雑談掲示板

【開催】第14回 紅蓮祭に添へて、【小説練習】
日時: 2022/06/18 14:16
名前: 浅葱 游◆jRIrZoOLik (ID: bC2quZIk)

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 執筆前に必ず目を通してください:>>126

*

 ■第14回 紅蓮祭を添へて、 / 期間:令和4年6月18日~令和4年7月31日
 白く眩む日差しの中で、水面は刺すように揺れていた。



 □ようこそ、こちら小説練習スレと銘打っています。


 □主旨
 ・親記事にて提示された『■』の下にある、小説の始まりの「一文」から小説を書いていただきます。
 ・内容、ジャンルに関して指定はありません。
 ・練習、ですので、普段書かないジャンルに気軽に手を出して頂けると嬉しいです。
 ・投稿するだけ有り、雑談(可能なら作品や、小説の話)も可です。
 ・講評メインではありません、想像力や書き方の練習等、参加者各位の技術を盗み合ってもらいたいです。


 □注意
 ・始まりの一文は、改変・自己解釈等による文の差し替えを行わないでください。
 ・他者を貶める発言や荒らしに関してはスルーお願いします。対応はスレ主が行います。
 ・不定期にお題となる一文が変わります。
 ・一作品あたり500文字以上の執筆はお願いします。上限は3レスまでです。
 ・開始時と終了時には「必ず」告知致します。19時から20時を目安にお待ちください。
 ・当スレッドのお題を他所スレッドで用いる際には、必ずご一報ください。
 


 □お暇な時に、SSのような形でご参加いただければと思います。


 ■目次
 ▶︎第1回 氷菓子を添へて、:今日、全てのテレビ番組がある話題について報道していた。
 >>040 第1回参加者まとめ

 ▷第2回 邂逅を添へて、:彼女はいつもと変わらない、甘い匂いをまとっていた。
 >>072 第2回参加者まとめ

 ▶︎第3回 賞賛を添へて、:「問おう、君の勇気を」
 >>119 第3回参加者まとめ

 ▷第4回目 袖時雨を添へて、:手紙は何日も前から書き始めていた。
 >>158 第4回参加者まとめ

 ▶︎第5回 絢爛を添へて、:「フビライハンとエビフライの違いを教えてくれ」
 >>184 第5回参加者まとめ

 ▷第6回 せせらぎに添へて、:名前も知らないのに、
 >>227 第6回参加者まとめ

 ▶︎第7回 硝子玉を添へて、:笹の葉から垂れ下がる細長い紙面を見て、私は思う。
 >>259 第7回参加者まとめ

 ▷第8回 一匙の冀望を添へて、:平成最後の夏、僕こと矢野碧(やの あおい)は、親友の中山水樹(なかやま みずき)を殺した。
 >>276 第8回参加者まとめ

 ▶︎第9回 喝采に添へて、:一番大切な臓器って何だと思う、と君が言うものだから
 >>285 第9回参加者まとめ

 ▷第10回 鎌鼬に添へて、:もしも、私に明日が来ないとしたら
 >>306 第10回参加者まとめ

 ▶︎第11回 狂い咲きに添へて、:凍てつく夜に降る雪は、昨日の世界を白く染めていた。
 >>315 第11回参加者まとめ

 ▷第12回 玉響と添へて、:――鏡よ、鏡。この世で一番美しいものは何?
 >>322 第12回参加者まとめ

 ▶第13回 瓶覗きを添へて、:赤い彼女は、狭い水槽の中に閉じ込められている。
 >>325 アロンアルファさん
 >>326 友桃さん
 >>328 黒崎加奈さん
 >>329 メデューサさん
 >>331 ヨモツカミ
 >>332 脳内クレイジーガールさん

 ▷第14回 紅蓮祭に添へて、:白く眩む日差しの中で、水面は刺すように揺れていた。


 ▼第n回目:そこにナマコが置いてあった。
 (エイプリルフール企画/投稿期間:平成30年4月1日のみ)
 >>156 悪意のナマコ星さん
 >>157 東谷新翠さん
 >>240 霧滝味噌ぎんさん


 □何かありましたらご連絡ください。
 →Twitter:@soete_kkkinfo
 

 □(敬称略)
 企画原案:ヨモツカミ、なつぞら
 運営管理:浅葱、ヨモツカミ

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Re: 氷菓子を添へて、【小説練習】 ( No.10 )
日時: 2017/09/07 21:00
名前: 奈由 (ID: bibTwgQM)

なんとなく参加させていただきます。
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今日、全てのテレビ番組がある話題について報道した

「今日未明、この世界にいる人間6人に能力が与えられました。
その6人とそれぞれの能力について詳しく説明します。」

ふーん、能力かー学校で平凡な演劇部に入って小さな劇団に入っている私には関係ない話だよね。

さて、さっさと制服に着替えようかな

シャツを着る。

「燈美 いすみ 男 物を作る能力」

能力が与えられたなんて物騒だよねー
かわいそうだな。

スカートを履く。

「糊代 康太 男 草花を操る能力」

草花とか人食いバナでも作られたら怖いなぁ
あ、あとで昨日買った小説入れないと

ベストを着る

「水菜 風芽 男 風を操る能力」

台本に昨日マーカー引いたから、、
劇団の台詞覚えてるし演劇もそろそろ力入れないとなぁ

靴下を履く。

「名代 真乃華 女 糸と針を操る能力」

あ、裁縫道具忘れそうだったわ、
小説と、台本、裁縫道具を入れて時間割の確認。

鞄を閉める。

「七瀬 美海 女 音を操る能力」

「あ・え・い・う・え・お・あ・お」

声の調子はいい。

軽く発声練習をする。

ご飯は軽く食べたから髪を結んだらこれでオッケー。

身だしなみの確認をし、準備を完了する。

「蒼崎 琴 女 心を読む能力。そして、この人のみ水も操れる。」

え、、、、私、、、?
能力を?………水を操る?

手を動かす

水が浮く

心を読む?

嘘じゃ、、、、、、ない、

ほっぺをつねる。

「なお、能力者には手の甲に小さな星のあざがあり━━━」

星の痣がある?

そうか、私、能力者なんだ、
ま、いいけどね。

ピーンポーン

「はい、何ですか?」

「管理人の糸口です。今すぐここを出て行きなさい。家具は置いていい。貴重品だけ持って
トランクでも引きずって出てけ!」

そう言われ下着などをトートバックに詰めてそそくさとそこを後にした。

星の痣を見られては目をそらされる。中には

「心を丸裸にされる!」
「逃げろ!」

と、勝手に逃げ出されたりもする。

読むつもりもないのに。

学校に行っても、、

「あなたはもう生徒ではありません。一切入らないでください。」
と言われた。

劇団でさえ
「あんたなんていらないから」
と言われた。

さーて。居場所探してもするか。
いろんなバイト探してみようかな。

〈これは、世界から見放された1人の少女が居場所を探す物語である。〉

Re: 氷菓子を添へて、【小説練習】 ( No.11 )
日時: 2017/09/08 01:54
名前: キリ (ID: lBH6McwY)

 今日、全てのテレビ番組がある話題について報道していた。
 ……らしい。

「……、……」
「……!……」
「……」

 僕にはよく分からなかった。言葉の断片の意味は分かるのだけども、全部繋ぎ合わせて理解しようとすると、どうしても出来なかった。ただ、周囲の人の慌てようから、何かとても重大で深刻な出来事が起こりつつあることだけは何とか把握できる。
 一体何が起こるのだろうか。一人周囲から置いてけぼりにされて、石畳をとぼとぼ歩いていると、来し方へと駆けだしてゆく人の群れが見えた。何人、何十人が僕の隣を忙しく通り過ぎ、何度かぶつかっては僕がこけた。皆が皆後ろだけを見て走り去り、僕に何かを教えてくれる人はいなかった。

「――」
「――!!」
「――、――!?」

 本当に何が起こるのだろう。耳を澄ませようとした途端、真正面からぶつかって来た人に思い切り喉笛を踏ん付けられて、抗議の声も上げられない。起きようとするとその度誰かがあちこちを踏み付けていく。諦めて空を見た。穏やかな秋の晴れ空に、僕を足蹴にしていく人々の焦りを煽るような材料は……ないと思うのだけど。あるとすれば、それはきっと僕の知らないことだ。
 しばらくして、やっと石畳に転がる僕への暴虐が止んだ。単に人波が途切れただけなのだけども、とにかく痛い思いはもうしなくていいらしい。少しだけ安堵して身体を起こす。錆浅葱のスーツは何処も彼処も砂の足跡だらけ、鈍く痛む足や腕には青痣のおまけつきだ。全くもう。
 足跡と砂を払い、鈍痛に知らんぷりをしながら立ち上がった。さっきまであんなに人の多かった石畳の上には、もう犬の仔一匹もいない。耳鳴りのしそうな静粛と、鈍い僕にすら分かるほどの緊張感だけが、僕と一緒に佇んでいる。

「あ゛ー、あ゛ー、あ゛、あ゛あ゛あ゛」

 だみ声が鏡のように滑らかだった静けさに漣を立てた。ざらざらと砂を呑んだような声。これが深刻さの主なのだろうか? 中身を知らない僕には、ただの雑音にしか聞こえない。
 確かめようか。痛む足を引きずり引きずり、声の方へと踏み出してゆく。ざらざらの声は僕が近づいてきてもお構いなしに垂れ流され、意識の棘に少しだけ引っかかっては、大した感慨もなく無意識の下流に消えていった。何時もならこの程度は奥底に沈殿したきり浮き上がってこないのだけど、何しろひどい目に遭った日のことだ。少しくらいは夢に出るかもしれない。

「ああ」

 ぼんやりしながら、革靴の爪先で何度目か地面を蹴立てたときに、思い至る。

「あ゛あ゛ー、あ゛ー」

 これは誰かが悪いわけではきっとなくて。

「あーあ」

 悪かったのは運だったんだろうと。


 ――全てのテレビ番組がある話題について報道していたという。

 『昨日未明、[   ]で飼育されていた####が脱走しました』
 『[  ]町では、侵入した####により少なくとも一人が死亡、三十八人が足を切断するなど重軽傷を負っています』
 『現在[ ]町、[  ]町、[ ]町に避難勧告が出されています』


 『捕獲の目途は現在立っていません』


****


 誰も彼もが知る情報を一人だけ知らない誰かの話


***

・ 近未来のハイファンタジーです。
・ 伏せられた部分の多くについて、こちらからの規定はありません。与えられた少ない情報から読み手の方が得たナニカが正体となります。何でもいいし何だっていいのです。
・ 『僕』については、何らかの原因で外部情報のインプットが極端に下手くそ、ということのみが開示可能です。
・ 客観的に見ると多分意味分からないので、何も分からない『僕』と一緒の視点と気分で歩いてほしいなあと思います。

Re: 氷菓子を添へて、【小説練習】 ( No.12 )
日時: 2017/09/07 22:12
名前: 波坂◆mThM6jyeWQ

 今日、全てのテレビ番組がある話題について報道していた。
 どうやら、物凄く大きな隕石が地球に激突して、地球は木っ端微塵とはいかないものの、かなりのダメージを受けとても生命が生活できる環境でなくなるらしい。
 水泳以外の事においては覚えの悪い僕でも覚えられるほど、その旨の言葉を聞いた。テレビからの情報と、いつも無表情なリポーターが血相を変えて喋っている辺り、誇張表現でもなんでもない事実なんだろう。
 今日が地球最後の日。そう言われたって実感がわかない。最後だからって人を殺そうという人もそういない。狂ったり、泣いたり、喚いたりする人なんて本当に少数だ。
 サラリーマンは会社へ通勤しているし、新聞はいつも通りに配達された。皆、今日が最後なんていう実感なんてなくて、ただボーッと日常を過ごしているんだろう。
 僕こと剣軒一差(けんのき/いっさ)がこうやって他人事みたいに言えるのだって、地球が滅ぶなんて全く想像出来ないからだ。
 ここにテロリストが侵入してきた、とかそんな事なら想像がつくから焦るかもしれないけど、中学生の僕には地球の滅亡なんて想像出来ない。
 何気なくカレンダーを見ると何かが書き込まれていて、ふと思い出した。
 今日は幼馴染みのりんちゃんに市民プールで平泳ぎを教える予定だった。時計の方へと首を回すと、待ち合わせ時刻まで、あと1時間ほどある。
 他にすることもないので、僕は市民プールへ行くことにした。幸いなことに干していた水着は乾いていたので、プールバックにタオルと共に水着を詰め込む。
 ゴーグルに頭を通して首にかけ、スニーカーを履いて、行ってきますと誰もいない家に言い残して鍵を閉めた。僕の両親は出勤していて家にいない。出る前に僕のことを力いっぱい抱き締めてくれた僕の親は、本当に良い人たちだ。
 自転車にまたがってヘルメットを被り、僕は自転車を漕ぎ始めた。
 流れる街並みは、やはりいつも通りだ。道を行く人、流れていく雲、過ぎていく道路。自然過ぎて逆にテレビのことが、本当なのかどうか分からなくなってきた。
 暫く自転車を漕いでいると、市民プールに着いた。が、最後の日にプールに来る人どころか職員すらいない。その代わり鍵は開けっ放しになっていて、どうぞ使ってと言っているように思えた。
 裏の駐輪場に自転車を停め、ロックを掛けて鍵をとる。カゴに入れたバッグを引っ張り出して、開けっ放しにされた扉の中に入った。

「わっ!」

 不意に飛び出た驚くような声に、こちらが驚かされた。ゆっくりと声の方向を向くと、そこにはりんちゃんの姿があった。手にはピンク色のプールバックがぶら下がっている。

「なんだぁ……剣軒くんかぁ……驚かせないでよ……」
「なんだってなんだよ」
「何でもないよ」

 僕の事を苗字で読んだこの子はりんちゃん。本名は李川花音(りかわ/かおん)で、僕は最初と最後の文字を取ってりんちゃんと呼んでいる。

「にしても剣軒くん、やっぱり水泳バカだね。最後の日でも来ちゃうんだから」

 誰もいない市民プールの建物の中を二人で歩く。いつもはガヤガヤとしているのに、とても新鮮な気分だ。

「りんちゃんこそ、こんな日に来るなんて驚いたよ」
「私はバカのつもりはないんだけどね……」

 意外な事に、りんちゃんは普通だ。いつもいつもテストで凄い点を出して、皆から賢いって言われてるりんちゃんなら、僕よりもずっと最後の日が実感出来ているのかと思ったけど、そうでもないみたいだ。

「ところで剣軒くん、もう付いてこないで欲しいな」
「なんで?」
「この先は女子更衣室だよ?」

 すぐに離れて男子更衣室に行った。

 水着に着替えてから更衣室を出る。まだりんちゃんは着替え終わっていないようで、その姿は見えない。
 先にシャワーを浴びようとボタンを押した。すると上から水が降ってきて、夏の日差しで熱くなっていた僕の体が冷却された。
 顔に付いた水を手で払って、プールサイドで準備体操をする。これをしないと足をつって溺れたりすることがあるから、意外と侮れない。
 りんちゃんが来てから、平泳ぎの練習を始める。正直に言うと、僕は教えるのが苦手だ。自分でやる時は全部感覚でやっているというか、体が覚えているという感覚なので、それを人に伝えるのがどうしても難しい。

「水を蹴って水をかいて、その後に息継ぎ。息継ぎの時に手を戻して」

 一応アドバイスをして、りんちゃんにお手本を見せてみたりするが、何故かりんちゃんは上手くいかない。
 というか、どうして不自然なことが一つある。

「りんちゃん、授業の時より酷くなってない?」

 そう、りんちゃんはプールの授業の時よりも明らかに動きがぎこちなくなっている。
 僕の言葉を聞いたりんちゃんの表情が、少し暗くなる。もしかして、りんちゃんは無理をしていたのかもしれない。

「やっぱり分かっちゃう?」

 やっぱり、賢いりんちゃんは色々と考え込んでいたんだ。だけど、僕に合わせようとして、無理に明るく振舞っていたのかもしれない。
 そんな思いをさせるなんて、僕は最低だ。

「……ごめん」
「いいんだよ。剣軒くんは何も悪くないから」
「でもりんちゃんは僕に合わせて……」
「大丈夫だって! さ、続きやろ!」

 その後、りんちゃんは少しだけだけど動きが良くなっていた。
 結局、その日はりんちゃんは25mを平泳ぎで泳ぎきることは出来なかったが、それでも18m位までは泳げるようになった。多分、もっと練習すれば泳げるようになるだろう。そんな時間は、もう無いけど。

「ねぇ剣軒くん、時間知ってる?」

 プールから出た時に、りんちゃんが唐突にそう聞いてきた。

「時間って、何の?」
「星が落ちてくる時間」
「えーっと……」
「今日の5時半だって。後1時間だね」
「あっ……」

 りんちゃんの腕時計を見ると、時間は丁度午後4時半を指していた。知らない内にかなりの時間を使っていた。

「ねぇ剣軒くん、こんな事を頼むのもアレなんだけど……」
「どうしたの?」
「あと1時間、私といてくれない?」
「いいよ」
「……随分軽い返答だね。最後の1時間だって言うのに」
「僕にやることなんてないからね。僕の両親も、きっとまだ働いてる。2人とも帰ってくるのは早くても6時なんだ」
「そっか、じゃあ……」

 そして、近くの公園のベンチに座って、りんちゃんと色々な事を話した。
 学校のこと、友達のこと、家族のこと、色んな話をした。下らないことも大事なことも話した。でも、決してその時間は無駄な時間じゃなかった。誰が何と言おうと、僕が価値があるって思った時間だから、価値があるに決まってる。

「あと5分だね」
「怖くないの?」
「剣軒くんは?」
「僕はバカだからまだ実感がわかないや」
「そっか。私は怖いかな……ちょっと……」

 りんちゃんの手を見ると、少しだけ手が震えていた。よく見たら、顔色も悪い。
 僕は意を決してりんちゃんの手を握った。びっくりしたのか手が少し動いたが、りんちゃんは振りほどこうとせずに暫く無言になる。
 そして、その気まずい雰囲気のまま、遂に時間になった。

「…………」
「…………」
「……あれ?」

 ……が、何も起こらない。
 不審そうな顔をするりんちゃんと僕。そのまま10分ほど待ち続けるが、何も起こらない。
 結局、その日僕はりんちゃんと微妙な雰囲気で別れた。隕石なんか嫌いだ。もう2度とかっこいいなんて言わない。
 家に帰ると、父親がテレビのリモコンをカタカタと忙しなく動かしていた。
 僕は、その目まぐるしくチャンネルの変わるテレビを見た。
 どのテレビ番組も、まるで朝と同じように、同じ事を言っていた。
 「隕石が外れた」と。




*突然失礼致します。

 波坂という者です。初心者ながら投稿させて頂きました……!
 他の方の感想は後日書かせていただきます!

Re: 氷菓子を添へて、【小説練習】 ( No.13 )
日時: 2017/09/08 16:56
名前: 小夜 鳴子 ◆1zvsspphqY (ID: TAzNv.8w)


※少し修正しました


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【冬の吐息】



 今日、全てのテレビ番組がある話題について報道していた。
 この辺りに住んでいる人間なら誰もが知っている公園で、殺人事件があったらしい。実名は報道されていなかったが、殺されたのは「女子高生」だったと、事務的な口調で可愛らしい女子アナが伝えていた。
 多分、ネットでは既に実名は明らかとなっているのだろう。この世界は、プライバシーなんてあってないようなものだ。自分は大丈夫だと思っていても、それは世界が自分に目を向けていないだけだ。一度世界が自分に注目すれば、何もかもが明らかとなってしまう。
 世界は簡単に、俺たちを裏切る。
 引き続き、事件の詳細についての映像が流れるTVを見ながら、俺はジャケットを羽織った。どうせ仕事場に着けば、暖房が効いているので、すぐに脱いでしまうのだが。
 そのまま家を出ようと鞄の中を漁ると、煙草が無いことに気づいて、前日の記憶を必死に遡ろうとする。

『大人は娯楽がいっぱいあっていいですね。煙草を吸っても咎められないし、お酒を飲んでも怒られない。狡いです、大人は』

 嗚呼。嫌なことを思い出しちまった。
 それは煙草の居場所ではなく、数日前、煙草を吸っていたときの記憶だった。確か、あの日吸っていた銘柄は、ジタン。今探し求めている煙草と同じだった。
 人間は、匂いや味で記憶を呼び覚ますことがあるらしいが、煙草もそうなのかもしれない。煙に包んだ記憶を呼び覚ますような、そんな効果があるような気がした。
 俺が教室内で煙草を吸っているのを、心底羨ましそうに見ていたあいつ。子供を正しい道に導くための仕事をしている俺が煙草を吸ってはいかんよな、と思いながらも、これがなかなかやめられない。
 煙草の煙は、冬の吐息に似ている。はじめは白く、そして段々と先っちょから透明になって、消えてゆく。あの日の煙草も、そうやって窓の外に消えていった。
 あいつは今、どうしているのだろうか。
 彼は同じ高校の女子を殺した。彼はいつも、孤独だった。『誰とも交われないんです、僕は』と言っていた。彼女とも、交われなかったのだろうか。
 殺された女子についてはよく知らない。かなりの美人で、けっこう有名だったらしい。事件があった後、色々と写真を見たが、確かに整った顔立ちの、美人さんだった。あいつはそれをメッタメッタのギッタギタにしたらしい。彼女の顔に、何か恨みでもあったのだろうか。

「何故、あんなことをしたんだ?」

 面会をしたときに彼にした質問を、もう1度声に出してみる。
 確か、そのときの彼は、儚げに笑って、

「『やってみたかったから』か。……俺が煙草を始めた理由と同じじゃんかよ……」

 ふぅ、とため息をついて、俺はテレビの下の引き出しを開ける。煙草はそこにあった。

『なお、容疑者は獄中で自殺を……』

 ついでにそこに入っていたヘッドフォンも取り出して、装着する。もう、何も聞きたくなかった。
 TVを消して、玄関へと向かう。煙草はズボンのポケットに入れた。外に出れば、冷たい空気と、曇り空。今日は雪が降りそうだな、と思った。
 いつも通りだ。何も変わらない、そんな日常。

『僕は神様なんて信じちゃいません。神様なんていない。いやしない。だって、みんな幸せでしょう。僕以外、みんな、幸せじゃないですか。あなたも、あいつも、そして彼女も。みんな、背中に神様が張り付いてくれているから、幸福なんです。僕は幸福になれなかった。それってつまり、僕には神様はいないってことだ。僕は、人殺しで未来のない、この上なく不幸な人間だから』

 ガラスに隔たれたあの空間で、あいつがぽつりと零した言葉たち。神様。幸福。不幸。未来。

「……神様なんて、最初からいやしないんだよ」

 歩きながら火を点けた煙草の火を見つめながら、呟く。煙草を咥え、吐き出した息は真っ白で、それは冬の吐息か、それとも煙草の煙か。
 2つ、静かに冬の空に溶けていった。


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 こんばんは。お世話になっております。
 素敵なスレッドがたっていたので、投稿させていただきました。一応私が昔書いていた小説の番外編のようなものですが、これ単体でも読めるかな、と思い、執筆しました(笑)
 ありがとうございました。
 
 

Re: 氷菓子を添へて、【小説練習】 ( No.14 )
日時: 2017/09/07 23:17
名前: 浅葱 游◆jRIrZoOLik (ID: BxpjBgpE)

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>>006⇒塩糖さん

 いえいえ、なんもですよ。パスワード打ち間違えると、修正できませんものね(笑) 浅葱も経験したことがある身なので、わかります。
 七味とマヨネーズですか、意外な組み合わせですね……。次タコから揚げ食べる機会がありましたら、七味マヨに挑戦してみようと思います(ω)


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>>007⇒キャプテン・ファルコンさん

 浅葱も知っておりますよ。そろそろ名前戻さないと、もう戻れないんじゃないかなって思うんだけど、どうするんですか(笑)

 ですね。長編よりSSとか短編で対比させる方が、きれいにまとまりがあるなーと感じたりします。
 長編だと対比云々よりも伏線回収に力が注がれてしまうのかもしれないですよね。

 なんかいいなぁ、そういう思い出しながら書けるって。なんだかファルコンさんが格好良く見えますね(笑)
 考え方が違うからぶつかり合うこともあるでしょうし、違うからこそ相手を尊重し合えるっていうこともありますよね、きっと。少しの話しか分からないですけれど、素敵だなぁと思います。

 なるほど……。自分の書き方と違う部分で、面白いですね。思えばファルコンさんとこうやって創作の話をしたのは、初めてですね(笑) ファルコンさんの作品好きなんですけれど、他所だとどう足掻いても語彙力が低下してしまうのですよね。
 たしかに「かも」と推測・憶測の意味合いが強い言い方よりも、「しれない」という語尾のほうが、自分の強い考えって雰囲気がでますね。なるほど。読点の意味合いもよく理解していなかったですね……。自分の読解力が悲しくなりますが、次はさらに考えながら読んだりしてみますねb

 いえ、とても良いきっかけになったと思います。レス無しで上がっていく参照数って、少し怖いじゃないですか(笑)
 投稿してくれてありがとう。
 次は10月に入る頃になるかもしれないです。ちょっと学業のほうが忙しくなってきてしまって。また他所のほうで、第2回目が開催されたとき連絡しますね。またの参加楽しみにまってます(ω)


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>>008⇒ヨモツカミさん

 思いのほか参加される方が多かったですから、萎縮してしまうかもしれないですよね。自分もここまでの規模になるとは想定外でした(汗)
 もし此方での投稿が憚られそうでしたら、ベッター等々でも読みに行きますねb

 なんだかヨモツカミさんらしいですね(笑) 全粒粉クッキーは粉っぽいというか、歯に詰まる感じがして苦手ですね……。歯に詰まる感覚がないものでお菓子を選ぶと、もれなくじゃがりこ以外食べられなくなります(ω)
 いわゆる「科学の力ってすげー!」ってやつですね、よくわかります。ポケットに入るタイプのモンスターでもよくやってました。ブルボンと明治が戦ったらどっちが勝つんでしょうね……。個人的にはプチシリーズがあるブルボンが優勢になりそうな気がしたリしてます。

 間違ったままより、次回から気を付けようって思えた方が文字を書く人間としては成長に繋がりそうですよね。


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>>009⇒流沢藍蓮さん

 初めまして、ご参加ありがとうございます。
 
 少年と母と父、また、様々な視点で話を書かれるの難しかったのではないでしょうか。様々な思いの丈であったり、どうしようもない場面に直面してしまったら、発狂してしまう人もいるのかもしれないなと思いながら読ませていただきました。
 視点変更が目まぐるしく変わっていってしまっていたので、せっかくの設定が勿体ないなという気持ちです(ω)

 終わりを迎えた人達の、いろいろな様子を見ることができた作品で、楽しく読めましたb
 以下少しだけ、気になったことをつらつらと書いていってみますね。

 はじめに、地の文と会話文が連続していたり、改行で離れている部分とがあったので、統一したほうが読みやすいなぁと思います。改行の量などで時間や場面の移り変わり表現しているのかな? とも感じましたが、少し読みにくいかもしれません(汗)
 それと、これからいろいろな文学作品に触れて、地の文が増えていくといいなと思います。まだまだ文章自体は発展途上だろうと思います。小説の基本的な書き方を改めて確認してみたり、小説に触れてみると、より成長できる気がします(ω)

 最後に載せていたのは、詩でしょうか? 自分の予想していたSSの形と違っていて、新たな発見ではあったのですが、詩を書かないほうが作品としてまとまりがあったなと感じてしまいました(汗)


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>>010⇒奈由さん

 初めまして、ご参加ありがとうございます。
 感想等の前に一つご確認させていただきますが、親記事には目を通されましたでしょうか。指定した文の改変等無し、と明記していない此方に不備があって申し訳ありません。改めて親記事を修正しますが、「今日、全てのテレビ番組がある話題を報道していた。」ちう文章のみ改変を認めておりません。
 次回参加していただけましたら、意識していただけると主催としてもうれしく思います。

 一夜で大多数である一般人から少数派へと転換することで、周囲の対応等変わることってありますよね。能力の付与を使って、そうした『少数派を嫌がる大多数』というのが描かれているなぁと思います。自分だと少数派の中で消えていく一部の人間を切り取った作品しか書けないので、似た雰囲気でも結末の異なる作品を見ることができて楽しかったです。

 少し気になったところですが、地の文を始める際には空白で段落開けを行うと、読みやすいのではないかなと思います。ほかの文との区別ができますので、おすすめします。あと、文の終わりは句点で閉めましょう。どこまでが一文かが分からなくなってしまって、せっかくの文章が勿体ないです(ω) それと、セリフ中の空白は、読点で区切るなど、工夫してみるといいかもしれないですb
 一番気になったのは「、、、」で、これは「……」の代わりにはならないので、後者の表現に変えたほうが上手く見えるかな? と思ってしまいました。

 もっともっと描写が増えていくと、さらに魅力的な作品になると思うので、これからも楽しみです(ω)
 当サイトの「小説の書き方・ルール」というコンテンツがあるので、そちらを参考にしてみるとよいかもしれませんb


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 予想していた以上の参加者さんに来ていただけて、嬉しい反面驚きが隠せません……。
 本日は以上の返信で区切らせていただきます、その他返信に関しましては翌日には行えるかと思います。

 ぜひ研鑽し合っていただければと思います。

Re: 氷菓子を添へて、【小説練習】注意追記 ( No.15 )
日時: 2017/09/07 23:33
名前: 黒崎加奈◆KANA.Iz1Fk (ID: .SQTAVtg)

 どうもこんばんは。ざざっとあまり考えずに書いた話になりますが、自分らしさは出せたかな、と思います。
 他の人の考えた文章から書くのは改めて難しいことだなぁと思いました。自分だったらこっちの単語を使うだろうなとか、そう思いながらカタカタしていました。


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 今日、全てのテレビ番組がある話題について報道していた。元国民的アイドルのAさんが不倫したって話だった。
 他人の恋愛沙汰なんて、放っておけば良いのに。全く自分に関わりのない、生まれる前の世代のアイドルの話なんて興味ないし。
 プツンという小さな音を立てて、テレビがただの箱に戻った。
 暇つぶしのつもりでつけたはずなのに、どのチャンネルもこのニュースしかやっていなくて、なんの役にも立たない。ベッドの脇に置かれた棚に積み上げた本は、もう内容を暗記してしまった。チューブが繋がれた自分の腕を動かさないように、そっと身体を起こして立ち上がる。
 私は、いわゆる不治の病というやつらしい。三年前にいきなり倒れて病院に運ばれて、それ以来ずっと入院している。余命もあと少し。十年ぐらい前に初めて症例が報告されて、それ以来、毎年数人程度しか発症しないためか全然研究も進まず、特効薬とか、原因とか、どんな症状が起こるかとかも曖昧なデータしか取れていない。でも、確実にその病気にかかった人は死ぬ。いつかは分からない。五日後に死んだ人もいるし、私みたいに三年経って生きている人もいる。
 そういえば、これもニュースで散々騒がれた話題だったっけ。ある日突然、全身に赤い痣が現れる病気が見つかったって。身体に炎が這ったような、真っ赤な痣。自分じゃ何にも感じないのに、他人が肌に触ると焼けるように熱くて、火傷してしまう。『火炎病』とセンスのない大人は名付けたらしい。
 私はその時も、自分には関係ないことだと嘲笑っていた気がする。報道されるような事象は、確かに重要なものが多いけれど自分には関係のない話。首脳会談も、芸能人の恋愛沙汰も、それで自分の生活がすぐに変わるわけじゃない。

「清水さん? あなたどこに行くの?」
「屋上です。寝ているのに飽きちゃったので。誰にも触れないので一人で大丈夫です」

 歩いていたら、案の定看護師に声をかけられた。
 病院の外に出るのは禁止、何かしたかったら許可を取る、あまり動かないで安静にしていること。私はすでにこの鉄則をすべて三十回は破って怒られている。そのためか、看護師も私に対して当たりが強いし、厄介な患者だと思われているはずだ。
 だって、私は身体に赤い痣がある以外は何ともない。頭が痛いわけでも、おなかが痛いわけでも、どこか怪我をしているわけでもない。ただちょっと、私に触れた人が火傷を負うだけ。
 もう、退屈すぎるんだ。

「またそんなこと言って逃げ出すんでしょう? いい加減におとなしく病室にいてちょうだい!」
「嫌です。だったら私が退屈しないように色々してくれるんですか? そういうの看護師の仕事じゃないって言い放ったのあなた達ですよね。だったら、邪魔しないでください。人に触らなければ、私は何の害もない。そこらの感染症患者よりよっぽど安全じゃないですか」
「勝手にうろうろして毎回探すのは私たちなのよ。あなたが病室にいないと、色んな所から言われるの。原因不明の病の患者を放し飼いにするなって。諦めなさ……あっちょっと待ちなさい!」

 屋上までの廊下を全速力で走った。すれ違う人が驚いたような顔で道を開けるのを横目に、ひたすら走る。血圧とか脈拍を測る機械が取れるのも構わずに、思いっきり身体を動かしていた。
 ガタン、と大きな音をたてて屋上の扉を開く。珍しく誰一人いなかった。扉の外側にもたれかかるように座り、息を整える。でも全然意味がないみたいで、荒い息しか出てこない。身体の芯が熱くて、全身から汗をかいていた。
 こんな痣、なんで私を選んで出来たのか。人間ならいくらでもいる。どうして私がこんな退屈な人生を送る必要があるの?
 ガンッガンッと扉を叩く音と、私を呼ぶ声がする。

――ねぇ、一人にしてよ。

 夕方、全てのテレビ番組がある話題について報道していた。朝と変わらず、どのチャンネルでもその話題しか取り上げてない。

「……『火炎病』の原因の解明、ならびに特効薬の開発によ」

 プツンという小さな音を立てて、テレビがただの箱に戻った。向かいにあるベッドは綺麗に片づけられている。脇にある棚に積まれていた本も、すべて無くなっていた。

「バイバイ」

 私は最後に、そう言い放った。


*
さて、『私』は生きているのでしょうか。死んだのでしょうか?

Re: 氷菓子を添へて、【小説練習】 ( No.16 )
日時: 2017/09/08 00:30
名前: 流沢藍蓮 (ID: QXYGJewc)

 >>14
 丁寧な感想、ありがとうございます!
 視点変更、やりすぎましたか……。様々な立場のキャラを書こうとしたのが裏目に出た結果になりましたね。う~む、もっと精進せねば。
 
 >>地の文と会話文が連続していたり、改行で離れている部分とがあった
 ……おかしいですか? う~む。
 ダーク・ファンタジー板でちまちま小説を書いているのですが、そこでもその方法を多用しています。
 改行を多用することで場面展開や「溜め」を作り、次の行が来るまでの間に「間」を作ろうと考えてのことですが……。おかしいですか。以降の話では気をつけます。
 確かに、見直したところ、読みにくいですね……。
 でも、くっつけるとごちゃごちゃして読みにくいかな、と。まあ、そういえるほど地の文も書いていませんね(汗)

 >>それと、これからいろいろな文学作品に触れて、地の文が増えていくといいなと思います。まだまだ文章自体は発展途上だろうと思います。小説の基本的な書き方を改めて確認してみたり、小説に触れてみると、より成長できる気がします(ω)

 >>地の文について
 はい、苦手なジャンルだからって、会話文で誤魔化しました。言い訳のしようがないですね。
 小説の基本的な書き方……。時には原点に戻ることも大切ですね!
 貴重なアドバイス、ありがとうございました!

 最後の詩、邪魔でしたか。
 これは>>9で私が言っていた、「何となく浮かんだ詩」ですね。
 確かに、見直してみるとこれだけ浮いている……。
 ……削除することにいたします。


 わざわざこんなご丁寧なコメント、ありがとうございました!
 自分の文の稚拙さを改めて思い知らされました……。
 しかし、ここは【練習】のようですし。
 機会あったら、自分の技術向上のためにまた来ますね。
 
 今回はどうも、ありがとうございました!

Re: 氷菓子を添へて、【小説練習】注意追記 ( No.17 )
日時: 2017/09/08 04:57
名前: 紅蓮の流星◆vcRbhehpKE (ID: lvPN8NMw)

一部のカキコ民の皆さんを「ビクッ」ってさせたくて、久しぶりにこちらのペンネームを使いました。
紅蓮の流星といいます、普段はViridisと名乗っています。

短いうえに拙くて、挙句ほとんど勢いで書いたもので申し訳ありませんが、面白いスレッドを見つけたのでお邪魔させていただければと思います。
読んでいただければ幸いです。



*



 今日、全てのテレビ番組がある話題について報道していた。

 いや最適な表現ではないかもしれない。報道させられていると言った方が良いだろうか。
 でなければあり得ないだろう。駅前に軒を連ねる電機店の店頭で、整列した商品たち。雑踏にどよめく人々の、スマートフォンやタブレットの小さい液晶。そびえ立つ広告塔の巨大モニター。俺らの日常に溢れたそれらが、ただひとりの少女を映している有り様など。

 彼女は丹念にくしけずられた濡れ羽色の長髪を揺らし、黒いゴシック調のドレスに身を包んでいる。腰を引き締めるコルセットが華奢な体躯を強調しており、短い丈のフリルと、編み上げのブーツに挟まれた色白い太ももがやけに官能的だ。
 それらが痛々しく映らず、見惚れるほどの整合性を放っているのは、ひとえに彼女自身が持つ美貌のお陰でもあるだろう。
 しかし、だからこそ、人形じみた顔立ちに浮かべられた凶暴な笑み、そして細い肩下を通し首から吊り下げられたテレキャスターがいっそう歪に際立っている。

『ハイッ、そういうワケで。現代というディストピアで死ぬまで生きるだけの、歩く墓標こと日本国民の皆々様方、ご機嫌麗しゅう。薄っぺらな脳ミソで薄々と勘付いちゃいると思いますが、現時刻を以て、全テレビ局のチャンネルを占拠させていただきましたッ!』

 駅前のスクランブル交差点で思わず立ち止まっている人々の多くが、アホかマヌケみたいに口を半開いたまま唖然と立ち尽くしていた。あるいはどこからか「何コレ、ドッキリ? 何かの企画?」「え、よく分かんないんだけどこれ何、ヤバくね?」「宣伝とかじゃないの?」などと、歩く墓標らしい感想をめいめいに連ねている。
 静寂から動揺や困惑となって、ざわめきの波紋が広がり始めた。なので好都合だと思い、俺は背負っている荷物をその場で下ろす。

『かの素晴らしきクソッタレな表現規制法が可決されちゃって以来、ハルシオン・デイズの居心地は如何でしたかぁ? 子守歌も聞こえない揺りかごの中は、さぞや快適だったろ』

 あのアホ女、ついに、本当にやりやがった。
 溜め息を吐きながら、ドラムバッグのジッパーをゆっくりと下ろしていく。あんな姿を見せ付けられては、こっちも体を張るしかないだろう。

 徹底された表現規制の前では、こういうモノを持っているだけでも罪に問われかねない。無免許で楽器を所持することと、銃刀法違反はほぼ同義であるからだ。迂闊にこんなもの取り出しているところを見られたりしたら、即、国家権力に取り上げられ決して俺の元へ戻ってこない。
 だからこそ今日は、今日だけは盛大に魂を掻き鳴らすため、画面の向こうでアドルフ・ヒトラーもかくやと言わんばかりのカリスマを振り撒く魔女に誑かされてやろう。
 そう誓ったのだ。

『けれど悪いね。僕ら表現者は、一生一秒たりとも黙って居られやしないんだ』







 表現規制法という新たな法律は、簡潔な名前だからこそ容赦がなかった。
 絵、歌、詩、文章、小説、漫画、音楽、ダンス、立体アート、その他おおよそ思いつく限り全ての創作物に対して、取り分け「青少年の健全な成長に悪影響を及ぼす」と一方的な判断を下されたものに対して徹底的な規制と排斥が為された。
 それはあまり昔のことではなく、俺の記憶にも新しい。当時は来る日も来る日もどこもかしこも不平不満の嵐に包まれたけれど、いつしかひとり、またひとりと口をつぐんだ。言論規制の違反に対する罰を恐れたのもあったろうけれど、俺に言わせれば、現状が浸透してしまった最たる原因は彼ら自身だと思う。

 口では好き勝手を言いながら、自分のハンドルを切るのも他人任せだから、こんなハズじゃ無かったのになどと愚痴零すハメになるのだ。お前らは不満を吐き出す機能に手足がついただけの節足動物だ。
 でなければ、どうして俺たちの抱く溶岩が蓋をされる前に、噛み付いてやらなかった。時間ばっかり貪って肥え太った老害たちの、シワと脂が浮き出た喉笛に。

「中途半端な厨二病はカッコ悪いぞォー、君」

 昼休みに、元天文部の部室にある小さな窓から屋上へと抜け出て、こっそり隠し持っていたミュージックプレーヤーで過去の遺物を聞き漁る。ぬるい泥水が水槽を満たすように、教室に飛び交っていたノイズで心が擦り減らされる瞬間が嫌だからだ。
 そうして時間を潰していた俺に、彼女は言い放った。見上げて、すごく可愛い顔立ちの子だと思った。
 それから提案してきた。彼女の見た目に関する評価は、すぐにスッ飛んだ。

「斜に構えるなら、突き抜けちまえよ……――この日本(くに)に、喧嘩売ろうぜ」

 この瞬間、俺の彼女に対する愛称は「アホ女」で確定することとなる。







 年月が経つのは、早いもので。
 立ち上がる同志たちを密かにかき集め、即座に来るであろう警官隊や機動隊への対策を練り、テレビ局各局を乗っ取るための根回しに奔走し、かれこれ数年にもなる。おかげで計画の第一段階は重畳といったところだろう。
 ドラムバッグからケースを、そしてその中からスラップベースを取り出す。侍が丁寧に自らの得物を抜くような心持ちで。表現規制法に対するせめてもの細やかな反抗として、かつて中学校の全校集会で単身ゲリラライブを敢行した日が思い出される。
 だからこのスラップベースは、二代目。親父から譲り受けた初代のものは、いまだ俺の手元に戻ってきていない。

『だから、さあ取り戻そうじゃあないか! 僕らのちっぽけな尊厳を! くだらない権利を! 泥臭い矜持を!』

 画面の向こうで支離滅裂な言刃を掲げる少女。愛すべき凶器を取り出した俺。
 信じられないものを見る視線が周りから集まっている間に、背後に何も言わず、しかしぞろぞろと同志たちが集まっていく。
 危うく燻ぶったまま、音もなく消え行ってしまう直前だった俺を、彼女はふたたび燃え上がらせた。若い俺をどうしようもなく急き立てていた「絶望」と「焦燥感」を、彼女はふたたび思い出させた。

 今日ここに集まったのは、そんな俺と同じような人間たち。胸の内で煮えたぎる紅蓮の烈風を殺しきれないまま、死地へと舞い戻って来た表現者たちである。めいめいの楽器を、または描いた絵を、あるいはもっと他の何かを、抱えて彼ら彼女らは共に上を見据える。
 巨大モニターから視線を送る彼女に、こちらが見えているハズはない。しかし確かに、彼女が俺たちを見て、満足げに嗤った気がした。

 俺たちは今日、この都内で同時多発的にゲリラライブを行う。
 きっとすぐに国家権力がローラー作戦で俺らを鎮圧するために向かうだろう。そう長い時間やりたい放題というワケにはいかないだろう。
 けれど少なくとも、何もできないワケじゃあないさ。
 引き際も上手く見極めないとな、なんて考えて、やっぱりやめた。今それを考えるのは、あまりに野暮だと思えたから。

『さあさ、邪魔するヤツはこのテレキャスターで撃ち殺してやる! 弦の一本一本が叫ぶ音で、スティックの一打一打が叩き出す振動で、我らの一挙一動が奏でる、魂の響きで!』

 今は後先を考えずに楽しむだけ。
 そうしてにやりと笑い踏み出した俺たちの第一歩目は、のちに『表現戦争』と呼ばれる出来事の始まりとなるのだと、それすらも今は知らないままで。

『……――サイレントマジョリティーも言論の弾圧も、権力も規制も何もかんもブッ飛ばして、お前ら寝ぼけたリビング・デッドの目を覚ましてやるッ!!』

 愛すべき我らのアホ女が吼えた号令と共に。
 テレキャスターが唸りを上げて。スラップベースが刻みを始め。
 ただ衝動と、焦りと、飢えと、乾きと、そして胸の奥から湧き上がる疾走感に身を委ね、世界に反撃の狼煙を上げた。


Re: 氷菓子を添へて、【小説練習】注意追記 ( No.18 )
日時: 2017/09/08 00:51
名前: ヨモツカミ (ID: qQDUVhHk)

>>流沢藍蓮さん
お名前だけよく見かけますが、はじめましてですね。少年は中学生くらいでしょうか。とても中学生らしさが出ていていいですね。
カップルは儚い運命に決意するところ、素敵だと思います。共に死ぬ事になんの意味があるのか考えさせられますが、二人が幸せだと笑うならハッピーエンドですね。世界の終わりに寄り添い会える人がいるならいいですよね、死ぬときは普通みんな孤独ですから。
最後のポエムのような物が、何処となく雰囲気を壊しているような気がしてしまいました。私は厨ニ病感あって好きですが。無くてもいいかも、と思います。

>>奈由さん
はじめまして。このお題で能力者の発表、という展開は全然予想してなかったので新鮮味を感じました。なぜ主人公だけ能力2つ持ちなのか、この先の展開が気になる短編でしたね。短編だから続かないのが惜しい。
少し気になったのが、自分が平凡な日常を続けていたある日、突然謎の能力を手にしまった人間としては反応うすすぎないかな、と。そういう性格の子なのかもしれませんが、ちょっと人間味にかけるなあと思いました。

>>キリさん
此方では初めまして。キリさんの文章好きです。意識の棘とかの表現見たときにやっべ好き、てなりました。好きです。
最初、ニュースを聞き取れない様なので、耳の聞こえない少年かと思って読みすすめていたのですが、別に聞こえない訳ではないのですね。というか、スーツということは少年ですらなかったですねw
最後まで読み切っても、脱走したフレンズの正体はわからず、その鳴き声と惨状だけで想像するしかなくて、私の知ってるフレンズにそんなことする悪い子はいないので、クトゥルフ的な化物を想像してしまいました。わからない、という気持ち悪さが最高です。


>>波くんさん
久しぶり?でーす。剣のき君がとても可愛くて和みました。首からゴーグル、そしてヘルメット着用なんて、なにその夏休み満喫るんるんボーイ。かわいい。そういうとこにもやっぱり現実を理解できてないんだな感を感じていいですね。あと割とみんなバッドエンドの中、平和を投下したところにもほっこり。
このお題からして、隕石は私も最初に思い浮かんだパターンだったので、他の誰かも書くだろうと思ったら2名書かれてましたが、お二人とも違った心理描写をされていて面白いと感じました。


ちょっと思ったより来てくださる方多くて読みきれてないので、とりあえず今回はここまでで。

Re: 氷菓子を添へて、【小説練習】 ( No.19 )
日時: 2017/09/08 06:17
名前: 羅知 (ID: LQXHLI1Q)

 今日、全てのテレビ番組がある話題について報道していた。今日はその話題で日本中持ちきりだ。例えば今つけたニュース、なんだか随分と物騒な格好をした人達が頑丈そうな建物の周りに集まって叫んでいる。チャンネルを変えればまた違う場面が映る。今回の騒動についてのインタビューのようだ。話を聞かれた人は眉を潜めて大袈裟に身を竦めて怖がっていた。の光景はきっと当人からしたら、必死極まりないのだろうけど、愛すべき猫との二人暮らしで実に平和で穏やかな生活を送っている僕からしたら、なんだか滑稽に映った。
 
 
「ねぇ、君もそう思う………?」
 
 
 僕が、そう言ってふわふわの毛並みのをさらりと撫でてやると猫は、にゃあと言って気持ち良さそうに声を出した。その声を聞くとふわふわと天にでも浮かんでいけそうになる気分になる。幸せ、とはこういうことをいうんだと思う。愛する者と共に過ごす生活、それはとてつもなく尊いことだ。どうして誰もそのことに気が付かないのだろう。
 
 そんな所でごちゃごちゃ無駄なことのために動いてるくらいなら愛する者に気持ちを告げた方がきっと世界は百倍良くなる。意味のない仕事に必死になる人間。奥底では思ってもいないくせに口から出任せをいうインタビューに答える人間。そしてそれに共感したりしなかったりする傍観者。皆、馬鹿野郎なのだ。世の中で一番大事なのは常識か?建前か?
 
 
 
 愛だろ、愛。
 
 
 
 
「なんで誰も気が付かないんだろうね。そんな当たり前のことを」
 
 そんな言葉に答えるかのように、猫は大きな欠伸をした。今やってるニュースのことなんてまるで眼中にない。そんな様子だ。猫らしい勝手気ままな態度。そんな姿も可愛らしい。やはり僕の猫は最高だ。衝動に駆られてぎゅ、と抱き締めるとざらりと首筋を暖かい感触が這う。そしてそのままの姿勢で僕の膝の上でちょこんとお行儀よく君は座った。……なんだか今日の君は随分と甘えたがりだ、パンチの一つでも飛んでくるかと思ったのに。
 
 

(猫は気まま、ね)
 

 
 そんな君の我が儘さえ愛しい。それじゃあ、そんな君の奴隷の僕は君のご機嫌取りに美味しい食べ物でも買ってこようか。今日は少し奮発しよう。いつもより少し多めに買ってこよう。喜んでむしゃむしゃと食べる君の姿を想像しただけで心が自然と弾む。
 
 

「じゃあ、ちょっと待っててね」
 
 
 
 僕が玄関のドアに手を掛けると、君は寂しそうになぁなぁと鳴く。僕の服の裾を引っ張り、行かせまいと呼び止める。
 
 
「本当に今日の君は甘えん坊だな。……ほら、すぐ帰ってくるから離してね」
 
 
 
 寂しがり屋の君が不安がらないように、にっこりと微笑んで僕は玄関に手を掛けた。
 
 
 
「またね」
 
 
 
 閉めたドアからまだ君の鳴く声が聞こえていた。
 
 
 ∮
 
 
 
 
 その部屋に彼女が入れられてから何時間経っただろうか。窓も何もないようなそんな部屋でまだ年端もいかない少女は、彼女の倍の年齢はあるかと思われる大人達に囲まれながらも、固く閉じられていた口をついには開いた。気の強そうなつり目をぎょろりと動かして周りをきっ、と一瞬睨むと、ふと優しげな顔つきになって彼女は虚空を見つめ、どこか虚ろな目で懐かしそうに、まるで独り言のようなそんな言葉を彼女は吐いた。
 
 
 
「初めに壊れたのは"あの人"の方だった。きっとあたしに対する罪悪感からなんだろう、あの人はとても優しい人だから」
 
 
「"あの人"はあたしを愛してくれたよ、頭を撫でてくれた、美味しいご飯をくれた、温もりをくれた、柔らかな笑顔をくれた…………あたしが今まで貰わなかったものを、全部、くれた」
 
 
「"あの人"があたしを愛すかのように、あたしは"あの人"を愛した」
 
 
「"あの人"が望むならあたしは首輪を着けてもらったって構わなかったのに……あの人はあたしを、あの人の"飼い猫"にはしてくれなかった。いつだって逃げれた……逃げなかったのは"あたしの意志"だ」
 
 
「……だから、だから!!これは"誘拐事件"なんかじゃない。あたしのただの家出なんだよ。"あの人"は何にも悪くないんだ!!」
 
 
 
 そんな様子を外側の部屋から見つめながら年配の警察官は、ぼそりと隣に立つ若い警官に言う。
 
「……典型的な"ストックホルム症候群"患者だぁな」
「ストックホルム症候群?」
 
 物を知らない若い警官にはぁーとため息を吐きながら年配の警官は説明ふる。
 
「……誘拐された人間が誘拐した人間に対して情を持っちまう心理状態をそういうんだよ。……社長令嬢だからな、人に嫌なことを言われることも多かっただろう。そんな中で無条件に愛を注いでくれる人間に出会って……コロッといっちまったんだろ」
 
 
 彼らがそこまで話し終えたとき、急に部屋の中から大きな笑い声が響いた。あの少女のものだ。
 
 
 
 
『あはははははははははははははははははははは!!!!』
 
 
 
 
 
 
 部屋越しに聞こえる、その声は。
 
 
 
 
 
『あたしなんかに何時間も時間を使ってさぁ!!本当に馬鹿野郎だよアンタらは!!!!この世の中で一番大切なものはねぇ!!!!』
 
 
 
 
 狂気そのもので。
 
 
 
 
 
 『…………"愛だよ、愛"』
 
 
 
 
 そんな少女の狂気を知ってか知らずか今日も全てのテレビ番組は無機質な声で同じ報道を流し続ける。
 
 
 
 
『--------本日××県、某所にて行方不明だった少女が救出されました。それと同時に誘拐犯と思われる男も連行され--------男は"猫に餌をあげなければならない"などの供述をしており----------』
 
 
『----連日世間を騒がせていた犯人がやっと捕まって、一安心ですね。これでやっとお茶の間に-------』
 
 
 
『---------"平和"が訪れることでしょう』





*こんにちは。初めまして。最近猫が好きになった羅知という者です。練習ということで普段は書かない感じのものを書かせて頂きました。他の方への感想は後日に書かせて頂きたいと思います。

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