない。

「やれ」
「あぁ」

 その短い一言のやり取りの後、坩堝を傾けた。金色の湯が口の中へと滴り、肉を焦がしていく。最初の内は悲鳴を上げていたが、口に湯が充満するにつれ、その悲鳴はくぐもった物へと変わっていった。終いには悲鳴すら上げられず、醜く手足をばたつかせたと思えば、その僧侶だった男は白目を剥いたまま事切れたのであった。僅かに口から零れた湯は頬を焼き抜けている。開かれたままの口からは一つだけ気泡が上がっていた。

「これじゃ十字架が作れねぇなぁ、鬆が入っちゃなんねぇ。……よーっし、連れて行け」

 僅かな時間すらなく、馬が走り出し事切れた僧侶だった物は引き摺られていった。彼と同じく、外へ出されたのだろう。辺りの死体は何時の間にか消えていて、この聖堂の中には血の痕と数人の同胞だけであった。

「後はあの像を引き倒しとけ、偶像だなんて気分が悪い。これからは俺等の土地だ、俺等に異教の神は必要ない」

 その同胞達へ語り掛け、勇気を問うた男は坩堝の男の肩を軽く叩いた。

「外に出よう、此処は少し臭いからな」

 血の臭いを充満させたのは自分達だろうと、浮かべたのは自嘲するような苦笑い。それが消え去ると共に坩堝は投げ捨てられ、石畳に真鍮の残り滓が滴るのだった。



 外もまた凄惨たる様子で、彼方此方で火が登り、立ち込める黒煙が争いの惨禍を語る。その光景を見るだけで悲鳴が聞こえ、死への恐怖、争いの愉悦が感じられて仕方がなかった。あぁ、此処は戦場なのだという事を再認識せざるを得ず、耳をすませばまだ遠方で火槍や野砲の声が聞こえていた。生き残りを殺すべく、同胞が走り回っているのだろう。

「……神は居ない、全くその通りだよ」
「まぁな、神を恐れない勇気。これが俺等には必要だ、異教の神など恐れるに足りん。何故なら我々はそれすらも討ち滅ぼすからさ」

 そうやって剛毅に語り、大声で笑い飛ばす男の言葉に小さく頷き、道を歩む。斃れている死体は何かに助けを求め、縋るように手を伸ばしているのだが、その手は空を掴んでいる。神が差し伸べた手など無く、彼等の手は確りと無を握り締めたままなのだ。

「……神が居たとしたら何れ俺達には神罰が下るでしょ。何なら今すぐかも知れない」
「はぁ? 有り得ないぜ、それ。天の神は俺等の業悪を見ておきながら、見て見ぬ振りをしている。布施はクソ共の腹を膨らまして終いってもんさ。見てみろよ」

 彼の指差す先、逆さに吊り上げられた僧侶の屍があった。口から出ているのはまだ固まりきっていない、真鍮の湯である。両手の平を杭で打たれ、逆十字のように吊るし上げられたそれであったが、身に纏う法衣の腹は裂かれ、でっぷりと死亡で膨らんでいる腹が露になっていた。その腹を裂こうとしている同胞の姿があるのは気のせいではない。彼の刀が薄い皮膚を裂いていく。血が滴り、逆十字は伸び、ただの十字へと変わっていった。

「あー、間違いないね、信徒の金はクソのクソになって終いだ」
「そうだろ?」

 神をも恐れぬ勇気を持つ。強いて語るならば、何も恐れぬ勇気を持ったのだ。だからこその業悪である。争いを齎し、他を侵略し、他を殺めてはせせら笑う。それは何物をも恐れぬ勇気が変質した末の物。それは彼等が業悪を犯し、他者を侵す原動力となるのだ。全ての勇気が善い方へ働くとは限らない。中には血と死を以ってして、その勇気を証明する者達も居るのだ。







どうも、初めましてではないですが。
此処に来るのは初めてでしょうか。まぁ、暇なもので手の空いた時間を潰しに、といった感じです。
では、失礼。

Re: 賞賛を添へて、【小説練習】 ( No.95 )
日時: 2018/01/21 23:59
名前: 透 (ID: NU0tiUDw)

>>80 日向さん
 
 最初に読んだとき、とても熱量のある文章だなあと思いました。文字数以上にボリュームのあるお話で、圧倒されました!
 先輩の人物としての造形が素晴らしいなと思いました。野暮でおかしくて、とても好きになれるような感じではない(個人の見解です)先輩が、最後に泣き出してしまうところで、一気に心を引かれました。
 また、語り部の容姿とか人間性とか雰囲気も、自然に描写されていて、巧みだなあと思いました。語り部がどういった人物なのか、自然と想像できました。一人称視点のお話では、語り部についてどのような人物か描写するのは難しいことだと思うのですが、先輩との対比で、それを上手く書かれていらっしゃって本当に凄いと思います。
 「勇気」に関しても、最初は小説のキャッチフレーズか何かしらの「勇気」から、御兄様の死を認めるという「勇気」へ、物語の中で「勇気」の重みが変わるのがいいなあと思いました。わたしも、やはり御兄様はあの小説の作者なのかなあと考えています。
 最後の、途端に悲しくなるシーンが好きです。登場人物の泣きでこちらも悲しくなりました。とにかく、泣きの描写が、迫真といった感じで好きでした。泣きの台詞も素晴らしいです、わたしなんかもう軽率に泣いてしまいます。
 とても素晴らしいお話を読ませていただけて、よかったです。

Re: 賞賛を添へて、【小説練習】 ( No.96 )
日時: 2018/01/22 18:45
名前: 透 (ID: .lw7OEXg)

感想

>>88 hiGaさん

 あ゛あ゛主人公……、と思いました。姉は殺され、妹の自分は結局ころせず、姉妹揃って男の手中に収められてしまった感じがとても悲しかったです。主人公は姉の名前を言わずに、自分が妹であるのを気づかせたかった筈なのに、男に途中で心を折られて自ら名前を言ってしまって、その上でころせなかったので更に悲しいなと思いました。
 お話の中でずっと降り続ける雨と、主人公の激情の炎の対比が素敵だなと思いました。雨は主人公が殺したがっている男の象徴なのでしょうか。炎は雨に消されてしまうのが世の常なので、お話が始まった時点で主人公の敗北が決まっていたのかと思うと、とても切なくなります。 
 また、病弱な「白」い肌の、「白」々しい男という、「白」の掛け合せがいいなあと思いました。血や炎といった、激情と怒りの「赤」との対比になっていて、尚更主人公の心情が苛烈に伝わってくるようでした。主人公の中でも、怒りの「赤」と悲しみの「群青」という二つの色があって、その並列もいいなあと思いました。葛藤する主人公に共感できました。
 hiGaさんの書かれた、激しい主人公が好きです。臨場感と迫力のあるお話を読ませていただけて、よかったです。


>>90 あんずさん

 とても好きなタイプのお話でした……! わたしは罪を犯して二人で逃亡する系のお話が好きなので、とても楽しく読ませていただきました。
 主人公が、修学旅行のしおりを見ながら荷造りをするシーンが好きです。実際に逃亡生活を始めようとする人は、修学旅行のしおりを参考にしてるんじゃないかと、あんずさんのお話を読んで考えました。今迄にそんなことは想像したことがなかったので、修学旅行のしおりという引き出しがあるあんずさんは、とても凄いです。尊敬します。
 物語の中で、勇気について、生死だとか善悪だとか、そういった大袈裟なところにシフトしていくのではなく、主人公の行動のひとつに帰結するだけ、というのがリアルでした。お話の途中で、映画の字幕で「勇気」が繰り返される描写があることで、善悪とか生死だとかの勇気なんて、主人公にとっては薄っぺらいものなんだというのが自然に示されていて、凄いなあと思いました。
 殺人をした主人公はいずれ捕まってしまうのでしょうか。だとしても、むしろ好転していきそうなラストシーンが、とても好きです。主人公がお話の中で唯一感じている温度が、「熱さ」というのも、とてもとても好きです。
 素敵なお話を読ませていただけて、よかったです。続きがあったら読みたいです!

Re: 賞賛を添へて、【小説練習】 ( No.97 )
日時: 2018/01/22 23:35
名前: 透 (ID: .lw7OEXg)

>>92 ヨモツカミさん

 ヨモツカミさんらしいテイストのお話だなあと思いました。二人の語り部の口調は淡々としているのに、そこから寂しさや複雑な思いが自然と伝わってきました。
 死んでしまった女の子が報われないなあと思いました。もっと率直な言葉にすればよかったのに、と思いました。
 しかし、魔王の台詞を引用したのは、素直に「助けて」と言えなかったからではなくて、ただ、友達だと思っている子の気持ちを確かめたかっただけだから、だと考えました。死んでしまった女の子は、友達と離れていくのが寂しくて、孤独感でいっぱいだったと思います。もし友達も、少しでも寂しいと感じていてくれたなら、女の子も死なずにいたかもしれないと思います。
 ゲームの中で勇者が、魔王のいない世界を必要としなかったのは、勇者も孤独になりたくなかったからではないのでしょうか。女の子もそれを分かってて、魔王の台詞を引用したのでしょうか。孤独を分かち合うこともできずに、本物の孤独に苛まれてしまった女の子は……うーん、やっぱり報われないなあと思います。
 でもしょうがない事だと思います。だって友達は魔王じゃなくてヒーラーだったので。
 最後の友達の呟きが、とても切ないなあと思いました。二人が一緒にゲームをしている姿を想像すると、泣けてきます。
 すてきなお話を読ませていただけて、よかったです。


>>93 浅葱游さん

 浄化されました。キュンキュンしました!! 優大くんはかっこいいし、姫華ちゃんはかわいいしで、最高でした。
 姫華ちゃんがとにかくとても可愛かったです。仕草の一つ一つが細かく描写されていて、生き生きとしているなあと思いました。まるでわたしが姫華ちゃんとデートしているような気分になりました。そして食べ物を美味しそうに食べる女の子は可愛いなと思いました。
 優大くんも、悶々と思考してしまうところが可愛らしいなと思いました。姫華ちゃんと対照的な感じがしてよかったです。でも姫華ちゃんも色々と考えている子なので、その悶々とした感じを他の人に見せない姫華ちゃんはやっぱり可愛いし魅力的です。なので、優大くんにとても共感できました。
 二人の間で金属音がするシーンが、個人的にはとても大好きです。映画のワンシーンみたいだと思いました、ぜひ映画化してほしいです。
 最後の優大くんの台詞も最高でした。わたしに対して言われた台詞ではないのに「えっ///」ってなりました。優大くんイケメンですね、いい匂いしそうです。
 甘酸っぱいお話を読ませていただけて、よかったです。これは過激派になるしかない。

Re: 賞賛を添へて、【小説練習】 ( No.98 )
日時: 2018/01/23 15:04
名前: あるみ (ID: R8Ast8HU)

「問おう、君の勇気を」


 誰とも判別のつかない声。幻聴である。

 周囲に僕以外の人は居らず、僕は視界に映らないものの声を受信するような特性を持たない。機会音声が勝手に喋りかけてくる携帯電話はいつもの如く携帯し忘れ、今ごろは家の充電器で充電完了のライトを光らせながら寂しく留守番をしていることだろう。

 僕の傍にある意味のあるものは、プロポーズされたら買う分厚い結婚情報誌と、先日自室で首吊りを決行した婚約者の写真ばかりである。誰が遊ぶのか分からない小山の上にある公園のベンチに恭しくそれらを並べ、僕自身は乾いている土に尻をつけて三角座りをしながら、その二つをじっと見つめ続けている。

 その残骸たちは僕に何かを訴えはしない。物は何があろうと物でしかない。何も感じず、何も思わず、ただ人間に使用されるため佇んでいるだけ。どれだけ大事に扱おうと、どれだけ大切な人間が写し込まれていようと、そこに気持ちは宿らない。号の古い雑誌はゴミでしかなく、故人の写真はインクの模様でしかない。記憶も思いも留められていない。付喪神など信じてはいないけれど、もし付喪神という概念が真実であろうと、十数年は神を生む期間とするには短過ぎてお話にもならないだろう。

 僕の耳は何も聞いてはいないのだ。僕の頭が誤解をしている。存在しない何か特別なものを作り出そうと躍起になっている。

 母はこの雑誌と写真を捨てようと言った。手元にないものをいつまでも覚えている事はできないから、時間という薬がちゃんと効いて僕の傷が治るよう、親らしい心配からの提案なのだと僕は理解している。だけれど何故か、僕は母を突き飛ばして家を飛び出してしまったのだ。その行動は、僕が婚約者を忘れる事を受け入れられないでいる事をはっきりと示している。

 求められている勇気は、忘れる覚悟か、あるいは。あるいは何であるのか、僕はうっすらと感じ取っていて、けれどそれに気が付いてしまう事を躊躇っている。


「問おう、君の勇気を」

 二回目の幻聴は女の声に似ている。似ているというのは、まだどこか不明瞭で、それが女の肉声のようでもあり無感情な機械の声のようでもあり、一部分は虫の羽音のような気持ち悪さを感じる音ですらあって、ただ一つだけに決まらないでいるからである。
 僕の気持ちが曖昧であるからか、幻も明確な形を取る事ができず苦しそうだった。

 婚約者の自死の本当の理由を僕は知らない。遺書はなかった。知りたくとも、もう彼女に尋ねる術がない。けれど僕きは一つだけ心当たりがある。答え合わせのできないそれは、僕を着実に追い詰めていく。――あの日、僕がもし、あの男に彼女を紹介しなければ、彼女は今も生きていたのではないだろうか。
 忘れる覚悟か、あるいは……。

 僕は彼女の写真を胸ポケットにしまい、公園の時計を見上げた。時刻は午後五時二十分を指している。僕は尻の土汚れを払ってベンチに腰を下ろし、雑誌をコートの影に隠した。元々それなりの重量ではあるものの、少しばかり細工をしてある雑誌はもっと重い。覚悟が決められないと悩んでおいて準備は万全なのだから、僕の答えはもう決まっているのかもしれない、と自嘲気味に唇の端を吊り上げた。


 公園に続く山道から、男が此方へ向かってくるのが見える。時刻は五時三十分ジャスト。

「何の用?」

 男はニタニタと気色の悪い笑顔を浮かべ、粘っこい声で僕の用件を問う。僕の用件は察しているのだろう。その様子は僕がどう彼を責めるのか、どこまで感情を露にするのかを楽しんでいるようでもあった。

「問おう、君の勇気を」
 三回目の幻聴は女の声。男は何も気にしていない様子だから、やはりこの声は僕の幻聴なのだろう。

「ききたい事があって」
「ふーん」
「座れよ」
「話ってさぁ、お前の女の事だろ? 自殺したんだって?」

 男はベンチに腰かける事なく、「懐かしいなぁ」と声を弾ませながら公園の奥へ足を進めた。仕方なく僕も立ち上がり男の後を追う。コートのなかで雑誌を握りしめたまま。

 この公園は階段を出てすぐ古い遊具とベンチがあり、その向こうにはタイヤの積み上がった通称『タイヤ山』があって、その奥の小道を進むとちょっとした展望台がある。僕と男はこの町が地元であり、元気をもて余した小学生の頃はよくここまで登ってきて遊んだものだ。今となっては輝かしくも愛おしくもない記憶だけれど。

 男はご機嫌であれこれと思い出話をし、僕の婚約者の話など忘れたような調子で笑っている。僕を苛立たせるため、わざとこうやって時間を使っているのだろう。男の目論見通り、あまり気の長くはない僕は苛立ちを覚えている。
 けれどその不快感は男の望む方法で爆発はしないだろう。僕の頭のなかは酷く冷えていた。冷静な訳ではない。冷静なのではなく、むしろその逆で、どこか壊れて歯止めがきかなくなっているような感覚だった。

 展望台の手すりに腕をのせて無駄話を続ける男。

「……私のためならなんでもできる?」
 四回目の幻聴は、感情の読み取れない彼女の声だった。

 ――できるよ、なんでも。
 心のなかで返答をして、僕はずしりと重たい雑誌を振り上げた。





 ・
 初めまして、どうしてなのか結果として結婚情報誌で婚約者の無念を晴らす男の話になりました。
 楽しく皆さんの作品を読ませて頂きました。書き手としても読み手としても楽しめる、とても素敵なスレッドですね。
 お邪魔しました。

Re: 賞賛を添へて、【小説練習】 ( No.99 )
日時: 2018/01/23 18:06
名前: 浅葱 游◆jRIrZoOLik (ID: QooUaQyE)

*

 みなさんなりの勇気で、遥か先、誰かは賞賛を得たのでしょうね。
 と、ふと思うわけです。

*

>>073→Alfさん

 お題の件ではご迷惑おかけして申し訳ありませんでしたorz
 お題による表現の変化により、作品の雰囲気が壊れていないことを願うばかりです。

 描写が丁寧で、かつ躍動感があるように感じました。龍が死してなお、生き生きとその場に在るという事実を見せるのが美しいなと思います。
 勇者という肩書きは正義を体現しているように見えますが、その中で様々な試練があり、味方との意見の違いから敵対したとしても、より良い選択を目指していく存在なのでしょうね。少なくとも僕はそう感じました。
 素敵な作品でした。お題開示から短時間でここまでの作品を読めると思っていませんでしたから、読めて心から良かったと思います。

*
>>075→銀色の気まぐれ者さん

 お題の件でご迷惑おかけしております、申し訳ありません。
 次回も参加していただける場合には親記事、開催告知レスをよくお読みの上ご参加いただければと思います。

 変なところで改行が入ってしまっているのが惜しいなと思います。改行のせいで文章に流れを感じなくなってしまいますので、そこが改善されると読みやすい文章になるのではないかなと感じました。
 問われた勇気に、主人公は答えることができなかったのでしょうか。応じようと考えても、実際に行動に移すことの、難しさをうまく表現されているのだなと僕は感じました。

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>>078→メデューサさん

 冬に読むホラーも、寒さと相まった薄気味悪さがあり、新鮮な気持ちで読むことが出来ました。行間を上手く使い、視点主の違和感や疑問、その後に背筋から這い上がるような気味悪さを演出してらっしゃるのかな、と個人的に思いました。自分は行間を空けることをまりしない人間なので、改めて一つのレスの中で演じれるものはどんなものなのかということを考えるきっかけにもなりました。

 文の終わりに句点があると、なお良かったかもしれないですね。

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>>079→奈由さん

 投稿されるたびに少しずつ文のクオリティが上がっている気がします。成長を見届ける親のような、意味のわからない立場からの意見ですので聞き流してください。
 短編の中で短編を演じることが出来るのは、文字だからこそのような気が致します。さらに地の文が増えると、誰が何をして、今どうなっているのかということがわかりやすく表現できるのではないかなと感じました。
 一番気になったのは「いうとうり」ですが、正しくは「いうとおり」となります。普段の話し言葉と書き言葉では違いが出る場合もありますので、そうした点も改善されていくと良いですね。

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>>080→日向さん

 見かけない間に、様々な作風に挑戦していたのでしょうね。思っていたものよりも、異質に感じる描写が浅葱は好きですよ。
 生憎自分には想像力というのがあまりないのですが、私は私で、先輩は先輩で、それ以上でも以下でもない関係の中、いじらしく日々を営んでいるのだろうな、なんて曖昧な事を感じた次第です。
 また君が創作を楽しまれること、僕も心からお待ちしています。

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>>081-082→何でもしますから! さん

 貴方には後程まとめて。

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Re: 賞賛を添へて、【小説練習】 ( No.100 )
日時: 2018/01/23 19:18
名前: 狐◆4K2rIREHbE (ID: Oj4gCZuY)

「問おう、君の勇気を」

 そう言って、微かに目を伏せると、ミスティカは手を差し出す。その上に、跪いていたセルーシャが、己の手を重ねると、ミスティカの薄い唇が弧を描いた。

「葬樹(そうじゅ)の森の長、セルーシャよ。その命を捧げることで、古代樹は浄罪の力を取り戻します。さすれば、清らかな精霊の息吹は、この穢れた大地に降り注ぎ、世界は再び甦ることでしょう。終わりなき世の流転のため、自らの魂を贄(にえ)とすることを選んだその勇気に、心からの感謝と恭敬を……!」

 途端、周囲に立ち並ぶ木々が、さわさわと揺れ始めた。まるで、歓喜の旋律を奏でるように。葉を擦り合わせ、枝を振動させながら、祝福の詩を歌う。
 しかし、その瞬間。何処からともなく、悦びの雰囲気には似合わぬ、焦燥した声が響いてきた。

「待て……!」

 木々の合間を縫って現れた黒煙が、セルーシャの真横に落ちて、人の形を象っていく。やがて黒煙は、長い黒髪を持った中性的な姿を取ると、セルーシャに詰め寄った。

「セルーシャ、馬鹿な真似はやめろ! お前が命を捨てる理由など、どこにあるというのか……!」

 怒気を含んだ口調で、問いかける。ミスティカは、忌ま忌ましげに顔をしかめると、鋭い声で言った。

「葬樹の精霊、エイリーン……。精霊王、グレアフォール様の御前で、無礼であるぞ。ここは、目通りを許された者のみが立ち入れる聖域、『古代樹の森』。そうと知っての狼藉か……!」

 エイリーンは、その橙黄の瞳を動かすと、ミスティカを睨み付けた。

「《時の創造者》ミスティカよ。我らが長、セルーシャが古代樹の肥やしにされるのを、黙って見過ごす訳にはいかぬ! 我々葬樹の勇気を問うというならば、この我が戦場に立ち、人間も獣人も、滅ぼして見せよう! 精霊族に仇なす種族、その全てを、必ずや我が──」
「──ならぬ」

 エイリーンの言葉を遮って、低く、威厳のある声が響く。瞬間、騒がしく揺れていた木々が動きを止め、辺りが静かになった。
 声の主は、この精霊の国ツインテルグを治める王、グレアフォール。広間の中心に聳え立つ巨木──古代樹の根に腰を下ろすグレアフォールは、その黄金の髪から覗く、瑠璃色の目をすっと細めると、エイリーンを見た。

「人間も、獣人も、滅ぼしてはならぬ……」

 エイリーンの長い耳が、ぴくりと動く。古代樹に鎮座するグレアフォールを見上げて、エイリーンは、怒鳴り声を上げた。

「一体、何を躊躇うというのか! 森を灼き、大地を腐らせ、世界に穢れを広めたのは人間や獣人ではないか! 何故その代償を、我ら精霊族が払わなければならぬ!」

 グレアフォールは、眉一つ動かさず、答えた。

「世界の流転には、繰り返される嘆きの歴史もなくてはならない。その絶望を生む他の種族を、滅ぼすことは許されぬ。古代樹に捧げるべきは、お前たち、葬樹の魂……。死をもたらし、闇を生きる咎(とが)であるお前たちこそが、然るべし古代樹の糧となる……」

 エイリーンの顔が、歪む。己の中で、みるみる盛り始めた怒りの炎を抑え込むように、エイリーンは俯き、拳を握りしめた。

「何故だ……何故なのだ、精霊王……」

 震える声で、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

「千年前、我が一族を竜族から救ったそなたが、何故……! 裏切るのか……? 我らは、そなたこそが真の王だと、そう、信じて──……」

 そこまで言って、エイリーンははっと口を閉じた。そして、大きく目を見開くと、言った。

「まさか、このためか……?」

 信じられない、といった表情で、グレアフォールを見る。エイリーンは、込み上がってきた激情に身を任せ、叫んだ。

「このために、我らを竜族から救ったのか!? 最初から贄に捧げるつもりで、我ら一族を救ったのか──!?」

 刹那、エイリーンの足元から、どす黒い煙が巻き上がった。
 煙に舐められた周囲の草木が、生気を失い、一瞬で色を変えていく。懸命にもがき、大気を掻くように枝葉を震わせ、枯死していく草木を見て、ミスティカは小さく舌打ちした。

「これ以上は許さぬぞ、エイリーン! 今すぐ聖域から出て行け、さもなくば──」

 エイリーンの前に手を翳し、ミスティカが魔力を高める。しかし、その唇が開く前に、セルーシャがエイリーンの腕を取った。

「やめろ、エイリーン」

 エイリーンが、はっと我に返って、セルーシャを見る。立ち上る黒煙が掻き消えるのを見届けてから、セルーシャも、エイリーンを見つめた。

「遅かれ早かれ、我らは滅ぶ一族だった。じきに、葬樹の森も朽ち果てる。故郷の森が逝くなら、私も逝く……」

 静かな声で言って、目を閉じる。それから微笑みを浮かべると、セルーシャは言い募った。

「そなたは生きよ。私は、ただ朽ちるのではない。この魂を以て、古代樹と一つになり、大地を浄化するのだ……」
「…………」

 凍てつくような、絶望を瞳に浮かべて、エイリーンが押し黙る。そうしてしばらく、エイリーンは何も言わずにいたが、ややあって、唇をくっと噛んだ。そして、無造作にセルーシャの手を払うと、黒煙に姿を変え、宙に飛び上がった。
 風のように軽く、広がった枝葉を撫でながら、鬱蒼とした森を抜ける。聖域から飛び出し、やがて、一際高い大木の枝に座ると、エイリーンは、再び人の形をとった。
 仰いだ夜空には、満月が煌々と輝いている。闇に渦巻くように散った、星々の光も相まって、天はひどく眩しかった。

「レクエス……」

 ふと、同胞の名を呼ぶ。
 すると、エイリーンの座る大木の幹から、めきめきと幾多の枝が生えてきて、絡み合いながら、小さな馬のような姿になった。枝で出来た四肢を確かめ、隣に跳び移ってきたレクエスを一瞥すると、エイリーンは口を開いた。

「……聴こえるか。全てを喰らい尽くす、光の音が」

 月明かりに目を細め、エイリーンが続ける。

「何故我らは、精霊族の陰として在らねばならぬのだろう。ただ、誇り高き葬樹のままで、生命の流れに寄り添っていられれば、それで良かったのに……」

 エイリーンは、冷めた口調で言った。しかし、その瞳には、深い哀しみと苦痛の色が浮かんでいる。

「……大地に根を張り、枝を伸ばし、葉を繁らせ、ただ、そこに在る。そして、魂の抜けた器を喰らい、それらをまた、大地に還す。我らは本来、そういう一族だったのだ。グレアフォールに、『自我』などというものを、与えられるまでは……!」

 語尾を強めて、エイリーンが眉を寄せた。レクエスは、何度が足踏みをして、エイリーンに向き直ると、その頭を垂れて、呟くように言った。

「今が、時ではありませぬか。我が闇精霊の王よ」

 虚を突かれたように、エイリーンが瞠目する。訝しげにレクエスを見ると、エイリーンは、低い声で尋ねた。

「……王? 今……闇精霊の、王だと言ったのか?」
「はい、そう申しました」

 顔を上げて、レクエスは首肯した。

「光と闇……。精霊王、グレアフォールを光とするならば、その陰を生きる我らは闇。貴方様は、その王に相応しい」
「…………」

 エイリーンの、僅かな心の動きも読み取りながら、レクエスは問いかけた。

「精霊王、グレアフォールが示すのは、永遠に回帰する死と再生の運命です。そのような物語に、何の意味があると言うのでしょう。彼の予言に従って、我ら一族に、一度でも希望がもたらされたことがあったでしょうか……?」

 橙黄の瞳が揺れて、エイリーンが息をのむ。レクエスは、はっきりとした口調で告げた。

「我らは我らの、誕生と終焉を迎えるのです。今こそ、その運命を掴みとる時。長い歴史の中で、我らの内に燻ってきた憎しみの炎で、このツインテルグを、灼き滅ぼすのです……」

 月光に照らされ、浮き上がった木々が、ざわざわと不穏な音を立てる。夜風に揺さぶられて、一斉にざわめきだした森の声を、エイリーンは、ただじっと聴いていた。


…………


 お世話になっております!
なんとなーく、ちょっと昔のHNで書いてみました(笑)銀竹です。
自創作の世界観をそのまま持ち込みまして、説明していない部分が多いので、初めて見た方は意味不明だと思います。
まあ、ファンタジーな雰囲気だけ感じて頂ければ……程度の気持ちです(^^)

 このスレには、感想を書きに来よう、来ようと思いつつ、結局全作読み込むまでに至っておらず……!
でも個性的な短編がそろっていて、「問おう、君の勇気を」というたった一言から、こんなに毛色の違う物語が沢山生まれるんだなぁと、楽しく拝見しております。
運営等大変かと思いますが、浅葱さん、ヨモツカミさん、素敵な企画をありがとうございました(*^^*)

Re: 賞賛を添へて、【小説練習】 ( No.101 )
日時: 2018/01/25 19:45
名前: ヨモツカミ (ID: iqr9IexY)

>>何でもしますから! さん
え、今何でもって……(
少年ジャンプのような熱い戦闘シーン、主人公の覚悟、圧倒的強敵な氷の魔女、孤独だった土の魔女。全部ひっくるめてカッコよかったです。こういうのワクワクしちゃいますよねー。好きです。でも守りたかったヒトはもういないんですよね、悲しいなぁ。
三つ訂正のところとかすっごい燃えました。魔女を殴るところとかめっっちゃカッコよかったですし、彼女の魔法を愛する人を護る魔法って言ったところもカッコよかったですし、三つ目の「いたんだ、少なくとも一人は、確かに」って台詞もカッコよくて、痺れます。私の感想カッコイイしか言えてないですね、申し訳ない。

>>透さん
初参加ありがとうございます! ずっと来ていただけたらなぁと思っていたので凄く凄く嬉しいです。
まず発想が斬新で面白いですね。勇気を問うのではなく「そう読める」ってパターン、私には無い発想でしたので、どう展開してくんだろなと思って読みすすめていくと、顔の影とか雨とか自殺の名所等、所々不安を煽ってくる書き方をされていて、最後はゾワワッとしました。冬のホラーはホントにゾワゾワする。
蓑田の一挙一動に得体の知れない怖さというか気持ち悪さがあったような気がします。そう思えるのは俺の心理描写が細かく丁寧だったからかなあと思います。
蓑田と俺がちょっと不仲っぽくて、二人でインターネット動画マンなんかやってる「単純」な答えって結局なんだろと思いました。
なんか呼吸についての描写をされると、こっちまで呼吸を合わせてしまって、なんとなく息苦しくなって、より恐怖を煽られるような感じがして、改めて凄いなぁと感じました。

>>月白鳥さん
参加ありがとうございます!
虫の描写がリアルで、ヤダ気持ち悪い……え、気持ち悪い……って読み進めていました(
なんというか、気持ち悪さや痛み、絶望感が良く伝わってきて、読みながらずっと顔をしかめていたような気がします。電車の中で読むんじゃなかった。
虫とか流血とかの気持ち悪い文章と、読んだあとになんとも言えない気持ちになる話が月白鳥さんらしくて、個人的に好きだなと思いました。

>>三森電池さん
前回に引き続き、三森さんらしい胸を直接殴りつけてくるような話で、当然のように好きでした。
未来人は、本当は死ぬのは嫌で、死ぬのが怖いのと生きるのが怖いの間で、誰かに止めてほしかった僕が見た幻想、だったのでしょうね……。
未来の色のない日常と、小さな楽しみの話をされた時点で、「じゃあ今回はやめるよ」っていう流れかと思ったら見事に飛びましたねー。そんなことに勇気出さないで(泣)生きて(泣)
でも、あえて飛ぶ終わり方だったからこそ三森さんらしくて、だからこそ好きだって思えました。中途半端な僕が最期に見せた勇気。きっとその瞬間、彼は誰よりも勇者だったんだと思います。
それから、春の快晴の中っていうのが、本当にフラッといってしまった感じがしました。ふとした瞬間のちょっとした思いつきで案外簡単に飛べちゃうものなのかもしれませんね。

Re: 賞賛を添へて、【小説練習】 ( No.102 )
日時: 2018/01/26 17:57
名前: Alf◆.jMJPlUIAs (ID: 2H5x/5T.)

 多忙につき中々皆様にご感想・ご返信できず申し訳ありません。全て拝読させていただいております。
 個人的には日向様、あるみ様の文章が大変好みです。

>>84

 ご感想ありがとうございます。
 昨今はソシャゲなどで軽率に用いられがちなモチーフですが、元来竜とは良き悪しきに関わらず人智の及ばない神性さ、またあるいは災害のような暴虐の象徴だと思うのです。そのことに思いを馳せる、或いは見過ごしてきた巨大さを今一度顧みることが出来たなら、描写の紡ぎ手としてこれほど光栄なことはないことと認識いたします。
 そして、その竜の遺骸を前にして右顧左眄する矮小さと、その矮小さをして意志の在り方次第で強大さを乗り越え得る可能性の大きさ。そんなことが描き出せていたらいいと思います。
 やはりこう……せっかくの竜肉はやはり食べなければと(笑) 堅苦しい文章を初発に押し込んでしまったので、せめても余談で息抜きした方がいいかと思い挿入したのですが、思いのほか受けが良くて安心した次第です。

>>99

 ご感想ありがとうございます。
 こちらこそお題を確認せず使用してしまい大変失礼いたしました。改定前と比して少々ぎこちなさは残ってしまいましたが、ニュアンスは伝わるのでまあ良いものかと思っております。
 竜の辺りは畳みかけるような描写を目指したつもりです。静寂の中にただ転がされただけの死骸、その威容に滲む異様さが文字の塊としても、文字の中身からも読み取れればこの文章を書いた意味があったろうと思います。
 勇者の描写はなるべく人間味というか、泥臭さを前に押し出しました。死骸を扱うこと、それに対する見解の違いや、個々人の葛藤、竜の厳然とした姿と容易く揺らぎ迷う人の対比が描けていたらいいと思います。
 こちらこそ素敵なお題で書かせていただきありがとうございます。また機会がありましたら参加させてください。

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